GOD EATER 2 ―明日への報酬は― 作:おさんぽびより
「やっぱり足りてないですよねぇ、人手」
「仕方ないさ。人類はようやく増加傾向にあるものの、アラガミのそれには及ばないからね」
地球上に突如現れた生命体アラガミ。発見当初はオラクル細胞と呼ばれる極小さな細胞群だったそれは地球上の生物、無生物、果ては無機物に及ぶまであらゆるものを喰らい、喰らったものの形質を取り込むことで進化、瞬く間に世界中に侵略した。既存の兵器では全く歯が立たず、天災とも呼べるその圧倒的な力を持った生物を極東に伝わる八百万の神々になぞらえ、人々はこう呼んだ。荒ぶる神、アラガミと。
人類は著しくその数を減らし文明は崩壊、残された少数の人々は世界中にいくつかある居住区の周りに巨大な壁を築き、明日をも知れぬ生活を送っている。
「サテライト拠点の防衛に、新型アラガミの対処……。みんなにもしばらく苦労をかけることになるな」
元生化学企業フェンリルの極東支部支部長室。そこでフェンリル極東支部支部長代理兼アラガミ技術開発統括責任者と長ったらしい肩書を持つペイラー・榊博士、整備士の橘リッカが物資搬入の打ち合わせをしつつ雑談に興じる。話題は昨今の緊迫した状況についてにも及んだ。サテライト拠点建設による居住区の増加に伴い増加する防衛要員に新型アラガミの対処要員。特に新型アラガミの対処にはある程度経験を積んだ曹長以上のゴッドイーターが求められていた。常にあるゴッドイーターの不足も最近は特に拍車がかかっている。しかし、榊は書類に埋もれながら心配ないという。
「解決には程遠いけど、とりあえずしばらくはね。遠征に出ていたゴッドイーターも呼び戻しているし、一時しのぎにはなるはずだよ。偵察班の例の計画もようやく一段落ついたから、ゴッドイーターの人手不足については少しマシになるだろう」
「なるほど、私たちの安息の地はまだ先なんですね……」
榊が見ていた書類を覗き込み、リッカは引きつった笑みを浮かべた。
◇
「リタさん、極東地区に入りました」
「できるだけ低空を飛んでください。地上からの攻撃にも備えて」
「了解」
世界でも特にアラガミの被害が大きい極東地区。そこを一機のヘリが飛んでいた。極東にはかつて日本と呼ばれ優れた技術力と文化をもった国があったが、その文化もほとんどが失われて久しい。かつては人々が行き交い栄華を誇った都市の残骸を見下ろしながらの旅は決して楽しいものとは言い難かった。
ヘリの側面には獅子のようなシンボルが記されている。元生化学企業フェンリルのものだ。かつて一企業でしかなかったフェンリルは今や世界を支配するほどの大企業となっている。その理由はフェンリルが人類の保全に最も貢献しているからだ。居住区の周りに壁を作ったのも壁の中の住人に食料を供給しているのもフェンリルだ。そして、現在唯一アラガミに対抗しうる生体武器、神機を振るい戦う人間、ゴッドイーターを運用しているのもフェンリルである。現在このヘリはフェンリルの極東支部、通称『アナグラ』に向かって飛んでいた。
「九時の方向にシユウ種、急速に接近! クソッ、一体どこから!」
ヘリ内部にけたたましいアラート音が鳴り響き、副操縦士が忙しなく計器を確認しながら悪態をつく。
「なんでだ!? アラガミ装甲が効いて――」
「報告にあった新型かもしれません。回避機動を取りつつ、着陸できる場所を選定。急いで!」
「リタさん! 何を――!」
少女が側面の扉から身を乗り出し、神機を構える。リタと呼ばれたこの少女の名はリタ・ティレット。弱冠十六歳でありながらすでに三年間アラガミと戦ってきたキャリアを持つフェンリル極東支部所属のゴッドイーターである。
「応戦して時を稼ぎます。とにかく相手に狙いを絞らせないで」
そう答えながらを銃型神機で広範囲に弾幕を張り、シユウを牽制する。
「無茶だ! その前に追いつかれる!」
「アナグラに救援要請! とにかく一度降りてください!」
「クソッ、やるしかないのか――!」
接近したシユウが弾幕に突っ込み大爆発を起こす。ヘリが爆風で大きく揺れた。
◇
極東地区『贖罪の街』、教会を中心に無数のビルが立ち並ぶ街中。教会を含めた建物が穴だらけでなければ、祈りを捧げたり神に懺悔するため人が訪れる場所であっただろう。今は打ち捨てられ、人の姿も見られなくなったその場所を走り抜ける人影があった。
フェンリル極東支部第一部隊所属のゴッドイーター、隊長のコウタと隊員のエリナである。
「ヒバリさん、救難信号が途絶えたのはこの辺りであってるんだよな」
