ヤンデライザのアトリエ   作:現実逃避中

4 / 6
そろそろアトリエ2の方もプレイできそう。とはいえ、いつになるやら。
今回もキャラの改変がありますのでご注意ください。


クラウディア・バレンツ

「金のハチの巣が欲しい……?」

 

「うん、今度作る料理の為に質の良いハチミツが欲しくって。……ダメかな?」

 

 クーケン島にある尖塔の貯水池であなたとクラウディアは話していた。

 頼みがあると呼ばれたあなたがその内容をクラウディアに尋ねると、話の通りに料理の為の材料が欲しいという事だった。

 金のハチの巣はたまに港の商店に並ぶこともあるが今回はたまたま品切れだったようで、採取するしか手に入れる方法がない様だ。

 あなたとしても特に断る理由も無かったので、友人からの頼みを快く引き受けることにした。

 

「金のハチの巣か、ここらへんだと無いよね……じゃあ、リーゼ峡谷の方へ行かないとね。ライザから採取道具借りて行ってくるよ。クラウディアはここで……」

 

「あ、私も行くからね。頼み事しておいて、一人で待ってますはどうかと思うし……」

 

「え、クラウディアも来るの? 危ないから待っていた方が……」

 

「もう! 私だって皆とそれなりに冒険してるんだからね!」

 

「まあ、そうだけど……」

 

 “私、怒ってます”

 腰に手を当てて頬を膨らませたクラウディアはその意をあなたに全身で伝えて来た。その様子にあなたはポリポリと頬を掻いた。

 確かにクラウディアとは皆も含めてこれまで冒険をしてきた。その力にお世話になった事も何度かあった。信用していないわけではないが、しかし……

 そこまで考えていたあなただったが、それなりの付き合いから彼女がこうなったら聞かないだろうなと肩をすくめ、自分の後方にいるように、とクラウディアに告げると、ライザにハンマーを借りに向かった。ちょうどライザは母親に怒られて農作業の手伝いをさせられているはずなので、少しの間借りるぐらいなら問題ないだろうと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小型のドラゴンともいうべきウォッチャーがあなたへと突進する。ひらり、とあなたは持ち前の身軽さでその攻撃を避けた。

 リーゼ峡谷へ来てからというもの、何度か魔物と戦っているが、クラウディアへ行かないように魔物の注意を引きながらも一度もあなたは被弾していない。

 リラとの訓練の成果を確かに感じ取っていた。そしていつまでも回避するばかりでない、反撃へ打って出る。

 

「ハッ!」

 

「今がチャンスね!」

 

 声と共にあなたの剣がウォッチャーの翼を斬りおとす。

 落ちゆくが態勢を立て直そうとするウォッチャーにクラウディアの追撃のチューニングがすかさず入る。

 痛みに悶え隙だらけのウォッチャーの身体を風を纏ったあなたの剣が大きく切り裂き、致命の一撃を与える。

 

「■、■■■……」

 

 断末魔を残し、ウォッチャーは絶命した。

 あなたは油断せずに周囲の状況を窺うが、特に敵意のある存在はいなさそうだと感じ取ろうと、ふう、吐息を吐いた。

 

「もう、大丈夫そうだね」

 

「うん、金のハチの巣もいくつか取れたから、そろそろ帰りましょう」

 

 クラウディアへ報告をするとクラウディアの方もちょうど息を整え終わったところの様だった。その傍には金のハチミツが数個、袋にしまい込まれておいてあった。

 あなたは袋を背負うと、クーケン島へ向けてクラウディアと一緒に歩きだした。徐に歩むあなた達はたわいのない話に花を咲かせる。

 

「ライザがリーゼ峡谷まで一気に移動できる道具を作ってくれれば楽なんだけどなあ」

 

「ふふ、ちょっとクーケン島やアトリエからだとここや古城は距離があるもんね」

 

「それもあるんだけど、ライムウィックの丘を通りたくないというか……」

 

「……? あそこで何かあったの?」

 

