ラブライブ! 虹ヶ咲Z   作:ベンジャー

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第4話 『愛とゴモラ』

とある山の中、そこには「古代怪獣 ゴモラ」という怪獣に見た目がそっくりで、そのゴモラが丸まったような状態の巨大な岩、通称「ゴモラ岩」と呼ばれるものがあり、その山の象徴的な存在として何時の時代からか昔から存在していた。

 

そして、これはそんなゴモラ岩のある山の、森の中で起こった数年前の出来事。

 

そこではまだ小学3年ほどだろうか・・・・・・?

 

それぐらいの歳の頃の、まだ幼かった時の愛が、ゴモラ岩の傍で友達と一緒に隠れん坊やら鬼ごっこやらをして遊んでいたのだ。

 

「じゃあ次、愛ちゃんの鬼だよ~!」

「よーっし、絶対見つけ出して、捕まえてやるんだからなぁ~!!」

 

鬼ごっこで鬼の役となった愛は、拳を握りしめながら気合いを入れ、友人達をタッチしようと追いかけ回していると・・・・・・不意に、突如としてとても大きな地響きが鳴りだし、愛や5、6人ほどいる彼女の友人達は突然起こった地震に驚き、恐怖した。

 

現在の愛ならば、地震が起こっても冷静に対処し、友人達にも適切な指示を送ったかもしれないだろうが今の彼女はまだまだ幼い子供だったこともあり、他の友人達と共に恐怖に震え、愛達はその場に蹲って早く地震が収まるのを願うしかなかった。

 

やがて地震が収まると、愛や彼女の友人達はほっと胸を撫で下ろして安心し、そこにいた誰かが「流石にもう帰ろうか」と提案してきたのだ。

 

地震のせいで、すっかりみんなもうこれ以上遊ぶ気になれなかった愛達は、その提案に頷き、今日は解散しようという流れとなり、みんなが帰路につこうとしたその時だった。

 

「あっ、愛ちゃん達危ない!!」

「へっ?」

 

先ほどの地震が原因か、山の一部が欠けて巨大な落石が起こったのだ。

 

「っ! 危ない!!」

「っ!? 愛ちゃん!?」

 

しかもその落石は、真っ直ぐ愛やすぐ傍にいた友人1人に向かって襲いかかり、愛は咄嗟に隣にいた友人を突き飛ばして庇い、愛は迫り来る岩に対して咄嗟に目を塞ぎ、自分の死を覚悟するが・・・・・・。

 

「っ!?」

 

その時、突然どこからか振るわれた・・・・・・まるで「怪獣の尻尾」のような先が鋭く、鞭のようなものが伸びて来て、その鞭は愛に迫って来ていた岩を「バコン!!」と大きな音を立てながら弾くと岩は粉々に砕け散り、愛は腰が抜けたように、その場に座り込むのだった。

 

「今のは・・・・・・」

 

愛は先ほど自分をまるで守ってくれたかのような鞭の先を目で追うと、そこにはゴモラ岩があり、さらにゴモラの顔をよく見れば薄らと目を開けているのが確認出来た。

 

つまり、愛を守ったあの鞭のようなものは「怪獣の尻尾のような」ものではなく、本当に怪獣の尻尾であり、ゴモラはその尻尾を使って落石で押し潰されそうになった愛を助けたのだ。

 

「あれって、本物の・・・・・・」

 

それと同時に、あの岩は「ゴモラそっくりの岩」ではなく、本当にゴモラそのものだったことが判明し、愛を守ったゴモラは自分の尻尾を元の位置に戻すと目を閉じて再び眠りに入るのだった。

 

「助けて、くれたんだ。 ゴモラが・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、現在・・・・・。

 

ストレイジ日本支部では。

 

「えっ!? 二号のロボの開発、ストップしちゃったんですか!?」

 

ストレイジの戦力強化のため、開発していた特空機二号が突如として一時停止を言い渡されたことをライはバコさんから聞かされ、彼はどうして急に開発が止まってしまったのかをバコさんに尋ねる。

 

「開発予算が止まっちまってなぁ。 今度の予算会議で長官に予算をぶんどって貰うよう頼んだんだがな・・・・・・」

「あー、成程。 お金の問題っすか」

「あっ、でもその代わりと言っちゃなんだが、お前が申請してた新兵器だけどセブンガーに搭載しておいたぞ」

 

それを聞いて、二号ロボの開発ストップの話を聞いて気落ちしている様子のライだったが、自分が提案していたセブンガーの新装備が採用された話を聞くや否や、「マジっすか!?」と一気にパアッと表情が明るくなり、ライは「よっしゃあ!!」とガッツポーズを決める。

 

「やっぱりロボットって言ったらこれっすよね! 流石バコさん! ロマンが分かるぅ~!!」

「あぁ、まあな。 でも気をつけろよ? 凄い威力だからな。 下手するとどこに飛んで行くか分からねえ」

「押忍!! 気をつけて使用させて頂きます!!」

 

ライはバコさんに頭を下げながらセブンガー用に新たに開発された武装を作ってくれたことにお礼を言うと、丁度その時、ストレイジ内全体に怪獣出現を知らせる警報が鳴り響いたのだ。

 

『伊豆原高原に怪獣出現! ストレイジに出動命令!』

『ライ、警報聞いたな?』

「あっ、隊長? 押忍!」

 

ライは持っていた通信機から倉名の声が聞こえ、返事を返すと倉名は今日はセブンガーにはライに乗って欲しいと申し出てきたのだ。

 

「えっ!? 今日、俺がセブンガーに・・・・・・!? でも・・・・・・」

『今日は薫子が風邪で休みなんだ。 そろそろ本格的にお前も実戦を経験しておくべきだろう。 それに、今日出現した怪獣は『冷凍怪獣 ギガス』。 璃奈が言うにはそこまで強い怪獣じゃないらしいし、お前が相手するには丁度良い相手だ』

 

さらに言えば、ギガスが出現した場所は人も少なければ建物も少ない場所で、せいぜい近くに観測所があるぐらいである。

 

と言っても、その観測所を壊させる訳にはいかない為、その辺りのことは絶対に気をつけて戦うようにと倉名はライに釘を刺しつつ、彼に出動を命じたのだった。

 

「押忍!! 赤間 ライ、セブンガーで出動させて頂きます!!」

『押忍じゃなくて了解な?』

「押忍!! あっ、いや、了解!!」

 

そしてライは倉名の指示を受けてセブンガーへと乗り込み、ギガスが出現した場所へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それからストレイジ基地から出撃したセブンガーは伊豆原高原に出現したというギガスの元に辿り着くと、このままギガスが真っ直ぐ進めば人のいる密集地に辿り着くため、セブンガーはそれを阻止するために、ギガスの前に立ち塞がる。

 

ギガスは自分の目の前に立ち塞がるセブンガーを見るや否や、即座に邪魔者だと感じ取ったのか、セブンガーに飛びかかるようにして拳を胸部に叩き込む。

 

「うおっ!? 先制攻撃とはやってくれたなこのゴリラ野郎!!」

 

それに対してセブンガーは仕返しとばかりに右手によるチョップをギガスの胸部に何度も叩きこんで大きく怯ませると、連続で左拳を放ってギガスに殴りかかる。

 

しかし、ギガスはそれをしゃがみ込んで躱すと、セブンガーの腹部に向かって頭突きを喰らわせる。

 

「グルアアアア!!!!」

 

そこからギガスはセブンガーに掴みかかると、今度はセブンガーの顔に頭突きを喰らわせることで、ライのいるコクピット内が大きく揺れた。

 

「ぐうう!? そこまで強くないって言ってたけど、まあまあやるじゃないっすかコイツ!? 離れろコラァ!!」

「グガアアア!!!?」

 

セブンガーは膝蹴りをギガスに喰らわせて引き離すと、すかさず右拳でギガスを殴りつけて吹き飛ばすことに成功し、ギガスは地面に倒れ込む。

 

「よし、トドメだ!! 早速新兵器、使わせて頂きます、バコさん!」

 

セブンガーが膝をつき右腕を前に出した態勢に入ると、起き上がってきたギガスに照準を合わせてターゲットをロックし、狙いを定める。

 

「男のロマンの必殺技!! セブンガー版ロケットパンチこと『硬芯鉄拳弾』!! 発射ぁ!!」

 

そしてセブンガーの右腕がライの言うようにロケットパンチの如く放たれる「硬芯鉄拳弾」がギガスに向かって繰り出され、それを受けたギガスは大きく吹き飛ばされ・・・・・・最終的に爆発四散して倒されるのだった。

 

「グウウウ、グルアアアアア!!!!?」

 

倉名に「気をつけろ」と忠告された観測所を諸共巻き込んで・・・・・・。

 

「おっしゃああ!!」

『・・・・・・オイ、ライ。 近くに観測所あるから気をつけろって言ったよなぁ・・・・・・!?』

 

基地のモニターから、戦いの様子を見ていた倉名の声が怒り半分、呆れ半分の声色で聞こえると、ライは「あっ」とうっかり観測所を巻き込んでギガスを爆発させたことに顔を青ざめさせ、頭を抱えるのだった。

 

 

 

 

 

 

「なんて為体なんだ!! 怪我人がいなかったから良かったものの、お前等は何かを壊さないと怪獣を倒せないのか!? あの観測所はな!! 国の大事な・・・・・・!!」

 

ストレイジ基地に戻ったライは、当然ながら今回、大きな人的被害を出すことなくギガスを倒したは良いものの、観測所を巻き込んで破壊したことについてクリヤマ長官からのお叱りを倉名と揃って受けており、ライと倉名は「申し訳ありません!!」と2人揃って激しく頭を下げてクリヤマに謝り倒していたのだった。

 

「来年から本格的にストレイジに加入するので、そろそろライにも実戦経験を・・・・・・と思った私の判断が間違っていました!」

「いや、隊長は俺を信頼して、俺に任せてくれたのに期待に応えられなかった俺のせいです!」

「この際、どっちかが悪いかの話ではないんだ!! もっと周りに気をつけろと言っているんだよ!!」

 

地団駄を踏みながら、クリヤマはライと倉名に何時も以上に怒鳴り散らしており、その様子を見ていた璃奈も今回の件に関しては何時も通りの無表情ではあったが、内心ではちょっとだけ彼女もライや倉名に滅多に怒ることのない彼女でも珍しくお冠だった。

 

(何してくれてるの、ホントに・・・・・・)

 

と言うのも、クリヤマが何時も以上に怒っているのは予算会議で2号ロボの予算を取ってくるために色々と根回ししていたらしいのだが、今回の件でまた保留になったらしく、また2号ロボの開発には璃奈も少なからず関わっており、完成も楽しみにしていたのに、それが遠のいてしまったことで彼女もちょっとばかり今回は怒っていたのだ。

 

「やべぇ、普段怒らないりなりーもちょっと怒ってるっぽいです(コソコソ」

「マジで? 無口なのが余計にこえーよ(コソコソ」

「2号ロボの完成を多分、1番楽しみにしてたからでしょうね(コソコソ」

 

璃奈までもがなんとなく怒っていることを察したライはコソコソと倉名にそのことを話し、璃奈が全く喋らず、ただこちらをジッと見ていることにライと倉名は恐怖を感じ、クリヤマからのお説教からも未だ解放されず、しばらく居心地の悪さを2人は感じ続けるしかないのであった。

 

「何コソコソ話してるんだコラ!? これで根回しが全部パーになったらどうするんだ!?」

「「も、申し訳ありませんでした!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日、虹ヶ咲学園のスクールアイドル同好会の部室にて。

 

一度は廃部同然の状態となったアイドル同好会だったが、せつ菜がスクールアイドルに復帰したのを皮切りに彼女等はちゃんと学校内にある新しい部室を手に入れることに成功し、部室では既に歩夢と侑、せつ菜、かすみ、別に部員でもないのに何故か入り浸っているライの姿がそこにはあったのだった。

 

そして、そのライはというと昨日の失敗を引きずっている為か、椅子に座りながら机の上で突っ伏し状態で「ハァ」と大きな溜め息を吐き出しており、侑やかすみからは「何しに来たんだお前?」とでも言いたげな視線を向けられていた。

 

「どうしたんですかライさん? あんなに落ち込んだ様子で・・・・・・」

「昨日、怪獣が現れたらしくて、何時もセブンガーに乗ってる先輩が風邪でお休みだったから、ライくんが出撃することになったらしいんだけど・・・・・・その時、何か重要な建物諸共怪獣を倒しちゃったみたいで・・・・・・」

 

何やら落ち込んでいる姿のライを見て、せつ菜は一体どうしたのだろうかと首を傾げていると、それを小声で歩夢が何があったのかを教え、仕事で失敗したのを気にしているのだと、彼女は簡潔にせつ菜へと説明。

 

「セブンガーに新装備として搭載されたロケットパンチに興奮しまくって、早く使ってみたかったばっかりに・・・・・・マジで調子乗りまくってたな、昨日の俺・・・・・」

「あのさ、仕事での失敗を反省するのは良いんだけどネガティブをここで広げるのやめてくれる?」

 

そんなライの落ち込む気持ちこそ理解できるものの、だからと言って部員でもないのにここでグチグチと反省されても困るし、何しに来たんだと、まさか自分達に励まして欲しいのかと侑は問いかけると、ライは首を横に振って「そういう訳ではない」と応えるのだった。

 

「いや、今日同好会の部室に来たのは、ほら・・・・・・侑と歩夢が言ってじゃないか? 今日は新しくなった部室の掃除をするって。 俺はそれを手伝おうと思って来たの」

「うん、手伝ってくれるのは有り難いんだけど・・・・・・ライの場合、せつ菜ちゃんに会いに来るたための口実にしか聞こえない」

「失礼だな!! 俺は歩夢や侑の為に普通に手伝おうと思って今日はここに来たんだぞ! そういう気持ちが全くない訳じゃないが!!」

 

ライは部室の掃除に手伝いに来ただけだと主張するが、侑からはそれってただ単に「せつ菜ちゃんに会いたかっただけなのでは?」と疑いの目を向けられたが、ライは今日はあくまで歩夢や侑のために普通に手伝いに来ただけだと改めて主張するのだが・・・・・・最後の言葉で色々と台無しになったことで「やっぱり本当はせつ菜に会うための建前なのでは?」と侑からツッコまれたのは言うまでもない。

 

尚、そんなライや侑の2人の会話を目の当たりで聞いていた当のせつ菜はというと・・・・・・照れているのか彼女は少々気恥ずかしそうにしており、けれどもどこか嬉しそうな表情を浮かべていてそんなせつ菜の姿を見てかすみは少々ニヤついた笑みを見せながら、せつ菜のすぐ傍に寄ると、彼女はボソッとせつ菜へと話しかけた。

 

「嬉しそうですね~、せつ菜せんぱ~い」

「ま、まぁ、そうですね・・・・・・。 目の前でファンだって言ってくれる人が、会いに来たかったと言ってくれるのは嬉しいものがあります」

(あれ、予想してた反応と違う・・・・・・)

 

かすみとしてはもっとこう・・・・・・顔を真っ赤にして慌てふためくせつ菜の姿が見たかったのだが、確かに照れてこそいるものの予想していた反応と違っていたために、彼女は少しばかり困惑したが、思えば当然かという考えに至るにはそう時間はかからなかった。

 

見たところ、せつ菜としてはライのことはただの一ファンぐらいにしか認識していないようであり、恐らく、せつ菜はライのことを異性として全く認識していないであろうことにかすみが気付くと、彼女はライに少しばかり同情してしまうのだった。

 

とは言っても、ライ自身が「ガチ恋勢」系のファンなのかどうかなのかはイマイチ、ハッキリしていないところもあったりするのだが。

 

その後、まだ来ていなかった同好会のメンバー、彼方やエマにしずく、そして時間を空けてやってきた倉名が少々遅れながら部室にやってきたことで、一同は部室の掃除を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、学校に設置してあるベンチに座りながら、愛と猫のはんぺんを膝に乗せた璃奈は2人揃って何かを思い悩んでいる様子で・・・・・・愛は空を見上げながら数日前に見たせつ菜のゲリラライブのことを思い返していた。

 

(屋上から聞こえる歌に、盛り上がってるみんなを見て・・・・・・自分も未知なる道にチャレンジしてみたいと・・・・・・そう思ったんだ!)

