NEMESIS   作:オンドゥル大使

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第百八十話「ジョーカーⅡ」

 

 部屋を訪れるとちょうどプログラムの構築中だったらしい。

 

 マサキは熱心に端末のキーボードを打っている。イブキは声をかけるのが躊躇われたが、「なに? 姐さん」と向こうから声をかけてきた。

 

「別に。よくやるわね、あんたも」

 

 イブキがディスプレイを覗き込むと無数の文字列が並んでいる。マサキは、「ロケット団が本当にやりたかった事は何なのか」と呟いた。

 

「知っておいて損はないやろ」

 

 イブキは簡素な部屋を見やる。端末と数個のポケギアが並んでいるだけで私物と言えるものがほとんどない。椅子の一つを引き寄せて腰を下ろす。マサキの背中を眺め、「ヤナギは」と口を開いた。

 

「明日、全てを決するつもりなのね」

 

「せやな。まぁ、ヤナギらしい賭けのレートに乗せたんとちゃう? ヤナギのする事ってのはいつだって唐突やけれど、ほとんど正解や。今回の事も、ユキナリやキクコの安全のためやろ」

 

「じゃあ、ヤナギは負けるつもりだって言うの?」

 

「その気は本人にはないやろうが、本能的にユキナリと正面対決切りたいと思っとるんやろうな」

 

「何で、そこまでしてユキナリを倒す事にこだわるの?」

 

 イブキにはそれが分からない。ヤナギがユキナリにこだわる理由。キクコの事だけにしては執着し過ぎだ。

 

「ワイかて分からんけれど、ケジメ、みたいなもんやろうな」

 

「ケジメ、って、でもこうもすれ違い続けた人間っているのかしらね」

 

 ヤナギはユキナリに対して敵対心を燃やし、ユキナリもわけが分からぬうちにヤナギを憎むようになっている。お互いに言葉を交わした事も少ないだろうに、どうしてだか双方が相手を脅威だと考えている。

 

「そういうもんがあるんやって。姐さんでも分からんか」

 

「分からないわよ。あの二人に関してはね」

 

 マサキは長く息を吐き出して、「ワイもあいつの考えが全て分かるわけやない」と言った。

 

「ただな、気持ちは分かるねん。どうしてだか憎まざるを得ない相手というものが存在するって言うのも。その発端が同じ女を好きになっただけやってのは皮肉でしかないけれどな」

 

 マサキとてこの宿縁には疑問を挟まざるを得ないのだろう。イブキは、「少しだけ安心した」と呟く。

 

「安心?」

 

「あんたまで彼岸に行ってしまったような事を言わないで済んでいるのが」

 

「彼岸か」とマサキは嘲笑する。

 

「そんなもん、ワイらとっくに超えとるやん。ボーダーラインを跳び越してから気づく過ちなんて、そんなもん人生において数知れんわ。ロケット団を裏切り、ヘキサを裏切り、ネメシスを諦め、またヘキサに入った。この時点で、もう手遅れもいいところ。ただワイにとって救いやったのは、姐さんがいつもいてくれた事やな」

 

 マサキの言葉にイブキは頬を赤らめる。

 

「冗談言っているんじゃないわよ」とマサキの頭をはたいた。

 

「冗談ちゃうんやけれど……」

 

 マサキが後頭部をさすりながら声にする。イブキはマサキと僅かに視線を合わせた。

 

「姐さんおらんかったら、世界と戦うみたいな真似、出来んかったやろうし」

 

「馬鹿ね。そういうのは言わないほうがいいってのは」

 

「重々承知しとるよ。ガキやないんやから」

 

 マサキは再び端末に向かい合った。イブキは静かに口を開く。

 

「私は、まだ玉座を諦めていない」

 

「せやろうな。そういう姐さんやからワイはついてきたんやけれど」

 

「冗談は抜きにして、私はフスベの里で選ばれたドラゴン使い。何があっても、王になりたい」

 

 イブキの願望をマサキは否定するわけでもない。ただ、「分かっとる」とだけ答えた。

 

