ヤンデライザのアトリエ   作:現実逃避中

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現在ライザ2プレイ中。
8割9割オリキャラです、ご注意ください。


闇の大精霊

「皆、気を付けて!」

 

 ライザの声が響き渡ると、あなたとリラは目の前の相手に向かって己の武器を構えて駆け出した。

 レントは体力の少ないタオとクラウディアの盾となるかのように前に立ち、その後ろからクラウディアとタオが魔法攻撃を放つ。

 アンペルは敵の能力を下げ、ライザが味方の能力を補助し、さながら総力戦の様相を見せていた。

 その相手────闇の大精霊はあなた達7人をけだるげに肘をつきながら迎え撃っていた。

 

 

 

『みんないるようだな』

 

 事の発端は真剣な表情をしたアンペルがライザのアトリエに現れた時だった。

 ピオニール聖塔へ向かう途中……ライムウィックの丘にある遺跡に巨大な魔物が現れ、旅人を襲っているという話が噂になっているとアンペルは皆に伝えた。

 

『場所も場所だし、何か錬金術と関係があるかも知れないと考えてな。こうして話を持ってきたわけだ』

 

『うん、行ってみよう! あたしも気になるし』

 

 ライザが行くと言えばレントは腕試しにちょうどいいと乗り気になり、タオは渋々と了承する。リラとクラウディアも断る理由は無かった。しかし……

 

『ライムウィックの丘か……』

 

『何、渋い顔して? あ、もしかして、怖気づいちゃった~?』

 

 あなたが表情をしかめると、目ざとく反応したライザが口元に開いた手を当てながらニヤニヤと揶揄ってきた。

 そんなライザにあなたは苦笑し、首を横に振った。

 

『そういうわけじゃないんだけどね』

 

『あ、そういえば前にライムウィックの丘を通ると妙な感覚がする、って言ってたよね?』

 

 クラウディアは思い出したとばかりにぽんと手のひらを打って答える。その言葉にあなたは頷いた。

 ライムウィックの丘を通るたびに感じる奇妙な感覚。ライザの依頼もあって何度もリーゼ峡谷やピオニール聖塔へ錬金素材を集めに行ったが、あなたはそのたびにその感覚を感じていた。突如として現れた魔物とあなたの感覚が無関係とも関係しているともまだ言えないが。

 

『ふむ……? 今回の件と関係があるのか? まあ、無理にとは言わないがお前さんはどうする?』

 

『大丈夫だって! その魔物から変な感覚を感じてるなら、ぶっ飛ばして解決すればいいじゃねえか!』

 

『うーん無理はしない方がいいと思うけど……ぼくの意見を言わせてもらえば、君が来てくれると助かる。魔物を引き付けてくれるし……』

 

『ノヴィス、まさか行かないと言うつもりはないだろうな?』

 

 アンペルは普段とは違うあなたを気遣い、レントはにかっと笑いながら肩を叩いて彼なりに励まし、タオはあなたを心配しつつ必要性を述べ、リラは武器を構えていた。ライザは『平気だって!』と笑い、クラウディアは心配そうにあなたを見つめていた。

 そんな彼らを見渡したあなたは再度苦笑した。

 

『はは、関係があるにしろ無いにしろ放ってはおけないし、当然僕も行くよ』

 

 ────────そうしてあなた達はライムウィックの丘で大精霊と戦う事になったのであった。

 

 

 

 

 

 

 闇の大精霊の用いる力は強力だ。4つの属性と違い特定の防御手段が無い上、呪いやスキルを封印してくる。回復をしてくれるクラウディアやライザと同等に錬金アイテムを使いこなせるアンペルがいなければじり貧となって全滅していたかもしれない。

 レントとタオの息のあったコンビネーション攻撃が闇の大精霊の玉座を打ち砕き、地面へと投げ出された本体をリラの爪が切り裂いた。

 

「ライザ、魔法攻撃を!」

 

「任せて! 行っけ────!!」

 

 ライザはお手製のエターンセルフィアを闇の大精霊に向かって放つ。太陽の器ともいわれるその錬金アイテムは闇の大精霊に深い傷を与え、よろめかせる。

 

