それではどうぞご覧ください。
第34解「我の絶望、我は誰だ」
あの時から恭也はまるで魂が抜けてしまったかの様に、ずっと部屋にこもって誰とも会話をせずにいた。
両親も彼のことを心配して声を掛けたが、まるで反応が返ってこなかった。
今、彼の家はボロボロに崩れてしまっている為、仮設住宅にいる。
「……… 王様よ。いつまでそうしてるつもりだよ?」
炎の悪魔ジェイクが恭也にそう言うが、彼は全く見向きもせず、ただ部屋の壁をずっと見ているだけだった。
「もうあの日常は戻らない…… 何をどうしたとしても……」
──── エイルが消えた。
あの日から1ヶ月。世界はまるで闇に包まれたかの如く、曇りが続き、その間に太陽は顔すらも見せない。
だが、これはゴエティアによるものだけではなく、エイルによる影響も大きいのだ。
そうあの時──────。
*****
エイルは自身の姿が無くなったことを理解すると、すぐにゴエティアと融合をした。
神と融合などと馬鹿げているが、それほど彼女は必死であり、そしてゴエティアもこれには無反応であった。
気づいてはいたが敢えて反応しなかったのだろう。たかが悪魔1匹の抵抗だと。
「───ッ!!!?」
そしてエイルは彼の身体に入った瞬間、過去にあった全ての光景が脳裏を過ぎる。
あの日、前王と交わした約束。スレイマンと出会ったあの日──────。
「……… そうよ。私はあの日、前王様と約束した…… 恭也様………」
記憶を取り戻したと同時に、エイルはかつての力をその身に溢れさせた。
その力は、そう、神にも匹敵するほどの力。だが1人ではダメなのだ。
「私にはこうする事くらいしか………!!」
ゴエティアもその変化に気づき、流石に焦りを覚えた。
だが、そう思った時点で遅かった。彼の身体はみるみるうちに白く輝きを帯び、やがて繭の様にその場に留まってしまった。
「足掻くか…… 悪魔の娘よ」
「恭也様が撤退できる時間くらいは稼げるわ」
「何故、神に抗い、何故、王に期待する?」
「だって──── 私の愛する王ですから」
その答えにゴエティアは呆れるどころか、聞き流す。
何を戯言を。この封印が解かれれば、世界は終焉へと向かうのだ。
時間稼ぎがいつまで続くか。エイルはたった1人で神に抗っていた──────。
*****
「……………」
恭也はそんな事を知らないのだ。エイルがたった1人で立ち向かっていることに。
他の悪魔達は気づいてはいるが、ンードゥによって止められていた。
「ンードゥ…… 何故言わない?」
「奴が王としての目覚めなければならない。自ら気づき、自ら立ち上がらねばならない」
「……… ほう、お前もそういう悪魔になったのか?」
「ふんっ…」
ジェイクはンードゥを揶揄う。
ただそこに笑いは一切起こらなかった。軽いジョークも今は彼には届かない。
そんな時、恭也はゆっくりと彼らを見る。その目の下はクマだらけで、一瞬彼かどうかも疑わしく思える程だ。
「なぁ……… ンードゥ」
「なんだ?」
「俺は…… 何か間違えたのか?」
ンードゥはそれに対して何も答えない。
「あれは誰が悪いんだ…? 王ってのはこんなにちっぽけなのか…?」
いつも王としてデモンティア達の前では、それ相応の態度を取っていた恭也であったが、今はまるで年相応の、まるで子供の様な態度を取り始めた。
何度も彼は辛い。きつい。苦しいと呟き続けた。
そして遂にンードゥは言い放つ。
「哀れだな」
「なに……?」
「哀れだと言った」
これに恭也はンードゥの胸ぐらを掴み、声を荒げて怒鳴り散らす。
「お前に何がわかるんだンードゥッ!!! お前に…… 大切なものを失う気持ちがわかるっていうのかッ!!!?」
それ対してンードゥは「わかる」と言った。
恭也はスッと手を離す。思わぬ答えに思考が纏まらない。
「前王を失った時、我は今まで感じた事のなかった感情とやらが揺れ始めた。あの時の感情を言葉で表現するのならば…… 悲しい、だったはずである」
「…………」
「我々は今一度ゴエティアの元へと向かうつもりだ」
「……ッッ!! なんでっ…!!?」
「何故……か。それが使命というのではないか?」
「えっ…… でも、俺はもう力がない…… エイルがいなきゃ俺なんてただのニートなんだよ……」
「…………」
「俺は元々、王の器じゃなかったんだよ。ただの一般人だったんだ…… それなのに急に悪魔がやってきて、使命だなんだって…… 俺はもう辛いんだよ!! 俺は……死にたくないんだよ……ッ!!」
