VAーヴァリアス・アビリティ   作:VA

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とりあえずこれで第一部が完です。最後まで読んでくださった方々には感謝してもしきれません。
次から第二部、緋月戦、ランキング戦が始まる予定です。引き続きお願いします。


第九話 王VS姫

海王ポセイドン。ギリシャ神話に登場する海を司る神である。三叉の矛(トリアイナ)を最大の武器とし、これによって大海と大陸を支配する。

俺の目の前に現れた女。ポセイドンと名乗り、三叉の矛を手に持ち魔女が着るようなローブを纏いフードを深めに被っている。見えるのは口元だけだ。神話に描かれているポセイドンとなんら変わりない容姿だ。

 

そして、俺の隣では深石霙がそのポセイドンが発する恐怖のオーラでビクビクと震えている。

 

「早く、答えなさい。あなたが裏切った理由を」

 

「わ、私はガイアでも組織の操り人形でもないっ! 私は深石霙だ。それに葵が教えてくれた。お前は組織の操り人形じゃない。お前にはお前の生き方があるし、仲間がたくさんいるって」

恐怖に耐えながら霙が自分の今の気持ちを一生懸命に言い放つ。

「そういうことですか。ガイアの裏切りの理由はあなたですか」

フードの中から覗く鋭い眼差しで俺を睨みつけ、さらに三叉の矛(トリアイナ)を俺に向けてくる。

「ならばその男を殺せばあなたが裏切る事も無くなる訳ですね――海人形(シードール)

霙が倒した男の身体がゆらゆらと動き始め足の方から水に変わっていく。

「あなたがたが倒したと思っていた男は私が能力で作った人形です。これを取り戻さなければ私の本来の力が出ないものでね。それと本物はあなたたちが足元にも及ばないほどの能力(ちから)を持っています」

なんと倒した男はポセイドンが作った人形だった。それでこんな傷を負うとはざまぁねぇや。さらに本物は足元にもおよばない強さときた。

「万事休すか……」

不利な状況だった。頼みの綱の霙は恐怖で動けないし、要は気を失っている。俺は俺で傷が深く戦うことは無理だ。万事休すだった。あるとすれば虎徹先輩が言っていた助っ人ぐらいだが、影も形もなく期待はできない。

 

「まずはガイアを返してもらいますね――海流捕縛牢(カレントキャプチャー)

 

ポセイドンが右手を伸ばす。ローブが大きめなのか袖から手は出ていない。代わりに水が出てきた。水流だ。

 

水流は俺をすり抜けると動けない霙をぐるぐる巻きに捕まえた。そして水流は霙を捕まえたまま球状の形となりガイア、霙を閉じ込めた。霙は出ようともがくが水牢はびくともしなかった。そして、息が出来なくなり気を失ったのか、霙は動くことなくその場に浮いた状態となった。

 

「さて、ガイアの処罰はハデスに任せるとして、私はガイアが裏切る要因となったあなたを殺しておきますか」

 

組織に有害だから殺すってか。これはほんとにやばいな。逃げらんねぇし、というか動けないし。ここで俺の人生は終わりかなぁ。思えばもっとやりたいことあったな…。

 

「それではガイアを裏切りに導いた罪を償っていただきます。充填(フィリング)海弾(シーバレット)

 

左右の袖から水が弾丸状になり発射された。動けない俺に弾丸が襲いかかる。

 

解錠(アンロック)武器庫全弾発射(アーセナル・フルバースト)

 

水の弾丸が俺の命を狙ってくる中、俺の目の前で異空間が口を開いた。そして、そこからミサイルや手榴弾、レーザーなどなど軍の兵器のようなものが異空間からわっさわっさと出てきた。

 

それらは俺を守るように水の弾丸を次々と相殺していく。

 

「やれやれ、結局、私の出番が来るわけね」

 

新たな異空間が発生し、そこから異空間の淵を掴み出てきたのはまたもや女だった。

 

「数分前からあなたたちを監視させてもらって、三人で事が終わりそうだったから手を出さないでいたけど、海王が出てくるとはね。それにどっちにしても、炎使いの君は傷を負ってゲームオーバー。マフラーの女の子は病院から抜け出した上、傷が開いてゲームオーバー。もう一人の女の子は捕まり気を失ってゲームオーバー。結果、私が相手をすることになる訳ね。でも、模擬戦の時よりは多少レベルアップしてるみたいで安心したわ」