「いや、何もないんだけどさ……何か、通りたくないんだよね。背中がムズムズするというか、緊張するというか……何だか自分でもよくわからないんだけどさ」

 

「へえ、そうなんだ。あなたのそんな事、初めて聞いたな」

 

「これを話すのはクラウディアが初めてだからね。ライザに話すと揶揄われそうだし、リラさんに話をすると訓練つけられちゃいそうで」

 

「ふふ、そうかもね。……リラさんに話しちゃおうかな?」

 

「はは、勘弁してね?」

 

 くすくすと笑い合い、冗談を言いながら2人は歩んでいく。

 あなたにとってクラウディアという少女は良い意味で普通では無かった。あなたの周りにいる女性と言うと、じゃじゃ馬お転婆娘なライザに戦士や護り手という戦う女であるリラやキロやアガーテである。

 クラウディアの様なタイプの方があなたの中では普通ではなく珍しい女性であった。

 

「ね、あなたってよく私の事を護ろうとしてくれているよね。戦いの時も私に攻撃がいかないように引き付けてくれているし」

 

「ん、そうかなあ?」

 

 クラウディアがあなたの顔をのぞき込んできた。その顔は心配そうな困ったような彩りのある微笑みだった。

 おや? とあなたは目をぱちくりさせながらクラウディアを見つめ返す。

 

「絶対そう。……嬉しいのは勿論あるよ。でも、あなたが私のせいで傷つくんじゃないかと思うと心配で……」

 

「……ん」

 

 事実としてクラウディアの言う通りであった。あなたはクラウディアへ被害がいかないように敵を引き付けるている事が殆どだった。

 失礼な事と自覚してはいるが、何度もクラウディアと一緒に戦っては来たものの、どうしてもクラウディアが戦いの場にいるという事にあなたは場違い感を覚えてしまっていた。

 もちろん彼女が望んでいることとはわかってはいるのだが、せめてものの事として傷を少しでも減らそうと断ちまわってしまう。

 

「もう少し、私の事を信じて欲しいな。私もあなたやライザと一緒に冒険して強くなったんだから、一緒に戦えるよ」

 

「……はは、そうだね」

 

 そう言われてしまうとあなたとしてはぐうの音も出ない。

 確かに、クラウディアばかり気にしすぎているのは感じている。信じていないわけではないし、彼女のサポートスキルは非常にありがたい。あなたには出来ないことだ。しかし、当のクラウディアがあなたの立ち回りに窮屈を感じているのであれば……

 

「うん、わかったよクラウディア。その代わりといってはなんだけど、僕には出来ないことの手助けをもっと任せてもいい?」

 

「! うん、任せて! ……ふふ、あなたから頼られるの初めてかも」

 

「はは、そうかな。そんなことないと────! クラウディア、離れて!」

 

 和やかな会話の最中、不意に上空から感じた気配によりあなたは剣を構えて臨戦態勢を取る。あなたの言葉に一瞬呆けたクラウディアも、すぐに跳んであなたの後ろへ回った。

 空気を震わす圧倒的な存在感、天より飛来するそれはドラゴン。闇を裂くかの如き輝きを持つ光竜。

 

(また召喚されたのか────!?)

 

 クラウディアを背にその存在と相対するあなたの頬に一筋の汗が流れる。

 この光竜の存在はレントとタオから話を聞いてことがある。……が、話に聞いていたそれよりも圧倒的な強さを誇っているように思えた。

 正直なところ、自分とクラウディアだけでは勝てそうにない。自分一人であれば援軍が到着するまで、あるいは相手が飽きるまで粘ることは出来るであろうが、クラウディアと一緒となると……

 

「……クラウディア、アンペルさん達を呼んできてくれ」

 

「待って! 私も一緒に戦うわ! あなた一人で何て……!」

 

「……僕一人なら倒すのは出来ないけど、粘ることは出来る。その間にクラウディアが皆を呼んできてくれ。そうしないと、それこそ二人そろってドラゴンの餌だ……」

 

