引き続きよろしくお願いします。
季節は二月に入り、春の訪れを待つばかりとなっていた。道端に植樹されている木々たちは花を咲かせる準備をしている。しかし、現在中学三年生の俺には問題が一つあった。
「おい、紫乃原。お前、高校どこにするのか決めたのか?」
放課後、職員室で俺は担任と進路相談をしていた。他の奴らが次々と進路を決めている中、俺は進路のことを決め兼ねていた。何をしたいのか何を学びたいのか検討がつかなかったからだ。
「あー、まだ保留ですね!」
「お前なぁ、この間も保留って言ってなかったか?」
先生の顔が呆れた顔になっている。いい加減決めてくれよとか思っているのだろうか。だがしかし、やりたいことも無いのに適当に決めるのはいかがと思うが。
「そうっすね。今回も保留ってことで」
「はぁ」
先生がうなだれる。このうなだれた先生を見るのは何回目だろう。
「もう帰っていいです?」
先生はうなだれたまま頭を上げることなく、手だけを俺の方に向けて帰っていいぞというジェスチャーをした。
「おつかれっした」
先生に挨拶をすると俺は職員室を後にした。
「おーい、葵~」
学校の校門前でポニーテールの女子生徒が手を振って待っていた。ポニーテールなのに腰付近まで髪が届いている。
彼女は八橋紅葉。紅葉とは家が近所だったことから幼い頃からの付き合いだ。よーするに幼なじみってこと。
しかし、いつも思うんだが
「悪りぃ悪りぃ」
「また、今日も進路のこと聞かれたんでしょ」
学校からの帰り道、職員室でした話をまんま紅葉に話す。
「え~。また、保留にしたの!?」
紅葉が驚いたそぶりを見せる。
それもそのはずなのだ。この時期、ほとんどの奴が行きたい学校を決めているのだ。決めてないのは俺だけだった。
「だって、やりたいことが無いんだもん」
「やりたいことが無いって……はぁ」
先生に続いて紅葉までもが呆れている。
「やりたいことが無くても学校に行ったら何か見つかるかもよ」
ごもっともな意見だ。学校に行ってから何かを始めるという生徒は少なくない。
「そういう紅葉はもう学校決めたのか?」
「うん! 私はもうとっくに決めたよ。
「緋月学園?」
緋月学園って何? ってかどこにあるの?
「緋月学園はね、緋月島っていう人工島にある学園で
俺の疑問を察したのか紅葉が学園について説明しだした。
「へー、自分の潜在能力を異能にねぇ」
俺にはそれが信じられなかった。そんな夢のような話があってたまるか。あるんならお目にかかりたいね。
「その顔は信じてないなぁ」
紅葉が唇を軽く尖らせ頬をふくらませている。俺が信じてないから怒っているようだ。怒っているのに頬をふくらませた顔が可愛い。
「い、いやぁ、信じてる、…信じてるよ」
「ほんとにぃ」
何だよ。その疑ってる顔は。信じてるって…。正直信じてないけど。
「いいよ、今から見せてあげる」
へー見せてくれんのか。見せる!?
紅葉が学校指定のカバンからピアスのようなものを取り出す。そして、それを両耳に取り付ける。
「じゃあ、見ててね」
紅葉が離れるように促す。それに従い俺は紅葉から距離をとった。
「いっくよぉ〜
何が
あれ? 俺と紅葉ってこんなに距離が離れてたっけ。今しがた少しだけ距離をとっただけだ。なのに、いつの間にか紅葉が豆粒ほどの大きさになっている。まるで、ビルの屋上から紅葉を見ている感じだ。
ん? ……ええええええええええ!?