 

せつ菜のライブを見て、あの時感じた自分の気持ち・・・・・・それを思い返しながら、自分と同じように感銘を受けたという隣に座る璃奈に「どうする?」と尋ねると、彼女ははんぺんの背中を撫でながら「うーん・・・・・・」と小さく唸るだけで、上手く応えることが出来なかった。

 

「やってみる? 愛さんは、やってみたい!!」

「・・・・・・私も、やってみたい!」

 

少しばかり考え込んだ璃奈だったが、すぐに愛の問いかけへの答えを見つけると彼女も愛と同じ気持ちであることを言い放ち、愛はそんな璃奈の答えを聞くと嬉しそうに笑い、愛と璃奈の2人はベンチから立ち上がって「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」の部室へと歩いて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「とりゃあああ!!」

「負けませんよ先輩!」

 

場所は戻り、アイドル同好会の部室ではメンバーが全員揃ったこともあり、今は歩夢やエマ、倉名が箒で床の埃を掃いたところを侑とかすみが雑巾がけをしているところだった。

 

「・・・・・・あのさぁ、かすみん。 お前スカート履いたまま雑巾がけなんかしたらパンツ見えるぞ。 てか今ちょっと見えたぞ、ほう。 そういう色か」

 

そんな時、倉名がかすみがスカートを履いたままの状態で床を雑巾で拭いているのを見て、中が見えてしまうのではないかという不安を抱いた彼はそのことを彼女に警告するのだが、忠告を受けたかすみは顔を真っ赤にして慌てて立ち上がり、自身のスカートをギュッと強く左手で抑えながら右手に持っていた雑巾を倉名の顔面へと投げつけた。

 

「ぶふっ!? うわ、きたねっ!? 何すんだゴルラァ!!?」

「なに人のスカートの中覗いてんですかこの変態コーチ!!?」

「見えちまったもんはしょうがねえだろうが!? 見たくて見たんじゃねえよ! たまたまだ! むしろ早めに忠告しておいた俺に感謝しろ!!」

 

尚、一緒にかすみと雑巾がけをしていた侑はジャージのズボンを履いていたのでかすみのような心配は無く、一方でこの場にもう1人いる男性であるライはしずくと一緒に窓の方を拭いていたのであらかじめ倉名が忠告してくれたおかげもあって彼にも下着を見られてしまったなんて事態は起こらずに済んだ。

 

「スクールとは言え仮にもアイドルなんだ。 確かにこの場は女性ばっかりだが、異性もこの場にはいることは忘れんな。 いや、例えこの場が女性陣のみだとしてもそういうのは気をつけた方が良いだろう、アイドルとしての自覚があるなら」

「むぅ。 言ってることは確かに正しいんですが・・・・・・なんでしょう。 どこからか『お前が言っても説得力が無い』って声が聞こえてくる気がします」

 

するとそこへ部室で使用する椅子を貰いに行っていたせつ菜と彼方が戻ってくると、その時には大方の掃除作業が完了しており、彼方は綺麗になった部室を見て歓喜の声をあげるのだった。

 

「おぉ~、綺麗になったね~」

「取りあえず、こんなところかな?」

「まだですよ~! 最後にぃ~?」

 

大方の作業が完了した為、あとはテーブルや椅子を置いて設置するだけだと歩夢が言うのだが、かすみはまだ最後の作業が残っていると言い出し、テーブルや椅子を設置し終えた後、全員で一旦部室の外に出るとかすみは「スクールアイドル同好会」と書かれたプレートを部室の扉に掛けて、どこか満足げな様子で胸を張りながら嬉しそうにするのだった。

 

「むふふん♪」

「ようやく復活だね!」

「祝え! 新たなメンバーを加えて生まれ代わった新生スクールアイドル同好会の復活を!」

「なに言ってんだお前? あと、なんでせつ菜はライの隣で変なポーズ取ってんの?」

 

ライが急に同好会復活を祝いだし、その隣で何故かせつ菜が人差し指と親指を直角に立て、時計の針が三時を示す長針と短針を模したようなメインビジュアルや各種商品ではやってるのに本編では実は一度もやっていない感じのポーズを決めていたが、倉名達には当然それがなんなのかは分からなかった。

 

とは言っても、当人達がお互い息ピッタリなのは誰が見ても明白であり、せつ菜とライの2人は「イエーイ!」と仲良さそうにハイタッチしていた。

 

「まぁ、それよりも! それじゃ! スクールアイドル同好会始めまーす!!」

「やっほー!!」

 

かすみが心意気を新たに部活の開始を宣言したその直後、こちらに向かってライや歩夢、侑にせつ菜には聞き覚えのある声が聞こえ、声のした方に顔を向けるとそこには手を軽く振りながらこちらに璃奈と共に歩いてくる愛の姿が見えたのだ。

 

「もしかして、スクールアイドル同好会の人達!?」

「そうですが、お2人は確か・・・・・・」

(そう言えば、せつ菜ちゃんは菜々ちゃんフォームの時に愛とりなりーと会ったことあったな)

 

せつ菜が菜々の姿の時に、愛や璃奈と面識があったのを思い返すライ。

 

「情報処理学科2年! 宮下 愛だよ!」

「1年、天王寺 璃奈・・・・・・です」

 

元気よく自己紹介を行う愛と、彼女とは対照的に落ち着いた様子で歩夢達に自己紹介を行う璃奈。

 

「あっ」

「このあいだの・・・・・・」

 

そこで歩夢や侑も愛や璃奈のことを完全に思い出したようで、愛の方も歩夢や侑の存在に気付くと、愛は「おっ!」と感慨深そうに声をあげた。

 

「ってあれ!? なんでライいんの!? ハッ! もしかしてライもスクールアイドルやりたくなったとか!?」

「違うよ。 俺、歩夢や侑とは友達でさ。 だから俺はその手伝いに来ただけ」

 

ライが愛や璃奈に自分がここにいる理由を説明すると、今度は璃奈が倉名の存在に気付き、彼までもがここにいることに表情こそ変わらないものの、璃奈は驚き、彼女はなぜ倉名がこんなところにいるのか分からず、不思議そうに首を傾げる。

 

「ライさんだけじゃなくて、倉名隊長もいる・・・・・・?」

「えっ!? りなりーが手伝ってるって言う、あのストレイジの隊長さん!?」

「よっ。 初めまして? お前さんが璃奈がよく話してくれてる『愛さん』だな? 璃奈にはよく世話になってるよ。 ストレイジで隊長を務めていて、ここじゃ副業としてこいつ等のコーチを担当している倉名 武だ。 以後お見知りおきを」

 

倉名はペコリと軽く頭を下げながら愛に自分も自己紹介を行うと、愛は璃奈が自分のことをストレイジでよく話してると聞いて照れ臭そうな表情を浮かべた。

 

「ストレイジで私のことりなりーってばそんなによく話してるの? なんか照れるじゃん」

「うん。 確かに、よく話してる・・・・・・かも」

 

それから倉名は軽く璃奈にここでの副業のことを話した後、愛や璃奈が同好会へとやってきた理由を尋ねと、愛と璃奈はどうやら同好会に入部する為に、今日はここへとやってきたそうなのだ。

 

「それで実は愛さん達も~、この前の屋上ライブ見てなんかドキドキしてきちゃってさ~!」

「っ」

 

数日前に行ったせつ菜のゲリラライブ、それを目撃した時の衝撃を愛が語るとそれを受けたせつ菜は照れ臭そうに頬を赤く染め、そんな愛の感想を聞いた侑は唐突に彼女の両手を握りしめてきたのだ。

 

「分かるよ! ときめいたんだね!」

「うん! そうそう!」

 

自分もせつ菜のライブを見て感動した身である為、愛の語る言葉に共感を感じてか、侑はまるで自分と同じ仲間を見つけたかのように興奮した様子を見せる。

 

「・・・・・・本当に、凄かった」

「あ、ありがとうございます・・・・・・!」

 

愛や璃奈にライブのことを褒められて、思わず照れつつも褒めてくれた2人にお礼を述べるせつ菜。

 

「という訳で、2人とも入部希望です! って言いたいところなんだけど・・・・・・」

「隊長、ライさん、私・・・・・・ストレイジのこともあるけど、スクールアイドル、やってみたい。 良い・・・・・・かな? 勿論、これまで通りストレイジには顔も出します」

 

ただ、璃奈としては民間協力者とは言え、ストレイジの仕事にも関わっている自分が部活をしていても良いのだろうかという心配が彼女にはあり、璃奈は不安げな声でちゃんとストレイジの仕事とも両立させるので自分もスクールアイドルをやっても良いかとライや倉名に尋ねると、それを受けたライと倉名は互いに一瞬顔を見合わせる。

 

「勿論、良いに決まってる。 りなりーはあくまで民間協力者で、正式なストレイジメンバーって訳じゃないし、俺と違って仮入隊中って訳でも無い。 だからりなりーがやりたいって言うならやれば良い。 それで文句が言う奴がいるなら、俺が許さない。 それが例え隊長やクリヤマ長官だとしても」

「フン、偉そうに言うじゃねえか、ライ。 だが、ライの言う通りだ。 俺も文句はねえ。 好きにしな? それに、俺としては同好会のメンバーが増えるのは大歓迎だ」

 

ライも倉名も璃奈がスクールアイドルをやることに反対などしたりせず、むしろ大賛成といった感じで快く愛や璃奈の同好会の仲間入りをライや倉名、他のメンバー達も受け入れ、歓迎するのだった。

 

「あっ、でも薫子さんの意見を聞いてない・・・・・・」

 

しかし、璃奈はまだ薫子に相談できていないことを気にしていたのだが、その辺は倉名曰く、ワザワザ聞かなくても「問題は無いだろう」とのことだった。

 

「アイツにはワザワザ聞かなくても大丈夫だろ。 元スクールアイドルでもあるし、その辺理解がある筈だ」

「えっ、薫子先輩って元スクールアイドルだったんっすか!?」

「私もそれは初めて知った・・・・・・」

 

薫子が元スクールアイドルだったという事実を倉名から聞き、驚愕するライと璃奈だったが、倉名としては今はそれよりも愛と璃奈のことだと言って薫子のことは後日、話すことにして彼は改めて愛と璃奈の入部を歓迎する。

 

「まっ、とりまよろしく、新入部員さん達?」

「しかし、やっぱりホント凄いんだな、せつ菜ちゃん。 せつ菜ちゃんのライブを観た人が4人も入部希望者としてきてるし! 影響力ハンパないな・・・・・・」

 

愛や璃奈の入部が決まり、ライは歩夢や侑を含めるとせつ菜のライブを観てアイドル同好会に入部希望してきた人物が4人もいることに感心し、「やはりせつ菜ちゃんは最高オブ最高!」と言いながら彼はせつ菜のことを称えた。

 

「やめてくださいライさん、恥ずかしいです・・・・・・!」

 

そんな風に自分のことを称えられて悪い気こそしなかったものの、流石に璃奈や愛に褒められた後のこともあって少しばかり照れくささで押し潰されてしまいそうになるせつ菜。

 

「やるからにはバッチリ頑張るし、みんなのことも手伝うよー!! ところで、スクールアイドル同好会って、何するの?」

 

そしてガッツポーズをしながら、抱負のようなものを語る愛だったが、まだスクールアイドル同好会がどういう活動をしているのか明確に分からない彼女は歩夢達に部活内容を尋ねるのだが、それを尋ねられた一同は全員が困り顔となってしまう。

 

「えーっと、実は今、それを探しているところでして・・・・・・」

「・・・・・・んっ?」

 

 

 

 

 

 

「勿論、やりたいことはあるんですよ!!」

 

かすみは部室の「ライブがやりたい」と書かれたホワイトボードを手でバンッと力強く叩き、一同は今後の自分達の活動内容、方向性などについて色々と話し合うことに。

 

尚、部員では無いものの、第三者的な意見も取り入れたいというせつ菜の希望もあり、歩夢達の話し合いにはライも参加することとなった。

 

最も、倉名はライなら全面的にせつ菜の言葉に同意して彼女への贔屓が酷いのではないかという心配があったりしたが。

 

「スクールアイドルですから、やっぱりライブですよね!」

「結局まだやってないしねー」

「どんなライブにしたいか、意見を出し合いましょう!」

 

せつ菜がみんなに意見を求めると、先ずは早速かすみが元気よく手を挙げて自分がやってみたいと思うライブの案を出す。

 

「かすみん全国ツアーがやってみたいです!」

「そんな予算どこにあんだよ。 部費じゃ足りねえだろ」

「むぅ」

 

しかし、倉名が普通に考えて全国ツアーなんて無理だと言うと、気持ちに水を差されたかすみは不機嫌そうな顔となり、頬を膨らませる。

 

「でも規模を小さくすれば、似たようなことはできるのでは? 例えば、県内のみとか・・・・・・」

 

だが、そこでライが妥協案として全国ツアーは規模が大きすぎるので、その辺を狭めれば似たようなこと自体は出来るのではではないだろうかと発案し、それを受けたかすみは両腕を組んで考え込む。

 

「確かにそっちの方が現実的だとは思いますけど、うーん」

「私はみんなと輪になって踊りたいなー」

「曲の間にお芝居をやるのはどうでしょう!?」

「お昼寝タイムも欲しいなぁ~」

 

かすみがそのようにライの意見について考え込んでいると、そこからかすみに続くようにエマ、しずく、彼方がそれぞれ自分のやってみたいライブの演出について意見を出して行く。

 

「みんなの大好きを爆発させたいですね! 火薬もドーンッと派手に使って!!」

「おっ、それは派手で良いね! 火薬でドーンッと爆発させるの!! だって爆発は・・・・・・!」

「ロマンですからね!!」

 

せつ菜とライがそんな会話を交わすと、2人は握手と共に互いの拳を数回打ち合わせる何かの儀式のようなことを行い、そのような息ピッタリのライとせつ菜の動作に倉名は「お前等いつの間にそんな仲良くなったんだ?」と疑問を抱かずにはいられなかった。

 

「仲良いなお前等!? 息ピッタリじゃねえか!? いつの間にそんな・・・・・・」

 

確かライやせつ菜は2人ともアニメや漫画、特撮などが好きなオタクなキャラなので共通の趣味を持ってこそいるが、だかと言ってこの2人が会ったのはほんの数日前だった筈。

 

それなのにも関わらず、幾ら共通の趣味を持つからと言ってこんなにもすぐに打ち解けられるものなのだろうかという疑問が倉名の中で浮かび上がるが・・・・・・。

 

そもそも、ライもせつ菜も先ほども言ったようにお互いに似たような趣味を持っている者同士。

 

さらにせつ菜自身が抱えていた問題が解決したことで彼女にはしがらみが無くなり、そのことで元の明るい性格に戻ったこと、彼女からして見れば初めて自分と同じ趣味のアニメや特撮などについて語り合える友人が出来たこと、実はコアスフィアの事件解決後に遅い時間まで今期のアニメについてあの後遅くまで熱く互いに語り合っていたことなどから今ではもうスッカリと光の速さでこの2人は意気投合した為、ここまで息のあったやり取りを行うことが出来ていたのだ。

 

(まぁ、似たような趣味を持つ者同士、仲良くなんのは当然のことか。 ちょっと早すぎる気もするがな)

 

倉名も2人がここまで親しくなったのは同じ趣味を持つが故だろうと考えることに、取りあえず今はそれよりも今後の同好会のスクールアイドルとしての活動内容についての話し合いを優先すべきだろうと判断すると、その辺のことについて倉名は一旦置いておくことにするのだった。

 

「あーでも、せつ菜ちゃん、確かに爆発ドーンは俺も観たいけどさ、火薬の値段が幾らかは分かんないけど、多分そんな予算も無いだろうし、何より素人が火薬使ったりするのは危ないから煙が出たりするやつとかでそれっぽく見せた方が良いんじゃ無い? どうしても炎を出したいなら『CHASE!』の時に使う火柱程度にした方が良いかも」

 

ただライもライで推しのアイドルとは言え、全面的に肯定する訳ではなくしっかりと現実的な意見を出し、せつ菜も出来たら火薬を使いたかったのだが、確かにライの言う通り素人がそんなもの使って怪我でもしたら大変だと指摘された彼女は両腕を組んで悩ましいとでも言いたげな表情を浮かべるが、反論できる余地もなかったため「うーん。 それも、そうかもしれませんね・・・・・・」と彼の意見に同意し、やるならもっと危険性の少ないものでどうにか爆発の炎などに見せかけるしかないかと考えるのであった。

 

(あれ、なんか・・・・・・俺よりライの奴有能じゃね?)