 それがあなたの下した結論だった。

 身軽く、素早いあなたであればドラゴンの攻撃を喰らわずに粘ることが出来る。しかし、ドラゴンがクラウディアへ狙いを定め続けた場合、そうはいかない。それならば、自分が引きつけている間に頼もしい仲間を呼んできてもらった方がずっと勝算があるという考えだ。

 その意図を読み取ったのだろう、クラウディアはギュッと口を結び、悔しそうな表情で静かにうなずいた。

 それを見たあなたは、ふっ、と笑った。

 

「信じてるよ、クラウディア。僕を助けてくれ」

 

「……わかった。絶対、生きてまた会おうね。ドラゴンの餌何て嫌だからね!」

 

 そう言ったクラウディアはあなたに背を向けて走り出した。ドラゴンがそちらの方へ首を向けようとするが、それより早くあなたが使った空を破る斬撃がドラゴンへ直撃した。

 

 ザンッ! と音が鳴り響いてドラゴンに直撃したその斬撃は、音に反してドラゴンの鱗の表面に傷をつけただけだった。しかし、矮小な人間に傷を付けられたのが気に食わなかったのだろう、ドラゴンは怒りの目であなたを睨んだ。

 

 ■■■■■■■──────!!!!!! 

 

 咆哮と共にドラゴンがあなたに狙いを定めて突進! 

 しかし、あなたは持ち前の身軽さでこれを躱す。地面との突撃音が周囲に響くが、ドラゴンはお構いなしに再度咆哮し、あなたを睨み付けた。

 

(とりあえずはよし……後は頼んだよ、クラウディア!)

 

 内心少しでも早くクラウディアが皆を呼んでくれることを祈りながら、あなたは剣をドラゴンの方へとむけた。

 

 

 

 

 

 

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……!」

 

 ドラゴンの咆哮が聞こえる。剣が空を切り裂く音が聞こえる。

 それらに背を向けてクラウディアは走り出した。彼にお願いされた助けを呼ぶために。一緒に戦うと言ったばかりなのに、と重い感情を抱えながら。

 クラウディアは既にリーゼ峡谷を出て、ライムウィックの丘へと到着しようとしていた。心に呼びかけてくる声と戦いながら。

 

(早くみんなを呼んでこないと……! 彼に頼まれたんだから!)

 

 ────ナニモデキナイカラニゲヨウトシテイルダケ

 

(違う! 彼に信じてもらったの! 私なら皆を呼んでこれるって!)

 

 ────オマエハアシデマトイダトイワレタンダ、ワカッテイルダロウ? 

 

(違う違う違う違う! そんなこと無い! 彼は私を信じてくれた! 信じて託してくれたの!)

 

 ────ホカノナカマダッタラ、ソノバニノコッテイッショニタタカッタンジャナイカ? 

 

(……そ、……そんなこと、無い……!)

 

 ────マアオマエナドドウデモイイ、オマエにトナリニタツコトナドデキナイ。アレハワタシガモラウ

 

(…………え?)

 

 そこで、クラウディアは足を止めた。

 先ほどまで、自分の暗い部分の心の声だと思っていた声は全く聞こえなくなった。

 当たりを見回すと既にライムウィックの丘であり、離れた位置に上空に浮かぶ光の竜が目に見えた。

 

(あれは、誰だったの……? “彼を貰う”って……)

 

 それは、嫌だ。

 ドラゴンと対峙した時以上の凍てつくような恐怖がクラウディアの全身を駆け巡る。

 

 

 

 クラウディアはずっと彼に助けられていた。

 森で魔物に襲われている所をまっさきに駆けつけてくれたのがライザ達の中でも彼だった。その背中はいまでもクラウディアの記憶に焼き付いている大事な思い出である。

 

『何とか間に合った。大丈夫、君は僕が守るから』

 

 彼から、かけられた言葉をクラウディアが忘れたことは無い。忘れられるはずもない、大切な思い出。

 

