それではどうぞご覧ください。
源次はジェルエと共に公園を訪れていた。辺りはだいぶ暗くなっており、人の気配は既にない。
そんな時間帯にコンビニで買った飯を、街灯の明かりに照らされながら、ジェルエと机に座って食べていた。
「これ初めて食べた」
「だろうな」
「これ甘いね」
「新作だってよ。お前の口に合うなら良かった」
「源次は食べないの?」
「甘いのは好きじゃねーんだ」
「ふーん…」
1週間前にデモンハンターたちがエンジェルティアと契約を結び、ドライバーの一部となっていたジェルエは力を源次以外にも供給する為に、変身前は外へ出られるようになったのだ。
だが、結局誰かが変身すればジェルエは力をいいように扱われるだけ。奴らは何も思ってない。その気になればいつでもジェルエを殺せるし、源次もハンターたちも殺される。
それをしないのはメレフの件があるからだろう。もう既に誰も勝てないとリーダーであるムウテンはわかっていた。全てのエンジェルティアの力を一つに収束すれば、今のメレフにも勝てる可能性が見えてくる。その為の肉壁。いや人質を増やす為、デモンハンターたちと契約を結んだのだろう。
「源次…?」
「あー… あ?」
「どうしたの?」
「なんでもねーよ」
「……… 僕が何かしたんだよね」
「おいおい、俺がボーッとしてたら自分のせいっておかしいだろ…」
「何も覚えてないけど、源次の顔がどことなく悲しそうだったから…」
ジェルエは一連の出来事を何一つ覚えてない。エンジェルティアの力を扱うだけの道具となっていた彼は、ずっと眠っているような状態であったのだ。
「なんかなー… お前とはそんな長い付き合いじゃねーけど、なんだか懐かしい感じするんだよ」
「懐かしい?」
「あぁ、あいつら… デモンハンターの奴らと出会ったのは俺がまだまだガキの時だった。今のリーダーが兄貴分みたいな感じでよ。世話になったもんだ…… 今もだが」
「それで?」
「あんまこういう事、話すような柄じゃないんだが…… まぁいいか。話してやるよ────」
*****
「お母さんテストで満点取ったよ!」
「あら、よく頑張ったわね〜」
「俺が教えたから当然だよ。な!」
「ふふっ、あなたも偉いわ『源気』」
俺には2つ上の兄がいた。名前は源気。名前の通り元気を具現化したようなやつで、小学生の頃、頭も良かったが、それ以上にスポーツがずば抜けてた。
漫画の主人公みたいな奴でサッカー、バスケ、バレーとか、スポーツだったらなんでもできるとかいう天才児だった。
「兄ちゃんみたいになりたい!」
「なんだよ突然」
「俺、いっぱい頑張って兄ちゃんみたいになんでもできるようになる!」
そんな俺は兄貴に憧れた。俺は兄貴ほど頭も良くなきゃ、運動だってできない訳じゃなかったが真ん中辺り。当然、兄貴のようになんでもこなせる訳じゃなかった。
兄貴はいつも俺に言ってた。
「俺みたいになるなよ」
「… なんで?」
「なんでもできたらつまらないから」
「んー? 自慢…?」
「違う!!…… まぁ、とにかく源次は好きな事をやれよ。自由に生きるって本当に楽しい事なんだぞ」
「本当かな〜…」
昔の俺には兄貴の言葉の意味がよくわからなかった。なんでもできるって楽しいだろうって思ってたからな。クラスではアホみたいにモテて、先生からは褒められて、周りからどれだけ期待の眼差しを向けられてたか。
…… だけど、それが兄貴を苦しめていたんだ。
「源気くんちょっといいかい?」
「はい?」
その日、兄貴は先生に呼び出されてた。俺は偶々それを見つけて2人の後についていったんだ。
体育館の後ろでその先生は兄貴に対してこんな事を言っていた。
「次の試合、負けてくれないかい?」
「え?」
「いや、確かに良くはないと思ってる。だけどな… お前はいくらなんでも前回点を取り過ぎた」
サッカーの試合の事だろう。言うまでもなく、兄貴はその試合で6点決めている。0-6の兄貴が全て入れた。
「他の子たちはサッカー一筋でやってきたんだ。君みたいにパッと出の子が目立つと困るんだよ」
「ですが… 俺はみんなの為に…」
「負けなくても君が前に出なければいい。他の子に点を決めさせてやってくれ」
