東京都立呪術高等専門学校二年転校生早川那由多   作:同じ顔の別人

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エピローグ
僕らとクソ映画


 

 

 

 

2017年 12月24日 

 呪詛師夏油傑による『新宿・品川・京都百鬼夜行事件』発生

 

2018年

 著者『早川那由多』によりチェンソーマンを題材としたノンフィクション本の出版

 呪術界は、百鬼夜行被害及び社会的混乱収束のため、重要機密用語、住所、個人名の秘匿を条件に状況を黙認

 

  ──チェンソーマンブーム 再来

 

 

 

 

 

※

 

 

 

 

 

【side:早川ナユタ】

 

 

 早川那由多は、チェンソーマンの本を出版した。

 

 卑怯と言うなかれ。コネは立派な財産だ。そう開き直れるくらいに大人の面の皮は厚いのである。

 とはいえ楽な仕事ではなかった。チェンソーマンが関係する事件を時系列ごとにまとめて、参考資料を明記するだけでも膨大な作業が要求された。原稿中で僅かでも言及する全ての人物に対して、実名を公表するかどうかを問わず本人もしくは遺族の許可を得た。改稿回数はゆうに千を超え、サービス残業の合計時間など正直確認したくない。

 『呪霊』は『悪魔』に、『呪術師』は『デビルハンター』に。少しずつ表現を変えてまとめていく。本人許可の出た乙骨憂太と祈本里香の純愛のみ実名表記での出版となった。

 渾身の力作は、第二次チェンソーマンブームの引き金となった。飛ぶように売れ続け、増刷が追いつかないほどだ。己の苦労が報われたことと、兄の素晴らしさが世間に知らしめられたことへの誇らしさでたまらなくなる。

 脱稿明けから続くハイテンションで、早川ナユタはスキップをしながら会社への道のりを進んでいく。

 

 

 ──もしも私が悪い呪霊になったら、私のことちゃんと食べてね。

 ──覚えておこう。悪い呪霊を退治するのは呪術師の仕事だからね

 

 

 かつての約束。二度と叶うことは無い願いを思い出す。

 

 私は、楽しかった。

 途中で途切れてしまったけれど、みんなが笑って終われた時間ではなかったけれど、あの青春は一生の宝物だ。

 辛くて悲しいことが沢山あった、本当に楽しい地獄だった。

 

 

 

 あれから十年が経った。

 

 海外では色々なものを直接この目で見聞きした。

 日本に帰ってからのキャンパスライフも楽しかった。

 呪術や呪霊とは関係ない友達もたくさんできた。

 憧れた通りの仕事にもつけた。

 

 支配の呪霊である■■■は、対等な関係に憧れていた。

 支配の呪霊であるナユタは、対等な関係を愛している。

 

 だから、相手を尊敬して記事を書くのだと語る今の上司に憧れて、呪術師ではなく記者の道を選んだのだ。

 

 呪霊の私がこうしてただの人間として生きている。

 どれだけの努力の上に成り立つ奇跡なのだろう。

 だから、私は、それだけで満足……

 

 ナユタはふっと笑った。酸いも甘いも噛みしめた顔だった。

 

 

 

 

「そんなわけないだろ!! 休ませろ!! パワハラ暴言野郎!!」

「うるせえぞ早川ァ!!」

「訴えてやる!!」

 

 

 

 

 ──それはそうとして数々のブラック労働環境にムカついたので会社都合での退職願を叩きつけた。

 

 労働裁判編 開幕──

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏油傑は死んだ。早川那由多はもう悪い呪霊にはなれない。

 故に、法的手続きという人間による人間らしい人間のための真っ当な手段を以って、職場をむちゃくちゃにして帰ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※

 

 

 

 

 『早川那由多』には見えている。

 

 

 

 

※

 

 

 

 

「チェンソーマン! チェンソーマンだ!」

「チェンソーマン !」「カッケぇーー!」

「付き合って〜!!」

 

 

 

 

※

 

 

 

 

「あー、えーっと、しばらく、家に帰れなくなった……」

「お金は月々振り込んでくれるんだよね……? ならいいやぁ」

「お前そういうとこあるよな〜……」

「後こいつらの世話も頼みてえんだけど」

「誰がこいつなんかに!」「夏油様の仇!」

「ひっ!?」

「ビビんなよ、お前の方が強いだろ」

「猿が!」「ふざけんな!」

「ひっ、あっ、そ、そういってもぉ……」

「お前そういうとこあるよな〜……」

 

 

 

