NEMESIS   作:オンドゥル大使

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第百六十六話「呪詛」

 

 頼んでおいた通りに、フジは鉛筆を持ってきたがユキナリはスケッチブックの封を開ける事が結局出来なかった。あのような惨状を見せられてそれでも能面を貫けるほうがどうかしている。呑気にスケッチという気分でもなく、ユキナリはため息をついた。ベッドに寝そべり、スケッチブックに爪を立てる。

 

「……でもキクコは助けたんだ。それ以上に僕が何を出来たっていうんだよ」

 

 キクコを助け出した。それだけが自分を許せる免罪符であった。朝の時間になればユキナリは鉛筆とスケッチブックを片手に研究所をさまよい歩く。何が真実で何が嘘なのか分からない。だがキクコと話せば、もう一度彼女を絵に描く事が出来れば、何かが変えられるかもしれない。自分を許せるかもしれない。

 

 キクコは以前と同じようにテントに住んでいた。訪問時には声をかけてからテントに入る。キクコは不在であった。ユキナリはテントの中を見渡す。中は割とごった返しており、生活必需品が段ボールに込められている。どうやらキクコも自分と同じような食事を毎日しているらしく、テントの外にはトレイが置かれていた。誰かが交換に来るのだろうか。今朝の分しかない。

 

「そうだ。キクコは、インスタントのスープが好きだったっけ」

 

 この研究所で話が出来るのはカツラとフジだけだったが、フジには昨日の手前会いにくい。ユキナリはカツラを探そうとしたが、カツラはなかなか現れてくれなかった。研究所の窓が朝露で曇っている。今のうちに、研究所がどのようになっているのかを知っておくのも悪くないと考えた。研究所でカツラと最初に出会った場所を目指そうとするがどこも似たような造りのため早速迷ってしまった。

 

 どこへ行くべきなのだろう。ユキナリは暗がりの中で手を伸ばしていると不意に投光機のスイッチを押してしまったらしい。ガン、と巨大な音と共に光が広がり、ユキナリは眩さに目を細めた。

 

 その視界に入ったのはけばけばしいピンクと青を基調とした鳥型の置物の群れだった。思わず息を呑む。整然と並び立てられた鳥型の置物は黙している。今にも動き出しそうだったが生きている感じはしなかった。

 

「これって……」

 

「ポリゴンシリーズ。俺とフジが共同で開発した、世界で初めての人造のポケモンだよ」

 

 不意にかけられた声にユキナリは慌てて振り返る。カツラが白衣のポケットに手を入れて佇んでいた。

 

「あ、あの、これ、ポケモンなんですか?」

 

 自分の目には置物にしか見えない。カツラは口角を吊り上げ、「見えないだろうね」と応じる。

 

「ポケモンにしては、何ていうか……」

 

「生気がないだろう。それも当然、こいつらは電気を通してやらないと動かないんだ。そうだな、言うなれば魂というものが存在しないポケモンと言うべきか」

 

「魂……」

 

「我々が当たり前に信じている神話みたいなものさ。魂の存在を疑った事はないだろう?」

 

 それはそうだった。人間にもポケモンにも当たり前のように魂があるのだと信じている。

 

「このポリゴンシリーズには、ないんですか?」

 

「わざと入れていない。魂を入れればこいつは暴走する可能性がある。単純機動のプログラムを走らせて、その通りにしか動かないようにしている。機械と大差ないよ」

 

 カツラの声音にユキナリは、「寂しいですね」と感想を漏らす。

 

「寂しい、か。それはポケモンに魂があって欲しいと君が願うからだろう」

 

「あの、カツラさん」

 

 切り出すのは今しかないと感じていた。カツラは、「うん?」と小首を傾げる。

 

「フジ君から聞きました。僕と、サカキっていうのが特異点だって」

 

 カツラは帽子を目深に被り、「そうか」と頷いた。

 

「いずれは分かる事だが、フジは焦っているのかな。真実はいつだって残酷だろうに」

 

