それではどうぞご覧ください。
「はぁ…… はぁ……」
背の高い木々で覆われるそこはエンジェルティアたちが新たに拠点として選んだ場所。つい最近のこと、使徒レビトに襲われ、重傷を負わされた彼らであったが、源次が助けた事で難を逃れた。
暫く平穏を保ち、傷が癒えてきた頃、新たな使徒が彼らを襲った。
エンジェルティアのリーダー的存在であるムウテンは仲間たちと力を合わせて必死に抵抗していた。
「なんなのこいつ…!!」
「集中するんだ!!─── くっ!!」
闇の力を持つ天使ナナテンは感覚が鋭い。その能力を活かして自ら囮となり、仲間の天使達が攻撃できるように隙を作ろうとする。
だが、ムウテンや他の天使たちがこうして必死に抵抗しているにも関わらず、レビトと同じ様に歯が立たずにいた。
それどころかこの使徒に関しては圧倒的な力の差があった。あのレビトをも凌ぐ強大な力だ。
「ここまでやって効いていないのか…!?」
全方位から各属性攻撃。どれも本気で打ち込んでいるはずだ。
使徒は尚も平然としている。避ける動作すらしない。
「君の力は一体なんなんだい…… 『アスモ』」
「エンジェルティアのムウテン。最早この程度とは…… いや、この程度になったのは人間に関わりを持ったからだろう」
「…… そうかな。人間は僕達の思っている以上に強い。その人間から僕達は色々と学ばせてもらったよ。エンジェルティアの面々を仲間と認識できたのもとある人間のおかげさ」
「ふむ、そう思うのは結構であるが、その仲間とやらもそろそろ限界が近づいてきているようだが」
「仲間は守るさ」
「その仲間は
「えっ─────」
ムウテンが周りを見ると、天使たちは胸を貫かれて倒れていた。
少し目を離した隙。ほんの一瞬でアスモはムウテン以外の天使たちに致命傷を与えた。
「なんだと……っ!!?」
「…… 私の力はお前たちの属性如きでは傷ひとつ付かない」
「何をした」
「私の能力は単純明白。対象を確実に捉え、そして確実に仕留める。お前の仲間というものに、私は既にマークしていた。安心するがいい。急所は外しているが、いつ死んでもおかしくはないだろう」
「…… 何故、殺さない?」
「お前たちに最後のチャンスをくれてやろうと思ってな」
「最後のチャンス…?」
「ゴエティア様に仕えていたエンジェルティア。本来であるならば始末するべき存在であるが、もう一度その身を捧げるというのなら、そして──── ゴエティア様の生贄となるのなら、私があの方に話をつけに行ってやる」
「断ったら殺される。断らなくても死ぬ…… ははっ、どっちを選んでも地獄かい」
「地獄? ゴエティア様の糧となれるのだ。これは褒美だろう…… あまり無礼な事を言うな」
アスモはムウテンを睨む。目を合わせているだけで気を失いそうなほどの圧力だ。
そしてムウテンは暫く黙り、エンジェルティアたちの事や源次の事を考え、やがてその重い口を開く。
「わかったよ。でも僕にもう1つだけチャンスを貰えないかい?」
「そのチャンスがこれだが?」
「いや、もう1つだ」
「お前にその権限はない」
「確かにそうだ。だけどこれだけは頼む。それをするなら僕は… 僕達はこの命をいくつでも懸ける」
「ほう…… 聞こう」
「あぁ、僕は───────」
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恭也は最近元気のないエイルを連れ、人気のない場所へと歩いて向かっていた。付き添いとしてメロクとネゴールにも来てもらい、辺りの確認をしながら進んでいく。
未だに晴れる晴れることのない悪魔の王としての脅威。人々が自らを敵だと思わないようにするには色々と難しいところがある。
家族に迷惑をかけ、そして自分は王の使命を背負い命を懸け続ける。まだ10代には重過ぎる代償だ。
「…………」
王の使命。そう何度も繰り返し言っている。だが、実際のところ具体的なことがわからなくなっていた。
