ようこそ葛城康平に補佐がいる教室へ   作:地支 辰巳

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今回と幕間で干支試験編は終わりです。



minotaurosさん誤字報告ありがとうございます!


利害一致 壊れた者ども

 現在時刻ではグループの話し合いが行われているはずだけど、AクラスとBクラスの取引、そしてCクラスの暗躍によりグループのほとんどは終了し、残るは辰グループのみとなっていた。そんな状況で、俺もすることが無いので聞きたいことがある橋本を呼んでいた。

 

「用って何だよ下関。そういえば、お前と葛城は上手くやったよな。結果がマイナスにならなきゃ、坂柳派がデカい顔がしにくいからな」

 

「そういうことだ。今は橋本の手は借りる必要は無い。だけど、聞きたいことがある。龍園に対してAクラスの優待者情報を渡したか?」

 

 橋本の目に動揺の色は無かった。今回の試験で一番疑問なのは龍園がどうやって優待者の法則を当ててみせたかだ。もちろん、結果だけしか無いので、龍園が適当な名前を送って試験を終わらせた可能性もあるが、あの龍園に限ってそんな真似をするとは思えない。

 

「いや、渡してないな。それを言うってことは龍園が何処かのグループを終わらせたってことか」

 

 橋本の言うことは正しい。というか、AクラスとBクラスの取引を知っている者ならば、今の橋本の考えぐらいは思いつくか。あんまり、取引の詳細が洩れるのもメリットは無いから、橋本に無駄に情報を渡すべきでは無いか。

 

「まあな。聞きたいことはそれだけだ。わざわざ呼んで申し訳ないな」

 

「いやいや、これくらい構わないが……俺の質問にも答えてくれるか?」

 

「質問によるな」

 

 橋本はニヤッと笑う。はっきり言えば、橋本のことは好きでは無いので、あまり答えたくは無い。だけど、坂柳に変なことを勘繰られると面倒なので、ああは言ったが、どんな質問にでも答えるつもりだ。

 

「2学期に入ったら、坂柳を堕とすのか?」

 

 中々に具体的な質問だな。あまり声を大にして言うのは避けてきたことだけど、坂柳は2学期に堕とすつもりだ。もちろん、いきなり堕とす気は無い。特別試験で坂柳派に主導権を渡し、少しずつ妨害を入れつつ、坂柳が大きく動くとなったらそれに合わせて堕とすつもりだ。

 

「ああ、そうするつもりだ。二年までには堕とす予定だ」

 

 橋本は少し俺の言葉に驚いているようだった。まさか、坂柳派である橋本に向かってこんなことを言うとは思わなかったんだろう。まぁ、橋本が坂柳本人に言おうが、こっちには神室がいる。坂柳が対策をしようとその対策をすれば良いだけだ。

 

「ふーん、良いこと聞いたぜ。じゃあな」

 

 この質問を橋本がした意図は分からない。坂柳の命令なのか、橋本個人の興味なのか。坂柳がこんなことをわざわざ聞くように思えないので、橋本の個人的な興味だろうとは思うな。

 

 

★ ★ ★

 

 

 康平が辰グループの話し合いから帰って来た。AクラスとBクラスが先に法則性を見つけたにも関わらず、この辰グループが残っていることを話し合わされたみたいだけど、最終的には結果1になるように契約書を書いたようだった。

 提案したのは龍園らしく最初は疑いの目が強かったものの、この試験での余裕がありすぎるAクラスとBクラス、逆に余裕が無さすぎるDクラスだったこともあって契約は思った以上に問題無く交わされたようだった。

 

「これで今回の試験は問題無しだな。だが、問題は2学期以降に本格的に乗り出して来る坂柳だな」

 

「うん。でも、少しだけ妨害ぐらいにして、康平の方がリーダーに相応しいと思わせるしかないんじゃないかな?」

 

 坂柳下ろしに康平を本格的に巻き込むつもりは無い。これは康平の掲げる守りの信条に反する可能性が高く、康平には向いていないからだ。それに、坂柳のやり方によっては退学者の犠牲を払わなくてはならない事態にならないとも限らない。だから、康平を巻き込む訳にはいかない。

 

「ああ。ポイントにそこまで影響しないぐらいなら大丈夫だ。迷惑は極力かけるなよ」

 

「分かってるよ。康平はみんな導いてくれれば良いから」

 

 本当、康平は優しいと思う。みんなの前では威厳があって、優しいところをあまり見せていないけれど、本当は敵対している人にも真摯に接して人は信用することが出来る出来た人間なんだ。だからこそ、俺は康平に自分を曝け出すことなんて出来ない。

 

 

★ ★ ★

 

 

 あれから一日。干支試験は最終日になったものの学生達の空気感としては消化試合感が強くなっていた。残るは辰グループだけであり、ほとんどの生徒には関係の無い話だからだ。

