一之瀬からポイントを貰った日の俺は非常に機嫌が良かった。確かにそこまで多いとは言えない額のポイントだが、俺はそこよりも自分の思い描いた作戦が成功したことに対して喜びを感じていたのは事実だ。
だからか、今日はあまり質問されたく無い質問に対しても普通に答えることが出来ていた。
「いやー暑いっすね。早いとこ期末テストを終わらせてバカンスに行きたいもんだぜ」
「そんなにバカンスぐらいでウキウキするもんじゃないぞ戸塚。何があるか分かんないんだから」
俺はバカンスが来ることに嬉しそうにしている戸塚に対して釘を刺しておいた。戸塚はAクラスにいる人材ではあるが、なんというか短気というか感情的になりやすいというかそんなところがある。もし俺がいなかったら、戸塚が康平の補佐になっていた可能性を考えると、そこの世界の康平に対して酷い憐れみの感情を向けていただろう。
「なに悲観的に捉えてるんだよ下関。お前、あれだろ?プールの授業でも休んでいたから泳げなくて、バカンスが不安なんだろ?大丈夫だって俺と葛城さんが教えてやるからな」
「まぁ気持ちだけもらっておくよ。それに俺は別に泳げないんじゃなくて、人に肌をジロジロ見られるのが好きじゃないだけだから」
「へぇー下関女子みたいな事を言うんだな。でも、そんな奴も男にもいるもんか。じゃあバカンスに行ったらパーカーでも羽織って泳ごうぜ」
「ああ。暇があればしようか」
ちょうどチャイムが鳴ったので俺は戸塚との会話を終えていつもと変わらぬ顔で席に戻った。
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月曜日の夜になっていよいよ明日には議会がある中、俺は深呼吸をしてから龍園に対してバレないアカウントを使ってあの動画の全部と『ポイントをこちらに対して支払わない場合この動画を議会までにDクラスに対して渡します』というメッセージを送った。
こんな脅しのメッセージを送って、返事来なかったら恥ずかしいし嫌だな。万が一にもバレることは無いとは思うが、次龍園に会った時に目なんて合わせられないよ。
そんなネガティブな行く末ばかり思ってしまっていると、俺の携帯に通知が来た。その内容は『てめぇは誰だ?』というシンプルな言葉のみだった。
流石龍園と言ったところだな。相手がまず内部犯か外部犯かを特定しようとしているというところかな?さてなんて答えるべきかな。
『そんな事はどうでもいいじゃないか。私はこの事件の真実を知っているそれだけでいいじゃないですか。取引をしましょうよ』
俺は出来るだけ自分の情報を洩らさないように中性的な喋り方をしているが、上手くいっているだろうか?裏目に出なければいいが……。
『取引だ?してやってもいいが、直接会わなければ取引はしねぇ』
なんだ?なんなんだ?俺が龍園のことを脅しているはずなのに、まるで俺が龍園にお願いしているみたいになっているじゃないか。しかもあいつこっちが直接会うのを嫌がっているを分かってやってやがる。
『いいんですか?これが表に出ればCクラスに不利なことになりますよ?』
交渉の基本は相手に弱みを見せない事だ。どんな状況になっても余裕を崩さない態度でいることが大切だ。
『はっ、俺が払ったとしても、お前がDクラスに対して録音を売りつけないとは限らないからな。信用出来ねぇな』
まぁ確かにそこは疑うよな。だがこちらとしてもここまで話を持って来ておいて引く事は出来ない。
『いや、貴方ならこの画面を写真に残しているでしょう。それが証拠になります。そして教師陣に持っていけば私が誰かも分かって罰則を受けるのは私になります。取引を守りさえすれば貴方に損は無いことです』
これは本当に危ない橋だ。これで俺のこれが表に出ればBクラスやDクラスからの信用は大分落ちるからな。慎重にやっていかなければ。
『いいだろう。今からここにお前からの取引内容を掲示しろ。それを俺が判断した上で取引成立にする』
これは中々良いんじゃないか?これで両方のデメリットを少なくすれば、龍園は乗ってくるはずだ。俺が反さないと思われる内容にしなければな。
『•龍園翔はこの録音を買うためには2万ポイントをこちらに対して支払わなければならない。
•私は龍園翔が2万ポイントを支払った瞬間から暴力事件に対するあらゆる介入をしてはならない。
•上記の行為を犯した場合には私は龍園翔に本名を明かした上で5万ポイントを支払わなければならない』
これでどうだろうかな?最低買取価格にして、くわえて俺のデメリットを極限に減らした上で龍園に対するデメリットを減らしたつもりだけど大丈夫かな?