「! もらった!」

 

 それを好機ととらえたあなたは腰を深く落とし、相手に突き付けるように剣を一瞬構えたのち、突進と共に闇の大精霊の身体へと剣を突き刺した。

 剣が闇の大精霊の身体に深く突き刺さり、闇の大精霊は苦痛に身を震わせる。

 

【ニィ……】

 

「え?」

 

 しかし剣で身体を貫かれたはずの闇の大精霊はあなたをみて唇の端を上げて笑った。その笑みを見た瞬間、あなたはライムウィックの丘を通るたびに感じていた奇妙な感覚に襲われた。そして、その原因が目の前の存在であることを確信する。

 

「こいつが……!?」

 

【ハァッ……!】

 

「うわっ! ……ん?」

 

 闇の大精霊があなたへ向かって闇色の吐息を吐きかけた。あなたはその吐息を少し浴びてしまったが、バックステップで距離を取った。自身の身体の状態を確認するが、特に異常は感じられない。

 違和感を覚えて闇の大精霊の方を見ると、彼女は微笑みながら粒子となって消え去った。

 

「なんだったんだ……?」

 

 念のため周囲を警戒するが、数分経っても特に気配を感じなかった。あなた達は安堵のため息と共に肩をすくめた。

 

「……なかなか強かったね」

 

「強かったのはお前達だ、随分成長したな……ノヴィス、最後のアレはなんだ、不甲斐ない。戻ったら覚悟しておけよ」

 

「はは……」

 

 ライザが敵の強さの評を下すと、リラはライザ達(あなたを覗く)を強くなったと滅多に見せない笑顔で褒めたたえ、その後あなたを睨み付けた。あなたは苦笑するしかない。

 

「しかし、やはり錬金術には関係はあったようだな。採集地調合用のボトルを持っているとは」

 

 アンヘルは闇の大精霊が落としたボトルをライザへと渡しつつ言葉を述べた。

 採集地調合用のボトル────門外漢のあなたにはわからないがこれを使うと、異界とはまた違った異世界の様な場所に行け、錬金素材を集める事が出来るすぐれものだ。あなたもライザに付き合って何度か錬金素材を集めに行ったことがある。

 

「何か今まで見たボトルよりも力がある様な……? まあいいや、アトリエに戻ろう」

 

 ライザの鶴の一声で皆でアトリエに戻ることになった。道中、あなたはリラから小言を聞かされ、闇の大精霊から感じていた感覚について考える暇がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、さっそくトラベルボトル使おうよ!」

 

 アトリエに帰るなりライザは拾った採集地調合用のボトルを弄りまわしていた。それによるとやはり今まで以上の力を秘めており、採取できる錬金素材も今までの物とは比べ物にならないそうだ。

 レントとタオは一度クーケン島へ帰り、リラとアンペルは調べ物をすると言ってどこかへ出ていってしまった。そのためアトリエに残ったあなたとクラウディアにライザの白羽の矢が立った。

 

「僕は大丈夫だけど……」

 

「私も平気だよ。ふふ、どんなところかな」

 

「それじゃあ、レッツゴー!」

 

 あなた達の了解を得ると、ライザは目を輝かせて手を頭上へと掲げた。

 そんなライザのパワフルさにあなたとクラウディアは顔を見合わせて苦笑した。

 

 

 

 

 

「凄い! 普段の採集する素材よりも質がいい!」

 

 トラベルボトルの異界へやってきたライザは目を輝かせていた。あなたやクラウディアには良くわからないのだが、錬金術師は同じように見える素材であっても質の違いが一目でわかるらしい。

 今回使用したトラベルボトルは今までの物とは質が違う様でライザはご機嫌な様子で錬金素材の採集を早速行っていた。

 

「…………」

 

「……どうしたの? ここに来てから顔を顰めているけど」

 

 そんなライザとは対照的にトラベルボトルの異界に来た時からあなたは顔を顰めていた。あなたの様子に気が付いたクラウディアが心配そうに顔をのぞき込んでいる。

 このトラベルボトルの異界に来てからあなたはライムウィックの丘で感じていた妙な感覚と同じ感覚を受けていた。しかも、あの時よりも強く。

 