「知りたいんです。サカキは何者なのか」

 

 カツラは逡巡の間を浮かべるように顎に手を添えてポリゴン達を眺めてから、「君は何を好む?」と訊いてきた。

 

「好む、って……」

 

「何かをしながらじゃないと話せる気分じゃないんだ。チェスか、将棋、碁でも打てるとやりやすいんだが」

 

「チェスなら、ルールくらいは」

 

「結構。ならばついてきたまえ」

 

 カツラがその場から歩み出す。ユキナリはその背中に続いた。カツラが訪れたのは狭い一室でスポットライトのように一部分だけが明るい。そこに作り物めいた机だけがあった。

 

「チェスは、倒した駒を味方には出来ない」

 

 チェス盤を用意しながらカツラが口を開く。ユキナリは対面に座りつつ、「それは知っていますけれど」と応じる。

 

「だが現実問題には、倒した敵を味方にする事が出来る事もある」

 

 駒を並べながらカツラが続ける。意味が分からなかったがとりあえずユキナリは首肯する事にした。

 

「さぁ、始めようか」

 

 カツラに先手を与えられユキナリは駒を動かす。カツラは的確にユキナリの攻撃をさばいていく。まるで何手先までも読まれているようだ。ユキナリの駒はあれよあれよという間に何個も取られていく。カツラは途中で手を止め、「あと六手」と言った。

 

「それで君の詰みだ」

 

 ユキナリはそこで駒を動かすのをやめた。どうせ負けるのならば動かさないほうがいい。カツラは、「諦めがいいのも問題だな」と呟く。

 

「最後まで足掻いてみせるといい。そうすれば見えてくるものもあるだろう」

 

「足掻く、ですか。でも、僕はどう足掻けばいいのかも分からない。オノノクスがせめて近くにいれば抗いようもあるんですけれど」

 

「今までの旅はオノノクスと共にあったのだろうからな。心細いのも無理はない」

 

 カツラがチェックメイトをかける。ユキナリには打つ手がない。

 

「たとえチェックメイトをかけられても、君は今まで戦ってきたのだろう?」

 

 カツラの言葉にユキナリは肩を縮こまらせる。

 

「……駄目なんですよ。僕は。一度、自分の中でぐるぐると決められないと、何をやっても駄目で」

 

「そのスケッチブックの封を開けるもの怖いのか」

 

 カツラの目線がスケッチブックに注がれる。ユキナリは手で覆って、「はい」と頷いた。

 

「もし、このスケッチブックにも僕が描いた証明がなくなれば、今度こそ居場所がなくなってしまう」

 

「フジに何を聞かされた?」

 

「秘密結社ネメシスだとか、この次元の特異点だとかです。全然わけが分からないのに、それでも信じざるを得なくって。じゃあ、キクコは何なんだ。僕が、助けたのに……」

 

 自身の掌に視線を落としていると、「これを」とカツラは懐から一葉の写真を取り出した。ユキナリはそれを手にして絶句する。

 

 そこには、粗い画像だったが数人の仮面を被った人間に囲まれたキクコらしき人物の姿があったからだ。

 

「キクコ?」

 

「キクコではない。そこに映っているのは秘密結社ネメシスの総帥だ」

 

「ネメシス総帥、って……」

 

 しかし写真に写っているのは紛れもないキクコ本人に思えた。違うのは瞳が赤くない事と背丈ぐらいか。

 

「フジからネメシスの目的は聞いたかな?」

 

「いえ」と頭を振るとカツラは口を開く。

 

「ネメシスはこのカントーという土地を最初に切り拓いた人間の末裔と呼ばれている。古代の人々はネメシスの正典、ヘキサツールと呼ばれる石版の解読に成功し、その歴史の預言書の通りに歴史を進め、カントーを作り上げた。カントーは元々あった土地ではなく、人々が造り上げた人為的な場所だ」

 

「ヘキサツール……」

 

「そこまでは聞いていなかったか。ヘキサツールに刻まれた名前の人間にはその次元での特権とも取れる役割が与えられている。君もそうだ」

 

