世界最強の剣士の弟子   作:火神零次

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一年生編4

 リング上で相対した二人。

 

「行くぞ、刻雨」

「狩りの時間だ、朧月」

 

 武装となった己の魂を握る。

 爛は鞘に納められた黒塗りの日本刀を。

 桐原は洋弓を。

 この模擬戦、一般的に考えれば桐原の圧勝になる。魔導騎士同士の戦いにおいて、相手の能力を知ることは必要と言えるだろう。

 学生騎士はそのステータスを測定されている。それによってつけられた騎士ランクは、その学生が有している魔導騎士としての能力である。

 ある意味ではそれが全て、と受け取れるがランク重視の社会において、騎士ランクは絶対と認識している。

 

「君はどんな無様な姿を見せてくれるかな?」

「…………………………………」

「おー、怖い怖い。そんな目を向けてくるなんて。本気にさせちゃったかな?」

 

 挑発を続ける桐原。

 人の激情を買うのは随分と得意なようで、それだけ自分がこの模擬戦で負けることはないと自負している。

 対して、爛は桐原の挑発の言葉に何も答えず、ただ立ち尽くしている。

 

「それじゃあ、始めようか」

 

 リング上に木々が生え始め、やがて森を形成した。

 身体能力を強化できれば、木の枝の上に登り、射ち下ろすことが出来る。森は弓兵の独壇場とも言えるだろう。

 爛の正面に立っていたはずの桐原は見えなくなり、爛は視覚による情報で桐原を捉えることは出来なくなった。

 

「鼠のように這い回ってくれよ? 宮坂くん!」

 

 突如として放たれた矢。

 視覚の情報を遮断され、どこから飛んでくるか分からない矢を防ぐことは難しい技だ。頼りになるのは聴覚だが、遠距離から敵を狙う弓を相手に、聞き取れる音もあったもんじゃない。

 つまり、爛は戦闘において頼るべき視覚と聴覚が使えない状況なのだ。これでは、桐原が圧倒的に有利。

 とはいえ、飛んでくる矢は常識的に考えれば曲がったりすること無く重力の影響を受けながらも、真っ直ぐに飛んでくる。木の幹を利用しながら、飛んでくる矢を避け続ける。

 

「逃げ回るだけで精一杯かい? はっ、お似合いだよ!」

 

 容赦なく、矢を放ち続ける桐原。

 逃げ続ける獣を殺すまで追い立て続けるのは、まさに狩人だと人々は言うだろう。見えない恐怖というのは、獣であれ人間であれ思考を狭める。単調な思考しか出来なければ、狩る側は楽なものだ。

 

「そらそらそらそらあ!」

 

 爛は必死で逃げているという印象を受けるだろう。どこから来るかも分からない攻撃に対して、どうにかしろという方が無理難題な話だ。

 桐原は追い詰められた獣をさらに追い立て、まさに狩りに興じていた。

 

「っ……!」

 

 矢を避け続け、どのように避けるのか分かったのか。逃げ道を潰され、跳躍して避けた先には真っ直ぐに飛んでくる一本の矢。それに、気づけなかった爛の右胸に矢が突き刺さった。

 たまらず膝をつき、矢を引き抜く。幻想形態を使用しているため、血が流れ出すことはないが痛みはある。

 

「ほらほら! 友達にカッコいいところを見せたいんだろう? 頑張ってくれよ!」

 

 すかさず三本の矢を放つ。

 膝が地についたままの爛には、確実に矢は突き刺さる。確信していた勝ちが確実になったと桐原は口角を上げるが──

 

「……へっ?」

 

 目の前に映ったあり得ない光景に、すっとんきょうな声を出した。

 桐原の目論み通りなら、目の前にいる爛は三本の矢を避けることも防ぐことも出来ずリングに倒れているはずだった。

 だがどうだ。

 最初から分かっていたように、三本の矢は刀によって弾かれていた。

 

「……行くぞ」

 

 立ち上がった爛は構えた。

 しかし、爛が桐原を捉えることは出来ない。勝ちは揺るがないと確信している桐原は矢をつがえ、放つ。狙うは右の脛。当たればまともに動くことなど出来なくなる。

 

「なっ……!?」

 

 そこに来ると分かっていたと言わんばかりに矢を踏み潰す。流れるようにして爛は自身の刀を投擲した。

 声にならない悲鳴をあげようとした桐原を止めるように、見えないはずの桐原が立っている木の幹に的確に当てた。

 

 矢をつがえよう。

 早く逃げよう。

 目の前にいるのは『理不尽』そのものだ。

 

 桐原の思考は恐怖に埋め尽くされた。そこに生まれた隙が命取りで。

 

「がっ……!?」

 

 瞬きする暇も与えられずに、一瞬で距離を詰めた爛よって斬り伏せられた。

 桐原が意識を失ったことで維持ができなくなった森は、跡形もなく消えた。

 

「そこまで! 勝者、宮坂爛!」

 

 この戦いを観戦していた生徒たちがどよめく。

 目の前で見せられた、あり得ない光景に自分が嘘偽りではないと信じていた知識が覆されたからだ。

 

「爛! 大丈夫!?」

「なんともない。大丈夫だ」

 

 右胸を射られたものの、平然としている爛の姿を見て安堵する六花。

 

「……イカサマだ」

「イカサマだ!!」

「どうせ葛城さんや音無さんの手を借りたんでしょ!?」

 

 自分達が信じて疑わなかった知識が裏切られ、その事実を受け入れられない。その結果、もたらすものが幼稚な批判。

 彼らの言葉に耳を貸すつもりなどない爛は言い返すことはしなかった。

 

「言い返さないの?」

「言い返したところで意味はないだろうな。認めたくない現実から目を背けるために批判しているだけだ。こういうことがあるということを受け入れなければな」

 

 あくまでも彼らに何か言おうというつもりは毛頭ない。こういうのは本人が受け入れられるかどうかの話だ。

 

「でも、そう簡単に受け入れられそうだとは思えないけど」

「流石に今からそうして貰えるように話してやるほど、俺はお人好しじゃない。

 ……それじゃあ、先に俺は戻ってるよ。周りの視線が痛いもんでね」

 

 イカサマだのと言い出した時は騒ぎになるかと思ったが、六花と颯真が強く睨み付けていたことで、周りの生徒たちは急に黙り出した。

 何食わぬ顔で爛は訓練場から去っていく。

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