「いや……」

 

 クラウディアの心配に言葉少なく返すと、あなたは周囲へと気を張り巡らせた。

 もしかしたら、あの闇の大精霊と同じ存在が近くにいるかもしれないと考えていたからだ。しかし、目に映る範囲では魔物がウロウロしてはいるものの、それらしき存在が見当たらない。

 そのあなたの様子を心配そうに見守るクラウディアは自身の持つ長笛をぎゅっと握りしめて緊張していた。

 

「何してんのー? 早く来て採取手伝ってよ!」

 

「……はぁ……はは、行こうかクラウディア」

 

「……うん」

 

 そんなあなた達の様子を気にしていなかったライザが前方から手を振ってあなた達を呼ぶ。

 幼馴染のいつも通りの姿と、魔物がウロウロしているのに一人で先行している状況に、溜息と苦笑をしたあなたはクラウディアへ声をかけてライザの元へ歩み寄った。

 ライザのマイペースな様子に苦笑したクラウディアも肩の力を少し抜いて、あなたと連れ歩くようにライザの元へと近づいていった。

 

 

 

 

 

「よしよし。これだけあれば十分でしょ」

 

「はは、結構取ったね。クラウディアは大丈夫?」

 

「うん、大丈夫。ライザが何を錬金してくれるか楽しみだよ」

 

 錬金素材を採取し、魔物を蹴散らし、トラベルボトルの異界を探索を一通り終えたあなた達はトラベルボトルからライザのアトリエへの帰還ポイントへと来ていた。

 結局、妙な感覚は探索中はずっとあったものの、それらしき存在が姿を見せることなく採取は終わってしまった。

 

(気にしすぎだったかな……?)

 

 あなたはもう一度周囲を見渡すが、やはり特にそれらしき存在は見えなかった。

 流石に興奮が落ち着いたライザもあなたの様子に首をかしげていたが、気を取り直すように笑いかけた。

 

「ま、何にせよもう用は無いし、帰ろ帰ろ」

 

「ライザの言う通りだね。特になかったから気にしすぎだよ、きっと……」

 

「はは、そうかもね。それじゃ、帰ろ────────!!??」

 

 苦笑しながらライザとクラウディアに同意し、帰還ポイントから帰ろうとした瞬間だった。

 帰還の光に包まれるライザ達に対し、あなたの全身を闇が包み込んだ。

 闇はあなたの身体を拘束し、光に包まれるライザ達と分断する。

 

「しまった! これが、狙いだったのか……!」

 

「ウソ! キミ、手を伸ばして────」

 

 あなたを救おうと帰還の光に包まれながらもライザは手を伸ばした。あなたはライザの手を掴もうとするが、指先同士が触れ合いかと言った瞬間にライザ達の姿はトラベルボトルの異界より消え去った。

 残されたのは闇に包まれたあなたのみ。呆然とするあなたに声をかける存在がいた。

 

【待っていたぞ、この時を……】

 

「っ! お前は……!」

 

 先ほどまでいなかったハズの闇の大精霊があなたの後ろに存在していた。

 あなたは素早く距離を取ると剣を鞘から抜き出して構えを取った。

 そんなあなたを見た闇の大精霊は玉座に肘をつきながら、あなたを嘲る様に笑う。

 

【ほう、この前は7人がかりだったのに1人で私を倒せると?】

 

「やってみないとわからない質でね……ひとつ聞かせてくれ、今までどこにいた?」

 

 油断なく剣を構えながら闇の大精霊にあなたは問う。勝ち目が少ないのは明白であったが諦める選択肢は無かった。

 奇妙な感覚こそしていたものの、気配は感じなかったし、視界にもいなかった。地中から突然はい出たりというわけでも空から降ってきたわけでもあるまい。油断と隙を伺いつつ、あなたは闇の大精霊の出方を見た。

 その問いに闇の大精霊は、あなたの思惑を察したかのようにつまらなそうに答える。

 

