二限目の授業が終わり休み時間の時だった。
「
机に伏していた俺は男子生徒二人に声をかけられた。一人は俺に声をかけて来た男で高校生と言われなければ小学生に間違われそうな外見だ。さらに、顔立ちと身長から女の子と間違われてもおかしくない。もう一人は明らかにガタイがよさそうな男でザ•男みたいな風貌だ。少なくとも俺より背は高い。
「あんたらは?」
体は机に倒して顔だけをその男子生徒たちに向ける。
「僕は二年の
「
鴉羽は名前を言うと頭を下げた。鴉羽黒壱、同じクラスだったらしい。全く気がつかなかった。
虎に鴉。両方とも
実際に会うのは始めてだった。
あれ? 確かこの虎徹って言う先輩、夢で見たような……襟元を確認すると夢で見たような獅子のバッジをつけていた。夢で見た生徒にそっくりだった。
「二年の先輩が何の用です?」
虎徹先輩は俺の側によって来ると耳打ちした。
「僕らさぁ、昨日、見ちゃったんだ」
「見ちゃったって何を?」
「君の友達の
それは、俺にとって聞きたくない、出来れば一生出会いたくない情報だった。それが学園管理側へ漏れれば霙は即刻逮捕されるかも知れない。いや、まだ逮捕だけありがたいかも知れない。運が悪ければ死刑もあり得る。
「
俺は先輩である虎徹先輩を睨んだ。今、俺の形相は凄いことになっているだろう。これは霙が犯人だと思いたくなかった感情によるものだった。
「待って、待って。そんな怖い顔しないでよ。僕は彼女を囮に彼女に命令を出した奴を捕まえたいだけだよ」
虎徹先輩が汗を垂らしながら違うと手を振る。
「命令を出した奴?」
「うん、そうだよ。僕にはどうしてもこの事件が彼女自身の策略には思えない。誰かが彼女に命令を出したのは間違いないと思う。だから、彼女には悪いけど、このまま泳がせておこうと思うんだ。黒幕をあぶり出す為に。そこで君の手を借りたい。この作戦に手を貸してくれないかな?」
虎徹先輩の申し出に俺は正直迷っていた。先輩を信じて良いのか。霙を今ここで問い詰めれば理由を言うかも知れない。だが、霙が命令されている場合、任務失敗とみなされ組織に殺されてしまうかも知れない。それに夢で見たことが現実になり得るかも知れない。
どちらが正しいのか。どちらの選択が吉と出るのか。
「わかりました。協力しましょう」
こいつを信用するのはまだ早いが、どっちを選んだにしろ、その選んだ先が凶と出たとしても俺が絶対霙を守る。俺はそう決めた。もちろん
「ありがとう。じゃあ、また連絡するから連絡先を教えてよ」
俺は
「また詳しくは連絡するから、じゃあ」
振り返った虎徹の襟元の獅子のバッジが威厳を保つかのように光った。
「おい、今の
クラスメイトの山田が今の会話を見ていたらしく羨ましそうに言ってきた。
霙の事がバレていなければ良いんだが。
「あぁ、虎徹さんだったよ」
「おい、何の話してたんだよ。連絡先とかも交換してたしチクショー羨ましいぞ、このヤロー」
「まぁ、世間話して意気投合したから連絡先交換に至ったみたいな感じだよ」
「何それ、めっちゃいいじゃん。羨ましいな。おい! 連絡先教えてくれよ」
「ヤダ」
「いいじゃんかぁ。なぁなぁ。紫乃原さーん」
「しつこい!」
俺は山田の頭を掴んでロックするとおでこにデコピンをお見舞いした。
「ぐわぁ」
案外痛かったのか、山田は床でのたうち回っていた。
結果、山田はただの単純なバカだった。心配しすぎてどっと疲れた。
●
その夜、自室の冷蔵庫に飲み物が一つも入っていないという危機が発覚した。そのため寮の近くの自販機に買いに行くことにした。
「うー、さみぃ。」
時刻は十時を回っていた。まだ四月ということもあり朝は過ごしやすい気温だが、夜は気温が低くシャツと短パンで出かけたのはまずかった。