兄貴はいつからかサッカー選手になる事が夢だった。だが、先生からのこの言葉に兄貴は熱が冷めたのか、呆れたのか… それはわからねーが、きっちりその試合0-8で決めて帰ってきた。で、サッカーを辞めた。
当時のその記録に誰もが驚き、誰もが兄貴を説得した。やめて欲しくないってないってな。それでも兄貴は辞めた。
それが先生の気にでも触ったんだろうな。
「君…… なんて事をしてくれたんだ」
「はい?」
「あれはなんだ!! 私が言っていた事とまるで違うじゃないか!!」
「俺は嫌だって言いましたよ」
「ふざけるな!!」
その日からあのクソ教師は兄貴の暴行し始めた。親にもそれを隠してた。段々と兄貴と喋らなくなったのはその時からかもな。
中学生になる頃、兄貴はサッカーをやめてから、色んなチームに参加していずれ有名になろうと考えてた。何になりたいとかじゃなくて、ただ名を広めたかったんだろう。あの教師を見返してやりたかったってのもあるかな。
だけど、それが更に兄貴の人生を狂わせた。各方面に恨まれるようになったんだ。そりゃそうだろ。中途半端ってレベルじゃねーけど、他から見たら嫌がらせだからな。
「なんなんだよあいつ… 調子乗りすぎ」
「うちらのこと舐めてんのかよ…」
「泥棒」
「うざい」
「帰れよ」
「消えろ」
その恨みは段々と強く深くなっていき、やがて持っちゃいけない感情が芽生えた輩がいた。
どこかの子供の親が兄貴を刺した。誰かって言うのは調べなかった。怖かったんだ。とりあえず親が言ってた事をチラッと聞いて知った。
兄貴は重傷ですぐに病院に運ばれた。何とか一命は取り留めたが、2度と歩けない身体になっちまった。
今でも思い出したくないほど傷だらけだったからな。生きていたのが不思議なくらいだ。
「兄ちゃん……」
「源次、ようやくわかったか? これがなんでもできるっていう代償だ」
「こんなの酷過ぎる…!!」
「… 確かに。俺も今すぐこうしてやった奴の所へ行って殺してやりたいくらいだ。だけど…… それをしちゃいけないってわかってる」
「なんでさ!!」
「これは俺も悪いんだ。身の程を考えず、人を馬鹿にするような行動をした俺の責任でもある…」
「それでも… 兄ちゃんは二度と歩けなくされたんだよ!? あんまりじゃないか!!?」
「あぁ、酷いな… だけどなんだろう。涙が出ないんだ。なんでだろうな。なんで……」
「兄ちゃん…?」
「辛いな源次。でも、お前は自由に生きろよ。俺の分まで」
その言葉を最後に、兄貴は次の日に死んだ。
両親も俺が高校生になる頃には持病の悪化で死んじまったよ。2人して病気持ちとは笑えねー冗談だよな。
高校生になって暫くして、俺は今のデモンハンターたちの奴らと出会った。進路決めてる時にな。良くしてもらったよ。本当の家族みたいな関係だった。
そこから自衛隊となって、なんだかんだとあって今の職についた訳だ────。
*****
「今の地位を勝ち取る為に、俺は死に物狂いで努力した。お陰で頭は滅茶苦茶良くなったし、運動神経も抜群。イケメンになった訳だ」
「…… 仮面ライダーになったのも自由になる為?」
「よくわかってるな。そうだ。仮面ライダーにさえなりゃ、誰も俺より強い奴なんて出てこないし、誰も逆らえなくなるだろう? 自由に生きられる…… って思ってたのによ。結局、俺は自由にはなれなかった… それどころか長生きできそうにない。仲間も売っちまって…… 俺は… 一体何がしたいんだろうな…」
ジェルエは気づいていた。源次が涙を流している事に。
そしてジェルエは何かを覚悟したように源次に言う。
「源次、倒そう」
「…… なに?」
「エンジェルティアを倒すんだ」
「…… あ……? お前何言って…」
「僕が悪い事をしたんだよね? だったら償いをさせて!」
「待て、お前は何もしなくていい。俺に任せとけ」
「1人で背負い込まないでよ! 僕だって協力したいんだ!」
「なら、お前に何ができるんだ? まだ子供のお前に何ができるってんだよ!」
何も知らないジェルエ。全て知っている源次。2人は睨み合う。どちらもお互いの為を思って言っている。だが、源次からすればジェルエを守りたいと言うのが1番な理由。下手に動けばデモンハンターたちも何をされるかわからない。
「… 僕も自由になりたいんだ」
「ジェルエ…」