【ずっとお前の中にいた。あの時の戦いで私の一部をお前の中に入れていた。その後、ここへお前が来た時に私が復活するため。あの錬金術師の小娘は役に立った、自分が何をしているか知らずにここへ来るお前たちは滑稽で見物だったよ】

 

 成程、とあなたは合点がいった。

 あの時に最後に吐きかけられた闇、それが彼女の一部分だった。そしてライザが錬金術師という事を見抜き、自身の復活させることが可能であるこのトラベルボトルの異界へ来るだろうと計画していたという事か。まんまと利用させてしまったと、あなたは口の端を苦々しく噛み締めた。

 

「随分喋るね……」

 

【なに、これから愉しみにしていた時間が始まるというのだ。その前のちょっとした戯れよ……その身に刻ませてやろう、私の真の強さを】

 

 闇の大精霊は徐に玉座から立ち上がると両手を上げて、そこへ魔力を集中させた。

 以前の戦いの時とは異なる強さに、あなたの背筋に冷汗が流れた。

 

【……行くぞ!】

 

「……!」

 

 闇の大精霊がチャージした魔力を解き放つ。大爆発と共に絶望的な戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ、ぐう……っ」

 

【くく、よく粘ったとほめてやろう】

 

 決着はついた。

 あなたは闇の大精霊の攻撃を回避し隙を見て反撃と粘ったものの、途中から闇の大精霊が攻撃方法を点への攻撃から面への攻撃と変更したため避けきることが出来ずダメージが蓄積して動きが鈍ったところへ、最大の一撃が入りあなたは紙屑の様にボロボロにされてしまい、愛用の剣は見るも無残に粉々だった。

 勝者の笑みを浮かべる闇の大精霊が、敗者となって地面に横たわるあなたを踏みづける。

 

「ぎ……っ!」

 

【くくく、ついにこの時が来たか……! 待ちわびたぞ……!】

 

「? ……何の事だ、っ!? がっ、あああああっっっ!!!」

 

 闇の大精霊があなたの右腕を指さすとそこから魔力の刃が出現し、あなたの右腕を斬りおとした。

 血が堰を切った様にながれはじめ、あなたは痛みに咆哮する。

 そんな痛みに悶えるあなたを見て闇の大精霊は恍惚の表情で微笑む。

 

【ああっ……! 素晴らしい、素晴らしい姿だ……! ふ、だがこのままでは死ぬな。人間とはもろいものよ……私からの贈り物だ、受け取るがいい】

 

「あああああっっっ!!! ……!? ……え?」

 

 闇の大精霊が切断された身体の面に手をかざすと、闇が集まった。

 闇は収縮し、綺麗な黒色の腕の形を取りながらあなたの新しい右腕となるべく癒着する。驚くことに新しい腕の感触と共に痛みが唐突に消え去った。

 驚くあなたは新しい黒の右腕の動きを確かめると、指示通りに動く。わけがわからず混乱するあなたに闇の大精霊は告げる。

 

【これから永遠に共にいるのだ、よろしくな……ククク】

 

「……残念だと思うけど、その前にライザが迎えに来るよ。彼女を舐めない方がいい」

 

【それはそれは、恐ろしいな。まあ、あの錬金術師に手を下すのは私ではないし、気にする必要は無いだろう】

 

「……?」

 

 あなたの忠告にも嘲る様な笑みと共に言葉を返した闇の大精霊は切り落としたあなたの右腕を抱えて玉座へと戻った。

 新しい黒い腕を手に入れさせられたあなたは怪訝な表情を浮かべたが、どうやらそれ以上は手を出してこないことが何となくわかり、己もライザ頼みはしていられないと脱出手段の探索を始めた。

 

 

 

 

 

「……おかしい」

 

 あなたが脱出手段を探して数時間が経過した。そのうちにあなたは違和感を覚え始めていた。

 身体が軽い、先ほどまで負った怪我が既に治っている、気苦労があるはずなのに全然疲れないし腹も減らない……

 

(これのせいか?)