『二つの項目にお前の所有物全てから録音を削除するも増やしておけ。そして三番目の項目は月々5万ポイントに変更だ。これが飲めなければ取引は無しだ』
流石龍園だな。こっちが嫌だなと思っていることをやって来やがった。ポイントを月々も嫌だし、録音を消すのもまぁ嫌だけど、これを売らなければ録音した意味も無いからな。仕方ないな。
『•龍園翔は録音を買うためにこちらに対して2万ポイントを支払わなければならない。
•私は龍園翔が2万ポイントを支払った瞬間から全所有物から録音を消した上で、暴力事件に対するあらゆる介入をすることが出来ない。
•上記の取引を違反した場合は私は龍園翔に対して月々5万ポイントを支払わなければならない』
『まぁまぁなもんになったな。今回はこちらの兵隊がヘマをしたからこれで取引成立だが、次に取引する場合は俺が主導をとらせてもらう』
この返事以降龍園からのメッセージからは無く、その代わりに俺に対して龍園から2万ポイントの振り込みがあった。これで今回しなければいけないことはすべて出来たな。どうせ暴力事件に介入することは出来ないんだから、後はゆっくりとするかな。結末がどうなるかは楽しみだけどな。
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Dクラスにとっては運命の日である火曜日になった。俺は昨日内に龍園との交渉が成功して暴力事件には介入出来ないことを西野には伝えておいたので、放課後の議会が終わった後で議会がどんな風になったのか気になるので生徒会室に行く予定だ。
そして放課後のチャイムが鳴ったから大体30分の時間を潰した俺は自動販売機で買ったお茶を持って生徒会に向かって歩き出した。
生徒会室の近くに行くと、すでに橘先輩が生徒会の戸締りをしていた。そこにはどうやら堀北会長と橘先輩そして、暴力事件の関係者であろう生徒二人がいるようだ。
会話の内容を聞いてみると、Dクラスから暴力事件に関する目撃者が出てきたようだが、その子がギリギリで目撃者として出てきたこととDクラスからの目撃者ということなので信用が疑われるということだった。
確かにギリギリになんて出てくるなんてDクラスが最終手段である偽の目撃者を作らせたのだと思われても仕方のないことだな。俺にはそれが本当の目撃者かどうか分からないが、その女子生徒の様子を見るに本物の目撃者では無いかと思っている。あの受け答えや態度を演技でしているのだとしたら、俺は今すぐにあの子に女優をオススメするね。
だけど、一つ心配な事があるとすればあの子が本当の目撃者なのだとしたら、俺と西野の姿が見られていないかが心配だ。俺は掃除用具ロッカーに隠れていたのでバレていないとは思うけど、西野は大丈夫か?まぁ西野からなんの連絡も来ていないから多分大丈夫なのだろう。
俺が目撃者について考えていると堀北会長と橘先輩が行ってしまったので、俺は生徒会室で佇んでいるDクラスの生徒達の横を通り過ぎて行くとそのまま先輩達を追いかけて声をかけた。
「お疲れ様です堀北会長と橘先輩。これまだ冷えてると思うのでどうぞ」
俺は深くお辞儀してから、手に持っていたペットボトルのお茶を二人に向かって差し出した。
「わぁありがとうございます下関くん。さすが気の利く良く出来た後輩ですね。これ何ポイントでした?」
「悪いな下関。もう議会が終わったことはお前も知っているだろう?何の用で来たんだ?」
俺の差し出したペットボトルを二人とも受け取ると、お礼を言ってさっそく飲んでくれた。
「橘先輩ポイントは大丈夫ですよ。でも、その代わりに今回の議会の議事録を見せていただいても構いませんか?」
俺の言葉を聞いた橘先輩は一度堀北会長の方を向いたが、堀北会長が頷いたのを見て手に持っていた議事録を渡してくれた。
「分かっていると思いますけど他の人に見せてはいけませんよ。明日にもこれを持ち越すことになるんですから」
もちろんこれを他の人間に見せるなんて事は俺でもそんな事はしない。それよりも明日?