 そして、俺は昨日橋本が情報を渡していないという証言からずっと、龍園が何故優待者を当てれたのかを考えている。龍園が自力で自らのクラスの優待者からだけで導き出した可能性も低くは無いが、その可能性を追っていたらきりが無いので省いて考えている。

 その上で、俺が考えたのはDクラスが龍園に情報を売った可能性だ。Aクラス、Bクラス共に龍園に売るメリットは無く、坂柳派に動きが無いことは橋本の表情的に確実だ。そうすれば、残るはDクラスのみになってくる。

 

 Dクラスの中から絞るのは非常に難しかったが、何とか絞ってみた。まず、明人に軽く聞いてみたけど、明人は自分のクラスの優待者について知らなかった。このことから、Dクラスでも優待者を把握しているのは本人かクラスの主要人物だと仮定した。Dクラスの優待者は軽井沢、櫛田、南で、クラスの主要人物は辰グループを参考にして平田、櫛田、堀北だ。そして、警戒すべき綾小路も合わせると知っていそうなのは6人になった。

 ここから軽く知っている人となりから売らなそうな人物を切っていくと、軽井沢、南はそんな度胸があるとは思えず、綾小路は龍園が応じる可能性が薄いので無い。堀北に関しても康平から聞く限り、グループでの龍園との対立が激しかったそうだ。そうすると、残りは平田と櫛田に絞られる。ここからは賭けだ。

 

「こんな時間に人気者の平田を呼び出して悪いな」

 

「いや、大丈夫だよ。それで話って何かな?」

 

「単刀直入に聞く、龍園に優待者の情報を売ったのか?」

 

 平田は動揺、いや、俺が言ったことが信じられないと言った表情をしている。これは……ハズレだったか。櫛田よりも平田の方が良い人感が強かったので、逆にこっちにしてみたがダメだったか。

 

「僕はそんな事はしない。誓っても良い。……下関くんにはこの試験の全貌が分かっているんだね」

 

「ああ。葛城派にとって、この試験が正念場だからな。手間をかけさせたな」

 

 平田と別れて、事前に平田と同じく連絡していた櫛田との集合場所へと向かう。俺は何処か櫛田があの人に似ている気がしたから苦手なんだが、今からどうもこうも言っていられないか。

 

「待たせたか?」

 

「ううん、全然待ってないよ!それで私に用って何かな?」

 

「……お前。龍園と取引したな?」

 

 こういうのは相手に悟らさずにいきなり言う方が効果的だ。その方が相手に驚きを与えることが出来て顔にそれが出やすくなる。逆に言えば、そうしなければ作られた表情を読み取ることが難しくなる。まさか、あの人に昔教えてもらったこの技術をこの学校に入ってから使うことになるとは思わなかったな。

 櫛田は表情を上手くコントロールしているみたいだけど、目の動きが収められていない。平田が違うと分かった後ではあるが、表情を抑えようとしている所も櫛田の黒目を大きく上げている。

 

「何を言っているか分からないんだけど下関くん」

 

「何故龍園がDクラスの優待者がいるグループを当てれたか不思議だったんだ。その上で、Dクラスから情報を流した奴を絞っていくと、櫛田。お前になったんだ」

 

 櫛田は尚も表情を変えない。決定的な証拠が出ないことから、まだ有耶無耶にして乗り切れると思っているということだろうか。

 

「Cクラスに情報を売ったということだよね?敵である龍園にそんな事をするメリットが私には無いと思うんだけど……」

 

 そう。これが一番の疑問だ。平田にせよ、櫛田にせよ、動機が無いのだ。何の為にこんなことをするのかが全く理解出来ない。だが、無理やり動機を作るとすると龍園に恩を売りたかったか、Dクラスに対する嫌がらせか?

 

「そうだな。櫛田にそんな事をするメリットが今の俺には全く思いつかない。だが、櫛田である確率が一番高い」

 

「ふーん、もし私だったとしたらどうするの?Dクラスの人に言うのかな?」

 

 Dクラスの人間に言うことはしない。綾小路と接点を作るのはまだ早いと個人的には思っているからだ。もちろん、綾小路が俺に気づいて可能性も否定は出来ないが、それを気にしては仕方が無い。

 

「いや、言わない。そして、櫛田の動機を探るような真似はしない。その上で、櫛田に提案だけする。特別試験があるごとに俺に情報を売ってくれ、それに引き換えで、櫛田が望む結果をもたらす努力をしよう。いつでも良いし、信用も信頼もしなくて良い」

 

 櫛田は言葉を発しなかった。俺の言葉を警戒しているのだろうな。もしも、ここで俺が録音なんてしていたら、櫛田はDクラスの裏切り者扱いになってしまうからな。この警戒ぶりは仕方ない。

 

「何だったら、ここで出来る限り服を脱いでやっても良い。録音をしていない証拠としてな」

 

 俺はそう言って、今の櫛田から見えているポケットを全て見せる。こうでもしないと、櫛田からのリスク懸念は払拭されないだろう。

 

