Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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◆メイン
 トゥーラ、シャリー
◆都市連合
 チャド、ガルベス、ジュード
◆行方不明
 ルイ
◆脱退
 ヘッドショット、レイ、シルバーシェイド、ナパーロ/ラックル/694番


93.特憲任務

チーム解散後、トゥーラとシャリーの2人はテックハンターの本拠地ブラックスクラッチを目指し、遠路はるばる南下していた。道中ではスキマーや野盗に襲われかけたが、いつも通り走って逃げることで戦闘を避けるようにしていた。

 

「トゥーラさん、私たちどこに向ってるんですかぁ?」

 

連日、小走りでの移動が続いておりシャリーは気だるそうな表情で聞いてくる。向かう先は先日の解散会議中にも言ったはずだが、この子だけは呑気にお茶を飲んでいたほど、相変わらず無関心かつ空気を読まない天然ぶりであった。

 

「ブラックスクラッチという都市よ。仕事を探しにね」

 

「ふーん、そうなんですねぇ」

 

自分の人生にも関わることなのにまるで興味がないかのような反応にトゥーラは不安を覚える。

 

(この子を養っていけるかしら……)

 

 実際、シャリーが出来ることは拠点でも限られていて作る料理はルイの次に不味かった。その点、ナパーロは素直で真面目だったし、仕事も覚えながらこなしてくれて良い子だった。ただ、あの子の顔を見ると本当にポートサウスにおける悪夢を思い出してしまい吐き気が襲ってくるのだ。急に694番の人格になって襲って来るのではないか、といつも考えてしまって近くにいると気が抜けないでいた。彼には酷だろうけど絶対に一緒にはいられないと思えた。

 

「今日はここで野営しましょう」

 

辺りが段々と暗くなってきたので、風を凌げて水辺に近い良い場所を見つけると、2人は荷物を展開し始める。特にお金にも困っていなかったので糧食詰合せをヘフトで購入していて、それをモクモクと開封するが、落ち着いてくるとルイ達のことが脳裏によぎってくる。

 

ルイは今頃どこにいるのだろうか。自分がポートサウスで捕らわれいた時のような仕打ちをされていないだろうか。

 

トゥーラは自分が出来ることを優先するため、禁忌の島のことを協会に報告し、密かにリドリィ救出の手助けを募ることにしたが、心に何かが引っ掛かっていた。チャドであれば必ずルイを見つけ出せるはず。しかし、ルイはこれまで真っ先に自分を助ける行動を取ってくれたのに自分はチャド達に任せる形にしてしまった。チャドの実力を鑑みての合理的な判断ではあったが、チャド達に同行する選択肢もあったのではないか?と悩んでいたのだ。

 

「あの〜……火を炊きますね」

 

考え込んでいるトゥーラの横でシャリーはその辺に落ちている木片を拾いだした。

 

「あ、今日は火を使うのやめましょう。この辺りは治安も悪いから野盗や獣が寄ってくる目印になってしまうわ」

 

「なるほど!そうですね」

 

シャリーは納得したようだったが、身を守るためにこのぐらいは最初から気づいて欲しいものだとトゥーラは内心思っていた。

 

「そう言えばシャリーの出身はどこなの?」

 

思えば気を使ってこの子のことはあまり聞いていなかったが、今ならばもう大丈夫だろう。シャリーもとぼけた表情のままだ。

 

「それは生まれた所ってことですか?物心ついた時には奴隷だったのでわからないです」

 

幼い頃に奴隷として売られたか、奴隷にされたのか。いずれにしても無知な上に無気力、無関心であることにも納得がいく。自分の意思など聞いてもらえず只々働かされる人生だったのだろう。

 

「こ、言葉は誰に教わったの?」

 

「一緒に働いていた奴隷の方が教えてくれました」

 

「そうだったの……」

 

「死んじゃいましたけどね。ただその方から貰ったこの笛は形見として持ち歩いているんです」

 

そう言ってシャリーはおもむろに胸もとから小さな笛を取り出した。それは見たこともない奇妙な形をした笛だった。

 

「そんな小さな笛は初めて見るわ」

 

「こうやって吹くんです」

 

ピィーーーーー

 

聞いたことがないようなかん高い音が辺り一面に響き渡る。

 

「小さいのにすごい音ね……!というか……勝手に鳴らさないで欲しかったわ」

 

「あ……すみません……」

 