 クラウディアはそれからずっと彼のことを気にしていた。

 父親の事で悩んだ時も真っ先に彼に相談した、フルートの演奏も何度も聞いてもらった、リラとの稽古で疲れているときに差し入れもした。

 クラウディアはずっと彼の隣に立ちたかった。一緒に並んで、彼の見ている光景を感じていたかった。それぐらいには彼に好意を抱いていた。……初恋なのかもしれない、そう思うとクラウディアは頬を可愛らしく朱に染めて手で顔を覆って隠した。

 

 でも、それは叶う事がないだろうとクラウディアは諦めていた。

 彼の隣にはいつも幼馴染のライザがいた。彼が一番気にしているであろう剣の鍛錬ではリラが傍におり、それ以外も付き合いの長いアガーテがいる事が多かった。

 自分の立ち入る隙はないだろうと、クラウディアは寂しく微笑んでいた。だから、このひと夏の間、戦いの場だけでも隣に立ちたかった。

 なのに、それも出来ずに、仲間を呼ぶしかないクラウディアは忸怩たる思いを抱えていた。一緒に戦えると言って、何もできない自分を責めたてていた。

 

「彼が奪われる……?」

 

 口に出すと先ほど以上の恐怖がクラウディアを襲う。

 ライザだったら祝福しただろう、リラだったら諦めが付いて苦笑しただろう、アガーテだったら仕方ないとため息をついただろう。

 だが、見ず知らずの、誰かもわからぬ存在に彼が奪われるのだけは許せなかった。そんなのに嘲笑われるもの気に障った。

 

「私だって…………私だって!」

 

 クラウディアは決意してリーゼ峡谷へと引き換えした。

 隣に立って戦うと、自分だって隣に立てるんだと証明するために。それが過ちだとわかっていたのに。

 

 

 

 

 

 あなたと光竜の戦いは硬直状態だった。

 空を飛んでいる光竜にあなたの剣は直接届けられず、練度の低い空を破る斬撃では大したダメージを与えられない。

 一方で、光竜のブレスも突進もあなたに当たることは無く全て避ける。こちらもまたダメージはない。

 互角に見えるが、あなたは劣勢だった。何せあなたは一発もらえば倒れるのに対し、向こうを倒すには100を優に上回る数の攻撃をしなければならない。その上、回避には体力と神経も使うので、この状況をあなた一人ではひっくり返すことは出来なかった。しかし、光竜の方もまた、この状況から優位を押し通す決め手に欠けていた。

 

 ────そこへ、駆けてくる足音が小さくなった。

 

(! 誰だ!? アンペルさん達が来るにはまだ早いし、通りすがりと言うには明確にこちらに来ている。……まさか)

 

 視線だけわずかに光竜から反らし、足音の方向をあなたは確認する。

 仕立ての良い服に、優しい金色の髪をたなびかせながら、クラウディアが一人でこちらへと向かってきていた。

 

(クラウディア……! どうして!?)

 

 1人なのか。確かめたかったし、声に出して来るなと言いたかったが、それよりも早く光竜がクラウディアの存在へと気が付いた。

 光竜は嬉しそうに方向を上げるとクラウディアの方向へと顔を向け、口をバチバチと光らせた。

 その様子に青ざめたあなたはクラウディアの方へと急ぎ駆け出す。

 

「クラウディアッ、逃げろ! 僕なら大丈夫だから!」

 

「嫌! 私もあなたと一緒に戦う! それぐらいは私にもさせてよ! ライザだったら一緒に戦ってたでしょ!? 私だって!」

 

「クラウディア…………! 伏せて!」

 

 クラウディアの心に相当、苦しい思いをさせていたとようやく自覚したあなたは一瞬だけ呆けてしまった。

 その一瞬が命取りだった。光竜がまとめて消し去るかの如く雷光のブレスをあなた達へ向けて吐き出した。そのブレスは一直線にあなた達へと届き、あなた達は光に飲み込まれた

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……生きてる……?」

 