 

※

 

 

 

 

「ニャンボちゃん……」

「お、お酒の飲み過ぎは体に良くありませんよ! 岸辺師範、もう七十歳超えてらっしゃるんですよね!?」

「ニャンボ……ちゃん……無事で……」

「にゃーん」

「よかった……」

 

 

 

 

※

 

 

 

 

「ところで、私は君が無様に負けて襲撃者に侵入を許したせいで、子供の産めない体になってしまったんだが」

「……いつの話?」

「十年前。夏油は気付いてたぞ」

「めっちゃ罪悪感煽ってくるじゃん」

「何か言うことは?」

「えっ」

「…………」

「責任をとります……?」

「冗談だ。お前の取る責任などいらん」

「じゃあ何で言わせたんだよ! っていうかどこからが冗談!?」

「見て分からないの?」

「六眼はそういうんじゃないんだよ」

 

 

 

 

※

 

 

 

 

 『早川那由多』には見えている。

 

 

 

 

※

 

 

 

 

「「「あけましておめでとう」」」「しゃけ!」

「それにしても死刑取り消しになってよかったじゃねーか」

「これだけ完全制御できるようになったとこ見せりゃな」

「あー! おっこつだ!」「りかは?」

「デビルハンターだ!」「おっこつ!」「愛してるよのおにいちゃーん!」

「は、ははは、ははは……」

「おう、大人気だな」

「よっ! 日本一有名なカップル」「高菜!」

【ゆ う゛たぁあ  あああ あああああ】

「えへへ、照れるなぁ」

「おっと想像以上に図太いぞこいつ」

「真希! 大丈夫! いけるいける! 望みはまだある!」「とびっこ! とびっこ!」

「殺すぞ」

 

 

 

 

※

 

 

 

 

「俺、あの里香ちゃんにロッカーに詰められたことがあるんだぜ!」

「す、すげえ……!」

 

 

 

 

※

 

 

 

 

「いいね、君百点──」

「どんな女がタイプだ?」

「点数伝える前に攻撃されたのは初めてだよ」

 

 

 

 

※

 

 

 

 

 『早川那由多』には見えている。

 

 

 

 

※

 

 

 

 

「おう、お前らが来年の一年か」

「伏黒と……そっち脳みそ飛び出てるけど大丈夫?」

「しゃけ」

【ハロウィン!】

「というか彼、呪霊じゃ……?」

「一応俺の指示は聞きます。五条先生曰く『どうしてかな? 顔が似てるからかな』だそうです』

「クソ適当じゃねえか」

「……で、お前、名前は?」

【ハロウィ〜ン!】

「はあ……」

 

 

 

 

※

 

 

 

 

【僕は……なんてことを……】

【■■■■■■■】

【花御は優しいね……でも……】

【ぶふぅー】

【貴様ら揃いも揃って鬱陶しいわ! 話を聞け! 呪術師共に存在が知られた以上、今までとは身の振り方が変わってくる! 気をつけろと言っておるのだ!】

 

 

 

 

※

 

 

 

 

【あーあー、暇だなあ。あの女もう死んじゃったし、単眼の呪霊も最近見かけないし】

「──君が新宿の改造人間騒動の犯人だね。どんな女がタイプかな?」

【あんた、誰?】

「九十九由基」

 

 

 

 

※

 

 

 

 

 『早川那由多』には見えている。

 

 

 

 

※

 

 

 

 

「あ、あの、レゼ先輩……すみませんでした……」

「……見ないでってお願いしたのに」

「あの時は反転術式を使うために……仕方なく……」

「仕方なかったら、先輩のハダカを見るのかあ。このエロガキめ」

「違っ、そういうんじゃっ、あっ、待って里香ちゃん! 違う! 違うんだって!」

「私が術式で服燃やすたびに、こっちを見る気だなー?」

「違うって里香ちゃん!! あの、レゼ先輩ちょっと面白がってますよね?!」

 

 

 

 

※

 

 

 

 

「爺ちゃん! お見舞いきたよー!」

「いらん! 帰れ!」

「ひでえ!?!」

「部活があんだろうが! サボるな!」

「だーかーらぁー! オカ研は五時前には終わんの!」

 

 

 

 

※

 

 

 

 

 『早川那由多』には見えている。

 

 

 

 

※

 

 

 

 

【ガハハハ! 実は! ワシが! 世界最強の呪いの女王だったんじゃぁぁぁ!】

 

 

 

 

※

 

 

 

 

 『早川那由多』には見えている。

 