悪魔の王として、この世に解き放たれてしまった悪魔を封印し、ただ使役すればいいと思っていた。ところがエンジェルティアという存在が現れ、戦い、勝ち、また次に使徒という存在が現れ、戦う。
王の使命とは結局なんなのか。王になればいいという訳ではないのだろうか。
「偶に声が聞こえる気がする」
「声…?」
エイルは突然呟いた恭也に聞き返す。
「王の使命を果たせと。だが、俺は一体何をすればいいのだろう。幾度も戦い、お前たちとも絆が芽生えた。なのにまだ何かが足りない…… 王の使命。本来の意味があるはずだ。俺はその何かを終わらせなければならない」
「恭也様…… 私は王の使命について全てを知っていると思います。ですが……」
「わかっている。記憶がないのだろう」
「お役に立てず申し訳ありません」
「いや、いいんだ。それよりお前は元気を出せ。これは命令ではなく、俺としてのお願いだ」
「はい…」
そうして一向は海辺へと辿り着いた。ここは変な噂が流れ、寄り付く人がいなくなった。実際それは嘘であったが、ゴミなどが散らばり、不気味さがある為、朝は誰もここへは来ない。寧ろ夜の方がいるくらいだ。
「さて、ここで休憩を取ろう。任せたぞネゴール」
「任せとけ」
ネゴールは砂を操り、簡単なテーブルや椅子などを自在に作り出した。
そこへ持っていた風呂敷を広げ、クッキーなどの甘味を皆が食べやすいように広がる。
「ここにいる奴だけだ。特別だぞ」
「こりゃ美味そうだな」
「ふふふっ、久しぶりに甘味なんて食べるわね」
そしてメロクとネゴールはそれを食べ始めたが、エイルは椅子に座ったまま俯いていた。
「エイル、お前も食べろ」
「ですが……」
「いつまでも下を向くな」
「恭也様…… ですが、私はふっ───!!?」
「これでも食べて落ち着け」
何か言おうとしたエイルの口に恭也はクッキーを詰める。
それにエイルは顔を赤らめ静かに食べ始めた。
「さて…… メロク、ネゴール。今の俺を見てどう思う?」
そう恭也が言うと、その質問に答えようとしたメロクだったが、ネゴールがそれを遮って代わりに答えた。
「正直、不思議な事だがお前からは精気が満ち溢れている」
「そうか… 俺もそう思っていた」
「そうだろうな。お前の力が日に日に力を増しているのを感じる。わしらも本来の力を取り戻してきた。だが……」
「あぁ、自分では問題ないと思えるほど、王の力が強大になって、今まで弱っていた身体が嘘のように元気を取り戻した。だが、実際は身体の限界が来ている。レビトとの戦いが終わり、その直後、驚く隙もない程に身体が疲労し、気が付いたら家にいた」
「しかし、お前は今なお生きている。それでも十分な気がするがな」
「確かにそうだな…… 残り数回で死ぬのなら、今を… お前たちと長く…」
エイルが「恭也様」と言い掛けたその時、後ろからゾッとする気配を感じとった。
4人はそちらの方に急いで振り向き、すぐさま戦闘態勢に入る。
「俺は『ガーズ』。王と配下の者たちよ。ゴエティア様の命により、お前たちにはここで死んでもらう」
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「おい嘘だろ…」
「── 源次!! あれ見て!!」
ジェルエが指を差した方向にはムウテンが倒れていた。その周りは激戦を繰り広げた事で生じた穴や木の残骸がある。
源次はこの状況が前にもあった事を思い出し、それがすぐに使徒である事がわかった。だが、この状況が前とは違い、圧倒的不利の中で戦った事が見て取れる。その証拠にムウテン以外の姿が見えない。
これになんとも言えない感情を抱きながらも、源次はムウテンに近づき詳しい訳を聞こうとした。
彼の身体はボロボロで吐く息も細かった。
「ムウテンしっかりしろ!!」
「……… あぁ… 大丈夫かもね…」
「大丈夫な訳ねーだろう… 他の奴らは?」
「死んだよ」
「……っ!!」
やっぱりそうかと源次は歯を食いしばる。
ムウテンは深く息を吸いながら続ける。