俺が気づくまでの数秒が数分、数時間にも感じられた。
そう、俺は空中に浮いていた。もちろん背中にワイヤーとか、安全ベルト、命綱などついていない。落ちたら即死だ。
「どう? これが私のVAだよ」
そんな俺の心情など気にすることなく、紅葉が誇らしげな顔をする。
「おい! 遊んでないで早く降ろせ」
紅葉は、小声でブツブツ何かを言っていたが、俺に人差し指を向け上から下に振り下ろした。
「やっと、降りられ……のわぁ」
俺自身がグルグル回っていた。まるでタイムショックの罰ゲームような乱回転だ。止めろ、止めてくれ。気持ちが悪…く……なる。
紅葉が人差し指をグルグル回転させていた。今、俺の運命は紅葉に握られている。生きるも死ぬも紅葉次第だ。
「これで認める?」
指をグルグル回しながら紅葉がVAの存在を認めるように言ってくる。
「み、認めるから、降ろして」
「降ろして下さい、でしょ?」
こいつ、悪女だ!絶対ドSだ。
「お、降ろしてください。お願いします」
「ほーい、じゃあ降ろすね」
紅葉が指を素早く振り下ろした。
わぁ、遊園地のアトラクションだぁ。空中から降りるその様は天から地に降りるアトラクションそのものだった。
「ほぎゃ」
重低音が辺りに響く。見事着地、ではなく墜落だった。
「はぁ」
やっと地面に足がついた。地面がこれほど恋しいとは思いもしなかった。
I Love 地面!!
「ねぇ、葵。ちゃんと学校決めなくちゃダメだよ」
「あぁ」
「決めたら連絡ちょうだいね」
「あぁ」
「聞いてる?」
「あぁ」
「あーおーい?」
振り返ると俺の生返事に怒った紅葉が背後に劫火を燃え上がらせていた。不動明王が降臨していた。
「す、すいません。聞いてませんでした」
「馬鹿野郎ぉ〜」
バキャ。頬が陥没した。だ、誰か救急車を呼んでください。し、死ぬ。
「た、たらいま(ただいま)」
「おかえりなさい、遅かっ、どうしたのその顔」
玄関で迎えてくれた母親の紫乃原小雪が俺の頬が腫れた顔を見て驚愕した。
「かくかくしかじかで」
母親にも学校であったあるがままのことを話した。もちろん紅葉に殴られたことも。いやぁ、あれは痛かった。
「また保留にして、紅葉ちゃんに根性を入れられたの? はぁ」
先生、紅葉に続き母さんまでもが呆れていた。もう呆れられるのは慣れてる。だから何の問題もない!
「まぁいいわ。葵、あんた宛に手紙が来てたわよ」
「てらみ?(手紙?)」
母さんが机の上に置いてある手紙を差す。真っ黒い封筒だった。不幸の手紙とかかな? もし、そうだったら誰に出そうか。そんなことを考えながら封筒を開封する。
中には二、三枚の紙切れと謎のネックレスが入っていた。ネックレスは赤い石が嵌めてある。
紙切れには
入学許可書
紫乃原葵殿
貴殿はVAの素質があることが見受けられましたので、ここに
緋月学園理事長 緋月村雨
と記してあった。
……本当にあったんだ緋月学園。
「それ緋月学園の入学許可書ね」
母さんが椅子に座ってテレビを見ながらさらっと言ってきた。
「なんれ、ひるき学園のころ、知ってるの(何で緋月学園のこと、知ってんの)」
「なんでって私もそこの卒業生。いや、そこのOGだからに決まってるじゃない」
ええええええええええええええええええええええええ。初耳だった。てか今の言い直しいる!?
「あれ? 言ってなかったっけ。ごっめ~ん」
母さんがテヘッととぼける。
「ということで葵、あんたは緋月学園に入学ね。けって~い!!」
この時、俺の進路は母親に決められたのだった。
「無理矢理じゃないわよ。保険金がもらえるからよ」
子どもよりお金の方が大切なのかよ。まぁ、母子家庭だから気持ち分からんことも無いけど。
「あと緋月学園は人工島にあるから」
人工島!? 何そのびっくり発言。確か紅葉もそんなことを言っていたような。
「あぁあと、これ持って行きな。どうにもならない時の
こうして俺は未だに理解が出来ぬまま、母親の都合で緋月学園へと入学することが決まったのだった。