ヤンデライザのアトリエ 作:現実逃避中
アトリエシリーズ他にやったことあるのは1作のみ。個人的にはあれも面白かったけどシリーズの中では変わったものだった様ですね
ライザリン・シュタウト
「ふー……お疲れー!」
「ああ、お疲れ様」
「それにしても……なーにが“見たことも無い巨大な魔物! ”よ。慌てて大げさなだけじゃない」
小妖精の森。2人の故郷であるクーケン島からそう遠く離れていないこの場所で、幼馴染のライザリン・シュタウト……通称ライザとあなたは魔物退治をしていた。
「巨大な魔物がうろついていた、命からがら逃げてきたので何とか退治してほしい!」という依頼を顔面一杯に汗をかいた旅の商人から受けたライザとあなたは小妖精の森までやってきたのだが、旅の商人の言う巨大な魔物とはオオイタチマザーの事であり、基本持ち場から離れないこの魔物に商人の方がちょっかいを出したんだろうな、と2人は呆れ呆れだった。
ライザはつまらなそうにお手製の杖を弄び、あなたは愛用の反りの入った片刃の剣を一度振り払ってから鞘へと戻した。以前はここに、「物足りないから手合わせしようぜ」と言う幼馴染と「それよりも早く帰ろうよ」という幼馴染がいたのだが、その声がないのがあなたは少し、寂しい。それはライザも同じかもしれない。最近は一人で解決できそうな依頼をされても必ずと言っていいほどあなたを呼びだしていたから。
「まあでも、この辺の魔物の中じゃ強い方だし、驚くのは仕方がないんじゃないかな?」
「まあねぇ……あたし達があの夏の経験のせいで強くなりすぎちゃったってのはあるかな」
2人は少し前の夏。今ここにはいない幼馴染や友人達ととある戦いをしていた。
世界を救う様な戦いじゃない、誰かに称えられたように大々的だったわけではない……大切な日常を、暮らしてきた島を守るための、ささやかでそれでも大きな戦いがあった。
その際に戦った魔物に比べると、島の周辺程度の魔物など2人にとっては大したことが無かった。もっとも、2人にとっては大したことが無いだけで戦いの経験が無い人にとってはオオイタチマザーは脅威だろうけれど。
そんなレベルのオオイタチマザーにわざわざ
「あ、そうだ。ねえねえ、錬金術の材料の採取に行きたいんだ。明日って予定空いてる?」
秘密の部屋……通称、ライザのアトリエに引き返す道すがら、ライザはあなたに話しかけていた。
あなたを見つめるライザの目はキラキラと輝いており、幼馴染の変わら無い姿にあなたは苦笑した。
「ごめん、明日は用事があるんだ」
「………………あ、そうなんだ。キミが用事って珍しいね、何の用事なの?」
あなたは幼馴染という事もあり、ライザの頼みをほとんど断ったことが無かった。あなたにとってはライザは妹のような存在であり、ついつい頼みごとを聞いてしまっていた。そのため、あなたにもライザにも今回の事は珍しいことではあった。そのせいか、一瞬だけライザの返答に間があったが、珍しいことは自覚していたのであなたは特に気にしなかった。
「うん……僕も王都へ留学に行くことになってね、その準備をするから」
「………………………………え?」
あなたの家は代々島の護り手として歴史を築いて来た一族である。また、一族はかつて王都に暮らしていたこともあり、王都へ留学へ行くこともそう珍しいことでは無かった。あなたの父も結婚する前は王都に留学していたとの話を聞いたことがある。まあ、大抵はその時に出会ったあなたの母との惚気話なのだけど。
以前、島にいた幼馴染たち……レントやタオやボオス達が一足先に旅立ってから、あなたの父が王都への留学を勧めてきたのであった。何でも特別な試験があり、今のあなたなら大丈夫であろうと太鼓判を押した父のせいで急な話になってしまった。