恭也は自身がうちに秘めていた事を全て口にした。
それを聞いたデモンティア達は部屋から出ていく時、それぞれ王へと言葉を贈る。
それは罵倒であるのかそれとも………。
「見損なったぜ、王様。俺の見込み違いだったか? 今のお前からはなんの熱さも感じねぇな」
「じゃあね王様〜…… まぁ無理強いしないよ。だって王様だし〜」
「今の君は美しくないよ、王。君の中にあった風はこんなに緩やかだったかな?」
「…… それが本音か?……… なら、ぶつける事だな」
「こんなもんで終わる野郎じゃねーだろう?」
「あなたがそれでいいのなら、私は何も言わないわ…… ただ友人の仇は取らないと…ね?」
「わしが力を与えたのはこんな弱い男じゃったかの? もう闇に染まってしまったのか?」
「……… 我はお前をもう王としては見ない。後は好きにするがいい。選択するのはお前自身だ」
皆はそう言うとゴエティアの元へと向かってしまった。
「俺は…… 何になりたいんだ……?」
恭也はただ1人、頭を抱え、下を向く。
彼にはもう明日を見る力もないというのか─────。
*****
「やっぱり来なかったか……」
「しょうがないよ…… だってまだ若いんでしょ?」
「お前が言うのかジェルエ…… まぁそうだな。年上として大人の余裕ってやつを見せてやらねーとな」
ゴエティアが白い繭へと化し1ヶ月、源次とジェルエはその間に何度も彼の前を訪れた。
いつ復活してもいい様に戦える準備を進めていた。が、1ヶ月前にあったあの驚異的な強さを前に勝てる見込みは微塵もなかった。
寧ろ死ぬ為にいる様な感覚だ。
「はぁ…… 全く。こいつが復活したら世界の終わりかぁ…… 俺、とんでもないことに巻き込まれてんなぁ…」
そう言って源次はドライバーに指を這わせ、目を閉じる。
この短い期間の中で色々な出来事を目蓋の裏から思い出す。
「エンジェルティアのみんな…… もう少しだけ力貸してくれ」
「……… 何を黄昏ている」
「来やがったな悪魔ども」
源次が振り向くとンードゥとデモンティアの面々が立っていた。
そこにもちろんエイルはいない。そしてもう1人─────。
「やっぱり来なかった……」
「奴に王としての器は荷が重すぎた。我々のみで対処するまで」
デモンティアたちはそれぞれの属性エネルギーを増幅させ、それを形取って武器へと変える。
「我々の力も全盛期と同等に戻っているはずだ。ここで畳み掛けるぞ、デモンティアよ」
「こりゃ頼もしいなぁ……… そろそろか?」
「来るぞ─────」
そして繭がミシミシと音を立てたかと思うと、次の瞬間に爆発する様な光を放ち、神が再びこの地へと降臨する。
「─── さぁ世界の終焉だ」
「……… へっ、やれるもんならやってみやがれ!! 変身ッ!!」
《ホリージェル!!》
*****
ごめんエイル。本当にごめん。
恭也は何度も心の中でそう呟いた。今更後悔しても帰ってこないのに、どうして悩み続けるのだろう。
これじゃあまるで少しでも希望が見えている様ではないか。
「……… 期待してるのか…… 俺は」
恭也様。
まるで幻聴の様に毎日聞こえてくる。末期だな。これは。
「ははっ……」
だから幾度も謝り続けるのだ。あれが誤りだったのかはわからないから、何度も何度も呪文の様に繰り返す。
恭也様。
またこれだ。これが聞こえるから何度も呟くのだ。
「エイル……」
恭也様。
待て、これは本当に幻聴なのか。段々とはっきり聞こえてくる。
恭也様。
「…… いるのか、エイル?」
どうして欲しいんだエイル。
ゴエティア。
ゴエティア?ゴエティアの中にいるのか?
「……… でも俺はもう戦えない…… 俺に王なんて無理だったんだ……」
私は────── あなたを信じています。
「エイル……… 俺はッ……」
恭也は振り向いた。
そこには誰もおらず、ただ少しばかり暗くなった壁があるだけだった。
だが、そんな暗がりの中、微かな光が彼には見えていた。
「…… みんなが言っていた言葉…… あれは俺を見限った訳じゃない。彼らはいい奴らなんかじゃないんだ。悪魔だ。どうしようもないお節介達の集まりだ」
信頼。絆。これが王としてあるべき形なんだ。
「エイル、みんな……… 今行くッ!!」
恭也は覚悟を決めて走り出す。
今度はしっかりと前を見て──────。
テンポ上げてます。えぐいです()
恭也はなりたい王になれるのか?
次回、第35話「我に希望、我と共に」
次回もよろしくお願いします!!