「え~と、コーラと……」
自販機の前で寒さに震える体を振動させる。そしてその振動で熱を発生させ温まる。
「さてと、さっさと帰ってあったかい布団で寝るかぁ」
冷たい缶を両手に一刻も早く寮へと戻るために急ぎ足で向かう。
「そんなに急いでどこへ行く、少年」
後ろから渋い男の声がした。
振り返ると黒いスーツを身にまとった三十代後半ぐらいの男が立っていた。
「どこって寮だけど。てかアンタ誰?」
「俺か? 俺は渋い声の男さ」
まんまじゃん。
「いや、だから。あんたは誰なの? 名前を聞いているんですけど」
再び同じ質問をする。渋い声の男って答えになってねぇよ。
「やれやれ、名前ならそう言え、俺はティターンとでも言っておこうか」
言っておこうかって他に何があったんだよ。
「で、そのティラーンさんが何の用なんだよ」
「ティラーンではない、ティターンだ。ラとタは間違えやすいから気をつけろ」
名前を間違えられ激昂&地団駄を踏むティラーン。いや、ティターン。
こいつ面白い。
「おほん、今日は槍の雨と隕石が降って来たらしいが、どうだい刺さらなかったかね」
勝手に気を取り直したティターンが重大な事実を口にした。
「何でお前がそれを知ってるんだ?」
「教えて欲しいか?」
「……」
「いいだろう、教えてやる。俺のVAは
答えを言ってないのに能力を教えてくれたティターン。能力を言いたくてうずうずしていたようだ。今、能力を言ったためかスッキリしたような表情をしている。
予報。前もって知らせることという意である。今日、アナウンサーが変な予報したのもティターンが能力を使ったためだろう。
「この予報を使い、この島だけに槍の雨と隕石を降らせたのだ。さらにお前が夢で見たのも予報だ」
次々と勝手にネタバレし高笑いするティターン。三十代のおっさんが高笑いしてるのは気持ち悪く見える。その内、俺もあんな風になるのだろうか。
「じゃあ俺の運命も予報してもらおうか」
あんな風にならないことを願ってVA、
「ほほう、望み通り予報してやろう。アチ、アッツ。アチャチャチャ」
炎の熱で騒ぎまくる三十代のおっさんティターン。
やっぱこいつ面白い。
「おほん、先ほどは君のペースに巻き込まれたが、ここからは俺のターンだ」
どこかで聞いたようなセリフを吐き捨てるティターン。俺、自分のペースというか、さっきからおっさんのペースに巻き込まれてるんだが。おっさん自体もおっさんの謎のペースに巻き込まれてたし。
「一つ予報しよう。君の攻撃は私には当たらず全て君に返るだろう」
「へー、それが本当なら炎を放てば全て俺に返ってくるってことだな」
その予報が本当だろうがただのでまかせだろうが関係なかった。この男がティターンというコードネームを持ち、今日の天気事件を引き起こしたのは確かだ。つまり、こいつはこの場で倒しておかなければならない相手だ。
「
手のひらに炎を集中させ野球ボール大の大きさに留める。そして、そのボールをティターンに向かって投げつけた。
「性懲りも無く攻撃するか。予報は未来予知みたいなもの、故にそれに
強い口調で言うティターンの横を
「さぁ、自分の技で倒れるがいい」
「もういっちょ、火炎玉」
再び火炎玉を手のひらに作り、先に投げた火炎玉にぶつけ相殺させる。二つの玉は大きな爆発音を響かせ消滅した。
「俺には当たらなかったぜ」
ティターンに向かって人差し指を突き付けビシッと言ってやった。
「ふむ、ではこんな予報はどうかな。君は建物の倒壊に巻き込まれる」
んな、バカなと思う予報だが、予報は的中だった。俺の真後ろにある廃ビルのような建物が音を立てて崩れ始めたのだ。今から逃げ始めても建物の大きさからして倒壊から避けることは不可能だった。そもそもこんなところに廃ビル何てあったか!?