 

 ちらり、と新しい黒い腕を見る。ドクンドクンと脈打つかのように蠢いていたが、それ以外はあなたの思い通りに動いている。

 何か仕掛けがあるのだろうと疑ってはいるが、今のところどうすることもできない。ライザやアンペルに早く見てもらった方が……と考えつつあなたは探索を続行しようとしたが

 

「眠い……」

 

 先ほどまで疲れすら無かったはずなのに、急激な眠気に襲われた。

 寝ている場合じゃない、と意気込むものの今まで経験したことのないほどの強烈な眠気。立つのも困難な程の眠気にあなたは流石に打ち勝てず、岩に寄りかかって眠ろうとする。

 

【膝を貸してやろう、感謝するといい】

 

 そこへ闇の大精霊が姿を現した。玉座を大地へと降ろし己の膝を叩いている。

 いつの間に、と思いつつも眠気で頭が回らない。せっかくの申し出にあなたは疑問を思うことなく、「ありがとう」とだけ返事をするとふらふらと惹かれるように闇の大精霊の膝へと頭を落とし、すぐに意識も手放した。

 闇の大精霊は男なら誘惑されてしまいそうな笑みと共に、あなたの頭を徐に撫でまわす

 

【くく、良い夢を……】

 

 

 

 

 

 

 あなたは夢を見ていた。子どものころの夢だ。今よりも背の低いあなたやライザとレントが川で水遊びをしている。

 パシャパシャと水をかけあう子どものあなた達。そんな昔のあなた達を見てあなたは懐かしいと微笑んだ。

 やがて肩で息を吐いたライザがある方向を見つめて呟いた。

 

『■■も来れればよかったのに』

 

 ……? あなたは首をかしげた。

 あなたとライザとレントの他に誰かいただろうか? 紫っぽい髪のあの島一番のお金持ちの子は子の時は……

 

(あれ……どうしたっけ、誰だったかな……?)

 

 少しの間仲違いしていた、友人の名が顔が思い出せない。ライザの言う■■とやらの事もさっぱりだ。何度考えてもそんな人物はいなかったようにしか思えない。

 

『まあまあ、あいつにも用事があるし、仕方ないってやつだよ。なあ、今度“男”同士で剣の稽古しようぜー』

 

『あーずるい……って剣の稽古ならあたしはいいや』

 

 …………男同士? 

 おかしな事を言う、レントは女の子のはずだ。凛々しい顔立ちの真紅の髪を腰まで伸ばした女のはずだ。目の前の赤毛が同じだけの少年がレント? そんなことは……ない、はずだ。だとしたら、この、少年は、いったい、誰なのだろう? 

 

 ズキン! と頭が痛んだ気がした。過去の光景がノイズの様な黒い嵐に段々と塗りつぶされて見えなくなっていく。思い出せなくなっていく。

 恐ろしいはずの、怒れるはずのその光景を、あなたは「まあ、それなら仕方ない」と妙に受け入れていた。忘れる事は誰だってあるのだ、忘れるという事は大したことのないことなのだ。と妙な納得をしながら。

 黒い嵐に完全に塗りつぶされたあなたの記憶は何も映していなかった。その時、あなたを誰かが優しく抱きしめた。

 

(誰だ……? 暖かくて気持ちいい……)

 

 誰かに抱きしめられたあなたは夢の中でもあなたは眠気に誘われて、心地よく眠りについていった。

 そんなあなたを祝福するかのように呪いをかけるかのように黒い右腕は脈動していた。

 

 

 

 

 

【目覚めたか】

 

「あ、おはようございます」

 

 どれくらい寝ていたのだろう。気が付けいた時は闇の大精霊がこちらをのぞき込んでいる所だった。

 あなたはゆっくりと身体を起こし、少しだけ伸びをする。やはり、身体の調子はいい様だ。この右腕のおかげだろう。

 

【良い夢は見れたか?】

 

 そう言えば、何かの夢を見た気がする。しかし思い出せない

 

【思い出せないという事は大したことのないことであるという証明だ、気にすることは無い】

 

 そうか、とあなたは妙に納得した。

 彼女の言う通り思い出せないのであまり大した夢ではないのだろうと、あなたはあまり気にすること無く闇の大精霊に微笑みかけながら首を横に振った。

 その様子を見た闇の大精霊は笑みを深くしてとても愉快気であった。

 

