それではどうぞご覧ください。
使徒は息を呑む。この緊張感は自分の生まれたその日から一度たりともなかった。
今、目の前にある強大な力に圧倒され、足が前に出ない。動いたら負けではなく、動かなくとも負ける。つまり何もできない。本能的に相手の危険性を察知し、使徒リアルが出した答えはこれだ。
「………」
様子を見る。これが1番最善の策だ。それ以外に何があるのだろう。
この先が見えない真っ暗な闇の向こうに行くなんて死んでもごめんだ。
「来ないのであれば、こちらから行くぞ」
「………」
メレフはそう言うと地面に手を着く。着いた箇所から段々と闇が広がり、辺りにある建物や植物など、ありとあらゆるものがズブズブと呑まれていく。
それはリアルと同じだった。ジャンプして避けようとしたが、まるで触手の様に闇が脚に絡みつき、リアルを引き摺り込もうとしていた。
「お前…… 何故だ」
「何がだ」
「何故これほどまでの力を使える。ゴエティア様によれば、お前はこの力を制御できず、この街を呑み込んだそうではないか」
「確か。俺は一度この力を制御できずにいた…… だが、今は違う」
王の力は最早9割と言ったところまで解放していた。そしてこの形態になる為に恭也は99.9%まで、魂の限界値のギリギリまで自力で解放したのだ。
しかし、これは恭也自身何故こうなったのかわかってはいない。直感的にできると思ったのだ。あの対話が夢なのか、それとも恭也自身の心の表れたなのか定かではないが、確定している事は更に成長し強くなったということだ。
「あり得ない」
「あり得ているからこそ、今、俺はこの力を使えている」
リアルがこの夜中に戦った事が運の尽き。失敗だろう。
闇の力は暗ければ暗いほど、よりその範囲を広くし、闇属性のエネルギーを大幅に引き上げる。これによりこの街全体は最早メレフの思うがままに操れる。
これはまずいと必死に抵抗を試みるリアルだが、闇の引力があまりにも強過ぎる為、引き抜こうとする度に闇へと引き摺り込まれていく。
「……… だが、お前は忘れている」
「なに?」
「私は何度でも蘇る。何度も殺そうと無駄なのだ。細切れにされようと存在を抹消されようと、私は神の御加護がある限り────。
「誰がお前を消すと言った?」
「なんだと──?」
そしてリアルは闇へと呑まれた。闇の世界は何もかも真っ暗であり、自分が今どこにいるのかもわからない。
リアルは鳥の様な翼を広げ、見当たらない出口へと向かって飛び続けた。
「ほう、私を取り込んだわけか。しかし、このまま私が死ぬ事があれば再び蘇る」
そしてリアルは飛び続けていたが、やがて翼をしまい、無重力の様な空間をひたすら彷徨っていた。
「─── まさか…!?」
それからリアルは気づくのだ。この闇は終わりがない。一度入ったら出る事はできない。
この中は人間であるならば餓死して死んでしまう事だろう。だが、リアルはそれができない。ここで自らを傷つけてしまうのも手だが、再び蘇ったからと言ってこの闇から抜け出せる筈もない。
全てを勘違いし、絶望したリアルは永遠と闇の中を彷徨うのだ。ンードゥが死ぬその日まで────。
「…… ンードゥ、これで奴は永遠を繰り返すのだな」
「そうだ。我の闇に一度取り込まれれば抜け出す術はない。その様な者は誰一人として存在しない」
「そうか…… うっ………」
メレフはフラフラになりながら、闇に呑まれそうになる街を元戻すと、全身の力が一気に抜けて地面へと倒れる。
この僅かな時間5分と言ったところか。ンードゥの力は扱える様になったと言えど、短時間の使用しかできないらしい。
エイルは恭也に膝枕をし、彼の様子を見る。すっかり気が抜けて眠ってしまった様だ。
「……… ンードゥ」
「なんだ、エイル」
「どうして恭也様はあなたの力が使えたの」
「王の力を解放した。我は
「アレ…?」
「…… 我も細かい部分まで把握していない。だが、現王が王として… 絶対的な力を解放しかけている事は確かだ。死か生か─── この男がどちらに転がるか。それとも………」
「もういいわ。とにかく恭也様が無事でよかった…」
エイル達は恭也の無事を確認し、ンードゥも含め、自宅へと戻る────。
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源次は森の奥地へムウテン達の様子を見に出向いていた。少しばかり遠いが、道中でジェルエと雑談を挟みつつ向かうので、そこまで気になる事はない。
