B、Cクラスに比べてA、Dクラスは平和的に終わった交流会から数日経った日。真嶋先生から事前に自由に使っていいホームルームの時間になった時、坂柳が神室とAクラスの地味な子である山村を隣につけながら壇上に上がった。
「ここで、みなさんにAクラスのこれからの予定をお話ししようと思います」
「まず、みなさんには後日の体育の時間に行う体力測定をしてもらいます。全て記録した上で私がDクラスの平田くんと擦り合わせて参加する競技を決めさせてもらいます。以上ですので」
全く意見を求めるなどのことをせずに坂柳は壇上から下がっていった。側から見れば他に類を見ない傍若無人振りだが、坂柳ならば、何とかなるだろうという考えが全員無意識に存在しているのか、誰も意見することは無かった。康平も指揮権を渡した上で言うのは無粋と考えたのか無言だった。俺も何かいちゃもんをつけることをしなかった。
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体力測定だけど、俺の結果は男子の中では上の下、中の上とかその辺だった。もちろん、手を抜くことは無く本気でやった結果だ。神室の方は女子の中では上位だったらしく、流石と言わざるえない。俺たちAクラスの記録は坂柳の中心の寄りの奴らが交代ごうたいで記録していた。その最中、俺は坂柳派の男子から珍しくいきなり話しかけられる。
「おい、下関。お前、神室と付き合ってると聞いたんだが、本当か?」
神室は坂柳には報告したと言ったから、坂柳が普通の色恋として自分の派閥の一部に言ったんだろうな。さてと、こういう時の文言も既に神室とは打ち合わせてある。まだ広まっていないみたいだから、ここらでついでに言っておくか。
「ああ、そうだ。神室とは付き合っている。無人島の時に行動してる時に意気投合してな。俺から告白した。それで付き合ってもらえることになったんだ。なんだかんだ上手くはいってるよ」
ガチ感は出しつつ言うが、Aクラスの奴らはこれが本当なのか、どちらが本気なのか、スパイとしてやっているのかなど疑っているように思える。それはそうだろうな。俺と神室だって、本気なのか偽装なのか分かっていないんだから仕方ない。
「お前らマジか。そ、そうか。苦労するだろうが、頑張れ」
聞いてきた奴は根が良いやつだったみたいで、純粋な恋だと信じて、俺たちの未来を心配してくれた。
「あ、ああ。ありがとう」
そんな事もあり、Aクラス全体に俺たちが付き合っていると広まった。後で、戸塚からは尋問気味なことをされたが、まぁ問題視はされなかったから良しとしよう。
次の日からは外で他のクラスに見られているなんかも気にせずに、Aクラス全員で全体競技の練習を始めたんだが、周りが明らかに配慮してくれて俺と神室の二人きりになることが多かった。
「恋人になるってこんな感じなんだ」
「そうだな。俺も初めてだから、こんな感じとは知らなかった。少しむず痒いな」
互いになんとも言えない空気感の中で練習を続けた。はっきり言って、この空気感でやる練習には全く身が入らなかった。うーん、むず痒い。
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体育祭の練習などをしつつやっと迎えた2週間前、坂柳は今日から何日もかけて平田と打ち合わせをするらしい。私はその見張りを任された。今回の体育祭は下関に情報を流す必要もほとんど無く、坂柳もこき使うことが少ないので、負担は少ない。だけど、この会合だけが少し気がかりだった。
「それでは今回からよろしくお願いしますね平田さん」
「うん。こちらこそ、よろしく。僕のクラスはあまり決まっていないんだけど、大丈夫かな?」
「はい。こちらも全てが決まった訳では無いので大丈夫です。私たちで擦り合わせをしながら決めていきましょう。ああ、こちらの神室さんの見張りですので、ご心配には及びません」
二人は軽く挨拶を交わしながらカラオケの一室へと入っていった。私の今日の仕事はここで立っていることだけ。簡単だけど、これから何日もあると思うと、憂鬱。仕方ないので、西野武子って子に情報を聞きに行った下関にメッセージを送ったりして、暇を潰す。