「姐さん強情やし。一度決めたら聞かんやろ」

 

 イブキは少しだけ笑ってから、「でも、そのためには二人を超えなきゃならない」と続けた。

 

「私に、出来ると思う?」

 

 ドラゴン使いと言ってもオノノクスほどの強力なポケモンを持っているわけでもない。キュレムのような伝説級でもない。ただのハクリューだ。それでも、ずっと勝ち進みたい。相棒と決めたこのポケモンで。

 

「難しいやろな。オノノクスどころかキュレムに対して勝算は十パーセントもない」

 

「手厳しいわね」

 

 マサキは正直だ。取り繕うような言葉や、誰かに媚を売ることもない。

 

「まぁゼロパーセントやないから、戦ってみるまで分からんけれどな」

 

 確率論で決めるマサキにしては珍しい言葉だった。イブキは、「あんた、ちょっと変わった?」と声に出す。

 

「ワイは全く変わっとらんよ。変わったんは姐さんと違う?」

 

 かもしれない。イブキは、「戦う事だけ考えていた頃には戻れないわよ」と返す。

 

「色々と知り過ぎた。知らなくていい事まで」

 

「姐さんは、ほんま、戦う人やったんやと思うで。ワイが半分巻き込んだみたいなもんやな」

 

 ヘキサツール、特異点、ネメシス、どれもマサキなしでは知るよしもなかった事だ。

 

「ところで、あんたはさっきから何をしているわけ?」

 

 端末に視線を落としたままこちらを一顧だにしないマサキへと問いかける。

 

「一応、次元の扉が開いたんや。キシベが何らかの目的を果たそうとしたと考えるべきやろ。あるいはフジ、か」

 

「ナツキからの報告では、フジはユキナリの目の前で死んだ、とあるけれど」

 

「機器が発動した時、傍にいたのはフジやから死んだのもフジ、と考えるのが自然やけれど、だとすれば分からんのは、フジは何のために次元の扉を開いたのか」

 

「キシベの命令」

 

「それはない」

 

 提言したものをマサキは即座に否定する。

 

「……どうして言い切れるのよ」

 

「キシベの目的にしちゃ、フジは身勝手に動き過ぎやった。キシベは今までワイらの前に積極的に現れたか? ワイは一度しか会ってへんし、姐さんもその程度やろ」

 

 マサキの言う通り。キシベと物理的に接触したのはそう何度もない。最初のほうこそ重宝されている様子だったが、マサキと組み始めてから状況が一変した。

 

「……じゃあ、何でフジは次元の扉を開いて、破滅を誘発させたの? ユキナリが何の考えもなくそんな事をするとは思えない」

 

「ワイも同感。ミュウツーと同調なんて普通なら一番にあっちゃいかん事や。フジは科学者。その程度、理解していなければおかしい」

 

 では、何の目的でユキナリは再び破滅のトリガーを引く事になったのか。その疑問を解き明かそうとマサキは奮闘しているのかもしれない。

 

「あんたは、どう考えているの?」

 

「ワイか。持論でよければ、やけれど」

 

 マサキは一瞬だけイブキを見やる。イブキが首肯すると、「目的の相違、やと思う」と口を開く。

 

「目的の相違?」

 

「フジに知らされていた情報と、キシベの持っていた情報の質が違った。あるいはフジはキシベに一杯食わされた、と考えるのが筋やろうな。意図的にキシベはフジに間違った情報を掴ませてユキナリの覚醒を導いた」

 

「でもそんな事。フジの下には優秀なエンジニアが何人もいたはず」

 

 そうでなければポリゴンシリーズによる間断のない攻撃が説明出来ない。「それやねんなぁ」とマサキも頭を悩ませる。

 

「ある程度フジに命令権が委譲していたのは間違いないんや。戦力もほぼフジが持っていたと考えたほうがええ。でも、キシベが最後の一線で主導権を握った。どうやってなのか、まるで分からん。そもそもフジの下にいた技術者がキシベに寝返るメリット言うんがな。全く浮かばんねん」

 