 

そのように、ちゃんと現実的な意見を出しつつ、妥協案を提出し、一度は推しのアイドルと同じく「爆発はロマンだから良いね!」と共感こそしたものの完全に同意する訳でもなければ贔屓するようなこともライはせず・・・・・・。

 

てっきりライのことなのでせつ菜よいしょが酷くなるのではないだろうかと倉名は思ったのだが、彼の予想に反してライはそんなことにはならなかった。

 

むしろしっかりと自分よりも彼女等と上手くやれているのでは無いかと倉名は考え、本来自分が言うべき台詞をライが全部言ってしまってないか? 自分はなんのために彼女の等のコーチやってるのか? あれ、俺いらなくね? と少しばかり自分の役立たずっぷりに自己嫌悪に陥ってしまう倉名。

 

とは言っても、これは単にライが倉名以上にコミュ力が高いだけ、という部分が大きかっただけだったりするのだが。

 

ちなみにライはエマ、彼方、しずくの意見について特に言及するようなことはしなかったがそれはせつ菜やかすみに比べると実現させやすいものだったからだろう。

 

「私はもっと、可愛いのが良いな」

 

すると次に、今度は歩夢が控えめな感じで意見を出すと、その後もスクールアイドルについてまだあまり詳しく無い璃奈と愛以外のメンバーは次々と自分達のやってみたいライブの案を出していくのだが、まるで話が纏まらず、話し合いがただただヒートアップするのみ。

 

「白熱してる・・・・・・」

「みんな言ってること全然違うけど、凄いやる気だね・・・・・・」

 

しかし、一向に意見が纏まらなくとも、話し合いに白熱する歩夢達の姿を見て愛は感心の声をあげると、一同は一斉に愛の方へと視線を向ける。

 

「あれ? なんかマズいこと言った?」

「・・・・・・いえ」

 

急にみんなが静まりかえって自分に視線を向けて来たため、愛は何か変なことでも口走ってしまったのだろうかと不安になったが、別にそうではないとかすみがそれを否定。

 

「あはは。 因みに、2人はどう?」

 

侑はみんなそんな様子に苦笑しながら、愛や璃奈もどういう方向性でスクールアイドルをやりたいのかを訪ねると愛は両腕を組んで少しばかり悩む。

 

「うーん。 なんだろうねぇ・・・・・・。 兎に角、楽しいのが良いかな!」

 

そんな愛の答えを聞いて、どこかはっとなるエマ、しずく、かすみ。

 

「それは確かにそうだね」

「えぇ。 最初は人も集まらないかもしれませんがいつか沢山の人の前で歌えるようになりたいですね!」

 

そしてそんな愛の言葉に、歩夢が頷き、せつ菜はかすみの方に視線を向けながらそう言うと、彼女の視線に気付いたかすみは「コホン」と咳払いし、取りあえず今はライブのことは一旦置いておくことにして先ず最初にみんながやるべきことがあると彼女は一同に告げる。

 

「ライブのことは追々考えるとして・・・・・・。 先ずは、特訓です!! どんなライブにするにしてもパフォーマンスが素敵じゃなきゃファンががっかりしちゃいますからね!」

 

ビシッと一差し指をどこかに向けながらそう力強く言い放つかすみ。

 

「特訓って言うと、クレーンで振り回す鉄球に体当たりしたりとか?」

「1人の相手に7人がかりでリンチとかですか?」

「ジープで追い回されたりとか?」

 

「特訓」と聞いたライ、せつ菜、倉名は自分の頭に思い浮かんだ特訓内容をそれぞれ言葉にするとかすみはどんな特訓だと3人が想像する特訓内容についてドン引きしながらツッコミを入れる。

 

「そんな訳ないでしょ!? なんで3人揃ってそんな恐ろしい特訓内容が頭に思い浮かぶんですか!? それスクールアイドルの特訓に必要ないでしょ!?」

「かすみさんの言う特訓って、やっぱり歌にダンスとか?」

 

そこでしずくがかすみの言うスクールアイドルの特訓と言えばやはり歌やダンスなどではないだろうかと言うと、かすみは力強くコクコクと頷く。

 

「なら、私は先ず歌の練習がしたいなぁ」

「だったら、しばらくの間グループに分かれてやりたい練習をするのはどうかな?」

 

歩夢が先ずは自分は歌の練習がしたいと言い出すと、そこでエマがそれならいくつかのグループに分かれてやった方が効率など色々と良いのでは無いだろうかとアイディアを出し、それにはせつ菜も「良いアイディアですね」と頷く。

 

「私達全部のグループに参加しても良い!?」

「勿論です!」

 

するとそこで愛が椅子から身を乗り出しながら右手を挙げ、好奇心旺盛な彼女は自分と璃奈は全部のグループを廻っても良いだろうかとせつ菜に尋ねると、彼女は勿論構わないと快く承諾。

 

「すっごく楽しみ! ねっ?」

「うん」

 

そして愛が璃奈にそう話を振ると、話を振られた璃奈も無表情ながらも内心愛の言う通り楽しみにしている彼女はコクリと頷くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそれから一同は3つのグループに別れ、愛と璃奈は先ずは彼方、エマ、それとなぜか来ていた果林と共にダンスの特訓を行うこととなり、ライや倉名などはその手伝いなどを行うことに。

 

「ってかなんで果林いんの? 部外者でしょ?」

「別に、ただ単にエマに身体を柔らかくするための方法教えてって頼まれたから、来ただけよ。 それとライ、その言葉、そっくりそのまま返してやるわよ?」

 

ライは自分が言えた義理ではないが、なんで部外者の筈の果林がここにいるのだろうかと疑問を口にすると、果林曰くエマに手伝いを頼まれたからやってきたらしい。

 

「おおぉぉぉ~!!?」

 

それから、果林の手も借りて一同はダンスの特訓を始めることとなり、先ずは身体を柔らかくするためにマットを敷き、その上で両足を広げて上体を前屈みに倒れ込ませるというストレッチ的なことをすることとなったのだが・・・・・・。

 

彼方は顔を真っ赤にしながら必死に上体を前に倒そうとするのだが、身体が硬いせいかあまり曲がらず・・・・・・。

 

「もっと行けそうね」

「無理無理無理ぃ~!!?」

 

しかし、果林はそのように無理と嘆く彼方の言葉を聞き入れず、彼女は容赦なく彼方の背中をさらに押すことで彼女の身体を曲げさせる。

 

(今彼方さんの背中から『グギィ!』って変な音聞こえた気がしたんだけど気のせいかな・・・・・・)

「おおぉぉぉ~!」

 

尚、彼方と同じようにエマに背中を押して貰いながら璃奈も彼女と同じ身体を曲げるストレッチをしていたのだが、背骨に鉄でも入ってんのかと言いたくなるくらいに璃奈の背中は彼方以上に曲がっていなかった。

 

「・・・・・・それが限界・・・・・・?」

「そう見たい」

 

エマはそんな全く背中が曲がらない璃奈に思わず苦笑し、人通りの作業が終わると彼方と璃奈はマットの上でぐったりと倒れ込んでしまうのだった。

 

「りなりーは背中の骨にアダマンチウムでも入れてんの?」

「アダマンチウム入ってても背中は曲がると思うよ、ライさん。 仮に入ってたとしてもヒーリングファクターが無いと私今頃死んでる」

「ダンスをやるなら、先ずは身体を柔らかくしなきゃ。 果林ちゃんに教えて貰えて良かったよ~!」

 

ライと璃奈がなんだかよく分からない会話をしていたが、それは取りあえず置いておくとしてエマはわざわざ果林が自分達のために来てくれたことに感謝の意を示し、別に時間はあるので構わないと返す果林。

 

「まぁ、時間があるから良いけど。 さっ、続けるわよ?」

 

直後、果林は彼方と璃奈に続きをやると言うと2人とも「えっ」とでも言いたげな様子で慌てて起き上がり、まだやるのかと顔を青ざめさせた。

 

「彼方ちゃん壊れちゃうよ~」

 

不満を漏らす彼方だが、すぐさま隣から「大丈夫だよ!」と言う愛の声が聞こえ、彼方や璃奈が愛の方へと顔を向けるとそこには両足をほぼ横に水平に伸ばし、上体を前屈みに綺麗に倒している愛の姿があり、それを見た全員から「おぉ~」という感心の声が上がった。

 

「よっと。 じゃあ、もう1回やってみようか! ライもちょっと手伝って!」

「えっ、俺も?」

「うん、だってライもこれぐらいできるでしょ?」

「・・・・・・まぁ、一応できるけど」

 

愛は今の姿勢をやめて立ち上がると、今度は自分が手伝うのでもう1度やってみて欲しいと彼方や璃奈に言うと、彼女等2人は愛に言われた通り再びマットの上で両足をなるべく左右に広げ、愛は彼方、ライは璃奈の背中にそっと手を添える。

 

「それじゃ2人とも、先ずは息を大きく吸って」

「そうそう、次は息をゆっくり吐いて~」

 

ライの言われた通り、彼方と璃奈が大きく息を吸うと、今度は愛の言葉で2人は吸い込んだ息をゆっくりと吐き出し、それと同時にライと愛は「せーの!」とタイミングを合わせて同時に2人の背中を押す。

 

すると先ほどよりも滑らかに2人の上体が倒れ、ほんの少しではあるが愛やライの言われた通りに行ったことで身体が僅かに前の方へと曲がったのだ。

 

「「あっ」」

 

そのことに彼方や璃奈も先ほどよりも自分の身体が前に倒れたことに気付き、2人は驚いた様子でライや愛の方へと視線を向ける。

 

「どう?ちょっとでも出来るようになると楽しくない? 続けて行けば、もっと柔らかくなっていくし!」

「塵も積もればってやつだな」

「うん、頑張る」

 

ライや愛のアドバイスを受けたおかげか、璃奈も彼方もどうやらやる気に火はついたようだった。

 

「流石部室棟のヒーローねぇ」

「ヒーロー?」

「知らないの? 彼女、色んな体育会系の部活で助っ人として活躍してて結構有名なのよ?」

「そうなんだぁ~」

 

果林が呟いた言葉に、エマが首を傾げると彼女は愛が様々な部活で活躍していることを説明し、そんな愛の活躍っぷりから虹ヶ咲学園内では彼女のことを「部室棟のヒーロー」と呼ぶ生徒が多いのだという。

 

「えっ、愛ってそんな風に呼ばれてんの!? 良いなぁ、カッコイイなぁ! 俺もそんな風に呼ばれたい!!」

 

また果林の話を聞いたライは愛がそのように呼ばれていることをエマと同じように今知ったようで彼は愛の呼び名がカッコイイと評して自分もそんな風に誰かに呼ばれたいと羨ましがる。

 

「そう言えば彼方ちゃん、てっきり果林ちゃんも同好会入るのかと思ってたよー」

 

しかし、そんな風に愛の呼び名に羨ましがるライのことは無視して彼方が前回から厳しくも現実的な意見を出して色々と同好会復活のために協力してくれたことから、彼女は果林もこのままの勢いで同好会に入部するのではないかと考えていたのだが、果林としてはただ親友であるエマを助けたかっただけで別に同好会に入るつもりはないらしい。

 

「そんな訳ないでしょ? 私はエマの悲しむ顔が見たくなかっただけよ」

「「「「へぇ~?」」」」

 

だが、そう語る果林にライ、彼方、愛、倉名の4人は「本当にそれだけ?」とでも言いたげなジトッとした視線を向け、そんな4人の視線に少しばかり圧される果林。

 

「な、なによ!?」

「なんというイケメン台詞。 俺が女ならキュンッとくるやつだわ。 嫌いじゃないわ! 一度でも良いから俺もそんな台詞言ってみたいよ」

「ライが今の果林の台詞言っても多分誰もキュンッときめいたりしないと思う」

「むしろお前が言うと似合わなすぎて気持ち悪い」

 

自分も一度で良いから果林みたいにカッコイイ台詞言ってみたいと言うライだったが、ライがやっても誰もときめかないだろう愛に言われてしまい、それに続くように発された倉名の言葉を受けて、ライは「酷くないっすか!?」と嘆くのだった。

 

そしてエマはそんなライ、倉名、愛のやり取りを「あははは」と微笑ましく見守りながら、果林に手助けをしてくれたことに対して彼女はお礼を述べる。

 

「ありがとう、果林ちゃん」

「っ! 別に、良いわよ・・・・・・」

 

そして、お礼を言われた果林は頬を赤くしながらエマから顔を逸らすようにそっぽを向くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続いて、愛、ライ、璃奈、倉名が移動し、やってきたのはかすみとしずくのいる部室であり、そこではかすみと倉名によるスクールアイドルについての講義が行われることとなっていた。

 

「オッホン!! これより、講義を始めます!!」

 

ライ、愛、しずく、璃奈の4人は体育座りでその講義を聴くこととなり、どこから持って来たのか、メガネをかけたかすみが教鞭をスクールアイドル害論・・・・・・ではなく「スクールアイドル概論」と書かれたホワイトボードにビシッと突きつけながら、彼女は講義の開始をライ達へと告げるのだった。

 

「おー!! 面白そう!!」

「こういう話聞けるの、スクールアイドル好きとしてはレアだから楽しみ!!」

 

それに対し、ライや愛はワクワクした様子を見せるのだが、それよりもしずくはかすみのあのどこかで見覚えのあるメガネは一体どこから持って来たのだろうかという疑問の方が今は気になり、「そのメガネどうしたの?」と尋ねると、なんでもかすみ曰く、せつ菜からお借りして来たらしい。

 

「せつ菜先輩から借りました!! 無断で・・・・・・」

「絶対怒られるよ!?」

 

胸を張ってメガネをクイッと動かしながら、メガネの詳細を語るかすみだが、後でせつ菜に怒られないかと心配するしずくだが、かすみは特に気にせず、話をそのまま強引に押し勧めてしまう。

 

「話の腰を折らない!!」

(あとでせつ菜の奴にチクッといてやろう)

 

尚、このことは後でせつ菜にチクりに行こうと思う倉名だった。

 

「はい桜坂くん!!」

「っ!?」

 

そんな時、急に名指しで教鞭を向けられながら呼ばれたことでしずくは僅かにビクリと肩を震わせ、かすみはしずくに対してとある質問を投げかけたのだ。

 

「スクールアイドルには何が必要なのか答えなさい!!」

 

突然質問を投げかけられはしたが、すぐにしずくはその質問についての答えを少しだけ考え込む。

 

「えーっと、自分の気持ちを表現すること?」

「正解!」

「あっ、正解なんだ・・・・・・」

 

取りあえず、パッと思い浮かんだ答えをしずくが言うと、かすみは笑みを浮かべて正解だと述べ、彼女は今度は璃奈に対しても同じ質問を投げかけてみる。

 

「天王寺くんにも同じ質問です! 答えをどうぞ!」

「・・・・・・うーん、ファンの人と、気持ちを繋げること・・・・・・?」

 

しずくの時と全く同じ質問を投げかけられた璃奈は、戸惑いながらもそのように回答をすると、それに対してまだスクールアイドルについてそこまで詳しい訳ではない彼女がそう答えられたことに感心したのか、倉名は「おっ?」という声が思わず口から漏れた。

 

「せいかーい!!」

「1つじゃないんだ・・・・・・」

「当然だろ、しずく。 誰も答えが1つだなんて言っちゃいないぜ? という訳で、愛。 しずくや璃奈とはまた違う答えを、今度はお前が言ってみろ」

 

回答が1つじゃないことに指摘を入れたしずくだったが、すかさず倉名が誰も答えが1つなんて言っていないということを教えると、今度は愛にかすみの出した質問について答えるように言うと、問題を投げかけられた愛は少しばかり考えた後、結局しずくや璃奈ほどすぐに出る答えが出なかった為、彼女は思わず苦笑いを浮かべてしまった。

 

「ごめーん! 分かんないや!」

「ピンポンピンポーン!! それも正解!」

「「えっ、なんで!?」」

 

しかし、愛の「分からない」という答えも正解だと告げるかすみにしずくやライはなんでそれが正解になるのかという疑問を抱かずにはいられなかった。

 

「あっれ~!? ライ先輩はともかく、しず子ぉ? 分からないんですかぁ?」

(うわ、めっちゃベクターみてぇな煽り口調・・・・・・)

「むぅ!」

 

某カードゲームアニメの真ゲスみたいな煽り口調(あちらに比べたらかすみは可愛いげがあるが)にしずくは頬を膨らませてムッと可愛らしく唸る。

 

「今の質問にはハッキリした答えなんてないんです! ファンの皆さんに喜んで貰えることなら、どれも正解ってことです!」

「へぇー! 奥が深いんだねー!!」

「確かに。 愛の言う通り、俺が想像してる以上にスクールアイドルって奥が深いんだなって思ったな。 俺、ただのスクールアイドルの1ファンでしか無いけど、今日かすみちゃんの話が聞けてスクールアイドルについての理解が深められてスゲー嬉しいよ!」

 

そんなかすみの話を聞いて、スクールアイドルの奥の深さについて愛は感心し、ライはその奥の深さを知れたことに嬉しさを感じ、かすみに色々と教えて貰えたことを感謝するのだった。

 

「最後に、スクールアイドルをこれからやって行くお前等について俺からの教えだ」

 

すると、今度は倉名が愛達にそう語りかけると、アイドルとして大切なことを1つだけ教えると告げ、彼は一差し指をビシッとどこかに向けながら、ある言葉を彼女等へと贈る。

 

「えっ、隊長どこ指差してんすか?」

「アイドルってのは、笑顔を見せる仕事じゃねえ。 笑顔にさせる仕事なんだ」

 

ライの言葉を無視しながら、倉名が愛達にその言葉を教えると、彼女は「おぉ~!」と感心の声をあげ、倉名は「それをスクールアイドルをやるなら忘れんな」と最後に言うと、愛達は元気よく「はい!!」と返事を返し、頷くのだった。

 

「隊長のその台詞超カッコイイっすね!」

「まっ、つってもある奴の受け売りだから・・・・・・俺自身の言葉って訳じゃねえんだがな」

「へぇー、誰っすかそんな名言言った人?」

 

倉名の今の台詞が凄くかっこ良かったと評してくれるライであったが、これは別に持論などで思いついた言葉などではなく、倉名曰く今の言葉はただの受け売りだそうで・・・・・・ライはそんな名言一体誰が残したのだろうかと気になったのだが、倉名は「さぁな」と答えをぼかしたのだ。

 

「そいつとはあんまり関わり合いがなかったもんでな。 だが、かすみんとよく似てる奴だったのは覚えてる」

「えっ、私ですか?」

「あぁ、そいつもかすみんと同じアイドルに対する情熱が強い奴だったよ」

 

そんな倉名の言葉を聞いて、かすみはあんな言葉を残し、倉名がこうやって教えてくれるくらいなのだから、さぞかし凄い人だったのだろうと彼女は考え、それが自分と似てると言われることについて彼女は悪い気はしないのだった。

 

「まっ、取りあえずは皆さん! これにて私と倉名先生の授業は終了です! ん~~~! 合格♡」

((あざとい・・・・・・!))