「それが、特異点……」

 

 カツラは頷き、「だがヘキサツールに刻まれた特異点は」と続ける。

 

「この長い幾星霜の年月の中で、たった二人。君とサカキだけだ」

 

 それが疑問だった。どうして自分とサカキなのか。ユキナリが問いかけようとすると、「並行世界を信じるかな」とカツラが逆に質問してきた。ユキナリは戸惑い、首を横に振る。

 

「おや、信じないか」

 

「並行世界とか、そういうのってフィクションでしょう」

 

「だがヘキサツールの存在を説明するのに、もう一つの次元の存在は欠かせない。これは推測だがね。ヘキサツールはそっち側の次元からこちら側へと送られてきたのだとする仮説が優位を占めている」

 

「送られてきた?」

 

 意味が分からずに聞き返す。カツラは一つ息をつき、「もう一つの次元は」と言葉を継いだ。

 

「恐らくは今よりも四十年後、滅亡に瀕した。その時か、あるいはそれ以前かは判然としないが、その前後期間にヘキサツールは製造され、何かの弾みにこちらの次元に入ってきた。こちらの次元の始まりに、もしかしたら宇宙創成よりも先に、ヘキサツールがあったのかもしれない。ヘキサツールの形状は判然としないが、一説によればカントーの陸地そのものの形をしているという」

 

 それこそ眉唾物ではないのか。研究者がそのような噂に左右されていいのだろうか、とユキナリが感じていると、「それを守護するのがネメシスだ」とカツラは告げた。

 

「どうしてキクコと同じ顔を……」

 

「ネメシスの人々は純血を守る術として、遺伝子研究分野に関する画期的方法を古来より持ち合わせている。全ては将来、ヘキサツールの守り手を育て、優れた担い手に譲るために。ネメシスは、遺伝子を操作し、自分と全く寸分変わらぬクローンを作り出す事に数百年前から成功している」

 

「何を……」

 

 言っているのだ。ユキナリには分からない。その論法が正しければ――。

 

「キクコもその一人だ。我々はレプリカントと呼んでいる。ネメシスの造り上げた人造人間だよ」

 

 ユキナリは愕然とする。衝撃的な言葉の応酬に頭がついていかない。それも構わずカツラは続ける。

 

「レプリカントは一度に大量生産される。恐らくは今も数十人のキクコと同じ遺伝子組織を持つネメシスの守り手がいるはずだ。その精度はここ数十年で飛躍的に向上し、遂に彼らは人とポケモンの垣根を越えた存在を造り出す事に成功した。それがキクコだ。赤い瞳は何故だと思う? あの眼の色に見覚えはなかったか? ポケモンの虹彩は大部分が黒や茶色だが、赤い眼のポケモンも数多い。あれと全く同じ色相の虹彩だよ。キクコは八割以上ポケモンの遺伝子素子を模倣し、組み上げたポケモンと人間の申し子だ」

 

 ユキナリが脳内を整理する前にカツラは言葉を続ける。

 

「君も聞き覚えがあるだろう。ジムリーダー殺し」

 

 ようやく分かる話題が提供され、「え、ええ」と首肯した。

 

「その主犯はキクコだ」

 

 だからだろうか。その言葉の持つ衝撃にユキナリはついていけない。目を見開き、慄く事しか出来なかった。

 

「何となく予感はしていたはずだがね。君とキクコはオツキミ山で出会った。その時にも人殺しがあった。キクコは自分より一世代前のキクコ、キクノと名乗っているようだが、それに命令されてジムリーダーを殺し、ジムバッジを確実に奪う手段を指示されていた」

 

「何のために……」

 