「……島を出ていくの?」
「うん、そうなる。手紙は書くし、休みになったら島に戻ってくるつもりだよ」
あなたは努めて明るく振るまった。
ライザを島に残してしまうことに後ろめたさを感じていないことはなかったが、新しい環境で挑戦したい・学びたいという思いが強くあった。先に島を旅だったレント、一時期手ほどきを受けていたリラ……彼らに追いつきたいという、負けたくないという思いもあったが。
あなたの話を聞いたライザは顔を俯かせていた。急な話過ぎたか、とあなたはあなたは口元に手を当てた。あなたの癖である。
「ライザ、あの……「うん、わかった! 出発は? いつ?」え、あ……えーと、一週間後の予定だけど」
「じゃあさ、その前の日にアトリエに来てよ! 腕によりをかけてご馳走作るから、それ食べてアトリエに一泊してから王都に行けばいいじゃない! ……はい、決まり! それじゃ、よろしく!」
「え、うん……」
パッと顔を上げた微笑む強引なライザにあなたはちょっと引き攣り笑いをしながら了承の意を示した。この妹の様な幼馴染が強引な事は今に始まったことではないし、その強引さがあなたは嫌いではなかった。
ライザが納得してくれたようで良かった、と内心安堵の溜息をあなたはついていた
「ま、取りあえずあの商人さんに報告に行きましょ。何貰えるかな~?」
「あはは、錬金術の材料になるものを貰えるといいね」
いつもの話をしながら、いつものとおり、あなたとライザは歩いていく。
いつもと違うのは、ライザの笑みが暗く、その瞳には危険な輝きが宿っていた事だったが。いつもの様子に戻ったと思っている呑気なあなたはそんなライザの様子に気が付かなかった。
旅立ちの日、前日の夜。
既に家族や島の住民、子どものころからお世話になっていたアガーテにあいさつを済ませ、準備を整えたあなたはライザのアトリエにやってきていた。
アトリエの外にもライザの作っているであろう料理の良い匂いが漂い、あなたは頬を緩めた。ライザは悪ガキ扱いされていることもあったが、あれで料理の腕は中々の物なのである。
ドアをあけてあなたがアトリエに入ると、机の上一杯にご馳走が並んでいた。チキンの丸焼きに、カクテルレープに、きのこのいろり焼きに、ラーゼンプティングに、シカ肉のロースト、それからそれから……
まるでうわさに聞く最後の晩餐のようにずらりと並べられた料理にあなたは、たまらず生唾を飲み込んだ。
「あ、来てたんだ。今行くからちょっとまってねー!」
錬金窯の方で何かを錬金していたライザはあなたの方を見ると慌てた様子で駆け寄って来た。
あなたは苦笑しながらも着席して、ライザに料理の礼を述べた。あなたの礼を受けたライザは同じように苦笑しながら首を横に振った。
「いいって、いいって、気にしないの。さ、食べましょう」
「うん、いただきます」
「いただきまーす!」
近くにあったグラスをお互いに軽くぶつけて乾杯すると、あなたは早速料理に手を伸ばした。
とりあえず近くにあったきのこのいろり焼きを口に頬張ってみる。今まで食べたことのない味わいと香りだった。濃い目の味付けがしてあるが、それに負けないくらいきのこが主張している。
「うん、これ美味しいよ。初めて食べるきのこだけど、こんなのがあったんだ」
「あはは、良かった。今日の為に手に入れるの苦労したんだからね、それ」
そう言って微笑むライザは割と上品にチキンを切り分けて口に運んでいた。そしてすぐにグラスのジュースを飲む。今日のライザはやけにジュースを飲むペースが早いが、そういう気分なんだろうか?