 

そして「合格♡」のところのポーズがあといと感じるライと倉名だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、倉名、ライ、愛、璃奈は移動して歩夢、侑、せつ菜のいる学園内に設置してあるレコーディングスタジオへと今度はやって来ることとなり、今は歩夢がマイクの前に立って歌の練習を行っているところだった。

 

「ふぅ、全然ダメだった~」

 

そこで歩夢の歌が終わると、彼女は思ったように歌うことが出来なかったと低めの自己評価を自分でつけ、そのことに歩夢は上手く歌えなかったことを少しばかり気にしてしまうが、侑達からはそんなことはないと励ましの言葉が贈られる。

 

「そんなことないって~!」

「えぇ、私も歩夢さんの歌声、大好きですよ! 当面の課題はリラックスして歌えるようになることですね!」

 

ただ、せつ菜自身が気になるところとしては確かに歩夢はしっかりと歌こそ歌えていたし、その点に関してはそこまでの問題はないのだが、少々肩に力が入りすぎており、身体が少々硬くなりすぎてしまっているという指摘を歩夢は受けてしまうのだった。

 

「はぁ、だよねぇ・・・・・・」

「可愛く歌えてたよ?」

「だな。 可愛らしかったぞ歩夢!」

 

せつ菜からの指摘を受けて、溜め息を吐いていた歩夢だったが、侑とライから「可愛かった」と褒められたことで歩夢は「そ、そう?」と照れ臭そうにしつつ、(特に侑から褒められて)嬉しそうな顔を彼女は見せる。

 

「でも、学校にこんなところがあるなんて知らなかったよ!」

「何個もある訳じゃないけどレコーディングスタジオっていうかこれカラオケルームだもんな。 ここ。 普通ないよ、カラオケルームなんて」

 

侑は虹ヶ咲学園にレコーディングスタジオなんて場所があるのを今日初めて知り、彼女と同じように今日この場所の存在を知ったライもこんなカラオケルームみたいな部屋が学園内にあることに2人は驚きを隠せない様子。

 

「映像系の学科や部活が使っている収録ブースですからね!」

「流石せつ菜ちゃん、立場上学園内のことはなんでも知ってるね」

 

せつ菜の正体が生徒会長「中川 菜々」であることを知っているライは、その立場的に学園内のことをなんでも知ってるんだなと感心。

 

「次はどなたが歌われますか?」

「せっつーの歌が聴きたーい!!」

 

せつ菜は曲を入れる機械を手に持ちながら、次は誰が歌うのかと尋ねると、愛がそれならば今度はせつ菜自身の曲が聴きたいと手を挙げるのだが、せつ菜はいきなり自分が「せっつー」と呼ばれたことに戸惑い、もしかして「せっつー」とは自分のことだろうかと自分を指差しながら不思議そうに首を傾げる。

 

「せっつー? 私のことですか?」

「うん! あ・だ・名!」

「良いな~、私は?」

 

するとそこで自分も愛にあだ名をつけて貰いたいのか、侑が自分にも何かあだ名ないのかと彼女に尋ねると、愛は即座に侑へのあだ名を思いつき、それを彼女に教える。

 

「ゆうゆ!」

(ゼットさんから聞いた、桜の勇者の人とあだ名が微妙に被ってるな・・・・・・)

 

ライは愛のつけた侑のあだ名に対し、そんなことを考えていたのだが、それよりもそう言えば自分に対してあだ名をつけられたことが一度も無いなと思い、彼は「そう言えばなんで俺にはあだ名ないの?」と尋ねると、愛が言うには良い感じのものが思いつかなかったらしい。

 

「ごめーん! ライのあだ名はちょっと思いつかなかくってさ~」

「えっと、それじゃあ私は?」

「あゆぴょん!」

 

そこで今度は歩夢が自分にも何かあだ名は無いのかと愛に尋ねると、彼女は「あゆぴょん!」というあだ名を歩夢に授けるのだが、それを受けた歩夢は顔を真っ赤にし、それだけはやめてと恥ずかしそうに拒否するのだった。

 

「っ~!! 『ぴょん』はやめてぇ~!」

 

可愛い。

 

「えぇ~!? 可愛いのに~」

 

侑は可愛らしいあだ名なのだから受け入れれば良いのにと少し残念がるが、歩夢はどうしてもそれだけは嫌なのでと嫌がるのでそのあだ名はお蔵入りすることに。

 

「あっ、ちなみに、折角だから倉名先生にもあだ名考えてみたよ! 『ラグナ』とかどう!? かっこいいでしょ!?」

「ぶふぉぉ!!? ゲホッ、ゲホッ!?」

 

ペットボトルのお茶を飲んでいた倉名は唐突に愛に「ラグナ」と呼ばれたせいか咳き込んで飲んでいたお茶を吹き出してしまい、ライはそんな倉名に呆れた視線を向けながら「何してんすか隊長?」とお茶で濡れた床をティッシュで拭くのだった。

 

「全くいきなりどうしたんすか隊長?」

「い、いや別に・・・・・・。 俺のあだ名超かっこ良すぎて驚いただけだ」

 

ラグ・・・・・・じゃなかった、倉名は「なんでそんなあだ名にしたんだ?」と愛の自分のあだ名の名付け方に疑問を感じつつも、彼は誤魔化すように折角愛からご指名があったのだからせつ菜に曲を入れる用に促し、それを受けたせつ菜は「分かりました!」と応えながら曲を入れる装置を手に持ち、自分の歌う曲を探していると彼女の目にある1つの曲名が目に止まった。

 

「こ、これは・・・・・・!」

「新しく始まったアニメのEDだよね?」

 

そんなせつ菜の反応を見て、彼女の隣に座っていた璃奈は気になってせつ菜の持つ装置の画面を覗いてみるとそこには自分も知っているアニメの曲名があり、璃奈がそのことについてせつ菜に話しかけると、一瞬にして彼女の表情がクワッと豹変し、鋭い目つきで璃奈の方へと視線を向ける。

 

「観てるんですか!? このシリーズを!?」

「うん、子供の頃からずっと観てる」

「おっ、これなら俺もずっと見続けてるよ! りなりーともよく一緒に話してるよなぁ!」

 

璃奈と同じように曲を入れる装置の画面をライも覗き込んでみると、どうやらそれはライも知っているアニメのシリーズのようで・・・・・・。

 

それを受けてか、せつ菜の同士を見つけたオタクの如く目が輝くと彼女はライ以外にもこの手の話が出来る相手が見つかったことがよほど嬉しかったのか、感激のあまり璃奈の両手を自分の両手を握りしめ、早口に前のシリーズの話をしだしたのだ。

 

「ううぅぅ~!! ライさんも璃奈さんも前のシリーズの第29話観ましたぁ!? 自分を犠牲にしてマグマに飛び込もうとしたジャッカルをコスモスが抱きしめるところ!!」

「激アツだった」

「分かる!! あの話はマジで神回だったよねせつ菜ちゃん!!」

「ですよねぇーーーー!!!!」

 

興奮のあまり椅子から立ち上がりながら、オタク特有の早口でライと璃奈にそのアニメの話題を次々と振っていくせつ菜。

 

「ライから事前に聞かされてはいたけど、せつ菜ちゃんアニメ好きなんだね」

 

しかし、そんな侑の言葉を受けて、せつ菜はハッと我に返ると、思わずヒートアップして周りが見えなくなっていたことに気づき、彼女は気恥ずかしそうに自分の座っていた席に戻るのだった。

 

「は、はい。 親に禁止されているので、夜中にこっそり観てるんです・・・・・・」

「お家、厳しいの?」

「まぁ、どちらかと言えば・・・・・・」

 

璃奈の問いかけに対し、せつ菜は自分の家の事情を打ち明けながら応えると、まだせつ菜からなんで正体を隠していたのか事情を聞いていなかった侑やライ、歩夢はそれでせつ菜がなぜ本名の中川 菜々としてではなく、優木 せつ菜としてスクールアイドル活動をしていたのか合点がいった。

 

「それで正体隠してたんだ!」

「んっ? 正体?」

 

ただ、愛や璃奈はまだせつ菜が菜々と同一人物だということを知らない為、侑の言った「正体」とは一体なんのことだと思い、首を傾げながらせつ菜に顔を近づけ、ジッとその顔を見つめると・・・・・・愛の頭の中で菜々とせつ菜の顔がリンクし、そこで愛も目を見開いて驚きながらせつ菜が菜々=せつ菜であるということに気付いたのだ。

 

「あー! もしかして生徒会長!?」

「あっ、はい・・・・・・」

「そうだったんだー! 水くさいなー!!」

「この前は、ありがとう」

 

せつ菜の正体が菜々であることが分かると、璃奈は以前、自分が可愛がっているはんぺんを『生徒会お散歩役員』なるものに任命して、学園側で飼うことを許可してくれたことに感謝の言葉を述べ、それを受けたせつ菜は「い、いえ・・・・・・!」と自分は大したことはしていないと謙虚な態度で応えた。

 

「愛さんも、せっつーが話してたアニメ、チェックするね!」

「えっ?」

「せっつーの熱い語り聞いてたら、楽しそうだなって思ったからさ!」

 

愛は笑みを浮かべながら、せつ菜に自分もそのアニメを観てみると約束すると、それにせつ菜も嬉しそうに笑顔を浮かべ、「楽しいですよ!」と彼女自身も愛にそのアニメをオススメだと教えるのだった。

 

「なんか、愛ってオタクに優しいギャル感あるよな」

「喜多川さんっぽい感じはしますね」

「それはオタクで優しいギャルの方だな。 同じ金髪ギャルだけど」

「? なんのことかよく分かんないけど褒められてるみたいで照れるなぁ~」

 

ライとせつ菜は2人でオススメのアニメを観てみると約束してくれた愛にそれぞれが彼女に抱いた感想を述べ、2人の言葉が褒め言葉だと受け取った愛は照れ臭そうに頭をポリポリと軽く搔く。

 

尚、実際にライとせつ菜は褒めているつもりである。

 

(正確に言うと、愛さんはオタクに『も』優しい、だよ)

 

そんなライ、せつ菜、愛のやり取りを見ながら、璃奈は心の中でやんわりと訂正を入れるのだった。

 

「よーし、それじゃ、ここからアニソン縛りでいこうー!!」

『おぉー!!』

 

そこから先は愛の号令の元、一同はちょっとしたカラオケ大会を開催することに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、全ての練習が一通り終了し、歩夢、侑、ライ、璃奈、愛、倉名が部室に戻ると、一同は愛のお婆ちゃんが作ってくれたという野菜の糠漬けを差し入れられ、全員でそれを今はポリポリと食べているところだった。

 

「美味しい!」

「お婆ちゃん特性の糠漬けだよ!」

「ホント、お婆ちゃんの味って感じだね~」

 

味の方も歩夢達には好評なようで少し遅れてからレッスンを終えたらしいかすみ、エマ、しずく、せつ菜、彼方の5人が部室に帰ってくると、かすみは部屋に充満した野菜の匂いに思わず鼻を摘まみ、顔がしかめっ面となる。

 

「うぅ!? なんですかこの匂いは!?」

「みんなも食べる~?」

 

愛は戻って来たせつ菜達にも野菜の糠漬けを勧め、何人かが愛の差し入れの野菜を受け取りつつ、今日の部活動はこれで終了という雰囲気に包まれるのだが、そこでせつ菜は少しだけかすみと話したいことがあるので部活が終わっても残っておいて欲しいと言われるのだが・・・・・・。

 

「あっ、かすみさん。 お話があるのでちょっと残って貰えますか?」

「ひい!? メガネのことなら何度もごめんなさいしましたよね!?」

 

せつ菜から無断でメガネを勝手に借りて行ってしまったことをかなり怒られてしまったのか、かすみは怯えた表情を見せるのだが、別にどうやらそのことで話がある訳では無く、全くの別件で話があるとのことだった。

 

「それではなくて・・・・・・」

(せつ菜ちゃん、どんだけかすみちゃんのこと怒ったんだろう)

 

ライは糠漬けを食べながら、せつ菜がかすみに怒った姿を想像したが、あんまり彼女が怒ったりするイメージが沸かない為、中々その姿を想像することが出来なかった。

 

「出来ることなら、今日一日全員の様子を見て頂いたライさんにも意見が聞きたいので残っておいて欲しいのですが・・・・・・」

「マジで? せつ菜ちゃんの頼みなら喜んで残るよ!」

「それなら、俺も残っておいた方が良いんじゃねえか?」

 

ライはせつ菜の頼みならばと喜んで快く彼女の頼みを引き受け、倉名もそろそろストレイジの方に顔を出さないといけないのだが、まだ時間的に余裕もあるし、時間がかからないならライと同じように今日一日様子を見ていた自分も残っておいた方が良いのでは無いだろうかとせつ菜に尋ねるのだが・・・・・・。

 

「倉名先生には、歩夢さん達の話などを聞いてそっちはそっちで意見を纏めておいて欲しいんです」

 

彼女としては倉名は歩夢達の方に行って今後の活動方針などについて話し合ったりなどしてそっちはそっちで意見などを纏めて欲しいと頼み、それを受けて倉名は「りょーかい」とせつ菜に返事を返し、今日の部活動はこれで終了となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、倉名、歩夢、愛、璃奈、しずく、彼方、エマの7人は学園の中にあるベンチが設置してある広場で今週の土曜日についての予定を話し合っていた。

 

「今週は土曜も集まるんだっけ~?」

「うん、お台場でランニングだよ?」

 

エマの肩に持たれながら、ウトウトとした表情の彼方が今週の土曜の予定について尋ねると、エマはお台場で朝からランニングの予定であることを彼方に伝える。

 

「ランニングかぁ~」

「私も走るから!」

「走るのって気持ち良いよ!」

 

土曜の予定を聞き、歩夢は少しだけ大変そうだなと考えるのだが、そんな歩夢に侑は「私も走るから」と言われ、そんな侑に歩夢は少しだけ嬉しそうにし、愛も走るには気持ちが良いので大変なことなんて無いよと彼女に言うのだった。

 

「しずくちゃんは、この後演劇部?」

「はい!」

「大変だね~、掛け持ち」

「好きでやってることですから」

 

アイドル同好会の次は演劇部の練習と、そんなしずくに対し、彼方は物凄く大変そうだなと感じるのだが、しずくは特にそれを苦としている様子は無く、スクールアイドルも演劇もどちらも好きだからと言って退け、そう語る彼女からは実際に全く大変さを感じさせなかった。

 

「愛ちゃんは今も運動部の助っ人してるの?」

「勿論! だから、明日は来るのが遅くなるかも・・・・・・」

「2人とも頑張ってるね~。 ふぁ~」

 

歩夢の問いかけに愛は運動部の助っ人に行くので明日は同好会に顔を見せるのが遅くなるかもしれないということを伝え、そんな風にあっちこっちで活躍するしずくや愛の姿を見て彼方は欠伸をしながらも感心した様子を見せる。

 

「俺も同好会のコーチとストレイジ隊長を掛け持ちしてんぞ。 誰か俺のことも褒め称えろ」

「いや、それを自分で言うのはいかがなものかと・・・・・・」

 

アイドル同好会のコーチとストレイジの隊長を自分も掛け持ちして頑張ってるんだから誰か自分を褒めるようにと歩夢達に倉名が求めて来るのだが、それを自分で言うのはどうなんだとしずくが呆れ気味に倉名は言われてしまうのだった。

 

「倉名先生もストレイジと同好会の掛け持ち出来てとてもよく頑張っていて、私は偉いと思います!」

 

しかし、エマだけは素直に愛やしずくのように掛け持ちしている倉名のことを褒め称え、それに倉名はどこか満足そうにし、そんな満足げな倉名の姿を見てしずくはそれで良いのだろうかと思わずにはいられなかった。

 

「同好会はどう?」

「・・・・・・楽しい」

 

またエマは今日一日同好会での活動してみての感想を自分の隣に座る璃奈に尋ねると、彼女は今日一日部活動での練習を経験して「楽しかった」と応えるのだが・・・・・・。

 

しかし「楽しい」と言う割には璃奈の表情は一切変わらず、そのことにエマは「んっ?」と不思議そうに首を傾げた。

 

「こーんなにウキウキなりなりー初めて見たよ! 愛さんも楽しい!!」

「璃奈はちょっと、感情を表に出すのが苦手だからな。 本人が楽しいと言ってるんなら、それは本当に楽しんでるってこった」

 

