ポケットモンスターHEXA   作:オンドゥル大使

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エピローグⅡ

 君が花を摘むのなら、私はその分、罪を受け取ろう。ひとつは自らの罪を。もうひとつは隣人の罪を。そしてもうひとつは、最愛の人の罪を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ごとん、と重い音を立てて籠に押し込められた身を揺らせる。

 

 サキは足先から身震いするのを押さえ込むように両手で身体を抱き締めた。窓の外を見ると、どんどんと地上が離れていく。不安げに下にいる係員に視線を向けていると、前の席に座っているマコが首を傾げた。

 

「どうしたの? サキちゃん」

 

「どうしたの、ってお前……。怖くないのか?」

 

「怖くないのかって……。そういう乗り物でしょ、観覧車って」

 

 マコは先程売店で買った飲み物のストローに口をつけていた。サキは安心出来ずに鉄の籠を揺すった。ぐらぐらとして危なっかしい。やはり乗るのではなかった、と後悔に苛まれているとマコが尋ねてきた。

 

「もしかして、サキちゃん。高いところ怖いの?」

 

 マコの額へとすかさずサキの放ったチョップが突き刺さった。マコは額を押さえながら目の端に涙を溜める。

 

「痛いよー、サキちゃん」

 

「当たり前だ! 痛くしたんだからな。いいか。私は高いところが怖いんじゃない。こういう不安定な乗り物が怖いんだよ」

 

「結局、観覧車が怖いだけなんじゃ……、って痛いってば!」

 

 マコの耳をサキがつねり上げる。喚くマコを突き放し、サキは憮然とした態度で席に座った。

 

「これ、あと何分で降りられる?」

 

「えっと……、乗ったばっかりだしこの観覧車大きいから、三十分くらいかな」

 

「馬鹿か! そんなに待てるか。いい。私は降りる」

 

 扉に手をかけたサキをマコが必死に押し止めた。

 

「駄目だって、サキちゃん。私がいるから安心してよ」

 

「お前がいるから安心出来ないんだよ、馬鹿マコめ! 大体、どうして遊園地なんてお子様の遊び場に来なきゃならないんだ」

 

 サキが席に戻り、苛立ちを隠しもせずに舌打ちと貧乏揺すりを始める。マコは眉をひそめて、

 

「サキちゃんも行きたいって言ったじゃない」

 

「ああ、言ったさ。ただし、こういうのに乗りたいとは一言も言っていない」

 

「でも、遊園地と言えば観覧車でしょ。朝早くに起きてコウエツシティまで来たんだし。ゆっくりしていこうよ。今日のお宿もあるんだよ」

 

 その言葉にサキはぶすっとして窓の外を見つつ呟いた。

 

「……なんで私がマコと外泊しなけりゃならないんだ」

 

「サキちゃんが言ったんでしょ。外で泊まりたいって」

 

 マコの言葉にサキは堪りかねたように膝を叩いた。

 

「ああ、もう、うっさい! お前、最近口ごたえが増えたな。馬鹿のくせに」

 

「いつまでもサキちゃんにいじめられてばかりじゃないもんねー」

 

 マコが澄ました様子でジュースを啜る。この一年で変わったのは関係性だろう。マコはサキと対等に接するようになった。サキも高圧的な態度を控えようと思った。お互いがお互いのためを思って譲り合い、今日、外で遊んで泊まりたいと言ったのもそのためだった。しかし、一年の間にマコは扱いづらくなった、とサキは思う。以前は戦いのキャリアだけでマコの意見を退けられたのに、それがなくなった途端にどうすればいいのか分からなくなった。いっその事、まだ戦いに身を置いていたほうがとさえ思えてくる。

 

「この観覧車って乗り物は大体そうなのか? 作りが粗いぞ。作った奴を呼んで抗議してやる」

 

「やめなよ、サキちゃん。こういう乗り物なんだって。ほら、あそこ。海の向こうの本土があんなによく見えるよ」

 

 マコが外を指差して興奮した様子で言うも、サキは態度を覆す事は無かった。

 

「ただの陸と海だろうが」

 

 にべもないサキの言葉にマコは「夢がないなぁ」と頬を膨らませる。

 

「いい景色じゃない。天気もいいし、今日来てよかったぁ」

 

 季節は夏にさしかかろうとしている。サキは白いワンピースを身に纏い、麦藁帽子を被っている。マコはあの一件以降気に入ったのか、黒地に赤いラインの入った服を着ていた。

 

「来てよかったなんて軽々しく言っていいのか? 最悪の思い出になるかもしれないんだぞ」

 

 サキの夢も希望もない言葉に、マコは抗弁の口を開いた。

 

「そんな事ないよ。サキちゃんと一緒なら、どこだって嬉しいもん」

 

「馬鹿。恥ずかしい事言ってんじゃないぞ、馬鹿マコめ」

 

 サキは顔を背ける。しかし、その頬は紅潮していた。暑さのためだけではない事は、サキでも分かっていた。マコは笑みを浮かべて、

 

「こんな風に観覧車に二人っきりで乗ってると、恋人みたいだよね」

 

 その言葉にサキは動転したように喚き声を上げた。

 

「バカバカバカ、そういう事言うなぁ!」

 

 サキは恥ずかしくなったのか、顔を麦藁帽子で覆い隠す。その様子が可笑しくなって、マコはもう少しからかう事にした。

 

「サキちゃん。喉渇いたでしょ? 一口あげる」

 

 サキへとストローのついたジュースを手渡す。サキは半分麦藁帽子に隠れた顔でじっと見つめた後、何か決心したかのようにストローを口にくわえた。一口飲み、マコへとつき返す。マコがニヤニヤとしまりのない笑いを浮かべ、「おいしい?」と問いかける。サキは麦藁帽子をさらに深く被ってくぐもった声で応じた。

 

「……おいしかったです」

 

 風に乗って鳥ポケモンが空を舞い、その声がマコ達の乗っている観覧車にも遠く長く響く。マコはサキと一緒にいられる時間を笑顔で過ごそうと、次はどんな乗り物に乗ろうかと考えを巡らせていた。サキは麦藁帽子で顔を覆いながらも、顔が先程よりも赤くなっているのを自覚していた。

 

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