GOD EATER 2 ―明日への報酬は― 作:おさんぽびより
「きゃぁぁぁあああ!」
突然の爆風によって悲痛な悲鳴と共にエリナが吹き飛ぶ。吹き飛ぶ前にエリナがいた位置では、シユウ堕天が腕のように発達した翼手を振り切った状態で佇んでいた。
「エリナ、大丈夫か!?」
「……問題ありません」
コウタが援護射撃でシユウを牽制しながらエリナの様子を窺う。エリナは立ち上がりながら答えバイタルを確認するが、回復したばかりのように余裕があった。
シユウ堕天が体勢を立て直すや否や、閃光が戦場を支配する。
「たたみかけるよ! 二人とも続いて!」
スタングレネードの閃光によってふらつくシユウ堕天。いつの間に接近したのか、リタがブラスト特有の高火力を叩きこむ。戦況は終盤に差し掛かっていた。
「もう! 滅茶苦茶ですこの人!」
エリナは悪態を吐きつつ、チャージスピアにエネルギーをチャージ。
解放された強力な突きがシユウ堕天の頭部を砕いた。
◇
「ははっ、それは災難だったねぇ」
「笑うなんてひどいです。榊博士……。今回はほんとにダメかと思ったんですから……」
極東支部、通称『アナグラ』に帰還したリタは、まず支部長である榊のもとへ報告と挨拶に向かった。主な報告内容は長期任務の進捗情報、そして帰還途中に遭遇したシユウのことである。
「いやいや、君たちが生きてるからこうして笑えるのさ。その小さな体のどこにそんな力があるのか、技術者としては是非解剖して調べてみたいところだね」
「れでぃの身体的特徴を揶揄するなんて、人として最低なのです。アリサちゃん風に言うなら、ドン引きです。冗談を言っている暇があるなら、早くアラガミ装甲の更新をお願いです」
リタのその切り返しに榊は苦笑いで答える。このところ頻発する新種の発生に更新が追いついていないのだ。
アラガミ装甲とはアラガミが持つ『偏食』――あらゆるものを捕食できる能力を持ちながら、特定のものしか捕食しない――という特性を逆手に取り、アラガミに食べたくないと思わせるように作られた物質を組み込まれた装甲である。その物質は『偏食因子』と呼ばれ、アラガミを構成するオラクル細胞に含まれる『偏食』をつかさどる物質であり、榊博士が実用化したものだ。
一見これがあればアラガミに対する脅威はないも同然だが、この技術には決定的な欠点がある。それはアラガミの進化にともない、アラガミ装甲を更新し続けなければならない点だ。アラガミは捕食することでその性質を取りこみ、絶えず進化する。そして、アラガミの偏食の傾向も進化にともない変化するのである。また、同じ種のアラガミであっても個体によって捕食していたものの経験が違うならば、偏食も異なるかもしれない。このいたちごっこのような戦いに人間側が追いついていないのが現状だった。
「なにはともあれ、無事帰ってきてくれて嬉しいよ。ところで、ルト君の姿が見えないけど、彼はどこにいるんだい?」
「ああ、彼は――」
リタは一瞬何かを躊躇うように口をつぐみ、結局は諦めたように自分の部下の所在を明かした。
そんな彼は途中遭遇したブラッドと呼ばれる特殊部隊とともに彼らの所属であるフェンリル極致化技術開発局、通称『フライア』の移動要塞に乗り込んでいった。報告はリタに押し付けて。
「それで、報告のために君だけ戻ってきたということかい? ……あまりそういうことはやめてほしいねぇ。私はすでにこんな状態なんだから」
書類の中を泳ぎながら細めた目をリタに向ける榊。目をそらすリタ。現実というものは誰にとっても非常だった。
「……仕方ない。フライアには私から連絡を取るよ。ちょうどエミール君もフライアに出向しているし、彼と一緒に帰ってきてもらおう。リタくんは彼が戻るまで自由にして構わないよ。たまにはゆっくりするといい」
「そうですね。では私は失礼して――」
「そうだ。一番大切なことを忘れるところだった」
「なんでしょう。博士」