 周囲を飲み込む光が過ぎ去った後、クラウディアは意識を取り戻した。服装は誇りにまみれ、細かな傷こそ負ったものの、クラウディアは五体満足の状態であった。

 自身の無事過ぎる様子を訝しんだクラウディアは、はっ、として前を見上げた。

 そこには“彼”がいた。初めてであったときの様にクラウディアを背にして、守っていた。

 

 違いは────────全身に酷いやけどを負っていたのと、右手が消し飛んでいる事だった。

 

「あ、あ、あ…………」

 

 呆然とした声を出すクラウディアの目の前で“彼”が崩れ落ちた。

 クラウディアは慌てて彼を抱き抱える。

 

「しっかり! しっかりして……! お願い……」

 

 全身に追った火傷、消し飛んだ右腕、その辺に落ちた剣。

 それでもなお、彼は生きていた。か細く息をして、弱弱しく心臓を打って。

 ほっとしたのと同時に、クラウディアを後悔が襲う。

 あの時声に惑わされずに助けを呼びに行っていたら、自分がもっと強ければ、そもそも彼を誘わなければ……

 彼を抱きしめて後悔に襲われているクラウディアのすぐそばに光竜が舞い降りた。見下すようなご馳走を悦ぶかのような咆哮を上げ、クラウディアと彼に頭を向けた。

 

 ■■■■■■■■────────!!!!!!!! 

 

「…………さい」

 

 悪いのは自分だ、それは間違いない。だが、彼をこんなにしたのは誰だ? 

 

 目の前の爬虫類だ

 

「五月蠅いのよ、この蜥蜴……」

 

 クラウディアは落ちていた彼の剣を拾い、空を見上げる。

 この空からあの蜥蜴が来たのか、そう思うと青々とした空が憎い。この蜥蜴を呼ぶ装置を作ったクリント王国が憎い。そんな装置を作る原因となったフィルフサが憎い。フィルフサの住む異界が憎い……

 そのまま目線だけを光竜の方へ向け、全てを呪うかのような眼で睨み付けた。

 

 ■、■■■────

 

 その目に恐怖を覚えたのか、光竜はその巨体をすくめた。

 クラウディアはそんな光竜へと彼の剣を射抜くかのように向ける。

 

「逃がしもしない、ここで殺してやるわ…………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あなたが意識を取り戻したのはそれから数日後の事だった。

 気が付いたら自室におり、そして右腕が無いのと身体が動かないのを確認するとひどく落ち込んだ。

 そこで自室の扉が開く音がして、そちらへ顔を向けた。そこには幼馴染のライザがいた。

 

「良かった……意識が戻ったんだね……もう、心配したんだから!」

 

 眦を涙で光らせて注意するような言葉を投げかけるライザは微笑んでいた。あなたも連れられて、ゆっくりと微笑む。しかし、それどころではないことに気が付いた。

 

「クラウディアは!?」

 

「クラウディアは……うん、無事。……キミが守ったんでしょ」

 

「……何かあったの?」

 

 一瞬、言いづらそうに言葉に詰まったライザに剣呑な様子を感じたあなたはライザへと更に問いを投げるが、そこでライザは目を背けた。

 どうしたのだろう? と幼馴染の見たことない様子を考えていると、別の誰かがやってくる足音がした、そちらの方へ顔を向けた。

 そこにはクラウディアがいた。彼女はあなたを見ると嬉しそうに微笑んでいる。その微笑むはあなたの知るクラウディアのものであったが、それ以外に変わっているものがあった。

 

 特徴的だった金の長髪はライザと同程度までバッサリと斬りおとされていた。服装は貴女の中では仕立ての良い服を着ていたものが簡易的なプレートアーマーを着こんでいる。腰にはあなたの剣をぶら下げていた。

 

 クラウディアはあなたの近くにいるライザを見咎めると慌てた様子で駆け寄り、厳しい表情を作った。まるで怨敵に出会ったかのように。

 

「ライザ、ここで何しているの!?」

 

