NEMESIS   作:オンドゥル大使

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第七十七話「止めるため」

 

 ナツキは途中でお手洗いに行ったガンテツがいつまでも帰ってこない事に違和感を覚え、ひょいと顔を出すとキクコと行き会った。

 

「あ、キクコちゃん」

 

 ナツキの声にキクコは、「ナツキさん」と抱きついてきた。突然の事にナツキは狼狽する。

 

「お、おう……。何? どうしたの?」

 

 ナツキの視線の先に今朝の釣り人の姿があった。釣り人は着替えており、どこかばつが悪そうに顔を伏せている。何かがあった事は疑いようもなかった。

 

「何が……」

 

「ナツキさん、ストライク進化したよ」

 

 キクコが目を輝かせながら発した言葉にナツキは戸惑う。

 

「えっ、進化するの?」

 

 そもそもが初耳だった。キクコは、「うん。鋼・虫タイプのハッサムに」と答える。どうやらキクコは知っていたらしい。

 

「鋼タイプ……。何で?」

 

 全く頭がついていかず小首を傾げているとナツキは思い出した。

 

「あ、あたしも進化したんだった」

 

 モンスターボールを差し出すと、「ゲンガーになったの?」とキクコが尋ねる。それも周知の事実か、とナツキは感じた。

 

「うん。キクコちゃんはゲンガーには進化させなかったんだ」

 

「出来なかったんだよ。その方法だけ先生から教わってなかったしゴーストからも聞いてなかったから」

 

 ならば自分の下で進化したのは完全に偶然という事なのだろうか。ナツキがモンスターボールを眺めていると、「お嬢ちゃんに命を助けてもらってね」と釣り人が頭を掻きながら歩み寄ってきた。

 

「命を?」

 

 さらに話がややこしくなる予感にナツキは、「詳しい話は後でいいけれど」と前置きした。

 

「ガンテツさん見なかった?」

 

 キクコは首を横に振る。釣り人も知らないようだ。

 

「どこ行ったんだろ……。これから捕まえたロケット団員をどうするか決めようと思っていたのに」

 

「よく分からないけれど、ナツキさんにも何かがあったみたいだね」

 

 キクコの言葉にナツキはひとまず頷いて先ほどからの変化も口にした。

 

「ユキナリもなかなか戻ってこないし。これじゃいつまで経ったって何も出来ないわよ」

 

 ぼやいた声に、「ユキナリ君なら見たけれど」とキクコは控えめに言った。ナツキは目を見開いて、「どこで?」と詰め寄る。キクコは、「シオンタウンの出口の辺り」と釣り人に視線を向けた。

 

「ああ、そこでお嬢ちゃんが声をかけようとしたんだが、何だか物々しい空気でな。誰かと言い合いになっていたよ」

 

「その誰かって?」

 

「水色の袴みたいな服を着ていたっけ」

 

 ガンテツだ、とナツキは確信する。どうしてユキナリとガンテツが言い合いをしていたのか。その答えはすぐに思い浮かんだ。

 

「……あの馬鹿」

 

 駆け出してランの捕まっている部屋へと飛び込んだ。ランは胡坐を掻いて身体を伸ばしている。キクコが慌てて追いついてくるのを無視してナツキは歩み寄った。

 

「あ、何? 解放してくれるの?」

 

 ランの場違いな声にナツキは張り手を見舞った。乾いた音にキクコと釣り人が瞠目する。ランは、「痛いじゃないか」と頬を押さえた。ナツキは構わず胸倉を掴み上げる。

 

「ユキナリに何を吹き込んだの?」

 

「何も。彼が知りたがっていた事だけ」

 

「シルフに行くように焚き付けたわね」

 

 確信を持って放った言葉にランは何も言わなかった。ユキナリが黙って出て行くのならばヤマブキシティをおいて他にない。ナツキはランを突き飛ばし部屋の外に出た。キクコが、「この人は?」と尋ねる。今は答えられる余裕がない。

 

「……あたしのせいだ」

 

 自分がもっとしっかりしていれば、ユキナリ一人の独断先行を許さなかったのに。いや、ユキナリはそれを嫌って何も言わずに行ってしまったのかもしれない。

 

「よく分からないけれど、ナツキさんは悪くないと思う」

 

 キクコの言葉にナツキは、「でも、予想出来た事なのに」と悔恨を漏らす。釣り人が、「よく分からんが、お嬢ちゃんのせいじゃないと思うぜ」とフォローした。

 

「ユキナリって子も、相当覚悟して決断したんだろう。それは多分、誰のせいでもないんだ」

 

 ナツキは振り返り、キクコへと言葉を発する。

 

「キクコ。お願い、ハッサムを交換してくれる?」

 

 突然の事にキクコは面食らった様子だった。自分が取るべき行動は決まっている。

 

「……ユキナリ君を、助けに行くんだよね」

 

「違うわ。一発、ぶん殴ってやるのよ」

 

 キクコは微笑んでボールを手渡した。キクコへとゲンガーの入ったボールを渡す。その直後、部屋の中で衝撃音が木霊した。

 

 ナツキが押し入るとネンドールを繰り出したランが笑みを浮かべていた。

 

「シルフまでの道案内、必要でしょ?」

 

 どうやら廊下での会話を聞いていたらしい。あるいは心を読んだのか。どちらにせよ、今は敵対している場合ではない。

 

「ネンドールで戦力になるの?」

 

「馬鹿にしないでよ。私のネンドールの強さは君が一番知っているはず」

 

 違いない。ナツキはホルスターにハッサムの入ったボールを留め、踏み出した。

 

「行くわよ。馬鹿を止めに」

 

 ランが部屋から出る。釣り人は、「俺も行こう」と提案した。思わぬ言葉に、「でもおじさんは……」とナツキが言葉を濁す。

 

「おじさんは強いよ。私が保証する」

 

 キクコが珍しく他人を評した。ナツキはキクコにも何らかの変化があったのだと感じ、「分かったわ」と首肯する。

 

「全員で、ユキナリの馬鹿を止める」

 

 

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