そこで愛がそのように本心から同好会での活動が楽しいと思っているにも関わらず、自分の感情を上手く表情に出すことが出来ない璃奈のほっぺをプニプニしながら愛は倉名と共に璃奈にフォローを入れるように自分もこの部活動を楽しんでいることを伝えつつ、エマに璃奈もちゃんと心の底から部活動を楽しんでいることを伝えたのだ。

 

「ごめんなさい、私・・・・・・上手く気持ち出せなくて」

「ううん、楽しんでくれてるなら良かった」

 

璃奈は感情を上手く表に出せず、エマを少しばかり困らせてしまったことを謝罪するのだが、エマは「気にしなくて良いよ」と言うように、楽しんで貰えたのなら良かったと優しく声を彼女は璃奈にかけるのだった。

 

「でも本当、他ではやってないことばかりですっごく新鮮!」

「そんなに違う?」

 

色んな部活に助っ人として顔を出し、よく引っ張りだこになるからか、今日アイドル同好会の練習を体験してみて愛は他の部活と比べるとやってないことばかりで新鮮みを感じると興奮したように語り、そのように語る愛に侑はそんなにも他の部活と違うのだろうかと疑問を抱くのだが、愛は即座に「違うよ~!」と応えたのだ。

 

「かすみんが、どれも正解って言ってたけど実際その通りって言うか、みんなそれぞれタイプ違うけどすっごく優しくて面白くて! そこが最高って感じだし!」

「かすみんってたまに奥深いこと言うよな」

「確かに奥深かったかもね! それで、このメンバーでどんなライブすることになるんだろうって、考えただけでめっちゃワクワクするよぉ~!!」

 

興奮気味に愛は同好会のメンバーがこれからどのようなライブをしていくのか、彼女はそれを想像し、その時を夢見ながらウキウキした様子でライブする日を楽しみにするのだが・・・・・・。

 

「愛ちゃんは鋭いね~」

「えっ?」

 

そんな時、彼方が呟いたその一言を受け、全員が一斉に彼女の方へと視線を向ける。

 

「・・・・・・分かってはいるんです。 私達が先に考えなきゃいけないことって・・・・・・」

 

彼方が何を言いたかったのか、彼女の言葉の意味、それを察したしずくは不安げな表情を浮かべ、顔を俯かせてしまう。

 

今日は後回しにしてしまったが、それは本来ならば真っ先に決めなければいけなかったこと。

 

それはこれから自分達はどう活動していくのか、スクールアイドルとして、自分達はどんなアイドルを目指すのか、彼女等は自分達の方向性について先ずは考えなければならなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ソロアイドルですか」

 

同じ頃、アイドル同好会の部室では・・・・・・。

 

そこでは今の歩夢達のように、今後の自分達の活動方針、方向性などについてせつ菜とかすみがライを加えつつ、話し合っており、せつ菜はこれから自分達はグループとしてではなく、「ソロアイドル」として活動していくことについて彼女はかすみやライに相談していた。

 

「私達だから出来る、新しい一歩です。 部員1人1人がソロアイドルとしてステージに立つ。 その選択肢は皆さんの頭の中にもある筈です」

「でも、それって・・・・・・簡単には決められないですよね・・・・・・?」

 

自分達はグループとしてではなく、ソロアイドルとして活動していく。

 

それは歩夢達が入部する前、せつ菜が一度はスクールアイドルを辞めようと思った切っ掛けにもなったあの出来事から来る考えだった。

 

以前にも回想したように、まだ同好会のメンバーがせつ菜、かすみ、エマ、彼方、しずくの5人のみだった頃、自分達がそれぞれ思い描くスクールアイドル像のイメージが違ったことから、彼女等はグループとして無理に1つに纏まろうとしてしまい、結果同好会は一度は廃部同然となり、せつ菜はスクールアイドルを引退するまでの事態を引き起こしてしまった。

 

そのことから、せつ菜は過去と同じ過ちを犯さない為に、グループとして纏まることが出来ないのなら、ソロでやっていくべきではないだろうかと考えたのだ。

 

「まぁ、確かに・・・・・・。 かすみちゃんから聞いた話じゃ、無理に纏まろうとして失敗しちゃったみたいだしな・・・・・・」

 

ライも何故、同好会が一度は廃部し、メンバーがそれぞれバラバラになったのかは以前かすみからあらかじめ聞いていた為、せつ菜の言うようにアイドル同好会のメンバーはそれぞれグループではなく、ソロで活動していくのが1番なのかもしれないと考えたのだが・・・・・・。

 

「・・・・・・っ、その・・・・・・。 その節は、ライさんにもかすみさんにも、他の皆さんにも本当に迷惑をおかけして申し訳ありませんでした・・・・・・!」

 

ライの言葉を受けてか、せつ菜はかすみを傷つけてしまったことへの責任を取る為とは言え、生徒会長という立場を利用して一度同好会を廃部にし、様々な人に迷惑をかけてしまったことを歯がゆい顔を浮かべながら彼女はライとかすみに頭を下げて謝罪したのだ。

 

「ちょっ、やめてくださいよせつ菜先輩! 別にもう気にしてませんし! もう、ライ先輩も余計なこと言わないでください!」

「そうだよ! せつ菜ちゃんが謝ることじゃないよ! お、俺の方こそごめん! 辛かった時のこと、思い出させて・・・・・・」

 

かすみとライは慌ててせつ菜に頭を上げるように言い、それを受けて彼女は戸惑いつつも2人に言われた通りなんとか頭を上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「1人で、ステージに・・・・・・」

 

場所は歩夢達のいる場所へと戻り、そこではせつ菜達と同じように自分達はソロアイドルとして活動していくのならば、どのように活動していくのかという話し合いが行われていた。

 

「ちょっと考えちゃうよね~。 グループはみんな協力し合えるけど、ソロアイドルは誰にも助けて貰えないだろうし」

 

しかし、彼方はエマの肩にもたれながら、グループならば「互いに助け合える」という活かせる強みがあるが、ソロではそれが活かせないことから、彼女はその不安な気持ちを吐露し、そんな彼女の抱く不安な気持ちは他のみんなも同じく共感しているものだった。

 

「正直、不安です。 皆さんが喜んで貰えるだけのものが、私1人に・・・・・・あるのでしょうか・・・・・・?」

 

顔を俯かせながら、しずくもまた自分1人に観に来てくれたお客さんを喜ばせるだけの力があるのかと不安な気持ちを口にし、思い悩むのだが・・・・・・それに応えられる者は、この場には誰もおらず、しばらくの沈黙が流れる。

 

 

 

 

 

 

 

「でもさ、支え合うことは出来るだろう?」

 

しかし、しずく達と同じ話題をせつ菜やかすみとしていたライは、不意にそんな言葉を発するとせつ菜やかすみは「えっ?」とでも言いたげな視線を一斉に彼へと向けたのだ。

 

「そりゃ、ソロライブとなれば確かに仲間からのフォローも出来ない。 だけど、それ以外ならお互いに協力し合うことは出来ると思う! 同好会のみんなは別に敵同士って訳じゃないんだ! それに、1人でステージに立つとしても、そこに見守ってくれる仲間がいるのなら、案外心強いもんなんじゃないかな?」

「・・・・・・そういう、ものでしょうか・・・・・・」

 

ライは例え同好会のメンバー全員がソロアイドルとして活動していくとしても、ライブ以外ならばお互いに支え合えることもあり、ステージに立つ時にだってみんながきっと見守ってくれているから、そこまで不安になることは無いと励ましの言葉を送るのだが・・・・・・。

 

しかし、それでもせつ菜やかすみは実際にやってみなければ分からないということから不安を完全に拭うことは出来ず、ライはそんな彼女等の姿を見てこれ以上何か自分にアドバイスできるようなことは無いだろうかと必死に考えるのだが・・・・・・。

 

「まぁ、なんにしてもやってみないと分からないのも確かか・・・・・・」

 

結局良い案は浮かばず、兎に角先ずは「やってみるしかない」という答えしか出せなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃。

 

かつて幼かった頃の愛の命を救い、あれからずっと岩のような状態、通称「ゴモラ岩」となり、未だにその状態で眠るゴモラのいる山奥にて・・・・・・。

 

「親方、何時になったらトンネル工事再開するんですか?」

「って言われてもなぁ。 あそこにあるゴモラ岩ってのは寝てるだけの本物の怪獣だってんだ。 昔っからずっと眠ってるらしいが、工事の発破なんかでも使って起こしちまったら大変だかんなぁ」

 

ゴモラ岩の近くではその山の工事現場で働く作業員の何名かが存在しており、その内の1人が「親方」と呼ばれる男性に何時になったらストップしている工事の仕事を再開するのかと不満げに尋ねるのだが、あのゴモラ岩は本物の怪獣である為、ゴモラが目覚める可能性を考慮して工事が中断してしまっていることを親方は部下へと語った。

 

「へぇー、ただ形が似てるからゴモラ岩って言うんだと思ってました」

「近い内にストレイジがアイツをスフラン島っていう無人島に運んでくれるらしい。 それまで工事はやめてくれって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴモラ輸送作戦・・・・・・ですか?」

 

その後、ストレイジ基地ではクリヤマから倉名、ライ、璃奈、そして風邪が治って復帰した薫子の4人に向けて「ゴモラ輸送作戦」なるものが伝えられており、なんでもクリヤマが言うには地球防衛軍のアメリカ事務次長が予算会議出席のため今週の土曜日に出席することになったらしい。

 

「それでその会議の前に2時間だけ、スケジュールを頂いた。 それでそこでその作戦を視察して頂き、世界で唯一の対怪獣用ロボットの素晴らしさをアピールするんだ! 聞けばゴモラは休眠中とは言えバイタル停止状態で、ただの巨大な岩と変わらないのだろう?」

「あっ、はい! そうなのか璃奈?」

「目覚める可能性は低いと思います、隊長」

 

クリヤマの問いかけに思わず「はい!」と勢いよく返事をしてしまった倉名だが、ハッキリしたことは彼自身にも分からない為、ゴモラの今の状態を璃奈に尋ねると彼女はゴモラが目覚める可能性は統計上では0.1%以下らしく、今のところゴモラが覚醒する可能性は限りなく低いのだという。

 

「でもなんで今までゴモラ岩って放置されてたんすか? 無人島に運ぶならもっと早く運べば良かったのに」

 

ライの言う通り、どうせ無人島に運ぶのならばもっと前に出来たのでは無いのだろうかと疑問を感じ、それを口にすると、璃奈曰く「ゴモラを運べなかった理由は様々」とのことだった。

 

例えばゴモラを運べなかった理由の1つはセブンガーが開発されるまでゴモラ岩のようなあんなものをまともに運べる手段が確立されていなかったことや、ゴモラ岩自体一種の名物のような扱いを受けていたことから、あのままずっと放置されていたそうだ。

 

「駆除しようにも、下手に攻撃してゴモラが目覚めて暴れでもしたら被害もいっぱい出ちゃうかもしれないから・・・・・・」

 

ならば早めに駆除すれば良かったのでは無いか? とも思うかもしれないが、璃奈の言うように下手に攻撃を加えてゴモラが目覚め、暴れ始めでもしたら人的被害が出る可能性が高かったこともあり、その可能性を考慮した結果、ゴモラを攻撃することも出来ず、これまではずっと八方塞がり状態でゴモラに一切手を出すことが出来なかったのだ。

 

しかし、セブンガーが完成した直後は様々な調整などが必要だったこともあり、時間がかかってしまったが、今のセブンガーを使用すれば細心の注意を払う必要こそあるものの、ゴモラを眠ったままの状態であの場から移動させることは理論上可能であり、既に輸送作戦に必要な準備もある程度出来ていることや視察のタイミングが良かったことからも今回のこの作戦が決定したのだという。

 

「視察中の事務次官のプレゼンには君たちにも参加して貰う! 当日は絶対に失敗しないように!」

「っ・・・・・・」

 

クリヤマの「君たちもプレゼンに参加して貰う」という言葉を聞き、「えっ? 自分も参加しないといけないの?」と内心激しく動揺する璃奈だが、そんな彼女の不安な気持ちを察してか、倉名は璃奈の耳元で「無理しなくて良いぞ」と小声で声をかけたのだ。

 

「お前は民間協力者で正式なストレイジメンバーって訳じゃねえ。 お偉いさん達の前に立つなんざ璃奈には相当なプレッシャーだろ? だから、お前が無理にプレゼンに参加する義理はない」

「でももし、特空機の説明をするなら、私がいた方が・・・・・・」

「今週の土曜は朝練あんだろ? 言っただろ、お前はそっちを優先して良いんだって」

 

倉名としては璃奈にはストレイジの仕事よりも、スクールアイドルを始めるならばそっちの方を優先して良いと考え、彼はクリヤマに璃奈はその日は予定がある為、会議に参加することは出来ないことを説明すると、説明を受けたクリヤマも璃奈の立場的には無理強いすることは出来ないからか、特に文句を言ったりするようなこともなく、彼は快く「分かった」と彼女が参加出来ないことを受け入れてその後は特にクリヤマからの説明も無くこれにてミーティングも終了したのだが・・・・・・。

 

その直後、薫子が「ぶえっくしょん!!」と大きめのくしゃみをしたのだ。

 

「おい、薫子、お前本当に風邪治ったのか?」

「治りましたよ~! でも、今度は花粉症みたいで・・・・・・ミーティング中ずっと我慢してて・・・・・・ぶえっくしょん!!」

 

どうにも、薫子は風邪こそ治ったものの、今度は花粉症にかかったそうで・・・・・・ライは「風邪治った直後に花粉症って・・・・・・」と彼女に同情の視線を向け、璃奈も「大丈夫ですか?」と薫子の身を案じたのだ。

 

「平気平気! それよりも璃奈ちゃんさぁ! 聞いたよ! スクールアイドル始めるんでしょ!? 私も昔スクールアイドルやっててさ、分からないことあったらぶえっくしょん!!」

「あわわ!?」

「興奮するのは分かるがくしゃみするなら手で抑えろバカ!!」

 

思わず璃奈に向けてくしゃみをしてしまう薫子だったが、間一髪飛んで来る唾などを璃奈はなんとか躱し、そんな薫子にくしゃみするなら手で抑えろと注意する倉名。

 

「でも、私がいないとなると、誰が特空機の話を・・・・・・」

「その辺はバコさんに来て貰うかな。 特空機のことをここで1番理解してるのはあの人だろうからな」

 

しかし、璃奈は自分は朝練の方に行って良いと言われたものの、それならば誰が特空機の説明を行うのかと彼女は疑問を抱いたのだが、そこは代わりに璃奈以上に特空機について理解しているであろうバコさんに倉名は頼むつもりでいたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

その翌日。

 

虹ヶ咲学園では・・・・・・。

 

昨日の同好会での活動を経て、愛は授業中、昨日の練習でかすみが言っていたことや歩夢達が自分達の方向性について思い悩んでいた姿を窓の外を見つめながら彼女はふっと思い返しながらボーッとした表情で何かを考え込んで悩んでいる様子だった。

 

(正解が1つなら、分かりやすいよね。 スポーツにはルールがある。 でも、愛さん達が目指すスクールアイドルにはそういうのは無くて・・・・・・自分1人)

 

それは愛もまた歩夢達と同じように、スクールアイドルを始めると言っても自分はどんなアイドルを目指せば良いのか、それが分からず、上手く考えが纏まらず、気付けば授業も終わり放課後となってしまっていた。

 

身体を動かせば少しは頭がスッキリして考えが纏まるかとも思い、今日はバスケ部の助っ人に参加したが、それでも中々考えは纏まらず。

 

(愛さんだけで、どんなスクールアイドルがやれるのかな? 愛さんの正解って、なんなのかな? こんなこと、今まで考えたこと無かった)

 

部活の助っ人も終わり、アイドル同好会にも少し顔を見せた後、帰路を歩いていた愛だったが、結局今日ほぼ1日色々と考えてみたもののやはり答えがでることは無かった。

 

そんな時、愛のスカートのポケットに入っていたスマホからLINEの着信音が鳴ると、彼女はスマホを取り出し、LINEに来ていたメッセージを確認する。

 

『明日のランニング、朝の9時にレインボー公園に集合ですよー!』

 

メッセージはかすみからであり、内容は明日のランニングの集合時間についてのお知らせであった。

 

その後、他の同好会のメンバー共々「OK」の返事を愛は行い、返信。

 

「・・・・・・」

 

その後、LINEでライや倉名からはゴモラが輸送されるルートには絶対に近づかないようにという注意書きのメッセージがより詳細なことが書かれた文章と共に送られ、「近づかないように気をつけます」と言った趣旨のメールが幾つか返される中、愛はその文章を読み上げながら、彼女はかつてゴモラに救われた時のことを思い返した。

 

「えっ、ゴモラ・・・・・・!? ゴモラ輸送作戦・・・・・・そっか。 ゴモラ、あそこからいなくなっちゃうんだ・・・・・・」

 

その文章を読んだ愛は目を見開き、一瞬複雑そうな顔を見せると彼女はゴモラ岩があると思われる場所に顔を向け、今度はどこか寂しそうな表情を浮かべながら愛はそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

そして日を1日跨いで翌日の土曜日。

 