 

言いたいことを一気に言い放った女の人は準備運動をし始めた。

 

「うーん、そうね。君はこのまま寝っ転がっていなさい。傷、深いでしょ。それにその傷で動いてもらうと()の戦いの邪魔になりそうだから」

 

「わ、分かりました」

 

さらっと邪魔者扱いされた俺はそのまま彼女の言うとおりに寝っ転がることにした。

 

「聞き分けのいい子は嫌いじゃないよ。じゃあ、私は海王と存分に戦いますか」

 

準備運動を終えた彼女はポキポキと指を鳴らしポセイドンの前に立った。

 

「まさか鍵姫(かぎひめ)とこんな所でお会いするとは」

 

ポセイドンが相手、鍵姫に向かって礼をする。案外、礼節を知っているようだ。

 

「ふふ、何を言ってるの。こっちもまさかだよ。こんな所でポセイドンと出会うとは。虎徹もたまにはいい仕事するね」

 

虎徹という名を言ったことからこの人が虎徹先輩の言っていた最強の助っ人だと推測した。

 

解錠(アンロック)二本槍(ダブルランス)

 

(ふところ)から錠前(じょうまえ)とその鍵を取り出し錠前を解錠する。それとともにマンホール大の異空間が開いた。そしてその異空間に手を突っ込み、騎兵用の(ランス)を二本取り出した。

 

施錠(ロック)

 

錠前をカチャンと閉じる。それと同時に異空間も閉ざされた。

 

「相変わらずチートな能力ですね。鍵姫、いや射手座(サジタリウス)の所有者、漣岬(さざなみみさき)

 

「それをあなたが言う? 海と大陸を支配する海王(ポセイドン)の名を持つあなたが」

 

「えぇ、そうですね。それを私が言えたぎりではないですねっ」

 

ポセイドンが先制攻撃を仕掛ける。手に持っていた三叉の矛(トリアイナ)投擲(とうてき)した。

 

「はぁ、やる気?」

 

あまり気乗りしないのか一つため息をついた。そして二本のランスの一本をその場で地面に突き刺すともう一本のランスを両手で掴んだ。

 

一本槍(いっぽんやり)(とつ)

 

漣岬(さざなみみさき)は自らが弾のようにらせん状に回転しながら三叉の矛と対峙する。

 

ひとつの槍の弾となった漣岬(さざなみみさき)三叉の矛(トリアイナ)を軽くあしらう。激突で威力、スピードを失った三叉の矛(トリアイナ)はふらふらと地面に落ち突き刺さった。

 

さらに三叉の矛(トリアイナ)を叩き落としただけでなく、ポセイドンに向かって飛んでいく。

 

「やっぱりチートですね。その能力」

 

右腕を長めのローブの袖から出す。すると手から水が出現し渦を巻いた。

 

渦潮(ウィールシルド)

 

人間弾丸槍と渦潮が衝突する。金属のぶつかりあう音が俺の耳にも届いた。今のところ俺の出る幕はないと思う。出ても足でまといになりそうなほどすごい戦闘だ。

 

「これはどうです。母なる海よ、飲み込め。大津波(ダイダルウェーヴ)

 

ポセイドンが挑発的は態度を取る。

 

渦潮が形態変化して大津波となった。その大津波が弾丸槍状態の漣岬(さざなみみさき)を飲み込む。津波は威力が弱まった状態で俺の方にも届いた。海水に浸かったせいで傷口に痛みが走った。死ぬかと思うほどの痛みだった。

 

「見てください鍵姫。この大地が次第に海に浸かりつつあります。もう一度、大津波を起こせばこの研究エリアは水没しますね。ふふふ」

 

「それはそれは、大変なことになっちゃうね。是非とも私が阻止しないといけない…でないと私が蛇使い(アスクレピオス)に怒られちゃうから」

 

それが理由!? とツッコミたくなった。緋月島、研究エリアが水没しかけるのを阻止するというからカッコイイと一瞬思ったが、自分が怒られるのが嫌だからという理由だったとは。なんかガッカリだ。

 

自分の事しか頭になさそうな漣岬が海の中からずぶ濡れで出てくる。濡れてはいるが怪我などは無いようだ。

 

「はぁ、自分が怒られなければ、他の人がどうなってもいいと言うことですか?」

 

「勘違いしないでもらえるポセイドン。私は怒られるのは嫌いだけど、人の命がどうなってもいいとは思ってない」

 

