世界最強の剣士の弟子   作:火神零次

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一年生編2

 朝からトレーニングをすることにした二人は、朝早くから走っていた。

 

「これは中々……辛いね」

「魔力制御の向上も兼ねているからな。これを毎日続ければ、少ない魔力でも正確に扱えるようになる」

 

 これのお陰で、魔力制御のランクはとても高い評価を得ている。魔力量の少ない一輝でも、正確で精密な魔力制御を身に付けることで、戦闘の幅は多少広がるはずだ。

 一輝が普段から行っている25㎞ランニングに、特定の場所から魔力を放出することで、的確な魔力放出と制御を可能にする方法を実践する。

 魔力を消費することでも体力が奪われることがある。特に魔力量が少ない自分達では影響が少ない方だが、無視できないわけではない。これを実践することで魔力を消費しても戦える状態を維持できるようにすることも、このトレーニングの目的にある。

 

「爛は、これをいつから?」

「少なくとも六歳の頃からは」

「凄いね……そんな頃からそういうことをしていたのか。確かに、この程度じゃ息が上がらないわけだ」

 

 肩で息をしている一輝の隣で、軽く汗をかいている程度でいる爛を見て、常にやり続けることの意味を痛感する。

 

「続けることに価値がある。それは一番、お前が分かっていることだと思うぞ?」

「否定はしないよ。僕だってよく分かっているつもりだ。でも、これで幅が広がるとは思わなかったな」

「使えるものは何でも使う……例え、小さなコップ一杯にしか入らない量であったとしても、有効に使う方法はいくらでもある。生かすか殺すかはお前次第だ」

 

 微弱な魔力であったとしても、使う方法はいくらでもある。どのように扱うかはその人間次第だが、あらゆる事に手を出して、己を高めようとしている人間は強くなる。それを体現している人間を、爛は知っている。

 

「よし、落ち着いたところで始めるか」

 

 一輝が落ち着いたのを確認すると、爛は構えた。その手には何も持たず、格闘術の構えをとっていた。

 

「あらゆる技術を必要とするなら、格闘術は必須だ」

「勿論、多少は心得ているつもりだよ」

「パンクラチオン……というわけにはいかないが、手合わせは必要だろう。互いにどれだけの実力があるか分からないからな」

「なるほど、手合わせをすることでお互いの実力を測るわけだね。合理的かつ簡単な方法だ」

 

 互いに手合わせをすることに異論がない以上、しないという選択肢はない。構えた二人を静寂が包む。

 

「行くぞ!」

 

 沈み込み、足のバネを利用して少し離れた距離を一気に詰めて回し蹴りを繰り出す。

 

「ぐっ!」

 

 合図に近いものがあったとはいえ、詰めるスピードが速い。構えていたからこそ防げたが、不意打ちだったら頭を持っていかれていた。

 

「ハア!」

 

 フリーになった爛の体を狙い、拳を繰り出す。

 振るった足を戻し、体勢を低くし体を反らす。

 

「フッ!」

 

 顔に向けて飛んでくるパンチ。

 顔を傾けることで避け、反撃を繰り出す。

 しかしながら、お互いの打撃はどちらも当たることはなく、ひたすらに空を突き抜けるだけだった。

 

「……これじゃ、キリがないね」

「同感だ」

 

 互いにどれだけの実力を有しているかは、おおよそ把握できた。

 だが『足りない』。それだけは断言できる。まだ一輝は上を目指すことができるはずだ。黒鉄家では誰かに教えてもらうということはされなかっただろう。

 独学だからこその癖。甘いところがまだある。それでも、独学で到達できる領域には最初から居なかった。

 

「今日から授業もあるから、この辺で終わりにしよう」

「ああ、そうだな」

 

 初日から遅刻という事態は勘弁して欲しいところだ。生活に慣れるまでは早め早めの行動をしていくことにしよう。

 ……と、多少の意気込みをしていたものの、突如として出された規定により、出鼻を挫かれたような気分になった。

 

『Eランク以上の魔力量を保有する者のみ、実戦授業の受講を認める』

 

 ありもしない規定だということはすぐに察することが出来た。

 既に一輝が黒鉄家でどんな扱いを受けてきたか知っている爛は、この規定に該当する人間が一輝しかいないことを知った上で行っていることも分かった。

 元より、入学試験が存在している破軍学園で魔力量がFランクである一輝を迎え入れることなんかするわけがない。だが、彼が迎え入れられた理由は彼がいる試験部屋にいた魔導騎士が、破軍学園に入学するに値する者だと判断したからだ。

 

「一輝、黒鉄家はこんなことを普通に仕出かすのか?」

「……しても可笑しくないね」

 