 

 

 

※

 

 

 

 

「──、─────」

 

 

 

 

※

 

 

 

 

 

 『早川那由多』には見えていた。

 

 

 夏油傑の呪い(いのり)も、家入硝子の尽力も、五条悟の決断も、その結末も全てが見えていた。

 

 ナユタの世界は、対等な関係で満ちている。とても暖かくて、愛おしい。

 

 

 

 ……だけど、それを脅かす者がいる。

 ナユタは昔よりずっと弱くなったけれど、小動物の耳ならば今でも借りることができる。

 夏油傑の死体を、夏油傑の望まぬ形で利用しようとする存在がいることに、私だけが気づいていた。

 

 これは、大きな事変の小さな結末だ。

 

 

 『早川那由多』には見えていた。

 だから──

 

 

 

 

 

 

 

 

※

 

 

 

 

 

 

 

 

【side:五条悟】

 

 

 休暇初日。こうみえてワーカーホリック気味の悟は、三ヶ月という史上最長の自由時間を完全に持て余していた。

 とりあえず朝八時から映画館を梯子して映画を見て見て見まくることにした。洋画も邦画も、良作も駄作も区別なく。繋ぎのつもりだった幼児向けの映画が、予想以上に構成も演出もしっかりしていたのには驚いた。確かに保護者も見るものなあと一人で納得する。思えばこうして趣味に没頭するのは久しぶりで、とても充実していた。

 いざ次の作品を見に行こうとしたところで、ポケットから響く不快な電子音に足を止めた。私用のスマホに、見間違いでなければ元後輩であり仕(・)事(・)仲(・)間(・)で(・)あ(・)る(・)はずの伊地知の名前が表示されている。

 

 

『もしもし! 五条さん!』

「何のために僕が仕事用の携帯持ち歩いてなかったと思う?」

『ひっ、す、すみません! でも、一刻も早く伝えなければと思ったので……!』

「くだらない話だったら後でマジビンタな」

 

 

 あの野郎、初日からミスってんじゃんと金髪のムカつく顔を思い浮かべる。新宿の後始末か、それとも上が何か文句をつけてきたか、それとも憂太関連か。考えないようにしていた問題を次々思い起こす。

 だが、伊地知の報告は全ての予想を裏切る内容だった。

 

 

『夏油傑の遺体が盗まれました』

「──は?」

 

 

 

 

※

 

 

 

 

 すぐさま高専に足を運び、詳細を聞き出した。

 遺体紛失事件の第一発見者は伊地知だった。真っ先に悟に連絡をしたため、他にこの事実を知る者はいないと説明した。その判断に免じてマジビンタは保留してやることとする。

 他言無用を厳命し、迷わずある場所を目指す。

 犯人を特定するのは簡単だった。現場には見覚えのある残穢がべっとりとこびりついていたからだ。

 

 

 

 

「あのさ、どういうつもり?」

「……にゃあォ」

 

 

 悟が早(・)川(・)那(・)由(・)多(・)のマンションに着いた頃にはすっかり夜になっていた。

 

 

「本当なら討伐任務が組まれる事案だよ。僕一人で来たのは、那由多のことを友人だと思ってるからだ。でも、今回ばかりは気が長くないんだよね」

「……先に言っておくけど、デンジは関係ないよ」

「言い訳は後だ。傑をどこにやった」

「こっち」

「誤魔化さないのはいいことだよ」

 

 

 那由多は悟を部屋に招き入れた。

 玄関で靴を脱ぎ、差し出された来客用のスリッパに履き替えた。明るい色の風景画が飾られた廊下を通り抜ける。

 キッチンからは空腹をくすぐる香りが漂ってくる。丁度夕食を食べていたらしい。

 

 

 

「ここにいる」

 

 

 那由多はリビングを指さした。

 

 

「はぁ? どこに……」

 

 

 なんの変哲もない、食べかけの生姜焼きが置かれている四角いテーブル──

 

 

 

 

 

 

「──お前ッ!!」

 

 

 自分でも、こんな裏返った声が出るとは思わなかった。

 この時ほど己の六眼を恨んだことはない。いや、一目で気づけたことに感謝すべきなのだろうか? どちらにせよ情報を処理しきれない。

 

 

「食べることは、傷つけることじゃないよ。全部一緒に背負うんだもの」

「ふざけんな」

 

 

 技巧も術式も何もない、衝動的に振われた手は那由多の襟を締め上げた。苦しそうな息が漏れる。

 

 

