Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
チャド、ガルベス、ジュード
バスト大戦。
都市連合とホーリーネーションの2大国の間で起きたこの戦争は近年類を見ない激戦となり、多くの人命が失われる事となった。
後世の人々は戦争を続けたチャド将軍をどのように評価することになるのか。人類を救った英雄かまたは人類の衰退を早めた愚かな人間か。
いずれにしろ、この戦いは長年変化がなかった世界情勢を大きく変えるきっかけとなったことは間違いないと言えた。
Kenshi -20years later-
バスト大戦編
都市連合の将軍に就任して2日後。
チャド達はホーリーネーションに最も近いストートという都市にいた。ここは新興貴族のロジャー・バート将軍が過去に失脚した貴族ロード・イナバに代わって領主となっており、防衛線を敷いてホーリーネーションの侵攻を防いでいた。そのため彼から戦線の状況共有を行ってもらう必要があったのだ。また、バスト地方に攻め入る際はチャドとロジャー・バートによる2将軍体制の構想となるため、今回は連携のための顔合わせも踏まえていた。なお、バート家が関わるのは手柄をオオタ派に独占されないためにロンゲン派が介入したからだと噂されていた。
「我が都市ストートへようこそ!」
ロジャー・バートはクリンとした髭を指でなぞると誇らしげにチャド達を出迎えた。武士の出だけあって貴族とは思えない屈強な体つきは長年ホーリーネーションの侵略を食い止めていただけはある。もしストートが落とされたら都市連合自体が危うかったところを考えるとロジャー・バートの実力は本物なのかもしれない。背負っている野太刀を見ても使い込まれており、今や数少ない武闘派貴族の1人と言ったところだ。
「ここの防衛体制は完璧ですな。さすが待ち弾正と言われるだけはある」
チャドはお世辞を言うのが得意ではなかったがストートに来て兵員の配置が予想以上に理想的な陣形であったため、見たままの感想をそのまま伝えた。
「有名なチャド将軍に褒めて頂けるとは実に光栄です!ああ、そうだ。こちらの陣営を紹介しましょう」
そう言ってロジャーは後ろに並んでいる将校達に手を向けるとそのまま話を続ける。
「こいつは我が息子キアロッシ・バートです。テックハンターとして修行中の身でしたが今回名誉ある戦いに参加させない手はないと思い急遽呼び寄せました」
「ああ、ハウラーメイズ遠征の際にメガクラブ討伐にも参加されたと言う……」
「そうそう!我が息子の部隊が参加しましたわい」
チャドとキアロッシが軽く会釈すると、ロジャー・バートは満足そうな顔をして残りの将校の紹介を済ませる。バート家はロジャーの代で瞬く間に名門の出となったが、その栄華を次世代にも繋げたいのだろう。売り込みをしたい意図があからさまに見て取れた。
「さて。挨拶はこれぐらいにして早速、戦線の共有をしましょうか」
そう言ってロジャーはホーリーネーションと
「ご存知の通りバスト地方は元来帝国の領地でしたがここ数年のせめぎ合いにより、ストート地方まで戦線を下げることになりました。ですので事実上バストはいまホーリーネーションの占領下にあります」
ストートとバストの間を挟んで膠着状態となっているが、ホーリーネーションはバストを取り巻き防衛線を築いており、反転攻勢に出るにも多大な被害をこうむりそうであった。
「なるほど。敵も考えた配置をしているようですな」
「ええ、先の戦いで脅威だったカスケードという審問官が最近着任したようでさらに強化が進んでいます。こちらが仕掛ける気配を悟られているかもしれませんね」
「奴が……来ているのですか」
カスケードの名前が出てくるのはチャドにとって意外であった。パラディンから審問官となり上級審問官セタ直下に配属されて出世コースをゆく審問官が最前線に戻ってくるのは本人が希望したか、または左遷されたかしか考えられない。
(私が将軍になったことを早くも察知して対話出来る距離まで自ら赴いてきたか……?)