リタが支部長室を辞そうとしたところで、榊が思い出したようにリタを呼びとめる。リタは反身で振り返り、榊の言葉を促した。
「リタ君、よく無事に帰った。おかえり」
「……ただいまです」
我が子の無事を喜ぶ本当の父親のように微笑む榊に、リタは正面から向き直ってお辞儀をし、今度こそ部屋を辞したのだった。
◇
ヒバリはフェンリル極東支部のオペレーターである。ミッションの発注管理や報酬の支払処理、無線を介しての作戦中のゴッドイーターの支援等を担当する。
そんな彼女のもとにリタが顔を出した。
「こんにちは、ヒバリちゃん」
「おかえりなさい、リタさん。リタさんが一人でこっちに顔を出すなんて、珍しいですね」
「それが……、ルトのバカがいないせいで久々に暇を出されちゃって……。することもないから、こっちの任務にでも出てようかなって」
実は第八部隊がヒバリが管理するミッションカウンターで任務を受注することは少ない。それは彼らの主な仕事が一般的な任務がミッションカウンターに上がってくる前の段階にあるからだ。
「暇を出されたなら、素直に休んではいかがです? たまの休みくらいゆっくりしても罰は当たりませんよ」
「んー、そうなんだけどねぇ……。なんか落ち着かなくて」
ヒバリの言葉に頷きつつも、困ったように笑って否定する。とにかく動いていないと落ち着かないのは職業病かもしれなかった。
第八部隊は偵察班に所属する。偵察班はその名の通り、定期的にフィールドに出てアラガミの動きを監視するのが主な仕事だ。偵察班はその任務の性質上、比較的フィールドに出ている時間が長く、危険度は討伐班や防衛班と同じく高い割にその仕事は地味だ。
第八部隊は通称特別偵察班とも呼ばれ、主に偵察班の中でもより危険度が高く緊急を要する任務に従事する部隊である。その内容とは例えば、中型・大型アラガミの作戦エリアへの誘導、想定外に発生したアラガミの群れに対する強行偵察、そして新型アラガミの行動パターンの調査等だ。とにかく隊員に一定以上の能力が要求される部隊であり、新人が配属されることもほとんどなかった。
リタがべちゃっとカウンターに体ごともたれ掛かりながら依頼のリストを眺めていると、コウタがリタに声をかける。これからミッションに同行してほしいとのことだった。
「何? 新手のナンパ?」
「違ぇって。エリナにとって良い刺激になると思ったんだ。ってことでヒバリさん、なんか手頃な依頼ない?」
皆さんほんとによく働きますよねぇ、と呆れながらもヒバリは一つ依頼のデータを提示する。討伐対象はシユウ堕天種、作戦エリアは『嘆きの平原』。周囲の探査機にその他のアラガミの反応はなく、実地訓練には適当な任務と言えた。
「アラガミの誘導はリタさんにお願いしても構いませんか?」
「ん、了解。じゃあ私は先に行くから、コウタくんはそのエリナって子を連れて来て。合流地点は後で連絡する」
コウタがそれに了承の意を示すと二人はそれぞれの準備のため一旦分かれた。
◇
「ん、おまたせ」
「遅刻ですよ先輩。ちょっと気が緩みすぎなんじゃないですか?」
「……ねえコウタくん。この子ちょっと
リタが合流地点である嘆きの平原南側の高台に姿を見せると、すかさずエリナが苦言を呈する。その言葉にリタのこめかみにビシリと青筋が走った。その身長のせいで舐められることが多く、それに慣れてはいるものの、それに対してムカつくかそうでないかはまた別の話であった。
遅れたのは、本来アラガミ討伐を行う部隊とは別の部隊が行うはずである、作戦開始地点の安全をある程度確保しながらもアラガミを作戦エリアに誘導するという作業を行っていたからである。しかし、遅れたのは事実であるため、それを言うのも言い訳をするようではばかられ、コウタに不満を言うにとどめた。また、その言葉には別の意図もあった。