「ふざけっ、ふざけ……なんで……」

「失礼だね」

 

 

 とても、美味しそうな香りがする。

 早川那由多が微笑んでいる。

 

 そこに悪意はなく、敵意はなく、ましてや肉欲があるわけもなく。

 死を冒涜する一切の邪悪は存在しなかった。

 その凪の感情に名前をつけるのならば、確かにこれが一番ふさわしいのかもしれないと、思ってしまった。

 ……そう、思わされてしまった。

 

 

 

「純(・)愛(・)だ(・)よ(・)」

 

 

 

 愛ほど歪んだ呪いはない。

 憂太にそう語ったのは他でもない僕だ。いくつもの呪いを見届けた人生の中で結論付けた、この世の真理の一つだった。知っていたはずだった。なのにどうしてこんなにも動揺しているのだろう。

 

 

「私はずっとデンジの口に入る肉に嫉妬してた。食べることは愛だから」

「だからって、お前、よくも……!」

 

 

 顔色ひとつ変えず平然と自供を続ける那由多を、壁に叩きつけた。血が飛び散り、壁紙が裂け、ヒビが入る。遠慮はいらない。こいつはこの程度では死なないし、死んでもすぐに蘇る。実際、顔色一つ変えなかった。

 友人だと思っていた。大切な仲間だと思っていた。たとえ呪霊だろうが、誰が何と言おうが、『早川那由多』だけは例外だと信じていた。それが俺たちの積み上げてきた青春だった。

 

 それがこんな形で否定されるなんて、どうして予想できたろう。

 

 確かに、呪術師の死体は死後呪いに転じることを防ぐため適切に処理しなければならない。それを他人任せに出来ないという気持ちは分からなくはない。素人である彼女にできることは限られているため、理論上は間違っていない対応である。

 だが倫理的に大アウトだ。こんな手段、およそまともな人間が導き出していい結論ではない。

 

 

「お前、イカれてるよ……」

 

 

 夏油傑が、丁寧に調理され薄切りになって食卓に並んでいる。

 早川那由多は親友の遺体を食べていた。

 

 

 

 

※

 

 

 

 

 大の大人三人が居座るにはやや狭いリビングで、『ミミズ人間2』のブルーレイが再生されている。今のはかなり本物っぽかっただの変色具合の再現が微妙だの小道具に細かい突っ込みを入れる声と、役者の演技やストーリーにあれこれ意見を述べる声がふと止まる。悟の箸がさっきから少しも動いていないことに気づかれたのだ。彼女たちは二人揃ってため息をついた。

 

 

「どうした。女子より少食とか、老けたか?」

「僕はお前らより繊細なの」

「おかわり」

 

 

 東京都立呪術高等専門学校二年同窓会は、今日も大いに盛り上がりを見せている。参加者は硝子と那由多と悟と傑(・)。記念すべき第七回目のメニューはヤバ鍋だ。そうとしか形容できないものを皆で囲んでいた。食欲をそそる香りが部屋中に広がっている。そう感じるたび、悟は居心地の悪さに負けそうになった。

 美味しいものしか食べたくない──というのが早川那由多の信条らしい。この十年で彼女の料理スキルは格段に成長していた。自分も準備は手伝っているが、主な指示は彼女が出している。

 那由多が鍋から肉を一切れつまみ、口に入れ、咀嚼した。

 

 

「傑くんってこんな味かあ……」

「そういうこと言うのやめない?」

「そ(・)れ(・)、代わろうか?」

「は!? 食べるけど!?」

「おい、吐くなよ。無駄になる」

「ゲロは食べたくないなあ……」

「もうやだ……」

 

 

 悟は身を投げ出してフローリングに横になり、腹を抱えて丸まった。

 ヤバい。今日のメニューは一段とヤバい。なんたって目(・)が(・)合(・)う(・)。天ぷらにしようとか言い出した女子組を必死に止めた結果がこれだ。

 

 

「やるじゃないか夏油、最強の呪術師にボロ勝ちするとは」

「つまり最強の呪術師に勝った傑くんに勝ってる私たちは……」

「真の最強、だな。ふふ」

「ブラックジョークが過ぎるだろ」

 

 

 この二人以外の発言なら虚式をぶっ放していた自信がある。那由多はともかく硝子まで平気で食べているのが悟には信じられない。僕は、自分がここまでセンチメンタルだったことに驚いている。

 

 

 

 ──妙な気を効かせるな。私に処理を任せておけばよかったものを。らしくないことをするからこういうことになる。

 

 

