「諸君、入学おめでとう。私が一組の担任の
千崎棗が黒板を背にし、腰に手を当てて誇らしげに言った。よくある昔のヒーローみたいな格好だ。
身長は大体、女性の平均ぐらい。端正に整った顔立ちで実際にモデルとしてのスカウトを受けたのに断ったとか。
「まず、最初にお前たちのことを知りたい。それは他の奴も同じだと思う。と言うことで自己紹介をしてもらう。じゃあ、出席番号順に一番から」
じ、自己紹介だと!? ウケ狙いか、真面目キャラか。どれで行く? 陰キャラレッテル貼られたくないしなぁ。好きな食べ物とかもガキっぽいし、うーん……
「…ら…しの…ら」
バシッ。
俺は何かで頭を叩かれた。そして、自分の世界からここに戻ってきた。
「え?」
「何が、え? だ、笑わせるな」
周りの連中がニヤニヤしながら俺のことを見ている。もちろん、
ええと、何の用かな二人とも。冷やかしならいらないぞ。
「次はお前だ。紫乃原葵」
いつの間にか自己紹介の順番が回って来ていた。
「えーと、紫乃原葵です……」
……他に何を言えばいいんだ。さっきから考えてたけど一向に答えは見つからないし。周りは情報提供求むっていう雰囲気を醸し出してるし、うーん……うーん……
「えー…あの…その」
「
俺の自己紹介の
「では、全員の自己紹介が終わったところで、ここで絶対遵守のルールについて説明する」
棗先生がそう言った矢先、場の空気が引き締まった。
ごくり。
誰かの生唾を飲み込む音が静かになった教室で聞こえた。
「ここでのルールは三つ。まぁ、お前たちにとって簡単だろう。一つ、私情でVAを使ってはいけない。二つ、戦意が無い者へのVAによる攻撃を禁じる。そして、最後の三つ目だが」
そう言って棗先生は不敵に笑う。気味の悪い顔だ。
「いてっ」
スリッパが
「私のクラスの生徒は必ず何かしらの大会があれば出場し優勝を狙うこと。以上の三つだ。簡単だろ?」
何事もなかったかのように語る先生の威圧により頷くしか無い俺たち。
「そうか、分かったか。じゃあ、授業を始めよう」
そうして二時間目。俺たちの初授業が始まった。初授業の科目名はVA理論。VAのシステムについて学ぶ授業だ。授業が始まったのだが。
「VAはリング内の転換装置が体の中の潜在的能力を感知し……」
開始早々、業界用語が並びまくって思考が追いつかなくなった俺は机の上でうなだれていた。
(ダメだ。意味わかんねぇ)
机に伏せていた俺は窓から外の景色を眺めた。今朝も早起きだったため、眠気が今になって襲いかかって来た。
(あぁ、やばい寝ちま……zzz)
俺は眠気の誘惑に負けた。瞬殺だった。
目を開けると俺は何処かの部屋にいた。確か、俺は学園の教室に居たはずだが。部屋には高価そうな机、誰かの写真が数枚ほど壁にかけてある。これらを踏まえてここがドコなのか推理した。
謎は解けた!! ここは学園長室だ。壁の写真は歴代の学園長の顔写真だ。では何故、俺は学園長室にいるのだろうか。再び推理に集中する。
突然、木が
振り返ると室内を何度も何度も伺っている女の子が居た。女の子は室内に誰もいないのを確認すると音を立てないようにドアを閉めた。
(あれ、霙じゃないかな)
霙は俺に気づくことなく歩いていく。
「おい、みぞ…れ」
(あれ? 声が出ない)
確かに「おい、霙」と言ったのだ。しかし、口パクなだけで声が発されない。
霙に気づいてもらうため、手足を動かそうと試みるが足も腕、体全てが動かない。
ただ、幽霊の如く霙が歩いているのを見ているだけだ。
霙は学園長室の椅子に腰掛けるとデスクに置かれているPCを立ち上げた。
(何をするつもりだ?)
慣れた手つきでキーボードを叩き何かのファイルを開いた。それを確認した霙はニヤッと笑った。邪悪に満ちた顔つきだった。
「これで母さんを…」
母さん。そうボソッとつぶやいた霙は制服の右ポケットからUSBを取り出すとPCに差し込んだ。
(母さん。やはり、霙には何かあるのか)
PCの画面にはコピー中という文字とその進度を表すバーが表示されている。
「よしっ」
霙はコピーが完了したUSBを取り出すと再び右ポケットに入れた。そして、椅子から立ち上がった。
その時、強引にドアが開けられた。開けられたというよりも壊されたという方が適当だろう。
「へー、やっぱり君がコソ泥グループの一人だったんだね」
学園長室に入って来たのは星の上に獅子が刻まれたバッジを襟元につけた小さな男子生徒だった。
(って言うかコソ泥ってどういう意味なんだ。霙は一体何をしたんだ)
「おとなしく観念したら?」
「私はここで捕まるわけにはいかない。これを持って帰ればお母さんを……」
男子生徒と霙は何かを話し合っているが声が聞こえなくなった。急に聞こえなくなったのだ。
バシッ。
何かの衝撃で突如、目の前が真っ白になった。
「起きろ、
名前を呼ばれとっさに立ち上がり霙を見る。霙は俺に気づくと手を振った。
「何だったんだ、今の夢は」
「夢? 私の授業で寝るとは。私の授業はそれ程までにつまらなかったか、退屈だったか。それとも私に教わるまでもないということか?」
「い、いや。そう言う訳では」
機械のようにギリギリと頭を上げる。ここで俺は
「私の友達から息子がここに入学するからよろしくと言われ、どんな奴かと期待してみれば、ものすごく教え甲斐があるじゃないか。なぁ
棗先生が両手をポキポキと鳴らす、その姿は例えるとヤクザの出入りのようでした。
「い、嫌だな。先生の授業受けたくないわけないじゃないですか」
あははと笑いつつその場から立ち去ろうと動き始める。
「そんなことしても無駄だ。覚悟しろっ」
「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああ」
棗先生による
後に謎の悲鳴として緋月学園の七不思議に加わったとか加わらなかったとか。
だが、俺にはそんなことはどうでも良かった。あっ、どうでも良くないか。明日は筋肉痛&至る場所が悲鳴をあげるだろうなぁ。
そんな事を考えつつも俺は夢で見たあの出来事が気になって仕方なかった。
霙がずっと口にしているお母さんという言葉。やはり、何かありそうだ。
果たしてあれは正夢になりうるのか。ならないのか。
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