疑問に思った俺が最初に議事録の最後の方を見てみると、どうやらDクラスとCクラスがどちらも意見を譲らなかったようで、証拠を集める時間として明日もう一度放課後に議会をするようだった。
明日もう一度行う理由を確認したので、議事録を最初から読むことにした。
まず、参加したのは堀北会長と橘先輩はもちろんの事、Cの小宮と近藤と石崎の自称被害者の三人とCクラス担任の坂上先生。そして加害者側であるDクラスの須藤と堀北会長の妹である堀北鈴音……
「どうして下関くんは議事録を見ようと思ったんですか?」
俺が読んでいると橘先輩から疑問が飛んできた。これは素直にそのままの理由を言おうかな。特に変でも無いだろうし。
「同じ一年生としてこの暴力事件の結末が気になったので、流れを早く知りたいと思ったので見せてもらいに来たんですけど、明日に延長になったんですね」
「そうなんですよね。議会では須藤くんは色々荒々しいし、Cクラスの担任はすごい介入するから、大変でしたよ」
どうやら議会は中々ヒートアップしていたようだった。これで明日には決着はつくのだろうか?
「堀北会長は今回の議会は明日には終わると思いますか?」
堀北会長は悩む様子も無く即断言をした。
「ああ終わるだろうな。しかも、俺の期待込みだがDクラスが勝利するだろうな」
堀北会長の言葉に俺と橘先輩は驚いた表情を隠すことは出来なかった。
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水曜日の放課後になっても、俺は堀北会長が昨日言った言葉が頭の中にずっと残り続けていた。何故堀北会長は断言出来たのか?分からないな。今の段階の俺の予想では妹である堀北鈴音に対しての期待だと思っているのだが、堀北会長はそんな身内贔屓の様な真似はしないと思うのだが、もしかしたら俺が知らないだけで、シスコンなのかもしれないな。うん。
昨日と同じように30分ほど時間を潰そうかなと思っていると、橘先輩からなんと直接電話が来た。まだ10分も経って無くて議会中のはずなんだけど、何かあったのかな?
『はい。下関ですけど、橘先輩どうかしたんですか?』
俺が電話に出ると電話口の橘先輩は少し慌ている様子だと感じた。
『今日もまた下関くん来るかもしれないから電話したけど、なんともう議会終わっちゃったんですよ』
議会が終わった?どちらかが決定的な証拠を持ってきたということか?いや、そんな事は俺と西野に接触でも、しない限りは無理なはずなんだが。
『一体何があったんですか?もしかして決定的か証拠でも見つかったんですか?』
『それが、議会が始まるなりCクラスの三人が訴えを取り下げるって言ってきて、それで意思も堅い様みたいだから、そのまま受理して終わったの』
訴えを取り下げた?一体何のためにだ?龍園の指示なのか?いや、それは無いな。わざわざする理由が無い。ならDクラスの誰かか直接あの三人に接触して何かしらをしたということか。
だがどんな理由にしてもこれはDクラスの勝利ということか。堀北会長の予想通りだったな。結果的に俺が望んだ結末に近い結末になったが、Dクラスへの警戒は上げておくべきだな。そしてその中でもこれからDクラスでマークしなければならないのは平田でも櫛田でも無く今回動いた可能性が高い堀北鈴音だな。
これで2巻はバカンス前の学校での仕込みで1話と幕間の1話で終わります。
まだ先の話で色々あった末に綾小路くんとは敵対する予定なんですが、そこにアンチヘイトタグの追加っているんでしょうか?アンチヘイトの基準がよく分からないので教えていただけると幸いです。