「まぁいいわ。明日は朝早くから移動したいしもう寝ましょう」

 

ただでさえ気が気でない問題を抱えている状況で、シャリーと喋っていても気が滅入るだけだと判断したトゥーラは早々に寝入ることにした。それを気にすることもなくシャリーは嬉しそうにずっと笛を眺めていた。

 

 

 

 

 

 それから何時間経ったのか。真夜中にトゥーラはふと目を冷まし、異変に気がつく。横で寝ていたはずのシャリーがいないのだ。寝床も冷たくなっており、随分前にいなくなったことが分かる。

 

(ちょっと……あの子どこいったのよ……)

 

見渡しても辺りは漆黒の闇に包まれており、近くにいる気配はない。まさか昨日少し怒ったから傷ついてしまったのだろうか。シャリーに限ってはそんなことはないと思いつつも、ここは高低差が大きい山岳地帯である。用を足すために動き回って崖から落ちて怪我をしている可能性もあった。トゥーラは移動できる準備をして探し回ることにした。

 

するとガサガサと草むらから音が聞こえてくる。

何かが移動しているようだが音の大きさから小動物というわけでもなさそうだ。

 

「……シャリー?」

 

食べた食料のカスは念のため地中に埋めたので匂いにつられて寄ってきたボーンドックなどの獣であるとも思えないが、それだと厄介のためトゥーラは念のため抜刀する。

 そして草むらから姿を現す思いもよらに人物にトゥーラは驚かされる。

 

「ウソ……。なんで……無事だったのですか……!?リドリィさん!!」

 

そこには禁忌の島に同行し、レディー・ミズイ達に連れ去られたはずのリドリィがいたのだ。彼女を助け出すために動いていた矢先の出会いにトゥーラは面食らった。

 

「よっ、久しぶりだな。元気だったか?」

 

「ど……どうやって脱出できたのですか!?」

 

「脱出というより……結局レディー・ミズイに解放されただけかな」

 

リドリィはバツが悪そうに応えた。

 

「そ、そうだったのですか。でも良かった……。私リドリィさんがひどい目にあっていないか心配で……」

 

トゥーラは涙ながらにリドリィとの再開を喜んだ。

 

「大げさな奴だな!私がやられるはずないだろう」

 

「そうですよね!でもどうしてここに私がいると?」

 

一瞬の間の後にリドリィが応える。

 

「お前ならブラックスクラッチに行くと思って街道を探していたのだ」

 

「なるほど!さすがです」

 

「出発するにはまだ早い。焚火でも炊いて話でもしようか」

 

「あ、でも一緒にいた子を探してたんです。ピンクの髪をした子なんですが見かけませんでしたか?」

 

「いや……。尚更その子が戻るまで同じ場所にいたほうが良い。朝まで待とう」

 

「確かにそうですね……」

 

トゥーラはシャリーが用を足しに行って迷ったのかと思い、焚火を用意し始めた。リドリィが合流したことで仮に野盗が寄ってきても撃退出来る安心感があったし目印にもなるからだ。

 

「ブラックスクラッチで何をしようとしていた?」

 

火に照らされたリドリィは薪をくみながら真剣に聞いてくる。

 

「リドリィさんを助けるためにトレップ会長に禁忌の島の件を相談するつもりでした」

 

「そうか。ならばもう行く必要がなくなったな」

 

確かにリドリィが解放された今、ブラックスクラッチに行く必要性は薄れている。しかし、トゥーラはスパイダー工場長との約束を思い出していた。テックハンターの責務としてもこのまま工場での出来事を黙っているわけにもいかないのだ。

 

「いえ、都市連合が何か企んでいるという事は協会に報告したほうがいいと思っています」

 

「……そうか。そうだな」

 

「リドリィさん。ちなみにレディー・ミズイはどうして解放してくれたのですか?」

 

「ん?ああ。双方に誤解があっただけだったんだ」

 

「そうですか……」

 

念願のリドリィに会えたというのになぜか会話がおぼつかない。嬉しい気持ちでいっぱいなのに、ドライミートが喉元で引っ掛かっている感覚。何かが心の中でモヤモヤとしているのだ。

 

違和感

 