【今日はどうするのだ?】

 

「うーん、まあ剣の素振りでもしてゆっくり待つよ。どうも中からじゃ出られなさそうだし……って剣も無いんだっけ」

 

【それならば】

 

 闇の大精霊が天に手をかざし指で丸を描くと、その中から闇を凝縮した様な黒い剣が姿を現した。

 黒い剣はそのままあなたの目の前の地面に刺さり、その刃の切れ味を示した。

 あなたは闇の大精霊の方を見ると、彼女は、ふ、と笑ったのであなたはその剣を大地より引き抜いた。

 

「凄い……」

 

 あなたは思わず感嘆に息を吐いた。

 全身が黒でありながらもどこか美しいその剣。軽く握りしめるだけで込められている力が伝わってくる。今まで愛用していた反りの入った剣とは異なる直剣であるが握りもあなたにあっていて使いやすそうだ。

 軽く試しに振ってみると、びゅおん、と音を立てて空気を切り裂く。近くにあった岩へと剣を振るうと熱したナイフでバターを切るがごとく岩を両断した。

 

「いいのかい、こんないい剣を貰っても」

 

【構わぬ。これから共に永遠を過ごすのだ、それくらいの贈り物はしてしかるべきであろう】

 

「はは、どうだろうね……」

 

 闇の大精霊の言葉にあなたは苦笑した。

 いずれライザがここへ来るだろう。その時に“彼女”はどうするのか、抵抗するのか諦めるのか……出来れば穏便に解決してほしいとあなたは願って素振りを始めた。……あなたの考えている“彼女”がどちらを指しているのか特に考えぬまま。

 そのあなたの、敵だったはずの相手からの贈り物を全く疑わない様子を見て、思い出が浸食されているのに気を留めない様子を見て、闇の大精霊は口元を歪ませて声もなく笑った。

 

 

 

 

 

 ──────さらに数日が経過した。

 あれからあなたは闇の大精霊の膝枕で寝かせてもらうのが日課となっていた。彼女の膝は人間とは違ったひんやりを感じながらもどこか暖かみのあって心地の良い寝心地だった。彼女の厚意には感謝しかない。岩に寄りかかって寝るのは辛いだろうから。

 今日も今日とてあなたは夢を見る。だが、その夢の中であなたは闇の中を漂っているだけでおり、過去の風景や特定の人物が登場することは無かった。

 だがあなたは気にも留めなかった。漂う闇の中は暖かくて心地が良い。この闇さえあれば他の何もいらない。

 

(……そもそも、他に僕に何かあったっけ……)

 

 そうあなたが考えると、闇の一部に雑音が混じり、茶髪の髪の短い活発そうな少女の姿を映しだした。

 闇以外が写るのは珍しいとあなたはそちらへ視線を移すが、それが誰なのかわからない。見ていると何となく懐かしい気分にはなるのだが。

 

(ああ、そうだ……あれは、ライザ……そう、ライザリン・シュタウト……?)

 

 しかしあなたがその名前を思い出した瞬間、頭がぼんやりする。その後一瞬遅れてズキンと頭に何かが走ったかのように頭痛がした。

 っ! 、と顔を顰めて頭を横に軽く振る。痛みは一瞬のものであり既に消えていたが、思い出した名前も消えていた。

 それが少し悲しい、気もする。だが、思い出せないという事は大したことが無いのだろう。闇の大精霊もそう言っていた。

 

(そもそも、思い出すっていうのも変かな……? この闇以外は僕には無いわけだし……)

 

 闇の大精霊がそう言っていた、ここで見る夢は過去を移すのだと。であれば闇以外が写らぬ己の過去は闇以外が無かったのだろう。それに、この心地の良い闇以外の何が必要だというのか。何もいらない、何も必要ない。ただ闇があればいい。この心地の良い闇そのものの闇の大精霊と共にあればいい……

 