 否定して欲しかった言葉に返ってきたのは、肯定の言葉。その事実に、爛は舌打ちをした。

 茨の道に進もうとする子供を止める気持ちは分からないわけではないが、権力を振るってまで止めさせようとする理由は分からない。

 だが、《鉄血》はそれが出来てしまう。奴に親としての情があるとは思えない。そういう結論に、爛は至ってしまった。

 そうして、重苦しい空気を二人が纏っている中──

 

「ら~~~ん!」

 

 爛を呼ぶ少女の声が聞こえた。

 声がした方向に、二人して向いた瞬間。

 

「どわっ!!」

 

 突っ込んできた少女に押されるがまま、爛は倒れた。その際に鳴った鈍い音は、一輝の額に冷や汗を浮かばせた。

 

「爛!? 大丈夫!?」

「だ、大丈夫だ」

 

 思いっきり地面に打ち付けた後頭部を手で抑えながら、爛は突撃して押し倒してきた少女に声をかける。

 

「爛、久しぶり!」

「ああ、久しぶりだな。

 ……起こしてくれないか?」

「あ、ごめんね? 今、起こしてあげるから」

 

 爛の手を引っ張って起こす、六花と呼ばれた少女。

 

「紹介するよ。葛城六花。《雷神》葛城雅さんの血縁者に当たる。二つ名を《雷霆》」

「あの《雷神》の……!?」

「……大切なこと忘れてる」

「何か忘れてるか?」

 

 紹介するには十分すぎると思うのだが。

 何が足りないのか全くもって見当がつかない爛は、首を傾げる。その反応に不満そうな六花は頬を膨らませた後、爛に抱きついた。

 

「爛の幼馴染みってこと!」

 

 満面の笑みで爛と幼馴染みだということを告げる六花は、そのまま頬擦りをした。

 

「君が爛のルームメイト?」

「うん。僕は黒鉄一輝。よろしくね、葛城さん」

「あ~、僕の事は六花でいいよ。堅苦しいのは苦手だし、これからよろしくね、一輝!」

 

 幼馴染みにしては仲が良すぎる。恋人だと言われても可笑しくはないと思った一輝は不意に微笑み、ちょっとした欲求を満たしたくなった。

 

「幼い頃から仲が良かったのかい?」

「うん。家も近かったし、家族絡みで会うことが多かったもんね」

「元々、清一郎さんと雅さんは友人だったんだ。曾祖父の代から六花の家とは仲が良かったってことだな」

「そうなんだ……ところで気になるんだけど」

 

 二人が幼馴染みだということは分かった。「久しぶり」という言葉も、二人の関係を考えてみれば、そういう言葉が出てくることも容易に想像できる──のだが、どうしても気になることが一輝にはあった。

 

「なんでそんなにくっついてるの?」

 

 二人の事を指差しながら言った。

 六花は首を傾げているが、爛は一輝の言いたいことが伝わったのか、苦笑を浮かべながら答えた。

 

「六花とはいつもこんな感じなんだ。俺は困ってないから平気なんだが……」

 

 爛の左腕に抱きつく六花は、これが普通ですと豪語するかのように平然としている。

 

「好きな人にくっついたらいけないの?」

「あ、いやそういうわけじゃないんだけどね……」

「一輝、何か言うのは諦めた方がいい。俺はもう諦めた」

 

 長い付き合いがある爛でさえとやかく言うのを諦めたとなれば、自分ではどうすることも出来ない。

 

「六花、颯真はどうしたんだ?」

「颯真?」

「幼馴染みだ。同じ歳だから、魔導騎士学校に入学しても可笑しくはないからな」

「颯真なら、同じ破軍学園だよ。僕も何処にいるかは……」

 

 もう一人の幼馴染みを探そうとしたところで、授業が始まる予鈴が鳴る。

 

「ったく、間が悪いな。仕方ない……颯真を探すのは授業が終わってからにするか」

「次の授業は、確か実戦授業だったよね」

「ああ……一輝」

 

 戦いにおける判断を間違えないようにするためには、実戦の積み重ねが大切だ。魔導騎士になると言うのであれば、これが重要になるのは言うまでもないだろう。その練度を上げるためにも、実戦授業が用意されており、学生騎士が魔導騎士学校を卒業するのに必要な単位数が一番多い。

 爛が一輝を心配するような目を向けるのは、突如として出された『ありもしない』規定が原因だ。魔力量が足りない一輝は、実戦授業を受けることが出来ない。単位は絶対に足りなくなるし、この規定を無くさなければ、どれだけ学園に居ようとも永遠と留年を繰り返すだけだ。

 

「分かってるよ。爛」

 

 だというのに、一輝の顔は少しも淀んでなどいなかった。

 瞳の奥では『転んでもただではすまない』と静かに闘志が燃えているのを感じる。

 一輝は来た道を引き返す。

 

「……行くぞ、六花」

「……うん」

 

 なら心配はいらないと。

 そう確信した爛は一輝とは逆の方向に向かって歩いた。

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