「さらばだ、炎の少年。この先、未来永劫会うことはないだろう」
建物の崩壊に巻き込まれゆく俺の目の前からティターンが消えた。
耳に入ってくるのは建物の倒壊する音だけだった。そして、真上から降ってくるビルの残骸が目に映る。
(ちくしょう)
俺はビルの下敷きとなり……死ななかった。
建物が倒壊して来た時、間一髪俺は
「うりゃあ」
炎を展開して崩れた
「あの野郎、なーにがもう二度と会うことはないだ。今度会ったらボコボコにしてやる」
一人で文句を言い、立ち上がるとズボンの埃をはたいた。ビルの下敷きになったからかあちこちが破れかけていた。
「そこの君。ここで何してるの?」
不意に子どもっぽい声が背後から聞こえた。振り向くと襟元に獅子のバッジをつけた虎徹先輩と武装した警備員っぽい人たちがなぜか俺を取り囲んでいた。
「あれ? 虎徹先輩じゃないですか」
「ん?」
虎徹先輩が目を凝らして俺を見る。
「葵くんじゃん」
虎徹先輩が言うにはVAの発動を検知し、ここに駆けつけたという。戦う前にVAを使わないでよかったと思う。使っていたら今頃、棗先生に……。ひぃえええ。
「ふーん、葵くんは自販機へジュースを買いに行ったらティターンとかいうおっさんに出くわしたと」
俺と虎徹先輩は俺の部屋で先ほどの件について話し合っていた。机にはジュースを入れたコップが置かれている。多少のもてなしのつもりだ。
「ええ、そうです。それよりも、なぜ虎徹先輩があの場所にいたんですか?」
俺がこの質問をしたのには意味があった。なぜ虎徹先輩が武装した兵士を大勢引き連れてあの場所にやって来たのか。虎徹先輩は何者なのか。今なら虎徹先輩の正体がわかると思ったからだ。
「僕かい? 僕はこの緋月島総合警備部部長だよ」
これで合点がいった。なぜ、虎徹先輩がVAの発動を検知してやって来たのか。警備部なら簡単だ。島中にVA検知器を仕掛け、二十四時間監視していればいつどこで何があろうと駆けつけることが出来る訳だ。
「僕の家、虎徹家は昔からこの島の警備を任されていてね。こないだ兄貴から引き継ぎをしたんだよ」
「あの、あと、その襟元についてるバッジって何なんです? 前から気になってて」
虎徹先輩の襟元には獅子が刻まれたバッジがついている。これは、尾乃影当麻先輩にもついているもので当麻先輩の場合は水瓶のバッジだ。
「これ?」
虎徹先輩が自分の襟元のバッジを指す。
「これはね。黄道の証だよ。黄道というのは重要な役職についている生徒、あるいは功績を残した者に与えられる称号で全部で十二人いる。そして、その十二人は黄道十二星座を象ったバッジを基本は襟元につけているんだけど、中には胸などいろんな箇所につけてる人もいる。まぁ僕の場合は一族の肩書きで貰ったようなものだけどさ」
説明を終えた虎徹先輩は机に置かれているジュースを飲み
「それより、例の件。このまま行けば上手くやれそうだよ」
小声で音がよそに漏れないように虎徹先輩が話す。
「実行まで気は抜けないですね」
「そうだね」と虎徹先輩は頷いた。
「じゃあ僕は仕事に戻らないといけないからこれで。また何かあったら連絡してね」
そう言って虎徹先輩はコップに入っているジュースを飲み干すと俺の部屋から出て行った。
また、監視の仕事なのだろうか。ご苦労様ですと言ってあげたい。これで虎徹先輩が何者なのかわかった。十分信頼の出来る相手だと思う。それに頼んでおいた例の件もうまくやってくれそうだ。
虎徹先輩を見送った俺は二つのコップを洗い、眠りについた。