 マサキは天然パーマ気味の頭を掻き毟り、「どうしてワイでも分からへんのや!」と半ばやけになった様子で叫ぶ。イブキはキシベの人となりを思い出す。多くの部下を従えていた様子だったが、真に信じるのは己の腕だけ、という部分が見え隠れしていた。だからと言って、キシベが優れたトレーナーであったとは思えない。むしろ、逆だ。トレーナーとしては最弱もいいところ。恐れるべきは、その謀略と先の先を読む先見の明。キシベの手腕はそれに集約されていた。

 

「キシベが、技術者を騙して、フジの下につかせていた可能性は?」

 

「じゃあ何でフジに特別な力の誇示をさせた? そんな事、内部分裂もんやし、フジの力に勝る自身のある駒がない限りリスクが高過ぎる」

 

 ミュウツーに勝てる戦力、というものが咄嗟には浮かばない。ミュウツーは間違いなく最強のポケモンであり、それを操るフジも一流に近かった。そんな人間がどうしてミスをする? ユキナリという最強のカードを手に入れて、どこで踏み誤ればキシベの術中に落ちると言うのだ。

 

「慢心……」

 

「ないない。フジはそういう人間やないのは、相対したワイらが一番分かっとるやん。フリーザーを奪ったあの時、フジは絶対にこの段階まで見越していたはずやねん」

 

 マサキがディスプレイを指差す。そこには一部分だけ押し広げられた波形データがあった。

 

「何のデータ?」

 

「次元の扉が開いた時のエネルギーのデータ。ここの」

 

 マサキが示したのは最も高い値である。その時点で何が起こったのかはイブキにはまるで分からない。

 

「次元の扉が開かれて破滅の一歩手前まで行く瞬間、何か大きなエネルギーが転送されたような形跡がある」

 

「転送?」

 

 思いもよらない言葉に聞き返す。マサキは、「破滅の高エネルギーを利用したもんやろ」と結論付けた。

 

「何が送られてきたってわけ?」

 

「送った可能性もあるんやけれど、ワイはこれこそ、キシベの目的の気がしてならん」

 

 マサキの言葉を咀嚼し、「つまり」とイブキは慎重に言葉にする。

 

「破滅の現象を利用して、異次元に何かを送る、あるいは送ってもらう事こそ、キシベの狙いだった、と?」

 

「そう考えると腑に落ちる部分もあるんやけれど、その何か、ってのがどうしても分からん」

 

「強力なポケモンとか?」

 

「ワイらに邪魔されんとユクシーやらを揃えられたロケット団がそんなもんを恐れるかい。それに強力なポケモン言うても限度がある。破滅のエネルギーを利用してまで欲しい戦力なんて思いつかんな。だがキシベはそれが最終目的だったとすれば今までの奇行も別に変とも思えんのや」

 

 奇行、というのはあらゆるトレーナーを集め、ロケット団をこの時代に建設した事だろう。この時代にこだわらずとも、ロケット団は三十年後にはこの世の春を謳歌するはずだ。何故、それを待てなかったのか。

 

「ロケット団に関する情報、もっと集めるべきだったかもね」

 

「せやな。この情報、言うんは、ネメシスの記録する未来の情報やろ。未来にロケット団がどういう構造の組織やったのか、少しでも分かっていれば手の打ちようがあったかもしれんが、ワイらには未来の情報はほとんど話されていない。この時代で必要な事象と、ユキナリとサカキが特異点である事だけ。ネメシスから情報を搾れるだけ搾るべきやったかもな。まぁキクノもヘキサツールは解読不能言うとったさかい、未来の事象が分からんかったのかもしれんけれど」

 

 もし未来が分かったのならば、キシベを抹殺する方向に動けばよかったのではないのだろうか。だがフジの存在とミュウツーが脅威として立ち塞がった以上、そちらを排除する事を最優先事項として置くしかなかった。少なくとも、ほとんど音沙汰のないキシベよりかは危険だと思われたのだ。キシベの所在は今も分からない。サカキもそうだ。ポケモンリーグも最終局面。サカキという駒をどこで導入するつもりなのか、さっぱり分からない。