戦場を経験した新人ゴッドイーターは大きく二種類に分かれる。それはよく新人の初任務として与えられるオウガテイルの討伐をあっさりこなしてしまうタイプと怖気づいて苦戦するタイプである。傾向として早く強くなるのは前者である。しかし、ゴッドイーターになる前は逃げるしかなかったアラガミを自身の手で簡単に討伐できてしまったことで、少々過剰に自信を持ってしまう者も多い。過剰な自信は自己陶酔を招き、自己陶酔は視野狭窄を、そして視野狭窄は死を招く。
半分くらいは。
「エリナちゃんだっけ。あなたいくつ?」
「十四ですけど」
「ふーん……、私十六」
「だからなんだって言うんですか」
「何も。エリナちゃんが危なくなったら、ちゃんと
「必要ないです」
まあまあ、と今にも言い争いが始まりそうな雰囲気にコウタが苦笑いを浮かべながらも二人を諌める。コウタはエリナのそれがただの自信過剰とは違うことを知っていたため、その場では何も言わずに作戦開始を促した。
コウタの言葉にすぅっとリタの動揺は一気に引いていき、自然体に戻る。エリナにそこまでの切り替えは無理だったが、気がほぐれたという意味では先の会話も功を奏していた。
オペレーターのヒバリから通信が入る。
『中型アラガミ、作戦エリアに侵入。侵入地点のデータ送ります』
手元の端末がデータの受信を知らせ、それが合図となる。作戦状況が開始された。
◇
シユウ種は巨人に羽が生えたような形をしたアラガミである。背丈はだいたい大人二人分程。普段使われない腕は胸の前で組まれているが、人間で言う肩甲骨の辺りから生えた翼手が手と同じ機能を有している。翼があるからには当然飛行能力があり、それを生かした高い機動力を持つ。まるで格闘家のように肉弾戦を仕掛けてくることもあれば、その掌に集中されたエネルギーを放出し爆発させるなどもできる。また、今回の討伐対象であるシユウ堕天種と呼ばれる亜種には掌の直接攻撃に麻痺効果もあり、注意が必要だ。
「俺が正面で引きつける。リタとエリナは左右から叩いてくれ」
リタとエリナが左右に散開すると同時にコウタが射撃を開始。多数の弾丸がシユウ堕天の弱点である頭部に吸い込まれる。
コウタが後衛で作戦指揮と陽動、リタが中衛で遊撃とサポート、エリナが前衛で攻撃と撹乱だ。
エリナは右から回り込んで接近、袈裟掛けにスピアを振り抜く。が、シユウ堕天の硬質な翼手がそれを阻んだ。
エリナが扱うチャージスピアは貫通属性の攻撃に特化した武器であり、リーチの長さと素早い動きが強みだ。そのリーチの長さのため取り回しが難しいが、エネルギーチャージによって武器自体に推進力を生みだし高威力な突進突きを繰り出すことができる。高いレベルで攻撃力と機動力を両立させた武器だと言えた。
弾かれつつも攻撃を続けるエリナ。中段、下段と二撃。スピアを引き戻す勢いに体の回転力、地面の反発力を加え一撃。
「っ痛ぅ、硬い――」
シユウ堕天が体を回転させ周囲を翼手で薙ぎ払うも、エリナはバック中で大きく回避。攻撃後の隙にすかさずコウタの援護射撃が割り込み、リタが敵に走り寄る。
「せーのっ!」
掛け声とともに神機の銃口をシユウの下半身に叩きつけるリタ。遠距離型神機を近距離型神機のように扱うその姿は異様の一言だ。その理解不能な姿にエリナもただ見ているしかなかったが、直後その意味は明らかとなる。
閃光と轟音。リタを中心とした大爆発に空気が震えた。
リタは爆風で後方に弾き出されるも身軽に受け身。閃光と土煙が掃けた爆心地には蹲るシユウ堕天が残される。
コウタとリタが持つ神機は同じく遠距離型神機だが、一般的に銃身の種類の違いよってその役割は少し異なる。コウタが持つのはアサルト、リタはブラストだ。アサルトは連射と機動力に優れ、絶えず銃撃を続けながらの中距離戦を得意とするオールラウンダーである。一方、ブラストは火力に特化しており機動力はアサルトに劣るものの、中~近距離で近距離型神機に勝るとも劣らない強力なアタッカーとなる。高火力な爆発・放射系バレットを用いた強襲はリタが得意とするところの一つであった。
『敵、結合崩壊を確認。いけますよ!』