という言葉が当てはまるかもしれない。工場長の暗殺、禁忌の島から帰国した際のミズイとのやりとり、カクノーシンとの戦いを経て、誤解だけで済むような単純な話だったのか。それに自分を探すならこのような辺鄙な場所でなくブラックスクラッチでいいはずだ。そしてリドリィであれば真っ先に協会に報告しに行きそうなものだがその気も薄そうであり何もかもが彼女らしくないのだ。

 しかしそれを追求する気持ちは起きなかった。リドリィ救出は困難を極めると思っていた矢先だったので気が抜けてしまっていたのかもしれない。

 

ボケっと火を眺めているとリドリィが話しかけてくる。

 

「そう言えばトゥーラはずっと同じブーツを使っているな。もうボロボロじゃないか」

 

「え?ああ、そうですね。もう足も大きくならなかったから買い替えてもいませんでした」

 

「私は今回買い替えたぞ。ほら見てみろ。金具をつけて攻撃用にしてある」

 

半ば強引にリドリィのブーツを手渡され、トゥーラは狼狽えながらも目をやる。

 

「……!?」

「分かるか?」

「え、はい……」

 

リドリィの目は笑っていない。そして静かに立ち上がった。

 

「少し周りを探してみるか」

 

「……」

 

トゥーラはもはや言われるがままについていく。二人は辺りを見渡せる崖上に着くがまだ暗くてよく見えない。

 

「近くにいる気配がないんですよね」

 

「元奴隷ならば逃亡したとかではないのか?」

 

「う〜ん、逃げたそうではなかー」

 

トゥーラが全てを言い切る前に大きな衝撃が彼女を襲う。恐らく突き飛ばされたのだろう。

 それは高い崖の上から深い谷底へ落ちるには充分な強さであった。足は地を離れ、そのまま暗闇の底へ吸い込まれていく。その間際、トゥーラの視界には自分を無表情に見下ろすリドリィの姿が写っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 トゥーラを崖から突き落としたリドリィの後ろから侍鎧の格好をした男が歩み寄って来る。

 

「お〜、マジでやったよ!レディー・ミズイの洗脳実験は成功だなぁ。まぁさすがに斬るのは忍びなかったようだが」

 

「スケサーン……見ていたのか。勘違いしているようだが私は洗脳など受けていない。自分の意思でミズイに仕えることにしただけだ」

 

「そんなんで弟子みたいにしてた奴、殺れちゃうんかい〜!ペラッペラの師弟関係だったんだなぁ!まぁええよ、試験には合格だ。これでお前は晴れて“レディー・ミズイ推薦の特別憲兵“になった」

 

「私が特憲になったことは誰が知るんだ?」

 

「本来は皇帝だけだが、今は執政のロード・オオタにも報告することになっている」

 

「そうか。それとお前を推薦した貴族にも知らせるのだろ?」

 

「へぇ〜、分かってんじゃねーの。そりゃあ自分の推薦者には頭が上がらないでしょ。ま、貴族の派閥なんて気にせず仲良くやろうぜ」

 

「ふん。どうせ特憲は組まずに単独行動するのだろう。馴れ合いは不要だ」

 

「そんなことないぜぇ、大仕事の時は協力することだってある。今回もノーファクションの残党狩り(・・・・・・・・・・・)で大動員だ」

 

「……何?他にも特憲が動いているのか?」

 

「ああ、お前はテスト期間だったから聞かされてないだろうが今回は隊長の指示の元に数人の特憲が動いているらしい。ルイ一派はここで潰しておく事にしたんだとよ。俺はもうお仕事終わってハイブ人からこの仕込み杖をゲットした。使い込まれているが結構上物だぜこれは」

 

そう言ってスケサーンは杖の鞘を抜き、光り輝く刃をキラリと見せてからパチンと音をたてて納刀した。

 

「……ルイも殺るのか?」

 

「それがあいつは行方不明なんだよ。まぁだから残党狩りなわけだが。拠点も一応潰しておくらしいぜ」

 

「徹底しているな……その隊長さんとやらは」

 

「俺も隊長に直接会えたことはないが感情のないマシーンって話だぜ。帝国のためなら何でもやる。まぁこれこそ特憲の仕事だからな。脅威になり得る組織は早めに潰しておくに限るんじゃねぇか?」

 

「そうか……」

 

リドリィはトゥーラが落ちていった谷底の暗闇を一瞥すると静かにその場を立ち去っていった。

 




次が本エピソード最終話となります

都市連合関連はめっちゃ話を広げ続けておりますが(;'∀')
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