「歴史の矯正のためだ。このポケモンリーグ、そのものがヘキサツールに刻まれたある種の実験だった。特異点である君とサカキがどこまで影響するのか。ネメシスには最初から答えが分かっているはずだったが、そのための不穏分子を出来るだけ排除し、ヘキサツールに刻まれた歴史通りに事を動かすための。ただし、君を直截的に支援すれば、それも歴史を変える事に繋がりかねない。当初、キクコは君との出会いは仕組まれていないはずだったが、君が彼女を引き寄せた。王の選定、全てはその後の歴史を円滑に回すための手段。キクコはジムリーダーを殺し、ジムバッジを誰よりも早く取得して王を選ぶ必要があった。ただ、それよりも君達のほうが動きの早かったために、何人かは犠牲になってしまったがね」

 

 自分のせいでタケシは死んだと言うのか。カツラの言い分が正しければそうである。カツラは肯定も否定もせずに話を続けた。

 

「ネメシスが絶対に回避したいのは破滅を引き寄せる事だ。そのために三十年後に本来発生するロケット団やその他の人物を排除せねばならなかった。だが自分達が率先して動けば歴史はまた変わる。君が反ロケット団の思想を持っていたのは彼らにとって都合がよかった。シルフカンパニービルを破壊した事も彼らの歴史からしてみれば、駒としてよく機能した証明だろう」

 

 ネメシスからしてみれば自分もキクコも駒だったというのか。信じられない心地で聞いているとカツラはポーンの駒を盤面に置いた。

 

「君自身は取るに足らないポーンだ。だが、君というポーンは世界という盤面そのものを動かす能力を持っている。強力なナイトやクイーン、ビショップがいたところで、この世界そのものを破壊する力を持つポーンには勝てない」

 

「……僕が、そんなものだっていうのは何で分かったんですか」

 

「ヘキサツールだ。何度も言うように。君がこの時代に生まれる事も、ポケモンを持ってポケモンリーグに参戦する事も全て予言されていた。そしてこの先の君の未来も」

 

 ユキナリは机を叩いてカツラに詰め寄った。

 

「教えてください! 僕は、この先、何をするんですか……」

 

 カツラはばつが悪そうに目を逸らし、「悪いが教えられないんだ」と答える。

 

「そうすればまた歴史は変わる。ロケット団の目的は破滅の阻止。だから、君にはヘキサツールの事までは教えた。キクコがレプリカントである事も。ただ、この先の未来は変動する。君に不用意な情報を与えるわけにはいかない。俺の権限ではね」

 

「じゃあ誰が決定するんですか?」

 

 まさかフジが、と考えたが、「フジでもないよ」とカツラは先んじて答える。

 

「ある人物の計画だ。フジはそれを阻止するために動いている。君をロケット団のサカキの下ではなく、こちらに寄越したのも全てフジの計らいだ。恐らく特異点が重なると危ないという事はあれも分かっている」

 

 フジ以外の何者か。それが動いているという事なのか。ユキナリは、「その誰かは教えてもらえないんですか」とカツラに詰め寄る。しかしカツラは頭を振った。

 

「それは君にとって知らないほうがいい」

 

 その言葉に何か重苦しいものを感じ取る。分かったのは自分が特異点としてヘキサツールに認定されている事ぐらいだ。

 

「キクコは……、そうだ、キクコはレプリカントとか言う人造人間だとしても、僕が、助けたんですよね?」

 

 それだけは確認しておきたかった。だがカツラは非情な宣告を突きつける。

 

「以前までのキクコとは別形態だ。今のキクコは遺伝子情報の九割がポケモンの情報で出来ている。人間というよりもポケモンに近い。恐らく君との旅の思い出も引き継いでいないだろう」

 

 その言葉はユキナリの最後の支えを消し去った。キクコが以前までのキクコとは別人。ならば、自分は誰も助け出していない。ただ破滅を導いただけだ。

 

「そんな……。じゃあ、僕のした事って」

 

「ヘキサはだからこそ君に呪いをかけた」

 

 カツラがこめかみを指差す。ユキナリはそれが死を誘発するものであると思い出す。

 

「それは人類全体の選択だ。だが我々ロケット団は君の願いを叶える事が出来る。そのための組織なんだ」

 

 ユキナリにはそこから先ほとんど耳に入ってこなかった。

 