 僕と那由多の一触即発の状況を仲裁したのは硝子だった。様子のおかしい伊地知に事情を吐かせ、すぐさま駆けつけたらしい。

 そして、誰より怒っていたのも硝子だった。僕が彼女に傑の遺体の処理をさせようとしなかったことにも、那由多が勝手に独断行動を取ったことにも、ひどく腹を立てていた。どいつもこいつも全部一人で片付けようとしやがってと。だったらどうすればいいんだと投げやりに問えば、みんなで決めれば良いと正論が返ってくる。そしてそのまま悟ではなく那由多の味方につきやがった。二対一。夏油傑の遺体の処理方法は『食べる』に決定してしまった。

 

 

「…………マジで?」

 

 

 その場で黙々と生姜焼きを食べだす二人についていけず、呆然と立ち尽くした。

 夏油傑。道を違えてしまったけれど、たった一人の親友だった。敵として相対したなら迷わず術式を発動できるだろうに。なにがどうしてこうなった。

 意を決して向き合った後も、何度もかつての思い出が甦り箸が止まった。僕は何をしているのだろう。

 

 工夫を凝らされた手料理をたっぷり食べる生活を送っておきながら、悟は一週間で五キロ痩せた。なんて画期的なダイエット! 最悪だ。

 

 一度冷蔵庫の中を早パイに見られた時は肝を冷やしたが、「なるほどな」の一言でスルーされてしまった。何が? 何がなるほどなの?

 

 

「全部終わったら寿司でも握ってやるよ。満漢全席でもいいぜ。肉料理以外ならなんでも」 

 

 

 それ以来、史上最悪の気配りが定期的に差し入れられるようになった。ミキサーと鍋、大皿、鋏、やたら刃渡りの大きい包丁に砥石。ニンニクや香草、調味料にレシピ本。

 彼の過去の発言の数々を思い出し、もしかして経験者なのではと思い至りかけたところで、それ以上の詮索をやめた。世の中には暴かない方がいい真実というものもある。

 

 

 ひとまずは、こちらを見つめる黒い目玉をどうにかして打ち倒さなければならない。深呼吸する。口を開ける。噛み締める。意を決して味わった。──超美味い。ウケる。後味にと用意されたコーラ味のチュッパチャプスの出番は今のところ無さそうだ。

 

 

 

 

 

 ──こうして。

 およそ三ヶ月間まるまるかけて、僕らは夏油傑とひとつになった。

 

 

 

 

※

 

 

 

 

※

 

 

 

 

※

 

 

 

 

【side:夏油傑】

 

 

 夏油は爆笑していた。

 涙が出るくらい、心の底から笑った。

 親友だった奴の意外な繊細さと、愛するクラスメートたちの馬鹿みたいな図太さを指差して。

 

 スクリーンに映る最低最悪の同窓会は、最高のエンターテインメントだった。

 

 あー笑った笑った、と目の端を拭う夏油の背に声がかけられる。

 その男に会うのは初めてではない。けれど、目が合うのは初めてだった。長身のスーツ姿の青年。伸ばした黒髪を後ろで一つ括りにし、ピンと立てている。

 へえ、意外とイケメンじゃないか。どうでもいいけど。

 

 

「面白かったか?」

「最高のクソ映画だったよ」

 

 

 エンドロールが流れる。そろそろ行かなければならない。

 

 

「あいつらの話、色々聞かせてくれ」

「私もぜひ聞きたい。貴方の名前は何度も耳にしたからね」

「あと、妙にお前に怒ってる子が先に来てたぞ」

「……それって三つ編みでヘアバンドをつけてる女の子だったりする?」

「よくわかったな」

 

 

 名残惜しいが時間だ。客席から立ち上がる。次の観客が来るまで、しばらく上映は中断だ。

 

 

「直伝の最強の大会を開くって張り切ってたぞ」

「最強の大会……?」

「なんだ、お前知らないのか」

 

 

 じゃあ直接会ってからのお楽しみだな、と男は愉快そうに肩を揺らした。

 

 

「まあ、色々あったようだが、気楽に行こうか」

 

 

 夏油傑はその生涯の幕を閉じた。後に遺恨を残すことはない。

 

 

 

 

 

 

 

※

 

 

 

 

 

 

 

「「「ごちそうさま」」」

 

 

 

 

 

 

 

※

 

 

 

 

 

 

 

 

  チェンソーマン×呪術廻戦

 

 『東京都立呪術高等専門学校二年転校生早川那由多』

 

  完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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