同好会は朝練、ストレイジはゴモラの輸送作戦当日となり、愛は一足早く起き、家を出ると彼女はそこから早速走り込みを開始。

 

それと同じ頃、薫子の搭乗したセブンガーもまたゴモラ岩の現場へと到着し、セブンガーはゴモラを輸送する為のドローンの補助をする為この場へと現れ、着陸の注意をアナウンスしながら地上へと降り立つ。

 

その光景はリアルタイムでもTVで生放送されており、その映像は予算会議が行われるビルのとある会議室の中にもプロジェクターで映し出され、クリヤマはアメリカの事務次官達に対しセブンガーの説明を行っていた。

 

「えー、ご覧くださいませ! これが、我がストレイジが誇ります世界最初の対怪獣用のロボット、セブンガーであります!」

 

そこからクリヤマはセブンガーについてのより詳しい説明を行う為にバコさんを呼び寄せると、バコさんは気まずそうな顔をしながら会議室へと入ってくる。

 

「えーっと、初めまして。 ストレイジで特空機の整備などを担当しています班長のイナバ・コジローです」

 

少しばかり緊張した様子の自己紹介を行うバコさん。

 

しかし、バコさんとしてはここにいるのは割と不本意らしく、「なんで俺はここにいんだよ」と言いたげな視線をクリヤマに送り、その視線の意図を察したクリヤマは申し訳無さそうにしつつ、バコさんに謝罪する。

 

「申し訳ない。 何分璃奈くんは部活の朝練があるらしくて・・・・・・」

「まぁ、璃奈ちゃんは正式なメンバーって訳じゃないからなぁ。 分かりましたよ、璃奈ちゃんの為だ。 私がセブンガーの説明やら何やらやりますよ」

 

クリヤマからの話を聞き、璃奈の為ならば仕方が無いかと判断したバコさんは止むなくこの仕事を引き受けるのだった。

 

 

 

 

 

 

それから、ゴモラ岩のある場所では丁度ドローンによるゴモラ岩の持ち上げ作業が完了し、あとはゴモラが落下しないようにセブンガーが下から支えることでスフラン島に運ぶだけ。

 

「ぶえっくしょん!!」

『薫子、大丈夫か?』

「だいじょうぶれす・・・・・・!」

 

ただ薫子はまだ花粉症が治っていないらしく、倉名はそんな彼女のことを心配するがこのぐらいどうってことないと言い張り、ゴモラの移動作業を開始。

 

作戦開始すると、倉名やゴモラのバイタルの確認などを行ってサポートしていたライの周りにマスコミが押し寄せるが、倉名とライは迂闊に近づかないように注意を行う。

 

「すいません! もう少し後ろの方に下がってくださーい!!」

「はいはーい!! ゴモラさん通りますよー! あんまり前に出ないように!」

 

尚、本来活動時間が3分しかないセブンガーであるが、そこは整備クルーが急いでケーブルの付け替え作業を行うことで対応し、3分以上の活動時間を維持していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻り、会議室にて。

 

「えー、お配りの資料にありますように、セブンガーは従来の兵器では対応できないようなあらゆる場面での作戦行動がたった1機だけで対応可能でありまして・・・・・・」

「ちょっとよろしいですか?」

 

バコさんがマイクを使ってセブンガーについての説明を事務次官達に行っていると、それを遮るように事務次長の男性が手を挙げて質問をバコさんへと投げかけてきたのだ。

 

「たった1機だけで可能と言いますが、セブンガーには作戦失敗も多く、コストパフォーマンスも決して良いとは言えないんじゃ無いですか?」

(・・・・・・っ、鋭い質問を・・・・・・)

 

バコさんは事務次長のその質問を受けて思わず言い淀んでしまい、クリヤマも必死に何か言おうと「えっと、あの・・・・・・」と考えるが、そこでセブンガーの姿が窓から確認でき、クリヤマは丁度良いタイミングにセブンガーが来たことで話題を逸らすように窓の外に注目するように事務次長達に呼びかける。

 

「あー! ご覧くださいませ! こちらにセブンガーがございます!!」

 

クリヤマに言われ、事務次長達が窓の外を注目すると、彼等は興味深そうにセブンガーの姿を眺め、感心の声をあげた。

 

「近くで見るとど迫力だな」

「小さい頃観ていた日本製のロボットアニメを思い出すなぁ」

「あのセブンガーに乗っているのは、ウチのストレイジ自慢のエースパイロット、三船 薫子です!」

 

セブンガーを見つめる事務次長達に対し、バコさんがパイロットの説明を行うと、事務次長達は「ほう」とさらに興味深そうにセブンガーを見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわー、凄いなぁ~」

 

そのゴモラを運ぶセブンガーの光景は、愛と同じように少しばかり早起きしてしまい、一足早く走り込みをしていたエマの目にも止まっており、彼女は小休憩を兼ねてとある橋の上から今はセブンガーの様子を眺めていた。

 

「エマっち~!」

 

そんな時、同じく走り込みをしていた愛がエマの姿を発見すると、彼女は素早くエマの元へと駆け寄りる。

 

「どうしたの?」

「ちょっと早起きしちゃって・・・・・・愛ちゃんは?」

「一緒!」

 

愛はこんなに早い時間にどうしたのかとエマに尋ねると、彼女は先ほども上の文でも説明したように早起きした為にランニングをしていたことを愛の問いかけに対し、応えると愛も自分も一緒だと言葉を返した。

 

「そっか~。 愛ちゃんも早起きしちゃったんだね。 あっ、ねえねえ愛ちゃん! 結構遠目だけど、ここからセブンガーが見えるよ!」

「おっ! どれどれ? ホントだー!! よく見えるね~!!」

 

エマに教えられ、愛もセブンガーの姿を視界に捉えると彼女は大声で「頑張れセブンガー!!」と応援の掛け声をかけるのだが、そんな愛にエマは「ダメだよ愛ちゃん!」と大きな声を出した彼女に「ゴモラが目覚めてしまう」という理由で慌てて注意する。

 

最もゴモラのバイタル的には人1人の大声を聞いたくらいでは簡単には目覚めたりはしないのだが・・・・・・。

 

「あんまり大きな声出したらゴモラさんが目覚めちゃうよ?」

「あっ、そっか! ごめんごめん! ・・・・・・それにしても、ゴモラ、本当にどっか行っちゃうんだねぇ・・・・・・」

 

セブンガーに運ばれるゴモラの姿を見つめながら、愛は昨日と同じようにどこか寂しげな表情を浮かべ、そんな愛の表情の変化に気付いたエマは彼女を心配し、「どうかしたの?」と問いかけると、愛は苦笑しつつ「ちょっと昔ね」とだけエマの問いに応えた。

 

「私さ、ちっちゃい頃・・・・・・あのゴモラに助けられたことがあるんだ。 私の命を救ってくれたんだよ、ゴモラはさ・・・・・・」

「そうなんだ・・・・・・」

「うん。 それで、私はまだ何もゴモラにお礼が出来てないなって思って・・・・・・。 だから、もしもゴモラが何か困った時は、今度は私が助けようと今でもたまにゴモラの様子を見に行ったりしてたんだけど・・・・・・今日で輸送作戦が開始されちゃって・・・・・・。 結局、私は何もゴモラに恩返しが出来なかったなぁって思ったんだ。 そう思うと、なんだか寂しくってね・・・・・・」

 

愛は小さい頃に、落石からゴモラが自分の身を守ってくれた時のことをエマに語り、ゴモラの輸送が完了すればゴモラに恩返しするためのチャンスはもう無いかもしれないと、そう苦笑しながら話すのだが、エマは「そんなことはないよ!」とそれを否定したのだ。

 

「確かに輸送が終わったらゴモラさんに恩返ししたりするのは難しいと思う。 でも、可能性は0じゃないよ! ライくんとか倉名先生とかストレイジの人に頼んでみようよ! ちゃんとそのことを説明をすれば、少なくともライくんや倉名先生は考えてくれると思うし協力してくれると思う!」

「エマっち・・・・・・。 ありがとう。 でも、ライは兎も角、倉名先生は中々首を縦に振ってくれなさそうな気もするけどね・・・・・・」

 

ライなら愛の話に感銘を受けて彼女の為に色々と手伝ってくれそうなイメージはあるが、倉名はゴモラに会うことを危険だと言って中々許可してくれなさそうと思うものの、それでも道しるべを示してくれたエマに愛は感謝し、お礼を述べるのであった。

 

それから愛とエマの2人は、少しの間だけ2人でそこから見える景色を眺めていたのだが、不意にエマが口を開き、一昨日のことについて話し始めたのだ。

 

「ところで、一昨日はソロアイドルって聞いて驚いたかな?」

「あっ・・・・・・。 確かに、驚いたけど1番驚いたのは自分に対してなんだよね」

「えっ?」

「同好会が悩んでるのって、自分を出せるかってことでしょ? 今まで、色んな部活で助っ人やってたけど、考えてみたらみんなとやる競技ばかりでさ」

 

愛の言うように、普通のスポーツなどの部活は複数人で行うものが基本的には多いだろう。

 

さらに言えば、スクールアイドルも同じ学校で、同じ部活に所属しているのならば基本的にグループで活動するのが普通だ。

 

しかし、過去の失敗を踏まえたことで虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会は他の学校のスクールアイドルとは違い、同じ学校と部活に所属していてもグループでの活動はしない方針になりつつある。

 

ライはせつ菜やかすみに「支え合うこと自体はできる」と言っていたが、それでも最後にステージに立つのは自分だけ。

 

そのことを考えると、愛は不安を抱かずにはいられなかったのだ。

 

「めっちゃハードル高いよね・・・・・・。 ソロアイドルかぁ」

 

愛は思い悩んだ顔を浮かべながら、青空を見上げ、エマはそんな愛にどう声をかければ良いのか分からなかった。

 

「・・・・・・そろそろ、走ろっか! 9時だし、もう行く時間だよ?」

 

ただ1つ言えるのは、その話はまたみんなと合流した時にでもすれば良いと思い、エマはかすみが指定した朝練の約束の時間が迫ってきていた為、彼女は流石にもう待ち合わせの場所に行かなくては愛に言うのだが・・・・・・。

 

「・・・・・・」

「んっ? どうしたの?」

 

どこか呆けたような顔を晒す愛に、エマはどうかしたのだろうかと首を傾げると、何故か愛は突然吹き出し、お腹を抱えて笑い出したのだ。

 

「ぷっ、あはははは!! ウケるぅ~!!」

「えっ? えぇ~?」

「『ソロ』で『そろそろ』、『9』で時だし行『く』時間ってぇ~!! あはははは!!」

 

いきなり大爆笑する愛に困惑するエマだったが、愛の説明を受けてエマは無自覚にオヤジギャグのようなことを言っていたことに気付き、エマは「全然気付かなかったよ~」と彼女も思わず笑ってしまうのだった。

 

「・・・・・・愛ちゃんが同好会に来てくれて良かった」

「えっ? なんで!?」

「すっごく前向きでいてくれるから!」

「そう? 今はめっちゃ悩んでるけど」

 

「前向きでいてくれる」、エマにそう言われて悪い気はしないが、今はソロアイドルのことで凄く悩んでいるので、そんなことあるのだろうかと疑問を抱かずにはいられない愛。

 

「でも、みんなといる時、いつも楽しそうにしてたよね!」

「・・・・・・っ」

 

そんな疑問に、エマはそう応えてくれると愛はそれを受けてどこかハッとした表情を浮かべる。

 

「私達、色々あって・・・・・・ようやくスタートラインに立ったばかりなんだ。 きっと、みんなが不安で、でも本当は・・・・・・それと同じくらいこれからに期待していると思うんだ。 そうじゃなきゃ、悩まないもの! まだ、一歩を踏み出す勇気が出ないだけ・・・・・・。 愛ちゃんが来てから、同好会のみんなの笑顔、すっごく増えてるんだよ!」

「そうなの? 自覚無いけど・・・・・・」

 

愛としてはエマにそこまで言われても、自分がそこまで本当にみんなに影響を与えているのだろうかと思うが、そんな愛にエマは続けざまに「無いから凄いんだよ!」と言い放ったのだ。

 

「そうかなぁ?」

「そうだよ?」

 

そのように言葉を即座に切り替えされ、愛は思わず照れ臭そうにする。

 

「・・・・・・そっかぁ」

 

すると、愛は左手を空に伸ばし、太陽を握りしめるように拳を握り締めると、彼女はエマと会話したおかげか、ずっと悩んでいたものの答えをようやく得ることが出来たような気がした。

 

「ありがとうエマっち! 走ってくる!!」

「えっ!? 愛ちゃん!?」

 

そう言うと愛はソロアイドルとしての自分の道しるべを示してくれたかもしれないエマにお礼を述べると、彼女はエマの自分の名を呼ぶ声も聞かずに突然走り出したのだ。

 

(そういうことで良いんだ! 誰かに楽しんで貰うことが好き! 自分が楽しむことが好き!)

 

エマが教えてくれた、「みんなといる時、何時も楽しそうにしている」という言葉、「愛ちゃんが来てから、同好会のみんなの笑顔、すっごく増えてる」という言葉、それを受けて、愛は自分の目指すスクールアイドル像がどんなものなのか、分かった気がしたのだ。

 

(そんな楽しいを、みんなと分かち合えるスクールアイドル! それが出来たら、アタシは『道』なる『未知』に、駆け出していける!!)

 

そして、愛はとある公園の中へと走って行き、アスファルト地面を強く蹴ると、彼女は・・・・・・大きく飛び上がった。

 

(『ミチ』だけに!!)

 

そして・・・・・・愛の、今の自分の気持ちを溢れ出させるように、彼女はその場でゲリラソロライブを始めたのだ。

 

そんな今の彼女が歌う曲は、「サイコーハート」

 

彼女のゲリラソロライブ中には、いつの間にか侑達同好会のメンバーも集まっており、愛の歌が歌い終わると、彼女のライブを見た公園にいた人々は沢山の拍手を愛へと送っていたのだ。

 

(みんなと一緒・・・・・・。 ステージは、1人じゃない!!)

 

そこに溢れるみんなの笑顔を見て愛も笑うのだった。

 

「さいっこうー!!」

「・・・・・・凄いね、あれが愛ちゃんのステージなんだ」

 

また、そんな愛のライブを見た侑がボソッとそう呟くと、歩夢達は「えっ?」と一斉に侑の方へと視線を向ける。

 

「私、みんなのステージも見てみたい! 1人だけど、1人1人だからこそ色んなこと出来るかも! そんなみんながライブをやったら、なんかすっごいことになりそうな気がしてきちゃった!!」

 

そのように、どこかワクワクした様子で語る侑の姿を見て、彼方は思わず「なんか、侑ちゃんも凄いね」と言葉を返し、それに侑は不思議そうに「えっ?」と首を傾げる。

 

「・・・・・・負けてられませんね」

「燃えてきた・・・・・・!」

 

続けて、しずく、璃奈が呟くと、それに「うん!」と頷くエマ。

 

「そうだね!」

 

そして最後に、歩夢が侑の言葉に同意するように頷くと、自分達はグループではなく、ソロアイドルとして活動しやっていくことを彼女達は愛のライブを見たことで完全に決めるのだった。

 

「あっ、みんな~!!」

 

そこで愛が侑達の存在に気付くと、彼女は手を振りながら侑達の元へと走り、駆け寄ろうとするのだが・・・・・・。

 

その時だ。

 

突然、どこからか「ドスン!!」と巨大な音が周囲に鳴り響き、地面が大きく揺れると歩夢は身体のバランスを崩し、倒れそうになってしまうが、それを侑が倒れそうになった歩夢の身体を慌てて受け止める。

 

「歩夢!? 大丈夫!?」

「う、うん、ありがとう侑ちゃん・・・・・・。 でも、今のは・・・・・・地震、かな?」

「いえ、今のは地震というよりも何か・・・・・・、巨大な物が落ちたような・・・・・・」

 

歩夢は今の揺れは地震でも起きたのだろうかと首を傾げるが、せつ菜としては今のは地震というよりも巨大な何かが落ちたような感覚だったと述べ、それを聞いた愛とエマはお互いに顔を見合わせ、2人は「まさか・・・・・・」とある考えが脳裏に過ぎった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、数分前の出来事。

 

「ぶえっくしょん! ちょっと今日花粉多くない? 花粉症にはきっついわぁ~」

 

今日は花粉が多いことに文句を言いながら、ゴモラを順調に運んでいた薫子が搭乗するセブンガーであったが、次の瞬間・・・・・・。

 

「グエッグス!!」

 

眠っていた時のゴモラが、くしゃみをしたのだ。

 

「・・・・・・おい、今・・・・・・。 ゴモラさん、くしゃみしなかったか?」

「・・・・・・しまし、たよね・・・・・・?」

 

ゴモラの輸送を見守っていたライと倉名は、ゴモラがくしゃみをしたのを見て互いに顔を見合わせると、ライの持っていた端末機から警戒音が鳴り響き、画面を確認するとゴモラのバイタルが急激に上昇していることが示されていた。

 

「えっ、これ! 隊長! これヤバイやつでは!?」

 