2人は食事を楽しみながら今までの出来事を振り返っていた。
子どものころライザがおぼれかけた事、あなたが初めて剣を持つことが許された日、こっそりと島を抜け出したら見つかって大人たちに怒られた事、クラウディアとの出会い、リラやアンペルに錬金術や戦い方を学んだ事、ドラゴンと戦った事、異界で知った真実、フィルフサとの決戦、クーケン島の動力について……
話は尽きなかった、いつまでも話していられそうな気分だった。しかし、料理の方が先に尽きており、気が付けばあれだけあった料理はもう何も残されていなかった。
「いやー食べた食べた。ほんと、全部美味しかったよライザ。僕の為にありがとうね!」
「大げさだなぁ……まあ、これだけ食べてくれればあたしとしても腕によりをかけた甲斐があるってものよね」
そう言って笑うライザはグラスの底に残ったジュースをぐいっと飲み干した。
そう言えば自分は全然ジュースを飲んでなかったなとあなたはジュースデカンタの方を見るが、何も残っていなかった。ライザが一人で飲み干してしまったらしい。
「王都に着いたら手紙書くね。お土産も送るよ、後は……」
「ああ、そういうのいらないわよ?」
手を振ってライザは自身の意を示す。
幼馴染の意外なその言葉にあなたは首をかしげた。いつものライザなら「いいものよろしく!」ぐらいは言いそうなのだが……
「……え、いいの? あ、それとも錬金術の材料になりそうなものの方が……」
「だから、いいってば。そもそもキミは王都に行かないし」
「……? ライザ、それはどういう……………………!?」
そこであなたは自身の異変に気が付いた。
身体に力が入らない、それに頭が重くてぼんやりとする。
膝から崩れ落ちそうになる身体を全力を持って机に捕まり、かろうじて地面との衝突を下げた。
重い頭を上げてライザの方を見ると、そこにいたのはライザの様な何かだった。
あなたは……ライザがあんな三日月の様に裂けた笑みをしているのを知らない。あなたはライザがあんなに眼をギラギラと輝かせながらも曇っているのを知らなかった。
「ああ、ようやく効いてきたのね。まったく頑丈なんだから。美味しかったでしょ、その毒キノコ。後、それから造りだしたキノコパウダーも他の料理に使ってたんだけど、この解毒剤を飲んでれば平気なんだよね。ああ、あなたはほとんど飲んでいなかったけど。駄目だよー? バランスを考えて食事しないと。それにこんなのに引っかかるぐらいだから王都へ行ったらもっと悪質なのに引っかかっちゃうかもしれないし、やっぱり行かなくて正解だよね。あたしに感謝しなさいよ?」
「……う、あ……ライ、ざ……」
力を失うからだと消えゆく意識の中、どこまでも面白そうに、残酷に、微笑むライザを何とか見たあなたは、そこで意識を失った。
「……あ、起きた」
どれくらい意識を失っていたのだろうか。あなたはアトリエにあるベッドの上で意識を取り戻した。
窓からは日が差し込んでいる。こちらをのぞき込むライザに抗議しようと身体を起こそうとした。が……
「……!? っ! ぐっ!」
「あはは、動けないでしょ。あたしが作った手錠、結構頑丈だからドラゴンでも千切るのは無理だと思うなー」
あなたの四肢は手錠でベッドの四隅に繋がれていた。引っ張っても抜ける気がしない。無理矢理千切ろうとしたが逆に四肢を痛めてしまっていた。ドラゴンでも千切れないというのは伊達ではないらしい。
「ライザ、何のつもりだ……!?」
「……何のつもりだ、はこっちの台詞なんだけどね。レントやタオが島を出ていって、クラウディアもリラさんもアンペルさんもいなくなって、それでもキミはあたしの傍にずっといてくれると思ってたのに、急に王都へ行くだなんて言うんだもの。そんなの、行かせられないでしょ? 寂しくて寂しくて、壊れちゃうかと思ったのに」