「僕も馬鹿な事をした…… 今回の使徒はレベルが違ったよ。僕たち7人が一斉に飛び掛かっても、彼にとっては僕たちは耳元を飛ぶハエ同然…… 全く歯が立たなかった」
「お前だけが生き残ったのか…」
「なんとかね…… でもアレがなかったら僕はとっくに死んでたさ」
「何?」
「あの時────」
※※※※※
「僕は──── 僕含めた7人を源次に託して君を倒す」
「…… 何を言っている?」
「それがチャンスだ。1回限りのね」
ムウテンはアスモにその条件で戦おうと言い出した。
「お前は何を言っているのか自分で把握しているか?」
「わかっているからこその条件だ」
「群れが1つの束になったところで何も変わらない。その理由は明白だ。ただの足し算に過ぎない」
「いや違う。掛け算だ」
「根拠は?」
「僕たちは彼に仲間の大切さを教わった。仲間がどれだけかけがえのない存在かを… そしてそれがどれほどの力を生み出すかを……… 君がもし最後のチャンスとしてこの条件を呑むのならそうしてほしい。でも、呑めないというのであれば…」
「あれば?」
「……… いや、他に選択肢はないか。何せこれが最後だから」
「ふむ……」
アスモは少し考えてから答えを出した。
「いいだろう。ただしお前たちが負けたら…… わかっているな?」
「いいよ。ゴエティア様の糧になろう」
「その源次という人間もだ」
「……… わかった」
「では、また明日ここへ来るとしよう。時間は今から24時間後だ」
そうしてアスモは去っていった─────。
※※※※※
「─── ごめん源次… 君を売るような真似をしてしまった…」
「そんなこと気にすんな。それより今の話が本当ならさっさと契約しちまおう」
「君は本当に話が通じる」
「はっ、一度契約した仲だ… まぁ最初はいいもんじゃなかったがな」
そして源次は再びムウテンと契約を結ぶ。アスモを倒すという条件だ。
しかし、源次にある疑問が浮かび上がる。
「…… なぁ、ムウテン」
「なんだい?」
徐々にベルトに吸収されていくムウテンを見ながら、源次は自分に流れてくるエネルギーに違和感を覚えた事を伝える。
「何でこんな悲しいんだ?」
「えっ?」
「お前…… 他のエンジェルティアの奴らはどうしたよ」
「………」
「話せ… お前が計画してる本当の事を」
「…… ははっ、やっぱり言うしかないよね──── 僕たちは今1つの状態、つまり僕の身体に6人のエンジェルティアが入ってる」
「それは何となくわかってるんだよ。だけど……」
「あぁ、僕たちはこの怪我だ。例え時間が経っても完全に治すことは不可能だろう。だからそれぞれのエネルギーをかき集めて1つの身体に移動した。そしてこの力を君に託すことで──── 僕たちは消える」
ムウテンのその言葉を聞き、源次は拳を振り上げるが、その手をゆっくりと下ろして硬く握りしめる。
「他に方法はなかったのかよ…」
「ない。こうなる運命だった」
「くそっ…!!」
「僕たちは確かに消えてしまうけど、いつまでも君の中で生き続ける。源次…… 僕たちの力を使ってくれ。そして仇を取ってくれ」
「あぁ…… 必ず」
そしてムウテンは源次からジェルエに目線を移す。
「ジェルエ」
「…… なに?」
「すまなかった……」
今まで一度も言われたことのない謝罪。それはたった一言だけだったが、ジェルエにとっては重く、辛く、そして心に響く言葉だった。
「…… ううん… 大丈夫」
「そうか…… 君は本当に優しい……」
半分以上身体が消えかかったムウテンはもう一度2人の顔を見ると、少し微笑み一言だけ告げた。
「ありがとう───」
そうして彼は光となってベルトに吸収される。
そこにはもう人間と子供の天使が居るだけだった。
「…… ジェルエ」
「わかってる」
「絶対に奴を倒す」
「うん…!!」
エンジェルティアが残した未練と誇りを背負い、決意を新たに源次はその場をあとにした─────。
またまた遅れてました。
次回、第30解「我の意志、我の怒り」
次回もよろしくお願いします!!