璃奈にある程度使い方を教わったこともあり、ゴモラのバイタル確認ぐらいはできるライだったが、やはり操作に慣れていない為か、ライは慌てふためくが、倉名に「落ち着け」と軽く頭を叩かれると、倉名は落ち着いて周辺の住民の避難をするようにライに指示を出す。

 

「お前は住民の避難活動を!」

「お、押忍!!」

 

倉名の指示を受け、ライはすぐさまこの辺りに残っている一般市民の避難をさせる為にすぐさまその場を離れて駆け出して行く。

 

「グルアックシュ!!」

 

そして、実は薫子と同じく花粉症だったゴモラが再びくしゃみをすると、ゴモラは目をゆっくりと開き、暴れ出すと同時にドローンでゴモラの身体を縛っていたワイヤーも千切れてしまい、ゴモラは地上へと落下。

 

「グルアアアアアア!!!!!」

 

ゴモラが目覚めたことで、クリヤマやバコさんのいる会議室でもパニックが起き、事務次長はゴモラを指差しながら「アレ起きてるんじゃ無い!?」と一体どうなってるのかとクリヤマ達に説明を求める。

 

「どういうことだこれは!?」

「ねえ、どういうことどういうこと!?」

「えっと、えっと、と、兎に角落ち着いてください! セブンガーが、薫子が対応してくれますので!」

 

バコさんは事務次長達に落ち着くように呼びかけ、ゴモラは花粉症のイライラからかビルを幾つか薙ぎ倒すと、ケーブルを切り離したセブンガーがすぐさまゴモラを押さえ付けようと飛びかかる。

 

「アンタも花粉症だったのね。 イライラする気持ちは分かるけどさ、落ち着きなって!!」

 

セブンガーは暴れるゴモラを後ろから押さえ付けようとするが、ゴモラはセブンガーを振り払いタックルを喰らわせて吹き飛ばしてしまう。

 

「おわああ!!?」

 

それによりセブンガーは怯み、ゴモラは続けざまに突進を繰り返してきたのだが、セブンガーはそれを両手でゴモラの角を掴むことで受け止めると、左手でゴモラを抑えつつ、右拳を振るってゴモラを殴り飛ばす。

 

「そっちがその気ならやってやるよ!!」

「グルアアアア!!!?」

 

さらにそこからセブンガーが両拳を前へと放ってダブルパンチをゴモラの胸部に叩きこむと、それを会議室の窓から見ていた事務次官達やクリヤマ達はゴモラに善戦するセブンガーに大盛り上がり。

 

「おおおお!! 良いぞぉ!!」

「イエーイ!!」

 

そのあまりの盛り上がりっぷりにクリヤマと事務次官はハイタッチまでする始末だった。

 

だが、そこでゴモラが大振りに尻尾を振るったことでそれを受けたセブンガーは吹き飛ばされて倒れ込んでしまい、ゴモラは倒れ込んだセブンガーを容赦なく踏みつけてくる。

 

「グルアアアアア!!!!」

「ぐぅ、こんのぉ!! パワーならセブンガーも負けんぞぉ!!」

 

セブンガーは自身を踏みつけているゴモラの足を掴むと、そのまま持ち前のパワーでゴモラを持ち上げて押し退かすとそれによって身体のバランスを崩したゴモラは今度は自分が地面へと倒れ込む。

 

「グルアアアア!!!?」

「おりゃあああ!!!!」

 

そこからセブンガーは倒れるゴモラに追い打ちをかけようと攻撃を仕掛けるが、ゴモラは尻尾を振るうことでセブンガーの右足を叩きつけ、足を取られたセブンガーは躓いてしまい、そのままセブンガーは歌舞伎役者のようなポーズを取りながら起き上がろうとしていたゴモラを巻き込んで諸共に倒れ込んでしまったのだ。

 

「おっとっとっと!! うわあああああ!!!!?」

 

その衝撃のせいで周囲のビルが傾き、クリヤマとバコさんは「何やってんだ・・・・・・!!」と顔を青ざめさせるが・・・・・・。

 

「おぉー!! カブキ・アタック!!?」

「すごい! あんな枠な必殺技まであるのか!」

 

しかし、何やら誤魔化せたようで事務次官達はなぜか大盛り上がり。

 

するとそこへセブンガーを押し退かして立ち上がったゴモラが今度はクリヤマ達のいるビルへと向かってきたのだ。

 

「まずい!! ゴモラがこっちに来てる!」

「そっちはダメ!! そっちはダメだっての!!」

 

それをセブンガーがゴモラを羽交い締めにして抑えようとするのだが、ゴモラは肘打ちを喰らわせてセブンガーの拘束を振りほどき、さらには振るったゴモラの尻尾攻撃を受けたことでセブンガーは身体中から火花を散らしながら大きく吹き飛ばされてしまった。

 

「わあああ!!?」

 

それによって丁度セブンガーの時間制限である3分も経ってしまい、ゴモラは真っ直ぐクリヤマ達へと一直線に向かって行く。

 

だが、その時・・・・・・ビルの中にいるクリヤマ達と一瞬、目が合うとゴモラは突如動きを止め、それにクリヤマ達は突然動きを止めたゴモラに「どうしたんだ?」と不思議そうにゴモラを見つめる。

 

「あっ、まずい!!」

 

そこへ丁度住民避難を完了したライが、ビルに差し迫っているゴモラの姿を見て「ウルトラゼットライザー」を取り出すと、それのトリガーを押し、目の前に「ヒーローズゲート」を出現させてその中を潜り抜ける。

 

ヒーローズゲートの中へと入ったライは、「ウルトラアクセスカード」を手に取ると彼はそれをゼットライザーの中央に装填。

 

『ライ、アクセスグランテッド!』

「荒っぽい奴には、荒っぽいやつだ!!」

 

そう言いながらライは腰の腰のメダルホルダーを開き、そこから3枚の「ヒロインズメダル」を取り出す。

 

「困難を打ち砕く! 魂の一撃!!」

 

そこからライは3枚のメダルをゼットライザーのスリットを差し込む。

 

「響さん! 夕立さん! 友奈さん!」

 

さらにゼットライザーのブレード部分をスライドさせ、ライは3枚のメダルをゼットライザーに読み込ませる。

 

「押忍!!」

『ご唱和ください!! 我の名を!! ウルトラマンゼーット!!』

 

するとライの後ろに「ウルトラマンゼット オリジナル」が現れ、ゼットは両腕を広げながらそう言い放つと、ライはゼットライザーを掲げて最後にトリガーを押す。

 

「ウルトラマンゼエエエエット!!!!」

 

そして眩い光が走り、3枚のメダルが空間を飛び交うとライは下半身は黒、上半身はオレンジで両手に桃色の手甲のようなものが装着され、プロテクターが無くなり、「ゼット・オリジナル」にも近い状態の姿・・・・・・「ウルトラマンゼット エプシロンワイルド」へと変身する。

 

『ウルトラマンゼット! エプシロンワイルド!!』

『ウラアアア!!!!』

 

ゼットへの変身を完了させたライはゴモラを事務次官達のいるビルから引き離すように蹴り飛ばし、そのビルを守るように降り立つ。

 

「おぉ! ウルトラマンだ!!」

 

ゼットが目の前に現れたことで、事務次官はさらに興奮した様子を見せ、ゼットは「後は任せろ」とでも言うように事務次官達に頷いて見せると、立ち上がったゴモラに向かって駈け出して行く。

 

『ワイルドに吠えるぜ!!』

 

ゼットはゴモラに対してニーキックを叩きこむと今度は素早く後ろ回し蹴りをゴモラの腹部に炸裂させ、それを受けて後退るゴモラ。

 

「ギシャアア!!?」

『ジェア!!』

 

さらにゼットは空中へと飛び上がるとかかと落としをゴモラに繰り出すのだが、ゴモラは尻尾を横に振るうことで空中へと飛んだゼットを叩き落とし、ゼットは地面へと落下。

 

『ウアアアッ!?』

「ギシャアアアア!!!!」

 

そこへ地面に倒れたゼットをゴモラは蹴っ飛ばすと、蹴りつけられたゼットは大きく吹き飛ばされてしまう。

 

『ウオオオッ!?』

 

蹴り飛ばされたゼットは再び地面に背中を激突させながらも、なんとか痛みを堪えて立ち上がろうとするのだが・・・・・・すかさずゴモラは立とうとするゼットに向かって頭部の角から強力な振動波を発生させて対象を粉々に粉砕する光線、「超振動波」を発射。

 

「ガアアア、グルアアアアア!!!!」

『ッ! ジュアアアア!!!!?』

 

ゼットはゴモラの超振動波の直撃をまともに受けてしまい、身体中から火花を散らしながら吹き飛び、ゼットは倒れ込んでしまう。

 

「グアックシュン!! ガアアアア!!!!」

 

くしゃみをしながらゴモラは顔を搔きむしるかのような動作をしつつ、倒れ込むゼットへと襲いかかり、無理矢理起き上がらせて羽交い締めにし、動きを封じるとゴモラはゼットの肩へと噛みつく。

 

『ウアアアッ!!?』

 

だが、そこへセブンガーから降りて事務次官達のいるビルとは別のとあるビルの屋上に辿り着いた薫子が20式レーザー小銃こと「LAR20」を持って現れると彼女はゼットを援護する為にゴモラの顔に向かって銃弾を撃ち込んでゼットを援護したのだ。

 

「顔が痒いなら、こいつで搔いてやるよ!!」

「グルアアアア!!」

 

ゴモラにとって、その程度の攻撃は大したダメージにはならなかったが、集中力を切らすだけの効果はあったようでゴモラは浴びせられる銃弾の鬱陶しさから思わずゼットのことを離してしまい、すぐさまゼットはゴモラから離れるとゼットは光のブーメラン、「エプシロンブーメラン」を作り出してそれをゴモラに向けて投げつけ、エプシロンブーメランはゼットと同じく起き上がったゴモラの身体を斬りつけるとゴモラは身体から火花を散らしながら片膝を突く。

 

『エプシロンブーメラン!!』

「ギジャア!!?」

『さらにこいつだ!! エプシロンブレイビングパンチ!!』

 

さらにゼットは右拳に桜色の光を纏わせると、そこから繰り出される強烈なパンチ「エプシロンブレイビングパンチ」を叩き込み、それを受けたゴモラは大きく後退る。

 

「グルアアアア!!!?」

『今だ!! ゼスティウム光せ・・・・・・!!』

 

ゼットはこのまま一気に押し切ろうと両拳を水平に胸の高さで構えた体勢から手刀をZを描くように切り開き、十字に組んで体内でスパークさせたエネルギーを相手に撃ち込む「ゼスティウム光線」をゴモラに放とうとするのだが・・・・・・。

 

「待って!! ウルトラマンゼット!!」

『ッ!?』

 

そんな時、突然聞こえてきたその声に、ゼットは思わず光線を撃ち込もうとするのを中断して声のした方へと視線を向けるとそこには愛の姿が確認でき、それにインナースペース内のライは驚きの声をあげた。

 

『愛!? なんでこんなところに・・・・・・!! 避難してなかったのか!?』

 

同好会が朝練のランニングに選んだ道のコースは、ここからはそれなりに離れている距離だった。

 

しかし、ゴモラが目覚めた以上、それなりの距離とは言え危険なことには変わりは無く、ライはてっきり今日の朝練は中止になり、愛は歩夢達と一緒に避難しているものだとばかり思っていたのだ。

 

そのため、ライはこの場に愛が現れたことに動揺し、インナースペース内で彼は愛に早くここから離れて避難するように叫ぶが、インナースペース内からではライの言葉は愛には届かない。

 

「お願い、ゴモラを倒さないで!! ゴモラは、悪い怪獣じゃないんだよ! それにゴモラは昔、アタシのことを助けてくれた怪獣なんだ!! だから・・・・・・お願い!!」

『・・・・・・どうする? ライ?』

『でも、このまま放っておく訳にはいかないし・・・・・・』

 

ゼットとライがゴモラに対してどう対応すれば良いのか分からず、困惑していたその時、愛は不意にゴモラの前に出て両手を広げながら、蹲った状態のゴモラへと呼びかけたのだ。

 

「ゴモラ!! お願い、大人しくして!! 花粉症で辛いだろうけど、それで暴れたらダメだよ!! あなたは・・・・・・私の命を救ってくれた、本当は心優しい怪獣・・・・・・。 だから!!」

 

ゴモラは愛の存在に気付くと、ゴモラはどこか懐かしんだかのような目で彼女の姿を見つめ、そんなゴモラの視線を感じ取った愛はゴモラも自分を覚えていてくれたのだということを直感で理解することができた。

 

ちなみに、なぜか愛がゴモラが花粉症だということを知っていたのかと言うと・・・・・・スマホのニュースで映像を確認したからである。

 

それでゴモラが先ほどからくしゃみをしていることもあり、愛はゴモラが花粉症にかかってそのせいで暴れてしまっているのだということを理解していたのだ。

 

「グルルル・・・・・・」

「愛さんのこと、あんな一瞬だけだったのに覚えててくれたんだ、ゴモラ・・・・・・」

 

そしてゴモラは「グッシュン!!」とくしゃみをしつつ、愛の想いが通じたのかその場に大人しく座り込むと落ち着きを取り戻し、それを見たゼット、ライ、薫子は「マジで?」とでも言いたげな表情を浮かべるのだった。

 

『取りあえず、愛がいればなんとかゴモラをスフラン島まで運べるかも!』

 

ゴモラをこのまま放置する訳にもいかない為、仮入隊中とは言えストレイジの隊員としては一般市民である愛にそんな協力を仰ぐのは気が引けるものの、あんな風にゴモラと通じ合ってるところを見るとゴモラをスフラン島にまで連れて行くには彼女の協力は必要不可欠。

 

花粉症の問題は後回しになってしまうだろうが、取りあえず先ずはゴモラをスフラン島に連れていかなくてはならないと考え、ゼットはゴモラに歩み寄り、スフラン島まで案内しようとするが・・・・・・。

 

「いや、倒せよ。 まだ俺はゴモラのメダルを持ってないんだからさぁ」

 

そこでゼットとゴモラの戦いの様子を、遠目で見ていたセレブロに寄生されたアイラがそう呟くと、彼はゴモラを機械化したような1つのソフビ人形のような物を取り出し、それを空中へと投げるとさらに小型銃のようなものを取り出し、銃弾を空中に投げられたソフビ人形・・・・・・「スパークドールズ」へと撃ち込む。

 

するとそのスパークドールズが紫色の輝きを放つと、スパークドールズは「ロボット怪獣 メカゴモラ」へと実体化し、ゼットやゴモラの前に出現したのだ。

 

「グルア!?」

『ッ!? なんだ!? 機械の・・・・・・ゴモラ!!?』

 

突如現れたメカゴモラに、ゼットやゴモラが動揺しているとその隙を突いてメカゴモラは指に内蔵されているミサイル、「メガフィンガーミサイル」を発射。

 

『愛!!』

 

それを見てゼットとゴモラは愛を守るように立ち塞がり、2体はメカゴモラの放ったミサイルの直撃を全て受けてしまった。

 

『ジュアアア!!?』

「ガアアアア!!?」

「ゼット! ゴモラ!?」

 

それにより、片膝を突くゼットとゴモラだが、ゼットは痛みに耐えながら愛を両手で優しく包み込み、手の平の上に乗せると立ち上がって彼女を安全な場所へと運んで降ろす。

 

「ゴモラ・・・・・・!」

 

その間にゴモラは雄叫びをあげながらメカゴモラに向かって行き、掴みかかってメカゴモラと取っ組み合いになるのだが、メカゴモラはゴモラの腹部に膝蹴りを叩き込み、ゴモラが蹲るとメカゴモラはゴモラの後頭部を殴りつけ、地面に叩きつける。

 

「ギシャアアア!!!?」

『グルアアアアア!!!!』

 

そのままメカゴモラがゴモラの背後に回り込むと、メカゴモラはゴモラの尻尾を掴み、ジャイアントスイングを繰り出してゴモラを投げ飛ばす。

 

その際、勢いのあまりゴモラの尻尾がブチッという音を立てて千切れてしまい、メカゴモラはゴモラの尻尾を投げ捨てると倒れたゴモラを蹴っ飛ばし、メカゴモラの攻撃を受け、弱った状態のゴモラに口から熱線を発射する「ビームバスターメガ」を放とうとするが・・・・・・。

 

「危ない!! ゴモラが!!」

『任せろ愛! させるかよぉ!!』

『ウルトラマンゼット! アルファエッジ!』

 

そこへ「アルファエッジ」に姿を変えたゼットが2体の間に割って入り、光で2本のゼットスラッガーを繋ぎ、ヌンチャクのように振り回して敵を切り裂く「アルファチェインブレード」でメカゴモラのビームバスターメガを防ぎ、攻撃を耐え凌ぐと素早くゼットはメカゴモラへと接近。

 

メカゴモラに近づいたゼットはアルファチェインブレードでメカゴモラの身体を斬りつけ、高熱火炎を纏った両足で連続回し蹴りを繰り出す「アルファバーンキック」を連続でメカゴモラに叩きこんで来たのだ。

 

『ガアアア!!?』

 