「そういえば源次の仲間はまだ病院?」
「あぁ、まぁもうすぐ退院だがな」
「源次は怒ってないの? あんな事されて」
「あ───…… 怒ってないと言えば嘘になるな。今からでも殴らせてもらうくらいは恨んでるぞ」
「えぇ!? なのにこんな所まで態々お見舞いに来るのぉ!?」
「お前一応天使仲間だよな…… ま、そうだな。普通おかしいけどよ。全部終わっちまった事だし、全員無事で奴らも反省、というか仲間とか絆とかそういう人情的ことを分かってくれたし、それ全部ひっくるめて俺はそれでいいと思ってる」
「ふーん… 源次ってやっぱりおかしいね」
「そんなおかしな奴についてくるお前もどうかと思うがな」
「へへっ」
2人はたわいない会話を挟みながら、森の奥へと進んでいった。
しかし、今日はやけに静かであった。エンジェルティアたちは楽しい会話を挟む様な柄ではないので当然だが、そういう意味ではなく、嫌な方の静けさなのだ。
「……… 用心しろジェルエ」
「え? うん」
ジェルエは気づいていないが、源次は奥に進むにつれて周りの木々が不自然に倒れているに目がいった。更に奥へと入ると木だけではなく、地面も抉れ、動物が焼けた臭いが漂う。
流石にジェルエもおかしいと感じ、源次と顔を見合わせ、その場所に急いだ。
「おい…… マジかよ」
本来なら、ムウテンたちが話し合いをする場として設けている所で、椅子の様なものが7つ並べられている筈なのだが、源次たちが来た時には既に更地と化していた。
その場には翼がボロボロとなった天使たちが倒れており、地面の所々に大きな穴が開いている。戦闘が行われたのが見てわかる。
源次は倒れているナナテンに駆け寄り何があったのか聞き出す。
「おい、ナナテン! 何があった!?」
「源次…… か? 見ての通り私たちは負けたんだよ……」
「誰だ。誰にやられた?」
「私たちが敗北するなんて、使徒以外にありあると思う?」
「リアルか?」
「いや、違う。別のやつだ……とんでもない強さだったよ……」
「……… ムウテンの姿が見えないな。まさかだと思うが…」
「あぁ、そうだよ。あいつは1人で戦い続けてる。私たちも加勢したけどこの様だ。ほんっと腹立つ」
「どこに行ったかわかるか?」
「あっちだ」
ナナテンが指差した方を見ると、遠目ではあるが、光のレーザーが空に向かって飛んでいったのが見えた。
それから源次はその場に急いで向かう為、仮面ライダープリーストスタンドホリージェルへと変身し、翼を広げて飛び立った。
「……… ムウテン… 死なないでよ……」
ナナテンはムウテンを心配する様に呟くと気を失ってしまった──────。
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森の木々が焼け、そこに住まう動物たちの鳴き声が響く。光が飛び交い、白い羽根がパラパラと舞い散る。
そう、ムウテンは既に限界を迎えていた。戦っている使徒は「レビト」と言い、リアルに続いて強力な神の力を宿した者だ。
「ぐはっ…!!」
「けけけけけけけけっ!! 死なないで!! 死んで!!」
このレビトは下半身をまるでタコの様な触手に変える事ができ、伸縮自在でどこまで追いかける事が可能である。
なので、ムウテンが空を飛び回ろうとも、触手はそれに応じて伸び、いとも簡単に相手を捉えて地面へと叩きつける。先ほどタコ様だと述べたが、実際はタコよりも多くの触手を生成でき、個々が強靭な筋肉を持ち合わせているので、並大抵の力では解く事も難しい。
そんなレビトと戦うのに持久戦は向かず、次第にムウテンは避ける事が困難になっていく。
「あれ? けけけけけけけけっ!! これもう死んだ!!? 死なないでよ!!」
「しまった……!!?」
ムウテンの身体がくの字に曲がる。大きな丸太の様な触手が彼の腹部を捉えた。骨のミシミシとする音が聞こえると、そのまま地面に叩きつけられ、その上から間髪入れずに触手の雨が降り注いだ。
「………!!…!!!─────」
段々と視界がぼやけて来る。ムウテンは死を悟った。全身に痛みを感じなくなりかけた時、急に視界が開いた様な気がした。
その時、レビトが吹き飛んでいた。巨大な光のレーザーがムウテンの上を飛んでいったのだ。