 ドクンドクンと取り付けられた右腕が、あなたの物となった黒き剣が脈打つ。そのたびにあなたの心身は闇に染まる。他の全てを奪い去りながら……

 

 

 

 

 

【ふふふ……】

 

 闇の大精霊は己の膝で穏やかに眠る彼の姿を見て狂気を孕む笑みを浮かべていた。

 

【これで、ようやく……ふふふ……】

 

 

 

 

 

 それは少しだけ前の話

 ある時、人間達がライムウィックの丘と呼ぶ場所で闇の大精霊は何かに惹かれるように意識を持っていかれた。この感覚に闇の大精霊は覚えがあった。愚かな人間が己を召喚しようとしているのだ。

 その時は闇の大精霊の身体はその場へ出現させることは出来なかったが、愚かな人間に対しる怒りに染まる意識だけでその場を見渡し、呼び出そうとしている愚か者を探した。

 そこには人間の一党がいた。どうやら己を呼び出そうとしているものとは違う様子だが……まあ、それはどうでもよい。その中にいる一人の男に闇の大精霊は目を奪われた。

 

(何という……馥郁たる魂……!)

 

 精霊殺しとでもいうべきか、精霊魅了の魂と言うべきか。恐ろしいほどの馥郁さ。他の精霊たちが彼の者の周囲に集まっているのも納得のモノ。

 ああ、と闇の大精霊も一瞬で魅了されてしまった。人間へ抱いていた怒りが霧散してしまうほどであった。身体があれば両手を頬に中てて恍惚に微笑んでいただろう。

 だが、闇の大精霊には気に入らぬことがあった。

 

(あれほど馥郁な魂を収めるのが、脆弱な人間の肉か……)

 

 気に食わなかった。

 人間の肉体如きにあの魂が収められていることも、その魂の持ち主が人間の少女へ笑いかけていることも。

 肉体があればすぐにあの人間どもを屠り、彼の者を己の手に収めるのだが……恐らくは召喚をしている装置か何かが機能不全を起こしているのだろう。闇の大精霊が望んでもその場へ向かう事が遅々として進まなかった。

 

(とはいえどうにも今は出来ぬか……まあよい、愉しみはとっておくことにしよう……)

 

 それからも彼らはライムウィックの丘へ何度も足を運んだ。性格にはその先にあるリーゼ峡谷やピオニール聖塔へ用があったのだが……

 そのたびに闇の大精霊は意識だけで彼の少年を垣間見た。その視線を受けていた少年は何かを感じていたようでしきりに周囲を警戒していた。それだけで闇の大精霊は己の頬が緩むのを抑えきれなくなった。

 そうやって彼がライムウィックの丘を通るたびに彼らを見ていた闇の大精霊はあることに気が付く。

 

(これは……悔しいが7人がかりで来られると、勝てぬかもしれぬ……)

 

 彼らは段々と強くなった。闇の大精霊が勝てぬと思うぐらいには。

 この己が人間ごときに後れを取るなどと……闇の大精霊は苦々しく臍を噛む。

 そうやって彼らを睨んでいるうちに……ある事に気が付いた。あの茶色の髪の少女、あれは錬金術師だ。今まで傲慢にも何度も己を呼び出して使役しようとしてきた愚かで忌々しき錬金術師だ。

 

(くくく、それならば良い手がある……錬金術師と言うのはどこまでも愚かな者だからな)

 

 かつて屠った錬金術師より頂いたあの道具、あれを利用させてもらおう。

 あの道具の行き先に己の力を蓄えて置き、彼の者へ己の闇の一部を吹きかけ、あの錬金術師が彼の者を連れて来たその時に……

 

 

 

 

 

【やはり錬金術師と言うのはどこまでも愚かよな……】

 

 まるで宝石を扱うかのように己の膝で眠る少年を闇の大精霊は優しく撫でる。

 全て己の作戦通りに行ったことに満足し、彼の者を手に入れたことに愉悦の笑みを浮かべる。

 右腕を斬りおとして己の魔力で作った腕を新しく付けさせることで心身を侵食させ、人間と言う器から脱却させる。そして、永遠に己のものとする。

 これほどの魂、肉体が滅びて転生でもしてしまったら次は出会えぬかもしれない。そんな事は許さぬ、永遠に己の手元で愛でてやろう。それが闇の大精霊の思惑だった。

 