ゼットからの攻撃を受けて怯むメカゴモラだが、体から放たれるミサイル、「メガボディーミサイル」を先ほどのメガフィンガーミサイルと合わせて放ち、ゼットはアルファチェインブレードを高速回転させて再び盾として使用するが、先ほど同じ「ビームバスターメガ」がさらに放たれ、ゼットはそれもチェインブレードで防ごうとしたが、流石に全てを受けきることは出来ず、ブレードが弾かれてそのまま全ての攻撃がゼットに直撃してしまう。

 

『ウアアアアッ!!?』

 

さらにメカゴモラはゼットに向かって突進を繰り出し、ゼットはそれを両手で受け止めるのだが、パワーでは圧倒的にメカゴモラの方が上であり、ゼットはたまらず突き飛ばされてしまう。

 

『ジュアアアッ!!?』

 

それによってゼットは倒れ込み、その時の衝撃でビルの屋上に立っていた薫子もまた転んでしまうのだが・・・・・・その時、彼女は偶然にも持っていた初代ウルトラマンが描かれたウルトラメダルを落としたのだ。

 

『ぐっ、こいつパワーも相当ウルトラヤバイな・・・・・・。 って、んっ? あっ! アレは、ウルトラマンのメダル!?』

 

だが、起き上がった際にゼットは薫子がウルトラマンのメダルを落としたことに気付き、ライは「ウルトラマン?」とゼットの言葉に首を傾げる。

 

『俺達みんなの兄さんみたいな、ウルトラ凄い人だ!』

 

あれ? ゾフィー兄さんは・・・・・・。

 

『あれがあればメカゴモラのパワーにも対抗できる筈でございますよ、ライ!! あの娘からメダルを貰おう!!』

『でも、どうやって貰うんすか!? この状態で薫子先輩と会話ってできるんすか!?』

 

そうしている間にもメカゴモラがゼットへと殴りかかり、それを受けたゼットはフラつくがなんとか正拳突きを繰り出してメカゴモラの顔面に叩き込み、額のビームランプから超高熱の破壊光線「ゼスティウムメーザー」をメカゴモラに撃ち込んで引き離すと、今の内にゼットは薫子のいるビルへと近づく。

 

『ジェア! ジュア!! ジェア!!』

 

ゼットは薫子にウルトラマンメダルを渡すように彼女に頼むのだが、やはりと言うべきか言葉が通じている様子は無く、薫子はそんなゼットに困惑しながら「えっ? 私?」と自分を指差す。

 

『やっぱり言葉通じてないじゃないですかゼットさん!?』

『よし! こういう時は気合いとボディランゲージだ!!』

『えっ? えっと、お、押忍!! 薫子先輩!! その、メダル!! メダル!!』

 

ゼットは両手で丸を囲むような動作で必死にメダルのことを伝えよとするのだが、やはり薫子にはイマイチ伝わっていないようだった。

 

「そんな丸の描き方じゃダメだよ!! もっとまんまるじゃないと!!」

『あれ今誰かいませんでした!?』

『えぇ? いや、別にいなかったと思うけど・・・・・・それよりメダルだメダル!!』

 

ゼットは尚も必死にメダルを渡してくれとボディランゲージを続けていると、そこでようやく薫子はゼットがメダルを渡してくれと頼んでいることに気付き、彼女はメダルを拾いあげると「もしかしてこれが必要なの!?」と彼女はゼットに尋ねると、ゼットは力強く頷く。

 

「よーし、分かった!! どーぞー!! っと」

 

ゼットの求めている物が何か分かった薫子は、メダルをゼットへと投げ渡すと、ゼットはそれを右手で受け取り、メダルはインナースペース内のライのメダルホルダーの元にまで届く。

 

『よし、ライ! ウルトラフュージョンだ! 真っ赤に燃える勇気の力、手に入れるぞ!!』

『押忍!!』

 

ゼットの言葉にライは頷くとメダルホルダーから新たに3つのメダルを取り出す。

 

『マン兄さん、エース兄さん、タロウ兄さんのメダルだ!』

『おっしゃあ!! 真っ赤に燃える!! 勇気の力!!』

 

それぞれに描かれたウルトラマン達の名前をゼットから教えて貰うと、ライはゼットライザーのブレードの位置を戻し、メダルを3枚入れ替える。

 

『マン兄さん! エース兄さん! タロウ兄さん!』

 

そのままライはブレードをスライドさせ、3枚のメダルをスキャン。

 

『ウルトラマン・エース・タロウ!』

 

するとインナースペース内にいるライの後ろにゼット オリジナルが現れ、両腕を広げる。

 

『押忍!!』

『ご唱和ください、我の名を!! ウルトラマンゼーット!!』

『ウルトラマンゼエエエエット!!!!』

 

最後にゼットライザーを掲げ、トリガーをライが押すと、その空間の中をメダルに描かれた「初代ウルトラマン」「ウルトラマンエース」「ウルトラマンタロウ」の3人の戦士達が飛び交う。

 

『ヘアアッ!!』

『トアアッ!!』

『タアアッ!!』

 

そしてゼットはウルトラマン、エース、タロウの力を融合させた姿・・・・・・ボディは赤がメインカラーでパワータイプらしく筋肉質な体型へと変わり、目の周りを赤いマスクで覆われた覆面レスラーのような顔となったパワーに特化した形態、「ウルトラマンゼット ベータスマッシュ」へとウルトラフュージョンを完了させたのだ。

 

『ウルトラマンゼット! ベータスマッシュ!』

「おー! 今回は赤い!めっちゃ強そう・・・・・・! っていうかあれ赤いアイツじゃ・・・・・・?」

 

愛がベータスマッシュの姿を見て何か言っていたが、一応言っておくが赤いアイツではない。

 

もう1度言う、決してあの赤いアイツではない。

 

『ウルトラマンゼエエエエット!! ベエエエタスマアアアアッシュ!!!!』

 

そして、ベータスマッシュへと姿を変えたゼットは空中で何度も身体を回転させた後、強烈なドロップキックをメカゴモラへと叩きこんだ。

 

『グルアアア!!?』

『スリイイイ!! ツウウ!! ワアアン!! ダアアアア!!!!』

 

戦闘BGM「ウルトラマンゼット ベータスマッシュ」

 

メカゴモラを蹴り飛ばしたゼットは、雄叫びのような声をあげながらポーズを決めるとトンカチを握った人の描かれた看板がポロッと落ち、それが偶然にもすぐ傍で横たわっていたセブンガーの頭に当たると「カーン!」とまるでプロレス開始のゴングのような音が辺りに鳴り響く。

 

『ギシャアアア!!!!』

 

直後、メカゴモラはゼットに攻撃を仕掛けようと突進を繰り出し、それに対してゼットはタックルをメカゴモラに喰らわせる。

 

『グルウ!』

 

体当たりを受けたメカゴモラは多少怯むものの、負けじとゼットの胸部にチョップを繰り出し、ゼットは敢えてそれを胸を張って大胸筋で受けると、今度は仕返しとばかりにゼットの強烈なチョップがメカゴモラの胸部に何度も叩きこまれる。

 

『ダア!! ダアア!!』

『グウウウ!!? ギシャアアア!!!!』

 

すると今度はメカゴモラは尻尾を振るってゼットへと攻撃を仕掛けるが、ゼットはそれを跳び上がることで躱すと後ろ回し蹴りをメカゴモラの腹部へと決め、メカゴモラは後退った。

 

『ギシャアアア!!!!』

 

メカゴモラは鎖付きのロケットパンチ「ナックルチェーン」を放ち、ゼットの両腕を拘束し、メカゴモラはナックルチェーンを操ってゼットを引き寄せると、角でゼットの胸部を突き、それを受けたゼットは苦痛に満ちた声を挙げながら片膝を突く。

 

『ヌアア!!?』

 

しかし、それでもすぐさま立ち上がったゼットは今度は逆に自分がこの鎖を利用してやろうと思い、鎖の部分を掴みあげると力強くそれを引っ張り、メカゴモラを引き寄せる。

 

『グルアアア!!?』

 

引き寄せられたメカゴモラはゼットの反動を利用したドロップキックを再び受けて吹き飛ばされると、その拍子に拘束もあっさりと解けてしまい、地面へと倒れ込だ。

 

『コイオラアア!!』

 

ゼットは倒れるメカゴモラに対して「かかってこい!!」とでも言うような挑発的な動作を見せ、メカゴモラは立ち上がると同時に不意打ち気味にゼットに右胸のビームランプから発射されるビーム「クラッシャーメガ」を放ち、諸に直撃を受けたゼットは電線にぶつかり、身体に電流を受けてダメージを受けてしまう。

 

『ウアアオオ!!?』

 

その間にメカゴモラが電柱を引っこ抜くと、それを鈍器の武器のようにしてゼットへと殴りかかり、ゼットはそれを又もや大胸筋で受け止める。

 

『グウウ!? デュアア!!』

 

しかし、ゼットはメカゴモラから電柱を奪い取って地面に投げ捨てると、右腕に力を込めて強烈なパンチをメカゴモラの顔面に見舞ったのだ。

 

『グルアアアア!!!!?』

 

ならばとメカゴモラは角から強力な光線、メカゴモラ版超振動波こと「メガ超振動波」を放つが、対するゼットもそれを巨大な三日月状の光のカッター「ベータクレセントスラッシュ」を放つことで相殺。

 

『ベータクレッセントスラッシュ!!』

 

それにより両者の間で爆発が起こるのだが、ゼットは爆発の影響で起こった煙の中を通り抜けて一気にメカゴモラに接近すると、拳にエネルギーを纏い、敵を打ち上げるようにして殴り飛ばす「ゼスティウムアッパー」をゼットはメカゴモラへと繰り出した。

 

『ゼスティウム!! アッパアアアア!!!!』

『グル!? ギシャアアアアアアア!!!!?』

 

それを受けて殴り飛ばされたメカゴモラは身体中から火花を散らし、最後は空中で爆散して粉々に砕け散ちるのであった。

 

「おっしゃあ!!」

「おお~!! やったぁ!! ありがとうウルトラマンゼットー!!」

 

ゼットがメカゴモラを倒すと、薫子はゼットの勝利に喜び、愛は色々と助けてくれたゼットに感謝の意を示すのだった。

 

「ふむ・・・・・・。 メカゴモラは失ったが、これでゴモラの細胞は手に入ったも同然だから、今日は良しとするか・・・・・・」

 

しかし、ゼットが勝利という結果に終わったものの、メカゴモラはゼットに倒されはしたがアイラは特に悔しそうな様子は見せず、千切れたトカゲの尻尾のように、しばたくビタンビタンと動いていたゴモラの尻尾を見つめながらそう呟くと彼は静かにその場を去って行くのだった。

 

「キエテ、カレカレータ。 さて、怪獣の残骸を回収する仕事をしなくてはな・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、メカゴモラに攻撃を受けたゴモラは命に別状はなく、愛の協力を経てどうにかゴモラをスフラン島にまでセブンガーで誘導することが出来、ゴモラは今、なるべく木々などがない岩ばかりの場所で璃奈の作ってくれた巨大なマスクを頭の角に引っかけることで装着し、花粉症の問題等はほぼ解消もされた状態で平和に暮らすこととなった。

 

そのため、当初の予定通りゴモラ輸送作戦は一応の成功とも言えなくも無いが、結果は微妙なものとなってしまい、結局セブンガーはゴモラに勝てなかったことなどもあり、事務次官達に情けない姿を晒してしまったと思った倉名、ライ、薫子はそのことにストレイジ本部でクリヤマに頭を下げ、謝罪していた。

 

「「「申し訳ありませんでした!!」」」

「作戦成功・・・・・・とは言えないような微妙な結果を残してしまいました!」

「その上、セブンガーもゴモラに負けちゃって・・・・・・」

 

ライと薫子はクリヤマに反省の言葉を口にするものの、なぜかクリヤマは特に怒っているような様子は無く・・・・・・。

 

「いや、まぁ・・・・・・。 それなんだがね・・・・・・」

 

なんでも、クリヤマが言うにはメカゴモラに敗北こそしたものの、それでもウルトラマンにゴモラが善戦したことを考えると、セブンガーがあそこまでゴモラ相手に戦えたことはむしろ称えるべきことだと事務次官はクリヤマに言っていたらしい。

 

 

 

 

 

 

『凄いですなぁ、セブンガーは。 ウルトラマンですらあんなに苦戦したゴモラ相手に、大健闘だったんじゃないんですか? この調子でいけば、何時かウルトラマン以上のロボットを開発することも可能なんじゃないんですか?』

『えっ、それでは・・・・・・』

『私の権限で、必ず・・・・・予算を出しましょう』

 

事務次官はセブンガーの健闘っぷりを称えながらそう言ってクリヤマに手を差し伸べると、クリヤマはその手を握りしめ握手を交わすと彼は感激のあまり何度も事務次官に頭を下げたのだった。

 

『ありがとうございます!! ありがとうございます・・・・・・!!』

 

 

 

 

 

 

 

「ってことは、これで2号ロボが完成するんすね!?」

「おー!! これは璃奈ちゃんも喜ぶなぁ!! 早速連絡してあげよう!!」

 

2号ロボ開発の予算が降りたことで、ライ達は飛び跳ねるように喜び合うのだった。

 

「まぁ、確かに勝てはしなかったが、勇敢な戦いっぷりだったよ。 これからも、君たちには期待してるから」

「「「ありがとうございます!!」」」

 

 

 

 

 

 

「とまぁ、そんな感じで丸く収まった訳なんだけど・・・・・・。 何より当初の予定通りゴモラをスフラン島に運べたのは愛のおかげだよ。 2号ロボの予算が降りたのも愛がゴモラの誘導に尽力してくれたところもあると思うし、本当にありがとうございました!!」

 

その翌日、ライは学校の通学路を歩きながら途中で偶然合流し、一緒に登校することとなった愛に彼女のおかげでゴモラをスフラン島にまで運べ、2号ロボの開発予算が降りたのも少なからず愛の助力もあったからだとライは彼女に頭を下げてお礼を言うと、愛は照れ臭そうな表情を浮かべる。

 

「や、やめてよライ! そんな大袈裟な! 愛さんは別に大したことはしてないよ!」

「それでもありがとう。 それにしても、あそこまで人間に友好的な怪獣って案外いるもんなんだな・・・・・・」

 

思い返せば、ゴモラが一瞬事務次官達のいたビルで動きを止めたのは建物の中に彼等がいたことに気付いたからだろう。

 

愛をメカゴモラの攻撃の余波から守ったこともあり、これまで人間友好的な怪獣が全く確認できなかった訳ではないがゴモラはそこまで大人しい怪獣のイメージが無かったのでライはどこか意外に感じていたのだ。

 

「あー、でも結局ゴモラに恩返し出来なかったかー。 ゼットにも助けられたし、やること増えたな~」

「んっ? なんの話?」

「いやー、ライっていうか、ストレイジにちょっと頼みたいことがあるんだけど・・・・・・まぁ、それはまた今度話すね!」

 

愛の呟きにライが首を傾げながらなんの話をしているのだろうかと問いかけると、愛は「また今度話す」と返し、2人は学校へとそのまま向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから・・・・・・その後の学校の放課後、同好会の部室にて。

 

「歩夢! さいっこうに可愛いね! 高2だけに! 走るのってランランするよね! ランだけに!」

「あはははは!! あはははは!!」

 

部室では愛がなぜか自分の考えたオヤジギャグをみんなの前で披露しており、それを聞いていた侑はお腹を抱えて大爆笑。

 

「次は同好会でどーこういこうかい!?」

「あはははは!! もう、もう許して!!」

「凄くウケてますね・・・・・・。 不破さんみたいです」

 

床を叩きながら笑い転げる侑にせつ菜は少しばかり驚いた様子でいると隣に座る歩夢もそんな侑の姿を見て思わず苦笑した。

 

「侑ちゃん、幼稚園の頃からずっと笑いのレベルが赤ちゃんだから・・・・・・」

「なんでいきなりダジャレを?」

 

急にオヤジギャグを言い出した愛に、かすみはなぜいきなりダジャレを始めたのかと問いかけると、愛は笑いかけながら応える。

 

「スクールアイドルの特訓だよ!」

 

そんな愛の姿を見て、エマは微笑みを向けると・・・・・・彼女は一瞬、何か考え込むような表情を見せ、窓の外の空を見つめるのだった。








ゴモラに救済ルートがあっても別に良いよね?
ライが輸送作戦の時にセブンガーに乗らなかったのはまだ仮入隊中の身であること、ギガス戦でヘマをしたことから倉名がもう少し訓練した方が良いかもしれないと判断した為です。
その結果、花粉症にかかる役割は薫子先輩に。
ところで、書いてて気付いたんですけど、エママの「昨日はソロアイドルって聞いて~」の台詞なんですが、明らかに2日経ってる描写があるので「それを言うなら一昨日では?」と思ったんでここは普通に台詞差し替えてます。
ちなみにセレブロがメダルじゃなくスパークドールズを使用したのは怪獣メダルは消費したくないんじゃないかなぁっと思ったからです。
尚、メカゴモラのSDはマーキンド星人から買い取ったものの模様。

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