はい、すいませんでした。自分のことしか思っていないのかと思っていたら、ちゃんと人のことも考えてました。心の中で漣岬(さざなみみさき)に謝罪する。三十回くらい。

 

「そうですか。なら、人と地面二つともいっぺんに守ってもらいましょうか――大津波(ダイダルウェーヴ)

 

ポセイドンの背後で巨大な波がせり立つ。その波は先ほどよりも巨大で、もしその波が研究エリアに襲いかかれば研究エリアは水没してしまうだろう。

 

「守って見せたげる。二つとも無傷で」

 

再び(ふところ)から錠前を取り出す。よく見ると錠前には射手座の彫刻がされていた。

 

解錠(アンロック)空白(フリスペース)、それともう一丁、太陽の楔(ラーウェッジ)

 

異空間が開いた。しかし、開いただけで何も出てこなかった。片方は空間すら出ていない。

 

「何も出てきませんが? それでどう守ろうというのです」

 

見下したようにポセイドンが笑う。実に腹立たしい笑い方だ。

 

「こうするのですよ。収納(ストレージ)

 

漣岬が不敵な笑みを浮かべながら唱える。

 

研究エリアを飲み込もうとしている巨大な大津波が異空間に吸い込まれていく。

 

保存(キープ)

 

異空間がテレビの砂嵐みたいにぶれながら閉じて行く。

 

「さっきの波…そっくりそのまま返すわね。解錠(アンロック)大津波(ダイダルウェーブ)

 

再び異空間が開き中からポセイドンが放った大津波がどうどうと流れ出た。

 

「自分が放った波でやられろ」

 

ポセイドンが返された大津波(ダイダルウェーブ)を防ごうと両手を突き上げる。だが、ポセイドンは何故か体が動かないことに気づく。状況を確認しているポセイドンの顔が驚きの表情に変わる。いつの間にか身体全体が金色に輝く鎖でグルグル巻きになっていた。

 

「あっ、気づいた? 最初のは空だけど。もう一つのはちゃんと中身は入ってたの。その中身は今ポセイドンを拘束している鎖。これであなたは身動きできずに大津波を喰らうことになるわね」

 

「ふふふ。それでこそ鍵姫、それでこそ私の命をかけてでも殺したい相手です」

 

鎖に体を巻かれたまま大津波に飲み込まれた。

 

「起きられる? 紫乃原葵くん」

 

漣岬(さざなみみさき)が手を差し伸べて来た。俺はその手を借りて立ち上がる。暖かく何でも包み込んでくれそうな手だった。

 

「あの、ありがとうございました。ポセイドンは死んだんですか」

 

心からお礼を言った。俺一人では(みぞれ)を助けられなかった。助けるどころか逆に危険な目に合わせてしまった。要に対しても同じだ。俺はもっと強くならなければいけない。強くなって俺が皆を守るんだ。

 

「お礼には及ばないわ。これも仕事だからね。しかし、ポセイドンは死んではいない。あの女はあれしきのことでは死なないわ」

 

漣岬は落ち込んでいる俺を励ましてくれるかのように微笑んでくれた。

 

「では、三人を一応病院まで運ぶわ」

 

異空間を開いた。その中はぐにゃぐにゃと空間自体が揺れており、気持ち悪くなった。

 

「最初の内はそんなもんね。次第に慣なるから我慢してね。あっ、あと私の空間内では吐かないこと。いいわね」

 

いくらなれるといっても普通に歩いている先輩はすごいと思う。常人じゃないのかな。うっ。

 

「わ、わかり、〇△☆%※#♯〒&♭%」

 

「あぁ、言わんこっちゃない。大丈夫?」

 

 

霙が寝ている病室の窓から外を見ていた。外はもう真っ暗だ。そろそろ面会も終わりの時間になっていた。寝ている霙を一目見て帰ろうとした。

 

「あお…い」

 

目を覚ました霙が俺の名前を呼んだのだ。

 

「…霙。気がついたのか」

 

ゆっくりと体を起こす。俺は無理するなといいながら霙の補助をする。

 

「あ、あの、あ…おい」

 

「うん?」

 

「ありがとう」

 

恥ずかしそうにお礼を言ってくる。

 

「あぁ、俺もありがとうだ」

 

霙がいなければ俺は死んでいた。助けに来たのに助けられるなんて情けない。でも今は心から感謝している。

 

