ポケットモンスターHEXA   作:オンドゥル大使

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第六章 三十六節「信じる道」

「中枢に行ってどうするんだ? ディルファンスは」

 

 サキの問いかけに、セルジは首を横に振った。サキは出来る限りセルジに肩を貸さないようにしながらも、痛みと疲労感からか寄りかかるような形になっている。セルジは少しばかり顔を逸らした。マコは後ろから付いてきていたが、その様子が何やら異様に見えた。ただでさえ高慢ちきなサキが誰かに頼っているのが珍しいのだ。それに発言も随分と丸い。そう思っていると、返事に窮しているセルジに対してサキは鼻を鳴らした。

 

「もっとも、お前のような末端が知っているとは思えんがな。その点、今の問いかけは愚問だった。あのエイタがチームを離れるような人間を信じるとは思えない」

 

 サキの棘のある言い回しに、セルジは「……手厳しいな」と呟いた。その言葉に弱っていてもやはりサキだとマコは苦笑しようとして、サキが肩越しに振り返った。

 

「馬鹿マコ、お前今、私を馬鹿にしたか?」

 

 マコは慌てて両手を顔の前で振って、「そ、そんな事ないって」と言葉を発する。「どうだか」とサキは顔を戻した。

 

「ただ、ルナポケモンを識別するゴーグルに今の状況が表示されるはずだったんだが……」

 

「それを仲間に手渡してこっちに来てしまった。大馬鹿者め」

 

 鋭い一瞥をセルジにくれると、セルジは顔を伏せた。

 

「返す言葉もないな」

 

「だが、おかげで何とかなった。形式上であるが、礼を言ってやろう。もっとも、馬鹿なのは変わりないがな」

 

 言い放つ声にマコとセルジが笑みをこぼす。サキが頬を紅潮させて「何だ、馬鹿共」と口を開くが、どこかしらその声は浮ついていた。サキとてゲインとの戦いに助けなくして勝てたとは思っていないのだ。素直になりきれぬサキの様子が可笑しかったが、これ以上笑ってもサキを逆撫でするだけなので、二人は咳払いで打ち消した。

 

「セルジさん。ディルファンスは何のつもりなんでしょう。まさか、また裏交渉があるんでしょうか」

 

 既にロケット団とディルファンスの間に交渉があったことはセルジに話しておいた。その全ての線はキシベという一人の男に繋がっている事も。ディルファンスの動きから離反したセルジならば、信頼できる気がしたのだ。セルジは「いや」と首を振る。

 

「ヘキサの動きはエイタさんにとっても予想外だろう。動揺は、僕ら下っ端にさえも伝わったくらいだ。本当に、エイタさんはヘキサを壊滅させようとしているはず。でも、現実的に考えて、どうにか出来る人数じゃない」

 

「そんな事を言い出したら私達のほうがおかしいだろう。六人だぞ」

 

 サキの言葉にセルジはフッと笑みを浮かべた。

 

「そうかもしれない。でも、君達は勇気ある六人だ。俺とは大違いだよ。組織に呑まれまいとしながら、結局のところ組織を打ち破れたのはさっきの瞬間だけだ。今も、正直言うと後悔している」

 

「嫌ならば戻ればいい」

 

 サキの言葉にセルジはゆっくりと首を横に振った。

 

「もう、戻れない。それに俺は親友の意志を継いだんだ。そいつはもう戦えるだけの力は無いと言ってドリュウズを俺に託してくれた。その意志を繋げたいんだよ。誰に強制されるでもなく、俺の心で」

 

「青臭い理想論だ」

 

 否定の言葉にマコとセルジが黙りこくる。サキは少しの間、沈黙を挟んだ後、「だが」と続けた。

 

「嫌いじゃない」

 

 その言葉が本当にサキの口から放たれたのか、マコは一瞬耳を疑った。セルジも目を見開いているが、やがて後ろのマコと視線を交わしあい、お互い笑みを浮かべた。そうだ。こうやって、サキと自分達は少しずつ前に進んでいくのだ。それが出来ると、前夜に決意したではないか。サキも歩み寄ろうとしている。ならば、自分にも出来る事はあるはずだ。

 

「そうだな。俺も、この気持ちを大事にしたい」

 

「私も、サキちゃんの事、大好きだよ」

 

「なっ! 馬鹿な事を言うな、馬鹿マコ! 本当に、お前は頭がすっからかんだな!」

 

 大声を出したせいか、サキが痛みに顔をしかめる。セルジが立ち止まり、マコが歩み寄った。サキは額に汗を掻きながらも、「大丈夫だ」と気丈に振舞った。

 

「進もう。それしかないんだ。私達は」

 

 その言葉にセルジとマコは顔を見合わせて頷いた。サキの言葉は自分達の進むべき道のコンパスでもある。そのコンパスが進めと示しているのだ。針が折れそうになっているにもかかわらず。だったら、その意志を共にするのが、親友の務めだ。

 

「分かったよ。サキちゃん。肩を」

 

 マコがサキの腕を肩に担ぐ。「いいって」とサキは言ったが、マコは「サキちゃんのためになりたい」と体重を引き受けた。セルジもサキの身体を担ぎなおし、共に歩みを進める。

 

「……傍から見ると、馬鹿みたいだぞ、私達」

 

「馬鹿でも、いいもん」

 

 マコは歩む足に力を込めた。愚直でも、馬鹿でも、信じる道があるのならば、それは無駄ではない。頬にかかる雨が少し弱まり始めた。もうすぐ、太陽が新しい道を作る。その予感に、マコは顔を上げた。

 

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