チャドが考えを巡らしているのに気づいたのかロジャーが話しかけてくる。
「奴を知っている口ぶりのようですが、会ったことがあるのですか?」
この問いかけにチャドは返答する内容に慎重になる。チャドはテックハンターの冒険家として世界に名を馳せたが同時にノーファクションの一員であったことはノーブルサークルのメンバーに知らされている可能性が高い。表向き尊敬されても裏では警戒されていてもおかしくはないのだ。元々、スカウトの話を何度も断ってきたこともあり、今更将軍職を二つ返事で承諾しているのも見る者によっては不可解に映っているだろう。
そしてこのロジャーという男。さすがにノーブルサークルに加入しただけはある。一見にこやかにチャド達を迎えていたように見せていたが、目は笑っていないのだ。もしかするとチャドが最近ホーリーネーション領に行ったことがあると知っていて敢えて反応を試しているのかもしれない。下手な嘘はつかないほうがいいとチャドは判断した。
「最近ホーリーネーションに行く機会があり、その際に一度だけ見かけました」
「ほう……!奴の印象はどうでした?あなたならば勝てますか?」
ロジャーは食い入るように聞いてきた。達人の領域になると相手と対峙しただけである程度、力量を察する事ができる。武闘派のロジャーも興味があるところなのだろう。しかし、なぜホーリーネーションに行ったのかについては触れてこない。
(こやつ……)
ロジャーにとってはチャドが敵か味方か将来どちらに成りうるのか見定める必要がある。しかし自らは核心に深入りするほど踏み込むつもりもないようなのだ。ホリネ領に行った理由は特別憲兵あたりに探らせれば良いと考えているのだろう。危ない橋は渡らず実に世渡り上手な一面を発揮していた。
「カスケードも手練ではありますが、私ならば勝てるでしょう」
チャドが自信満々に言い放つと周りから歓声が上がる。それほどカスケードは都市連合から脅威と見なされていたようだ。
「おお、素晴らしい!それは頼もしい限りです。しかし今回こちらもチャド将軍のために精鋭を揃えておりますぞ」
「どういうことです?」
「チャド将軍の直下に選りすぐりの5将がつくそうです。どの人物もカスケードに引けを取らない侍です」
「それは心強いですな」
「5将と兵士が集まり次第、チャド将軍に挨拶に向かわせますので、あなたはそれまで軍の編成を考えながらここで寛いでいてください」
こうしてこの後の情報共有も穏便に終わり面会は問題なく完了した。そしてストートに一軒まるごと家を貸し出してもらいチャド達は暫くそこで暮らすことになった。
「何もありませんでしたね。てっきり見下してくるのかと思いましたがロジャーさんはまともな貴族なんでしょうか」
用意された自室に戻るとジュードがほっとしたように喋りかけてきた。これにガルベスがチャドにかわって呆れたように応える。
「まともな貴族なんぞいるわけないだろうが。あのロジャーという男も相当な曲者と聞いたことがあるぞ」
「え……そうなんですか……」
「伊達に新興貴族として成り上がっただけある。さっきの会話中も何か企んでいる目をしていたぜ」
この言葉を聞きながらチャドは顎に手を置いて考える。
「処世術は我々より得意だろうな。まぁあんな奴らに付き合わずにルイを探し出すことに集中するぞ」
「あの……師範、もしルイを助け出せたらホーリーネーションとは戦争しないですよね?」
「ああ、そのつもりだ。くだらん戦争に手を貸す必要はない」
これにガルベスが目を丸くして反応する。
「マジか!?都市連合はヤル気満々だがそれで大丈夫なのか!?」
「私が将軍を辞退するだけだ。都市連合がやることを妨害するつもりもないし、私達もここから出ていくだろうから問題ない」
「そ、そうか……」
「それよりお前たちは今夜私と同じ部屋にいろ」
「ん?何でだ?折角1部屋ずつ使えるだけの住居を借りてんじゃねーか。広々と使おーぜ」
「いや、恐らく今夜にでもカスケードから使者が来るだろう。奴のことだから私が将軍になったことで敵対視して暗殺しに来ることはないだろうが、問い質しには来るはずだ」
「なるほどね」
チャドの指示通り3人は同じ居間でいつでも戦える準備だけして待つことにした。そして予想は的中する。
時計が深夜を回り、ストートの街中を出歩く者がいなくなった頃。居間の窓が音もなく開き、夜風が部屋に流れ込む。チャドは落ち着いた様子で飲んでいたティーカップを静かに置くが、ソファーに座り込んだまま動かない。
「こんばんわ。我々が来ることを分かっていたようですね」
こもった声が窓からではなく部屋の片隅から聞こえてきた。片隅にはいつの間にか髭をはやしたグリーンランド人らしき男が立っていたのだ。
「カスケード殿の使者だな?ノックぐらいしたらどうだ」
「非礼は不問にして頂きたい。内容によっては修羅場ゆえ……」
男が喋ったタイミングで窓からも2名の男が静かに侵入してきた。やはり敵対した場合に暗殺を考慮した体制で来ているのだろう。それぞれの男は手練の気配を漂わせている。
「こちらはオオタ暗殺の準備は整った。ルイの無事を確認するため本人と連絡を取らせてくれ」
チャドは動じることなく状況を告げた。そして髭の男も冷静な口調で反応する。
「あなたが将軍になったのは我々と戦争するためでなく、ロード・オオタに近づくためだった……。と解釈してよろしいか?」
「当然だ。暗殺成功の可能性を1%でも上げる必要があるからな。しかし、グズグズしていても感づかれる恐れがある。早いところ直筆なりルイ本人と分かる手紙をこちらに渡すんだな」
「分かりました。カスケード審問官に伝えます。さて、こちらも審問官からの伝言があります。もし先手となってホーリーネーションに攻め込んで来るならば、契約は破棄となりルイは国をたぶらかした魔女として処理されます。お忘れなきよう……とのことです」
使者は言付け終わると表情を変えずに静かに窓から去っていった。それを見送った後、静まり返った部屋で最初に喋りだしたのはガルベスであった。
「ふー……。奴らも特憲みたいなヤバい連中を飼っているんだな。手練3人、さすがにあんた1人だったらきつかったんじゃないか?」
「どうだろうな。……特憲か。こちらも使わない手はないな」
チャドはそう呟くと目を細める。
ストートはまさに嵐の前の静けさを漂わせていた。
再開したものの不定期になりそうな予感(´Д`)