 

「サカキを、いつ使うつもりなのかしら」

 

 そろそろ動き出さねばおかしい。マサキは、「あるいはもう使っとるんかもしれん」と答える。

 

「いつよ?」

 

「それが分かったら苦労せんて。サカキは公の場にほとんど出てないし、ワイも会った事すらないんや。枝もつけられへんし、そんな隙のある人間やないんやろ?」

 

 全てはゲンジの弁であったが、イブキ達はその頃シルフの穴倉に篭っていたのだ。シルフビルでこそサカキに接触出来た最大の好機だっただろうに。

 

「それはゲンジしか、知らないわ……」

 

「だからゲンジは今動いとる。キシベの所在が掴めそうなのはゲンジだけやからな。無論、こっちからモニターしようとは思っとるけど、キシベがそれを許すような相手やとは思えん。逆にこちらが掴まれたら、手に負えんな」

 

 マサキはお手上げのポーズをする。マサキでさえも手の負えなければ誰にも対処出来まい。

 

「でも、その頃にはヘキサがあるかどうかも分からないんでしょ」

 

 明日の戦いで航空母艦ヘキサは崩壊する。その予感に、「せやろなぁ」とマサキは返した。

 

「キュレムを使う、言うんは、この航空母艦を捨てる、言う事やし。まぁ、ヤナギからしてみればその価値はあると判断したんやろ。全てはユキナリとの決着、か。あいつは全くぶれんな」

 

 それに引き換え自分は、とイブキは顧みた。最初は純粋にフスベの里を盛り立てるためのトレーナーとして優勝候補に祀り上げられ天狗になっていた。それをへし折ったのはユキナリだが、結局、ユキナリとはろくに勝負も出来なかった。

 

「私だって決着つけてないのにね」

 

「でも姐さんにはもうその気はないんとちゃう?」

 

 見透かしたマサキの声にイブキはため息をつく。

 

「……あんた、そういう勘だけは鋭いわね」

 

「ユキナリとの戦い云々にこだわるよりも王になりたいんやろ? 姐さん、諦めだけはええから」

 

 王になるためにはユキナリとの戦闘は避けられない、というよりもユキナリとの戦いは極力避けて玉座を得たかった。自分と相手との彼我戦力差が分からないほど衰えてはいない。

 

「皮肉な事に、ユキナリと戦わない事こそが玉座に一番近いんだって分かってしまっている」

 

「その点、ヤナギはアホやんなぁ。ユキナリと戦えば絶対に王になるか野垂れ死にするかのどっちかやって分かっているのに、それでも諦められん、ってのは」

 

「でも、私は立派だと思うわ」

 

 自分には出来なかった理想を勝手に押し付けているだけなのかもしれないが、ヤナギなら、という希望もある。

 

「でも、ユキナリも負ければ死や。必死の戦いになるやろうな」

 

 どこか寂しげにマサキは告げる。マサキも現状維持こそが最大の幸福だと思っていたのだろうか。

 

「ヘキサがなくなるのは、嫌なの?」

 

「ヘキサはなくならへんよ。上層部、七賢人はヘキサを名前変えてでも存続させる腹積もりやろうし、ヘキサという組織はなくならん。ワイは、ヤナギというリーダーがいなくなるのが少しばかり寂しいだけや」

 

 意外だった。マサキが人に入れ込む事はないだろうと思っていたからだ。

 

「あんた、他人に期待したりするのね」

 

「するよ。ワイかて姐さんを期待しているから色々と出来たわけやし」

 

「おだてても何も出ないわよ」

 

 たしなめてイブキはヤナギがこの先どうするのだろうと感じた。ユキナリに負けるとは一分も思っていないだろうが、万に一つはあり得る。ユキナリは特異点だ。その死が及ぼす可能性ははかり知れない。歴史の強制力がユキナリへと勝利を導くかもしれない。はたまた、純粋に強さでユキナリが勝っている事も考えられない話ではない。

 