ヒバリから無線が入り、戦況の有利を伝える。
(無茶苦茶じゃない。あんなの――)
神機が打ち出すオラクルバレットはアラガミに命中した場合と異なり、ゴッドイーターに当たっても大きなダメージを受けないよう加工されている。しかし、物理的な衝撃は受けるし当たればかなり痛い。まさに肉を切らせて骨を断つというような戦法だった。
シユウ堕天の下半身と翼手はボロボロ。シユウ堕天はゆらりと立ち上がり、エリナは距離を保って観察する。
「あっ、逃げ――!」
攻撃のタイミングを窺っていたエリナ。が、シユウ堕天はくるりと反転すると明後日の方向に逃走。しかし、突然ふらつき立ったまあピタリと硬直した。
「よっしゃ! かかったな。エリナ、今だ!」
「わかってます!」
シユウ堕天が回復のため捕食に向かうことを予想していたコウタがすでにホールドトラップを設置。敵を捉えた。
敵に走り寄ったエリナは神機を
神機がシユウ堕天を喰らい、その力を取り込む。全身に染みわたるようにみなぎる力にエリナは昂揚した。
「いくよ。オスカー!」
足が止まったシユウ堕天に遮二無二神機を振るう。突き、薙ぎ払い、体勢を入れ替え再び突き。今度は弾かれない。狩る者と狩られる者。自分とアラガミだけが存在する世界で、エリナは華麗に舞う。
「――――ナ、下がれ!」
エリナの耳にコウタの怒鳴り声が届き、突然我に返る。体をひねるように力を溜めるシユウ堕天。気付けばトラップの効果は切れていた。
「しまっ――!」
咄嗟に回避行動に移るエリナ。が、間に合わない。翼手を広げて高速回転、翼手がエリナを掠める。ひるむエリナの足が止まった。
(ホールド効果――!?)
敵を牽制しようとコウタがバレットを連射。正確に頭部を狙うも敵は止まらず翼手を振り上げる。
全身の痺れ、硬直する身体。エリナの目に追撃しようとする敵の姿が映る。回避は手遅れ――。
「きゃぁぁぁあああ!」
エリナの身体を衝撃が突き抜けた。
◇
「いやー、ひやっとしたなー」
「無事だったからおーけーだよ」
地に伏したシユウ堕天のコアを回収するエリナの後方でコウタとリタが雑談に興じる。ミッションは成功。エリナがコアを摘出すれば、あとは帰還するだけだ。しかし、ミッションは成功したものの、エリナは一人不満顔だった。
「なにが『おーけー』ですか。あんな助け方、ありえないです……」
エリナは敵の攻撃によって麻痺し、敵の追撃を避けられる状態ではなかった。しかし、結果として敵の追撃がエリナを捉えることはなかった。敵のミスでも、コウタが牽制に成功したわけでもない。リタが放った一発のバレットが原因だった。
「名付けて『緊急回避弾(味方用)』! この前思いついて作ったのです!」
「胸を張って自慢するようなものじゃないです!」
ない胸を張って得意気に語るリタにエリナが指摘する。実際、あまり褒められたものでもなかった。
リタがエリナを助けるためにしたことは単純だ。着弾時爆発する効果を持ったバレットをエリナに向けて撃っただけ。それによって強引にエリナを移動させたのだ。
ではそれが褒められたものではない理由。それはそのバレットが最初から味方を吹っ飛ばすために作られたバレットであること。攻撃属性を持ちながら、味方を撃つためのバレットであること。
おさらいしておこう。オラクルバレットは攻撃属性があってもゴッドイーターに致命傷を与えない。しかし、当たるとものすごく痛い。そう、ものすごく。
「いや、でも結構いいかもな、そのバレット。俺も作ろうかな……」
「作り方は簡単だよ。まず回復弾を――――」
「絶対にやめてください!!」
真剣に考え始めたコウタにリタが『緊急回避弾(味方用)』のレシピを教えようとする。コウタがそのバレットを作れば、その獲物は自分だ。戦闘中、前で神機を振るう自分を狙い、後ろから向けられる銃口。それを想像したエリナが全力で制止する。
攻撃属性を持ったバレットは当たると痛い。ものすごく。
草原にエリナの悲痛な声が響いた。