『はい、確かにその辺りでリタさんの腕輪の反応もあります。でも信号が途絶えてからすでに一時間以上が経過しています。リタさんの無線にも応答がありませんし、アラガミ装甲のヘリが襲われたなら新型かもしれません。無事だといいですけど……』
「今のところは静かなもんだよ。ヘリが墜ちたなら周りにアラガミが集まってそうなもんだけど」
『とりあえず、注意深く進んでください。何か動けない理由があるのかもしれません』
「了解。何かあったら報告するよ」
コウタは周囲を見回しながらオペレーターのヒバリとの通信を終了する。
「コウタ隊長、そのリタって人誰なんですか? なんかみんな知ってるみたいですけど」
「あれ、エリナは会ったことなかったけな。んー、簡単に説明すると、俺より半年くらい後にイギリスから来た奴で今は第八部隊の隊長だな。ユウほどメチャクチャな奴じゃないと思うけど……、まあ会えば分かるよ」
「そうですか……」
エリナもデータベースで第八部隊のことはある程度知っている。偵察班に所属し、中でもより危険度の高い任務を行う部隊。しかし、偵察班はその任務の性質上アラガミを討伐する機会は比較的少なく、よく知らない者たちには臆病者が所属する部隊と言われることもあった。
偵察班は去年からある計画に参加しており、その内容は各支部周辺に中継アンテナおよび探査機を設置すること。これによって支部同士の連携、アラガミの進撃予測、無線を介した現場のゴッドイーターに対するオペレーターの支援が従来より円滑に行えるようになることが期待された。第八部隊の担当はアナグラからより遠隔の地区となっており、アナグラへ帰還する機会も当然少なかったが、昨今の極東地区の状況も鑑み計画が一段落したこともあって呼び戻されたのだ。そして、その帰路でアラガミの襲撃に会い、今に至るというわけだ。
「エリナ、分かってると思うけどここはもう敵地だ。警戒を怠るなよ」
「……分かってます」
考え事で気がそぞろになっていたところを指摘されて唇を尖らせるエリナ。ゴッドイーターとは言ってもまだまだ子どもと言える年齢。自分の間違いを素直に受け入れるにはもう少し成長が必要だった。
「よし、じゃあさっさと回収して帰ろうぜ」
コウタのその言葉を皮切りに二人は探索を再開する。周囲を警戒しながら腕輪の反応を頼りに探索を行うことしばらく、それを発見することができた。
「なに、これ……」
『贖罪の街』地点Cに到着したエリナは思わずそう呟く。贖罪の街の中心に位置する教会の西側に位置する、この辺りでは最も広いエリア。このエリアはその広さのため地点C、Dの二つに分けられており、その両方の地面には生々しい戦闘の傷跡が残されている。それはエリナが想像できる範囲を超えていた。そして、地点Cには元はヘリのものだったと思われる残骸を確認することができた。
と、その残骸の影から一人の小さな少女が顔を出す。そして、コウタとエリナを確認すると身の丈と変わらぬ神機を抱えながらトテトテと二人に走り寄って来た。
「コウタくん、お迎えどうもです。無線も壊れちゃうし、今回はほんとに死ぬかと思った……」
少女は二人の前まで来ると力の抜けた笑みを浮かべた。
エリナはその少女をそれとなく眺める。神機を持っていることからこの少女がリタであろう。本当にこの少女が臆病者の部隊とはいえ、隊長などを務めているのだろか。
茶色の迷彩柄の長ズボンの左右腿部分にはポーチ。エリナよりも小柄で頭にニット帽をかぶり、左頬にはフェンリルマークの刺青。髪はばっさりと切られており、襟足から覗く金髪にエリナは少し残念な印象を抱いた。袖と襟部分だけ茶色の白いドレスシャツに着けた紫のネクタイがせめてものお洒落に見える。先に声を聞いていなければ、概ね少年と間違えられそうな格好をしている。要所要所を注意深く見れば、たしかに女性ではあったが。
「おかえりって言いたいところだけど、それはアナグラに着いてからにしようか」
「そうですね、そうしてもらえると助かります。命に別状はないけど負傷者が二名。ここより少し離れたところに隠れてもらってる。負傷者の搬送の手伝いをお願い」
「了解っと。エリナ、俺とリタで負傷者を運ぶ。周囲の警戒頼むな」
「……了解です」
エリナはコウタの様子から彼がリタに一目置いているように思えた。実力はまだ直接見ていないために分からないがリタの方がゴッドイーターとしてのキャリアが長いからだろう。その指示が適切と理解しつつも、見たところ自分より小さな少女に負けているのかと思うと、少し納得のいかないエリナだった。