「おい!! ムウテン無事か!!?」
「…… 源…… 次………?」
「全く無茶しやがってよぉ…」
「君じゃ勝てない…… 奴は強過ぎる……… 逃げるんだッ…!!」
「アホか。こんなボロ雑巾になるまで戦った奴を置いていけるかよ。暫くそこで横になってろ」
プリーストは杖を構えて、光のエネルギーを溜め始める。使徒はこの程度で倒れるはずがない。寧ろ倒れられたらまた初めからやり直しだ。
そしてレビトは思った通りに起き上がり、触手を広げて乱暴にプリーストへと向かってきた。
「お前!! いい!! けけけけっ!!」
「気持ちわりーんだよ!! タコ野郎!!」
プリーストは杖に溜めた光を目の前で十字に斬り、更にその上からバツを描くと、それを交差させてレビトへ向かって放った。
レビトはその光を避ける事もせずにまともに当たり、身体はぶつ切りとなって地面へと転がり落ちた。
当然ながら使徒は、この重度のダメージを負ったとしても直ぐに再生できるので、レビトはすぐさま元の状態へと戻り、再びプリーストへと向かって走る。
「そう来ると思ったぜ!!」
その僅かの間に溜めた光を、プリーストは杖を掲げて空に向かって放つ。
ただの隙となる攻撃に対し、レビトは触手をプリーストの首に巻き付けて力強く締め付ける。首の装甲は薄いので、締め付けられると息を吸う事ができない。
「……っ!…かっ……!」
これで終わりだとレビトは更に力を込めようとすると、次の瞬間、首を絞めていた触手がバッサリと切られた。最初何があったのかわからないレビトだったが、気づいた時には彼の周りに光の槍が降り注いでいた。
その見た目は檻。彼の触手では通れないほどの感覚で造られた光の檻である。
レビトはそれを壊そうと暴れ回るが、触れる度に身体を傷つけ、全身がボロボロになっていく。
「けけっ…… なにこれ?」
「お前らどうせ死なないんだからこうするしかねーだろ…… 一時的に閉じ込めさせてもらったぜ。お前がそこで死ぬほど暴れたとしても、復活できるのはその場だ。だから俺のエネルギーが尽きない限り、永遠にお前はその中で再生し続けるって事だ」
「けけけけけっ!! 考えたね!! ぶっ殺す!!」
「やって見ろよこの野郎…… まさかこんな短時間でエネルギーアホみたいに消費してするとは思ってなかった。さすが使徒だな」
プリーストは翼を広げてムウテンを包むと、杖で地面を叩き、光のベールを出現させてその場から消えていった。
そして暫く時間が経った後にレビトは光の檻から解放された。それから空に向かって声を大きくして笑い転げる。
「けけけけっ!! けけけけけけけけっ!! 次は必ず殺すっ!! けけけけけけけけけけけけけけけっ!!!」
その日、何もない筈の森から不気味な笑い声が響き続けたという────。
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「そうか。リアルは闇に呑まれ、レビトは実質的な敗北を期した訳か……」
「はい、その様でございます」
「どうやら我々が思っている以上に力をつけてきている様だな」
どこかもわからないその場所に、3人が真ん中に置かれた水晶の中を除いていた。その内の2人はリアル・レビトと同じように使徒であり、それぞれ「アスモ」「ガーズ」という。
そしてもう1人が水晶から手を離すと、水晶に映っていた2人の様子は見えなくなってしまった。それからその人物は背の高い椅子へと座り、2人の使徒を手招きして呼ぶ。
「お呼びでしょうか?」
「お前たちも悪魔の王の元へと行くがいい。そしてリアルを闇から解放し、レビトを連れ、奴らを殺せ」
「はい、承知致しました。『ゴエティア』様」
そう言うと使徒たちはゴエティアの目の前から一瞬にして消えていった。
ゴエティアは1人残ると、指をくいっと曲げ、水晶を浮かせて自分の方へと持って来る。再び手を触れると、そこに映し出されたのは恭也であった。
「王よ… 我の力が戻った時、お前は絶望するだろう。使命の意味など何もないことを悟るがいい」
そうしてゴエティアは不気味な笑みを浮かべ、水晶を握り潰した───。
遅れましたごめんなさい。
中盤戦頑張ります。
次回、第27解「我の熱さ、我の流れ」
各悪魔たちとの絡みが何話か続きます!!
次回もよろしくお願いします!!