「……すいません。もう、帰っても」

 

「ああ、いい。ただ時が来れば君の力が必要になる」

 

 よろり、と立ち上がりよろめくように歩き出す。

 

 ――助けられていなかったんだ。

 

 キクコも、誰一人として、自分に出来る事などなかった。みんなの運命を歪めてしまったのだ。たった一時の感情に飲み込まれて。ヘキサツールの歴史、その特異点。ヘキサの面々の罵声や、視線が思い起こされる。

 

 彼らは自分を殺したいほど憎かったに違いない。何も知らない自分が滑稽に映っていた事だろう。空回りを繰り返す自分に、生きていく価値はなかった。

 

 部屋に戻り、ユキナリはスケッチブックを手に取る。その封を切る前に、叫んで投げ捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、とんだ憎まれ役だ」

 

 カツラがやおら立ち上がる。暗がりから声が聞こえてきた。

 

「仕方がないんだ。彼に、闇雲に動かれでもすれば困るのはお互い様だからね」

 

「だからと言って俺が悪者になる事はないのではないか、フジ」

 

 フジは机に並べられたチェスの駒を一つ、手に取る。

 

「誰かが、オーキド君に真実を伝えねばならない。彼は知らずにヘキサに連行されるのをよしとするか、それとも知ってロケット団に協力してもらうか。ボクは後者のほうがいいと考えている」

 

 ポーンをフジは差し出す。カツラは、「だがこれより先の未来は確定していない」と応ずる。

 

「もしも、この先キシベが手を打っていたとすれば終わりだ。詰むのはこちら側かもしれない」

 

「ミュウツーがある」

 

「過信し過ぎるな」とカツラは警告する。

 

「ミュウツーとて万能ではない。そりゃ、万能に近い力だろうが、強化外骨格が出揃っても活動時間は十分程度。その間に何が出来るかと言えばそう多くない」

 

「サンダー、ファイヤー、フリーザーのカードを切ろう」

 

 フジはルークの駒を進めた。カツラが眉間に皺を寄せる。

 

「だが、あれは最後の手段だぞ」

 

「彼に言ったんだ。希望は残っていると」

 

「自ら立てた誓いに雁字搦めになるか? 言っておくが、俺は希望を信じていない。むしろ、もっと悪く転がる前に、早々に芽は摘んでおくべきだ」

 

「意外だね。ヘキサの思想に似ている」

 

「いつまでもお前の味方をしているわけじゃないって事だ」

 

 カツラはナイトを進ませた。フジは顎に手を添え、「王が動くか、というところだね」と呟く。

 

「王……。サカキの事か?」

 

「サカキの実力をボクは聞き及んでいないけれど、でもミュウツー以上ならばそれこそ対抗組織がロケット団内部から持ち上がってもおかしくはない」

 

「現に俺達が動いているが」

 

「ボクらは反逆って言うほどじゃないさ。ただキシベのシナリオが不透明過ぎるから、そこにメスを入れたいだけ」

 

 クイーンが進む。カツラは、「だがキシベの事だ。全ての先手を打っている事だろう」と告げた。

 

「だったら、その一手先をボクは読む。あるいは」

 

 フジが盤面を握り、引っくり返した。しかし駒は落ちない。磁石で駒が固定されているからだ。

 

「世界という盤面を引っくり返すか」

 

「オーキド・ユキナリ。再び破滅に利用される事をよしとはしないだろう」

 

 フジは盤の裏を叩く。すると何個か駒が落ちた。

 

「しかし、世界から零れ落ちる駒もいる。ボクはイレギュラーとして、彼に味方するつもりだよ」

 

 その言葉が意外だったのかカツラは口元に笑みを浮かべる。

 

「お前の味方する、はどこまで本気か分からない」

 

「ボクは本気さ。オーキド・ユキナリ君は好意に値するよ」

 

「好意?」

 

 カツラが聞き返すとフジは立ち上がって答えた。

 

「好きって事さ」

 

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