濁った瞳でライザは歪に笑った。
そこであなたはようやく己の過ちに気が付いた。
ライザはあなたが皆がいなくなって寂しいと感じていた以上に、寂しがっていたのだ。きっと心に穴が開いて、こんな手まで使ってその穴を埋めようとするぐらいに。
もしあなたが他の皆と一緒に島を出ていればここまではならなかったかもしれない。けれど、出発時期が皆とずれてあなたが傍にいたことで、ライザは残ったあなたが自分の傍からいなくなることに恐怖を覚えたのだろう。
「こんな事をしても、どうにもならないよライザ。アガーテ姉さんや父さんたちがきっとすぐに探しに来る」
「うん、そんな事わかってる。だから行かなくなるのはキミ自身の意思でね?」
そう言うライザは何らかの液体を口に含み、あなたに顔を近づけて口づけをした。
「……っ!!?? んっ……! くっ……!」
「ちゅっ、んんっ……んっ! ……ぷはぁ、ふふ、ファーストキスしちゃったぁ……」
顔を赤らめ熱にうなされたように瞳を蕩けさせるライザに比べ、あなたはそれどころではなかった。何かを口移しで無理矢理飲まされた。錬金術師のライザが飲ませたものだ、何があるかわからない。
警戒していたあなただったが、段々と、身体が、熱く、なってきている……!?
「う、あ……ライザ、いったい何を……」
「興奮剤、ちょっと強力なやつ。これでばっちりだね」
ライザは手に持った丸薬を飲み込みと、その場で服を脱ぎだした。
女性らしく成長した幼馴染の裸身があなたの目に映る。反射的につばを飲み込んだ。興奮剤の効果か、身体が壊れそうなぐらいに熱くなる。
ライザがあなたの上に跨った、少女特有の身体の柔らかさと、女性らしい甘い香りがあなたの全ての感覚を刺激する。
「今あたしが飲んだのは、赤ちゃんを作る薬、かな。ふふふ……あはは……キミは子どもを置いて王都へ行っちゃうほど、身重なあたしをおいて王都へ行っちゃうほど薄情な人間じゃないよね?」
「ライ、ザ……」
「勘違いしないでね? 誰にでもこうするわけじゃないから。……ずっと好きだった……妹ぐらいにしか、キミは思っていなかっただろうけど。あたしは、ずっと……王都へ行くってなって、キミのお父さんの惚気話を思い出して、誰かに取られちゃうんじゃないかって、この一週間恐怖してた……でも、これで大丈夫だよね? こうなっちゃったら、一緒に愉しもうよ」
壊れたように微笑むライザの全身があなたに覆いかぶさった。
あなたとライザの身体はアトリエの中で一つになった。
それから、しばらくしてあなた達はクーケン島に戻って来た。
あなたは王都への留学を取りやめ、ライザの両親へライザとの結婚を申し出た。
あなたの両親も、ライザの両親も、島の住民の誰もがあなたの普段とは違う、突発的な結婚の申し出に驚いたものの、島の住民たちは祝福し、宴が開かれた。
数か月後、あなたはシュタウト家の畑仕事を主としながらも、代々の島の護り手としての勤めを果たすべだとアガーテの手伝いをしていた。
ライザはお腹を大きくし、無茶な事は控えるようになった。ライザが子を宿した事をしった島の住民たちはあなたを軽くはたきながらも、また2人を祝福した。
畑仕事を終えて帰宅するあなたの両手両足にはあの時に無理矢理引き千切ろうとしてできた手錠の痕があった。その痕をライザは時々濁った様な笑みと共にゆっくりと撫でさすることがあった。あなたはそのライザの笑みだけは好きになれなかったが、それ以外の全てでライザを愛した。
色々間違っていた事は確かだった、諦めたこともあった。それでもライザもあなたも幸せではあった。だったらそれでいいのだと、あなたは自身を納得させ、愛する妻と子がいる自宅へと足を速めた。
赤ちゃん錬金窯はひどすぎて笑ってしまった。