【だが、脆弱な肉体に対して人の心とは存外強きものよ】

 

 闇の大精霊は不愉快気に表情を顰める。

 記憶はほとんど消えている、しかし最後まで消し去ることも出来ない。名前も覚えていないはずの仲間の記憶がいまだにこの少年にこびりついているのが気に食わない。

 で、あるのなら

 

【その心を壊してやるとしよう】

 

 闇の大精霊にとって必要なのは馥郁たる魂とそれを収める永遠の器のみ。心など必要は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助けに来たよ!」

 

 トラベルボトルの異界に活発そうな少女の声が緊張感を十分に孕んで響き渡った。その少女とは無論ライザである。ライザの他にクラウディアとリラも険しい表情で同行していた。

 

 ライザはあれから急いであなたの居る狭間を探し出していた。普通であれば困難なその作業を一日で終わらせたのは流石の才能と言えよう。……彼女が知る由もないが、この異界と外は時間の流れがずれており、外での一日はここでの数日間であった。それさえ知っていたら、あるいは違う準備をした結末もあったかもしれない。

 

【来たか……予想よりも速かったな】

 

「あんた……! そう、全部あんたの仕業だったのね!」

 

「ノヴィスめ、不甲斐ない……弟子の後始末は師匠の役目だ、片付けさせてもらおう」

 

「彼を返して!」

 

 三者とも玉座を浮かせて空にいる闇の大精霊に向けて己の武器を構え、敵意を向ける。

 その敵意を受け流し嘲笑う闇の大精霊は、ぱちん、と指を鳴らした。

 

【敵だ、鏖殺せよ】

 

 闇の大精霊の言葉と共にその陰から何者かが大地へ向けて飛び降りた。

 大地へと着したその人物は、脈動する人外の黒き腕を持ち、どこまでも黒き剣を殺意と共に敵へと向けるその者は────

 

「嘘、だよね……?」

 

「なんで、どうして……」

 

「どういうつもりだ……答えろ、ノヴィスゥっ!!」

 

 あなたは目に映る3人の敵へ向けて剣を構えた。

 彼女たちは、絶望、悲痛、憤怒の表情に顔を染めてあなたを見つめている。

 なぜ彼女たちがそのような表情をするのかわからなかった。身体の奥がズキンと痛んだ気がした。もしかしたら、彼女たちは己のことを知っているのかもしれないとすら考えた。

 

 だが、あの暖かくて心地の良い闇の体現者が言っていた。思い出せないことは大したことのないことだと。つまり、彼女たちは大したことのないもの、のはずだ。

 ドクン! と右腕が脈を打った。早く敵を殺せと喚いているかのようだ。愛剣もまた動じるかのように一瞬煌めいた。

 

「誰かは知らないが……斬らせてもらう」

 

 からん、と金髪の少女が手から武器を落としその場に崩れ落ちた。

 爪を構える女はますます憤怒を強めながらも傷ついた表情をしており、杖を持つ少女は現実から逃げるように呆然としていた。

 一方的な戦いになるだろうと、あなたは確信していた。だったら逃がしても構わないのかも────

 

【鏖殺せよ。奴らは私に、“闇”へ敵意を向けた。逃がす必要はない、ここで殺せ】

 

(ああ、そうだった……)

 

 危うく彼女たちに騙されるところだった。彼女たちはあの暖かくて心地の良い闇を奪おうとしていたのだ。許せるはずもなかった。

 殺意に敵意が乗り、あなたは女たちへと向けて闇を纏った斬撃を放った。身体の奥が壊れそうになるのを無視しながら……

 

「くっくっく……ははは……あーはっはっはっはっ!!!!」

 

 あなたの心が壊れ行くことに、五月蠅い蠅の様な人間たちの末路に闇の大精霊はどこまでも愉快気に残酷に笑った。

 




あと一人で取りあえず無印編は完結。
アトリエ2を書くとしたらいつになるやら。
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