「あぁ、霙。目が覚めたの!?」

 

病室に様子を見にやって来た要が嬉しそうな表情を見せる。その後ろには紅葉も立っていた。

「か…なめ、もみ…じ」

 

霙は要の元気な姿を見て大粒の涙をながした。

 

「…ごめんね…ごめんね」

 

涙を拭いながら謝り続ける霙を要は優しく包み込んだ。

 

「もういいの、終わったことだから。もう」

 

お互いに涙を流しながらギュッと抱きしめ合うさまを見て少し涙が出そうになった。何はともあれ死者が出なかったのは幸いだった。

 

 

緋月島、学園エリア、生徒寮 二階 会議室

 

ここに特別な称号を持つ生徒が集まっていた。円卓に並ぶ十三の席。その内の八つの席が埋まっており、五つほど空席があった。

 

「あぁ、早く集まんないかなぁ。私、研究で忙しいんだけど」

 

第六席に座り白衣を着こなした女子生徒が愚痴をこぼしている。その女子生徒が着る白衣の胸に乙女(バルゴ)をかたどったバッジがつけられていた。

 

「まぁまぁ、もうしばらく待ちましょう」

 

第四席に座る男子生徒が第六席の女子生徒をなだめる。そのなだめる手の甲には(キャンサー)刺青(タトゥー)が彫られていた。

 

皆が待ちかねている会議室に異空間が開き中から漣岬が出てきた。

 

「遅かったねぇ。(さざなみ)先輩」

 

第五席に腰掛けている虎徹麒麟が話しかける。

 

「ええ、今回の依頼はなかなか楽しめたわ。虎徹くん」

 

そういうと第九席に腰掛ける。

 

「生徒会長、その他の黄道が不在ですが、来れる全員が揃ったようなので会議を始めさせてもらいます」

 

第十二席に座っている男が立ち上がり指示を出す。

 

「今回の議題は先日の事件の件、後日行われる緋月戦から選出する牡牛座(タウロス)の称号の件、そして牡羊座(アリエス)の件の三つです」

 

「もうそんな時期ですか」

 

第十一席に座る尾乃影当麻が声を発した。

 

「懐かしいですね。当麻くんがランキング戦に優勝して牡牛座の称号を与えられたのがもう一年前なんですね。今は風紀委員長っていうことで水瓶座(アクエリアス)ですけど」

 

第十席に座る幼さが残る女子生徒が言う。その女子生徒の襟元に山羊(カプリコン)がかたどられたバッジが付けられている。

 

「今回は誰が牡牛座(タウロス)を獲得するんでしょうね」

 

尾乃影当麻がふふふと笑う。

 

「さて、問題は今回の事件です」

 

第十二席の男子生徒が話を戻す。そしてスクリーンにとある生徒、深石霙の写真が映し出される。

 

「彼女をどうするかが今回の議題です」

 

「退学処分でいいんじゃない」

 

第六席の白衣の女子生徒が自分の髪をときながらどうでもよさそうな感じで言う。

 

「待って。今回は彼女に罪はないわ。今回は黒幕が海王でした。それに彼女はただ利用されていただけです。なので彼女には処罰は無用かと」

 

第九席に座る漣岬が第六席の女生徒の意見を反論する形で言う。

 

「では多数決を取りましょう。深石霙を退学処分とするかしないか」

 

第十二席の男が決を取ることを提案する。

 

「さて最後は牡羊座の件ですが、監獄から脱走したと連絡が入りました。現在は監獄衆が行方を追っていますがいずれはここにも立ち寄るのではないかと考えられています。是非ともご注意を」

 

「あの人が抜け出したのか。こりゃあ腹をくくらないといけないんじゃない? ねぇ? ベルヴォアさん」

 

十二席に座るべルヴォアが頷いた。

 

「とりあえずは警戒をしていただきたい」

 

「「「「りょ~かい」」」」

 

その後、俺が聞いた話によると黄道十三会議(こうどうじゅうさんかいぎ)というものが開かれ、今回の件について議題が上がった。

 

何らかの処罰があると思ったが、お咎めなしで終わった。

 

もしかすると()()()()が何とかしてくれたのかも知れない。

 

もしそうなら彼らには感謝してもしきれないだろう。とりあえず事件は無事解決した。今後こんなことがあった場合は必ず仲間を傷つけられないように精一杯戦ってやる。

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