「明日勝つのがどちらであろうとも、ワイらの身の振り方が変わる事に間違いはないな」

 

 マサキはどうやらヘキサにそのまま所属する気はないらしい。

 

「あんた、自分の技術を買ってくれるところならどこでもいいんじゃなかったっけ?」

 

「どこでもええよ。でも、ワイはこの先、唾つけられて捨てられるだけや。ヘキサやとな」

 

 その感想は持っていなかった。ヘキサはマサキを信奉しているはずである。

 

「ヘキサは、それほどまでに愚かだとは思えないけれど」

 

「いや、七賢人はワイに代わる人材をもう見つけとるよ。ネメシスの遺伝子研究やロケット団の技術の粋を使ってまで、十年に一度の人材を自ら造り出そうとしとる」

 

 その情報にイブキは目を戦慄かせた。まさかキクコのような悲劇がまた起きるというのか。

 

「それって……」

 

「もちろん極秘。せやかて、ワイには秘密なんてもんは真っ先に意味がなくなるのは知ってるやろ?」

 

 マサキはそれこそヘキサのメインコンピュータにハッキングでもして知り得たのかもしれない。しかし、自分が既に組織に不必要だとされていて全く不安がないかのような面持ちだ。

 

「禁忌の実験で自分の代わりを生み出す、か。七賢人も随分とねじが飛んでいるわね」

 

「しゃあないよ。ワイの代わりが世に出るのには早過ぎる。自分達で天才を作ってしまったほうが速い、言うんは正しい」

 

「あんた、それ自分が天才だって言っているように聞こえるけれど」

 

「せやかて、ワイは十年に一人の天才。それは間違いないやろ?」

 

 マサキの自負は時に困るがその認識は誰よりも正しい。ある意味では客観視出来ている。

 

「そうね。あんたじゃなきゃ、開けなかった扉ばかりだし」

 

「だからこそ、不可解なんやな。この時代に、意図的に人間が集められたようで」

 

 マサキは顎をさすって考え込む。イブキは、「それは偶然じゃないとでも?」と言っていた。

 

「偶然にしても出来すぎとる。もう一つの次元、そっちだともしかしたら分散されとった事象が、この次元では一極集中するって事は、何かしらをこの時代、このポケモンリーグで起こせ、というそれこそ歴史の強制力なんかもしれん」

 

 考え過ぎだ、と言いたかったが、この時代が異常なのはイブキでも分かる。ロケット団の暗躍、ヘキサの台頭、ネメシスという組織が明るみになる。これだけの事を知っている人間は一握りとはいえ、綱渡りのように危うい均衡の上にある。

 

「何か、ね……」

 

「それを引き起こせる人間を、ヘキサツールは特異点と呼んでいるのかもしれん」

 

 だとすれば、発揮出来るのはユキナリかサカキのどちらかだ。だが、明日の勝負に敗北すればユキナリは封印か抹殺。イブキは胸のうちにある予感を口にする。

 

「歴史の強制力が、ユキナリを勝たせると思う?」

 

「いんや。ヤナギは強い。正直、分からん。それに、ワイは正直な話、ヤナギが勝ったほうが未来のあるような気がしとる」

 

「ユキナリが勝つとは思っていないのね」

 

「どっちが勝ってもええよ。ただ、ワイは変えて欲しい。この時代を。言ってしまえば、この次元そのものの宿命を」

 

 いずれ破滅する世界。それを知ってしまった人々は諦観のうちに生涯を終えるか、あるいは抗い続けるだろう。自分達は後者を選んだ。キクノは前者を選び、今もヘキサツールと共にある。

 

「世界の破壊を防いでくれると思う?」

 

「分からん」とマサキは後頭部に手をやって欠伸する。

 

「ただ、世界を破壊する宿命の人間が世界を救ってみるってのも、見てみたいもんではあるやん?」

 

 マサキの言葉にはそれ以上他意はないようだった。破壊と救済が表裏一体。イブキもそれ以上の言葉はなく、ただ信じるしかなかった。

 

 どちらが勝つ事になろうとも明るい未来があらん事を。

 

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