「本当は少しわかってるんだ。僕が普通の天使じゃないくらい…」
「………」
「僕だって変わりたい。今のままじゃダメなんだ… お願い源次。教えてよ全部」
「………」
「僕も守らせてよ!! 源次に恩返しさせてよ!!……… 源次の悲しそうな顔見たくないよ……」
「………っ!!」
その時、源次の頭に源気の声が聞こえてきた。
「自由になれ、源次」
「兄貴……」
源次は口を開く。ジェルエに全てを打ち明ける。
「─────…… ということだ。それでもお前はやるのか?」
「…… うん、やる。全部聞いてわかったよ。そしてもう一度言える。僕は自由になりたい。源次もそうでしょ」
「あぁ…… 俺も自由になりたい。兄貴の分まで… 自由にッ!!」
2人の間に固い絆が結ばれる────。
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一方、恭也は再びンードゥの元へと足を運んだ。運ばされたと言ってもいいだろう。
態々、王を動かした事によってエイルはご立腹のようだが。
「王の力の件だろう?」
「そうだ。我の力を使う時が近い」
「…… ンードゥの力か」
「我の力は現在に至るまで100%解放された状態だ。他の悪魔… エイルに至っては王と同じように8割と言ったところか」
「待て、8割だって?」
「お前が新たな力を手に入れたのは知っている。だが、それは二の次だ。1番の問題は今のように力の解放が異常なまでに早い」
「それはなぜだ?」
「考えられるのは……」
ンードゥがエイルを見る。すぐに目を逸らし、再び恭也に向き直る。
「エイルの… お前への想いが度を過ぎている」
「……… は?」
「言い方を変えるなら愛が重い」
「………」
ふざけているように感じてしまうが、ンードゥは何一つふざけて言っていない。すこぶる真面目な顔で話している。
「そ、それが… その…… 何か関係が?」
「想いが強い… それはお前自身もそうだが、エイルを深く信じているからこそ、互いの心が繋がりあい、より一層王への目覚めが早くなってきている。エイルはお前を強くする為に魂を吸い取り、逆にお前は守る為にその力を求める。それが循環となり、効率化し、解放速度を上げていると考える」
「それって……」
「どうする事もできないだろう。お互いに蔑む仲になる他ないと言えるが… それは無理な話であるな」
「………」
恭也はエイルに声を掛ける。
「エイル、大丈夫か?」
「はい…」
「そうか。お前に一つ聞きたい」
「なんでしょうか?」
「俺を信じられるな?」
「も、もちろんです!!」
「…… よし、わかった」
それから恭也はンードゥに向き直り、手を差し出す。
「………」
「…………」
「なんだ? その手は何を意味する?」
「俺に力を貸せ」
「なんだと?」
「俺に時間がないのはわかった。なら、早急にお前の力を使いこなすというだけの話」
「… お前の身体への負担は尋常ではない。8割解放しているとはいえ、まだ未熟であるお前に使いこなせるほど、我の力は甘くはない」
「どうせ時間がない。今更ここで引くくらいなら、王の地位を捨てて逃げている」
「ふっ… お前はやはり選ばれた人間だ。いいだろう。このキーを渡しておこう」
そしてンードゥは恭也の差し出された手に向けて、闇を操りデモンティアイズキーを置く。
今までのどのキーよりも大きく、明らかに他と異質な事が見ただけでわかる。
「すぐに使えとは言わん。お前が我の力を欲した時に使うといい。ただし、使えば最後、お前の身がどうなったとしても、我はお前を助けない」
「…… わかった。ありがとう」
「………」
「な、なんだその顔は?」
「礼を言われるまでもない… と、思っただけだ」
「そうか…… では、失礼するぞ。これからよろしく頼む」
恭也たちの背中を見たンードゥは昔を思い出していた。
先代に非常に似ているそれを見て、今更ながら感情というものが溢れてきたのかもしれない。
「…… ふっ、ふふっ…… 我の力を呑むに足る存在か。見せてもらうぞ。大神恭也───」
── その頃、エンジェルティアはデモンティアを全滅させる為、最後の戦いに向けて準備を進めていた─────。
まだ19話なんですが(焦り)
次回、第20解「我の友、我は自由」
次回もよろしくお願いします!!