「今日はありがとうございます。非常に有意義なものになりましたね」
「こちらこそ、色々ありがとう。坂柳さんと話していると、凄く話しやすいよ」
一時間半ぐらいしたら、二人とも出てきた。まさか、擦り合わせだけで、ここまでかかるとは思ってなかったけれど、無事には終わったみたい。平田の方も会った時よりも緊張がほぐれているように思える。
「彼もやはり面白いですね」
「また、情報を調べろとか言うの?」
「いえ、今回はその必要すらありませんよ」
坂柳の不気味な笑み。坂柳と半年ほどいて分かったけど、こんな笑みをする時の坂柳は碌な事を考えていない。
平田と会合を始めてから一週間が経とうとしていた。明日中には出場表を出さなくてはならず、今日で最後になるとは思う。何度もしてきてたから、流石にこれで終わるとは思うけど。
入ってから三時間ほど経ってやっと、坂柳と平田はカラオケルームから出てきた。長すぎ。こんなことになるなら、仮眠でもしとけば良かった。
「平田さん。本番はこのまま出場表を出して下さいね。今日まで何度もお付き合いありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとう坂柳さん。体育祭に関係無い話もして、ごめん」
「いえいえ、それもコミュケーションですから。気にしないで下さいね」
出てきた平田の表情は今までと全然違うように思えた。気のせいかもしれないけど。でも、無事に終わったらしく、平田は足早に去って行って、坂柳からは完成した出場表を一瞬見せられた。
「平田に変なことでもした?」
「いえ。そんなことする訳ありませんよ。ただ悩みを聞いてあげただけです」
やっぱり坂柳は不気味で、底知れない怖さを覚える。こんな坂柳に下関は勝てるか分からないけれど、勝って欲しい。
「これで体育祭の目的は達成です」
「何か言った?」
「いえ、何も」
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「それで、坂柳は何か不審な行動をしているようだったか?」
「そんなこと無かった。ただ、話は長かった」
明日、出場表が提出にも関わらず、Aクラスの人間は自分がどの種目に出るのか全く把握していなかった。Aクラス全体のグループでのメッセージでは比較的希望は叶えたとは送られてきていたが、それも本当か分からない。俺たちが知るのは出場表の提出が締め切られた後らしい。
「Aクラスは坂柳だから、反発は無いが、Dクラスは大丈夫か?」
「さぁ。でも、Dクラスが公開するタイミングについては私の知る限り、触れてなかったから、もう既に自クラスには言ったりしてるんじゃない?」
「まぁ、反発を少なくするには早めに言う方が良いだろうからな。坂柳との話し合いでも平田なら自クラスの要望を出来るだけ通そうともするだろう」
そんな感じで神室から坂柳の最近の現状なんかを聞いていく内に出場する種目についての話になった。神室も情報提供するばっかりだと、つまんないだろうからな。
「推薦種目は借り物競走と四方綱引きと男女混合二人三脚、合同リレーだっけ?」
「ああ。自負することでも無いけど、俺は一つぐらいは出るんじゃないか?神室も体力測定を見る限り、出るだろう?」
「まぁ、多分?でも、一回もちゃんとしたメンバーでやってないから、勝てるか不安だけどね」
「それはそうだな。でも、他クラスもそんな感じだろ」
「確かにそう……そう言えば、Cクラスの子に会いに行ってたんでしょ?」
神室は少し感情の温度を下げるように言葉を発した。何で少し冷たさを含ませて言っているかは分からないけれど、そこまで気にすることは無いか。気のせいの可能性もあるしな。
「西野だろ?Cクラスの情報提供者だったんだが、今回も龍園は秘策があるとしか言っていなかったらしい。練習もしてないから、何を企んでいるんだか」
「まぁ、なんでもいいけど」
間もなくして、明日も学校があるからと神室は帰宅した。体育祭というのは中学校でもやったのだが、高校の体育祭というのは初めてで、何も気負う事なく出来るので、素直に楽しみであったりはする。
少し短いですが、切りがいいのでここで一旦切ります