「いや、お見舞いに……そこで目を覚ましたから」

 

「五月蠅い! とっととどこかへ行って! 彼に近づかないで!」

 

 クラウディアがライザへかける言葉とは思えない言葉を口に出しているのにあなたは驚く。

 悲しそうな表情をしたライザは声を出さずに口を動かしてあなたに『あとで』と伝えると、無言であなたの自室を後にした。

 その様子を呆然とあなたは見送った。そのあなたの視線を遮るようにクラウディアは顔をのぞき込むとライザへの怒りを孕んだ表情であなたを心配していた。

 

「大丈夫だった!? ライザに何かされなかった!?」

 

「クラウディア、どうして……」

 

「だって! あのドラゴンを呼んだのはクリント王国のせいで、この島の人間はその子孫なんだよ!? ライザだって同じ、あなたに何するかわからないじゃない!」

 

 親友だったライザへの扱いに唖然とする。自分が気を失ってから何があったのだろうか。

 取りあえずあなたはクラウディアを落ち着かせようとする。

 

「はは、ライザがそんな事する訳……」

 

「そんな事わからないじゃない! クリント王国の薄汚い錬金術師と同じなんだよ!? あなたに危害を加えるかもしれないのに! ……ふふ、ライザ調合した薬のおかげで火傷が良くなったのよ。錬金術って凄いよね、後でライザにお礼言ってあげてね」

 

「クラウディア……?」

 

「ごめんね……お父さんがこの島に来なければあなたが傷つくことなかったんだよね。……ううん、私が生まれてこなければよかったんだよね……」

 

「クラウディア、それは違う! それだけは言っちゃだめだよ!」

 

「わかってる……ごめん、ごめんね……でも、私はあなたと一緒に生きたい。罪深いとは思うけど、せめてあなたを私に護らせて…………だから、ライザに近づいちゃダメ! 錬金術の材料にされちゃうかもしれないんだよ! タオとレントもクリント王国の末裔だし! アンペルさんも薄汚い錬金術師と同じだし! フィルフサなんかがいるところが故郷のリラさんも何するかわからない! 私が……私だけが傍にいるから!」

 

「…………」

 

 クラウディアの様子は尋常では無かった。

 ライザへの憎しみを窺えたと思えば、ライザを誇るかのように微笑み。自虐的に鳴きだしたかと思えば、突然周囲への憎しみを振りまく。一貫しているのはあなたへの感情のみ。

 結局あなたが起きた日はクラウディアに左手を取られ、そのまま一緒に過ごすことになってしまった。

 

 

 

 

 

『私たちがキミの元へ駆けつけた時、血まみれのクラウディアがいたの』

 

 クラウディアが一時的にあなたの傍を離れた後、こっそりと忍び込んできたライザがあなたへ事情を説明してくれた。

 ライザ達はたまたま近くの旅人からドラゴンの鳴き声を聞いたという話を聞き、その咆哮へと急行した。

 その現場で見たのは、首を切り裂かれ絶命したドラゴンと地面に倒れ伏すあなたとドラゴンの返り血で真っ赤に染まったクラウディアだったという。

 ライザ達が慌ててクラウディアとあなたに心配するとクラウディアはライザ達に剣を向けてこう言ったそうだ。

 

『彼に近寄らないで……! 薄汚い人たちが……!』

 

 クラウディアの出した言葉とは思えない言葉に呆然としていたらしいが、すぐにあなたの状態が危ないことを知るとライザは取りあえずの回復薬を渡した。すると、

 

「ありがとう、ありがとう、ライザ……あなたがいないと、助からなかったかも……ごめん、ごめんね……私のせいなのに何も出来なくて……」

 

 ライザの手を取って感謝の言葉を述べながら泣きだしてしまったらしい。クラウディアにも異常があることを知ったライザ達は島へ戻るように伝えると、取りあえずは皆で戻った。

