NEMESIS   作:オンドゥル大使

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第十一話「スタート」

 

 個体識別番号、というものは振られているのは妙な感覚だ、とナツキは口にした。

 

「何で?」

 

 ユキナリが問い返すと、「だって」とナツキはホルスターのモンスターボールに手をやった。

 

「ストライクは何体も野生にいるのに、あたしだけのポケモンって言うのが」

 

「いいんじゃないの?」

 

「何か妙なのよ」

 

 ナツキは腕を組んで怪訝そうにする。テクノロジーに慣れていないだけだろう、とユキナリは言い返そうと思ったが、ナツキは抗弁の口を開くに決まっているので黙っておく。

 

 ユキナリの視界には今回のポケモンリーグに集まった選手達が映っていた。誰もがホルスターにモンスターボールを携えている。視界に入るだけでも百人はいると思える参加者にユキナリは緊張で乾いた喉へと唾を飲み下す。

 

「こんなにいるのか……」

 

「あたしも、ちょっと意外。今回のポケモンリーグ、色んな地方からの参加者を募っているって話だけれど、トキワシティがパンクするわ」

 

 その言い回しは言いえて妙だ。トキワシティの敷地を様々な人種の人々が行き交うのはどこか遊離して見える。

 

 ユキナリは無意識に二ヶ月前に出会った男を目線で探していた。確か参加者だと言っていたが。

 

「きょろきょろしていると、おのぼりさんみたいよ」

 

 ナツキの指摘に、「実際、そうなんだし」と返す。ユキナリもナツキも、用のない限りはトキワシティより都会には出ない。その都会が人混みでごった返すとなれば一大事である。

 

『参加選手は手持ちの個体識別とトレーナーカードの提示を行ってください! 受付はあと十分で閉じます!』

 

 ほとんど悲鳴に近いアナウンスの声だった。あと十分で開会、となれば人々もいよいよ賑わってくる。中には応援目的で駆けつけたギャラリーもいるが、参加者とギャラリーは黄色いロープで区切られていた。ユキナリはポケモンリーグ開催に当たって配布された端末に視線を落とす。左手に時計を模したポケギアと呼ばれる端末があった。事前に説明されたルールによって必要不可欠とされた道具だ。選手は皆、これをつけていなければならない。

 

「このポケギアって開発されたばかりの技術なのに、トレーナーなら無償貸与って気前いいわよね」

 

 ナツキがまだポケギアの扱いになれていないのか悪戦苦闘しながら呟く。ユキナリは既にラジオ機能や通話機能など様々な機能がある事を確認済みだった。

 

『これより、開会式に当たって、楽団の演奏と大会のシンボルであるモンスターボールのデザインを提供したシルフカンパニー社の祝辞、及び多くの方々の祝電が――』

 

 どうやらそろそろ開会らしい。ユキナリは舞台に上がる一人の男を見やった。髪に白いものが混じっているがまだ博士と同い年くらいだろう。何度もテレビで目にしたので知っている。

 

「カンザキ執行官だ」

 

 このポケモンリーグを取り仕切る人間。彼がマイクスタンドの前に立つと先ほどまでの騒音が嘘のように静まり返った。皆がこの歴史的瞬間に息を呑んでいる。カンザキは短い挨拶を述べた後、手を差し出した。何をするのかと思えば彼の背後には巨大な玉座が控えていた。黄金の彩をされた玉座の威容に人々が感嘆する。

 

「これこそが! セキエイ高原の玉座であります! この玉座の黄金の輝きは皆様の闘志の輝きでもある。その輝きを、どうか最後の最後まで持っていただきたい! その闘志を持つ者こそが新たなる時代の王に相応しいからです!」

 

 その言葉に呼応するように人々の中から雄叫びが上がった。優勝候補と目された人々が入場してくる。ヒーローは遅れて登場するものとでも言いたげに、彼らは群衆に手を振った。

 

『デボンの御曹司、ツワブキ・ダイゴの登場だ! その後ろにはシロナ・カンナギの姿もあります!』

 

 銀色の髪と瞳をした青年が手を振っている。シロナ、と呼ばれた女性は無愛想に通り抜けていく。

 

『イッシュの異端児、アデクだ! ジョウトのイブキもそれに続きます! カントーの新鋭、サカキは颯爽と登場!』

 

 赤い髪の青年は笑みを振りまきながら入場する。肌が茶褐色で荒らしい顔立ちである。先住民の末裔という情報は嘘ではなさそうだ。マントを翻して水色の髪を結った少女がピンヒールをつかつかと音を立てさせて入ってくる。その後ろにはあまり目立たないが涼しい目元の少年が続いた。

 

『全選手、スターティングポジションへと移行してください』

 

 アナウンスの声にユキナリは自分のID下三桁と一致するグリッドの中へと入った。ナツキは少し離れたところからのスタートとなるがいずれ合流するだろう。今は、とユキナリはトキワシティから真っ直ぐ北に向かう道を見据えた。

 

『モンスターボールからポケモンを出すのはスタートの花火が上がってからお願いします。スタート、二分前』

 

 スタートの花火、それを待っていながらユキナリはモンスターボールに触れた。この二ヶ月、やれる事はやった。後は自分の実力がどれほどまでに及ぶのか、それを確認するまでだ。

 

 アナウンスの声がその思考を遮る。

 

『第一回ポケモンリーグ、スタート時刻です!』

 

 

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