「……このことは誰にも言わないでおいておくね。じゃあ下関君、またね(・・・)

 

 櫛田のこれは了承と受け取っても構わないかな。これでもしもの時に綾小路に攻撃する場合、俺の方が有利に立てるからな。この試験も綾小路関連も進展出来たから、頬が緩むのも抑えることが出来ないな。

 

 

★ ★ ★

 

 いよいよ午後11時になり、結果発表の時間となった。無事に辰グループでは結果1で統一出来た見込みらしく、予定通りならどのクラスもギリギリ面子を保つことが出来たといった具合だろう。

 

「いよいよだな」

 

「うん。でも、そんな心配することもないでしょ?」

 

「まぁな。だが、警戒するに越した事は無い」

 

 そして、結果発表がされた。

 

 子──裏切り者の正解により結果3とする

 丑──裏切り者の正解により結果3とする

 寅──裏切り者の正解により結果3とする

 卯──裏切り者の正解により結果3とする

 辰──試験終了後グループ全員の正解により結果1とする

 巳──裏切り者の正解により結果3とする

 午──裏切り者の正解により結果3とする

 未──裏切り者の正解により結果3とする

 申──裏切り者の正解により結果3とする

 酉──裏切り者の正解により結果3とする

 戌──裏切り者の正解により結果3とする

 亥──裏切り者の正解により結果3とする

 

 以上の結果から本試験におけるクラス及びプライベートポイントの増減は以下とする。

 

 Aクラス……プラス50ポイントcl プラス250万pr

 Bクラス……プラス50ポイントcl プラス250万pr

 Cクラス……マイナス50ポイントcl プラス150万pr

 Dクラス……マイナス50ポイントcl プラス100万pr

 

 まぁ予想通りの結果だな。ここから、前回の無人島試験の結果に合わせると、Aクラスは1145ポイント、Bクラスは803ポイント、Cクラスは442ポイント、Dクラスは212ポイント。まぁぼちぼちと言ったところだな。しっかりと携帯にメモをして、康平にも見せる。

 

「ふむ。充分だな。順番的に次の試験などでは坂柳にリーダーに渡すことになりそうだが、クラスが変わるほどの心配は無いだろう」

 

「まぁ、坂柳の手腕を楽しみにしようよ」

 

 その後は気分がいい風になった康平は直ぐに寝てしまった。俺は神室に対して綾小路への尾行の結果を聞かなければならないから、この後、船の下の階層で合流する予定だ。

 

 

「それで綾小路を尾行した結果、どうだったんだ?」

 

「本当に疲れたし、ストレスだった」

 

 神室の言うことももっともだろう。綾小路はあのホワイトルームの人間だ。気配に敏感だとしても、不思議は無い。それに気づかれないようにしようと気配を消すのは相当に大変なことだっただろうから、ストレスがかかるのも無理は無い。

 

「それは申し訳ないな。色んな負担を増やしてしまって」

 

「別に良い。暇することも無かったから」

 

 神室が少し顔を逸らす。その仕草はただ顔を逸らしただけなのに俺の記憶に残るようなものだった。そして、そんな神室の新しい仕草や表情を見るたび、自分は神室から離れたくないと強く実感してしまう。そんな今の自分は昔よりも心に余裕が出来たが、神室への依存度が増してしまっているように思えてしまう。それは良いことと悪いことかは分からないけれど、もうこの関係は途切れないし、途切れることを許すことが出来ない。

 

「……綾小路を尾行して何か分かった?」

 

「あいつは軽井沢って奴を手駒にしたみたい。これまでそんな素振りが一切無かったから間違い無い」

 

 神室から今回の船の中での綾小路の行動を事細かに聞いた。どうやら、船の機関部辺りでCクラスの女子を交えて何かが起こったらしく、そこから綾小路と軽井沢の距離感が変わったらしい。

 

「中まで入って無いから分かんないけど、多分いじめか何かから綾小路が軽井沢を助けたんじゃない?女子のいじめってあういう陰湿な場所で起こりやすいから」

 

 神室の説は正しいんだろう。他にDクラスの軽井沢とCクラスの女子がそんな場所で会う理由が思い当たら無いから。この結果から、着々と綾小路が動いていることが分かる。そろそろ仕掛けてくるか?

 

「ありがとう、色々助かったよ。これからも神室には側にいて欲しい」

 

「何それ、恋人みたい」

 

「ご、ごめん。でも、本心だから」

 

 神室と俺の関係はいつか綾小路にもバレるかもしれない。そして、神室を人質に取られるかもしれない。俺だったら軽井沢に対してそうする可能性もあるから。そんな時、俺だったらどうするんだろう。綾小路ならどうするんだろう。綾小路とは違う答えを出したいな。

 




 ポイント計算とか結果に間違いがあったらすみません。
 原作と結果がかけ離れましたが、これからも度々起こると思いますのでご了承下さい。

4.5巻も数話書く予定です。
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