 島へ戻ったクラウディアはやはりおかしかった。血に濡れた髪を仕方ないとはいえばっさり切り落とすと、鎧を身にまといあなたの剣を持つようになった。

 その後、あなたに近づくものを威嚇し、近くの魔物を全滅させる勢いで狩り、憎悪の言葉を吐き出したかに思えば、そんな事が無かったかのように友人の様に振舞った。

 アンペルさんの見立て手で極度のショックで精神が不安定な状態にあるだろうとの事らしく、クラウディアの安定のためあなたについていてほしいとの事だった。

 

 

 

 

 

「こんにちは! どう、そろそろベッドから起き上がれそう?」

 

「うん、体調も回復してきたしね。クラウディアは何してたの」

 

「私は、魔物を殺してた。万が一にもあなたに怪我があったらまずいのに島の護り手とか言う人達、あなたの事何も考えてなくて……あんな人達、いらないよね?」

 

「……はは、ところでクラウディア、フルート聞かせてもらってもいいかな? 今、何もできないからさ」

 

「! 任せて! ちょうど持って来てたの、あなたが聞きたいんじゃないかって……」

 

 そう言うと、クラウディアは持ってきたフルートの演奏を始めた。

 以前と同じような安らぎの音が奏でられる。フルートを演奏しているときのクラウディアは以前のクラウディアと同じだ。まだ不安定だけど、落ち着く可能性を見出すことが出来てあなたも心の内で安どのため息をついている。

 やがて演奏が終わるとクラウディアは底抜けに明るい表情をしてあなたに提案した。

 

「ねえ、もう少しすると私たちも島を離れなきゃならないんだけど、その時に私たちと一緒に来ない? 大丈夫、あなたの事はお父さんも認めているから」

 

「うーん、誘ってくれるのはありがたいんだけど……」

 

「そうだよね……お父さんがこの島に来たせいで、私のせいであなたが傷ついたんだもんね…… でもわかって! この島にいる方があなたは危険なんだよ! 薄汚いクリント王国の末裔に、色々な人達に迷惑を掛けた錬金術師だっている!だから、私と一緒にこの島を出ようよ! 大丈夫、あなたの事は私が守るから……命を懸けて守るから……だから、私にあなたを守らせて、私にはそれしか出来ないから…………ふふ、そう言えばあなたの使っていた剣技、私も出来るようになったんだよ、リラさんから「才能がある」って褒められちゃった」

 

「はは、そうなんだ。動けるようになったらクラウディアとも手合わせしたいな」

 

「ダメだよ! あなたは剣なんてもっちゃだめ! 私があなたの敵を全部殺すから、あなたの剣になるからあなたは私に守られていて! 大丈夫だから……ごめん、ごめんね……私があなたの剣を奪ったんだよね、それなのに、私、私…………そうだ、ライザに頼んで義手を作ってもらえないかな? アンペルさんの補助具も作ってたし、ライザなら…………ダメだよ! ライザの持ってきたものなんて使っちゃダメ! 何があるかわからないじゃない! あなたを傷つけるための物かもしれないのに! …………お願い、私に、私だけにあなた守らせて、ずっとあなたの傍にいさせて…………」

 

 笑って、泣いて、憎しんで、怒り散らして……

 表情をころころと変えて、少し前と言ったことがすぐに違ってしまうクラウディアを見てあなたはまだまだ時間がかかりそうだと実感した。

 それでもあなたはクラウディアに付き合うつもりだ。また、以前の様にこの少女と穏やかな時間を過ごしたいし、ライザ達と一緒に笑い合いたいから……

 彼女の心を護れなかったあなたの、それが責任の取り方だった。

 

「そうだ! あなたの身の回りのお世話も全部私がやるね、他の人信じられないから。ええと、ご飯に着替えに洗濯に……まずはトイレから、かな?」

 

 ……取りあえず、それは勘弁してください。

 




修羅ウディア。当初の予定ではもっとアレな感じになる予定だったけどマイルドになった。
無印の方は後2人かな。一応雑な伏線は入れてみたけど、どうなるやら。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。