いよいよ、体育祭が始まった。これまでの学校の行事では策略や計算何かを色々と考慮しなくてはならなかったが、今回の体育祭ではその要素は薄まっているので、純粋な思いで楽しもうと思っている。これから、そんな機会はあまり訪れ無いとも思うしな。坂柳からは出場表が締め切られた後に送られてきたんだが、俺が推薦競技で出ることになるのは借り物競走と二人三脚になっている。
Aクラスの方針上、ほとんど練習が出来なかった競技もあるので、本当に勝てるかどうかは心配だ。もちろん、出場表が締め切られた後には本気の練習を全員したのだが、他のクラスが出場表前から練習していたので、足りない感は否めない。
「康平。体育祭は勝てると思うか?」
「どうだろうな。今回はAクラスとDクラスがチームであり、坂柳が指揮を執っている。俺には出場表から推測するしか出来ないが、Aクラスが勝てない組み合わせではない。スポーツは多少の予想外が発生するので、確定は出来ないが」
「そうだね。俺も概ねそう思うよ」
康平と会話している間もAクラスの状況はいつもと変わること無く、康平と俺が喋っている側と坂柳が座ってる場所と真っ二つ割れていた。そのせいで、神室とは体育祭が始まってから、全く喋れていなかった。色々と話したいことはあるんだけど、残念だ。
「何チラチラ坂柳の方ばかり見ているんだよ。……神室か?」
Aクラスの中でも鈍いと言われ気味の戸塚に言われるほど、俺は神室の方ばかり見ていたらしい。あんまり見ていると神室から気持ち悪がられるか? いや、恋人感を他のやつにアピールするにはこれくらいの方が良いか?
「……察していくれ」
「はぁー、坂柳派のやつだけど、恋人がいるやつは良いよな。それで、やったのか?」
「は? 何を?」
「何って、何に決まってんだろ? まさかキスもしてないのか?」
中学校ですら聞かれている奴がいるのは見たことあったが、まさか、自分が聞かれることになるなんてな。聞かれてみる側になってみると、やってもいないことをさもやっている前提で言われるのは嫌なもんだな。というか、意識すらしていなかったぞ、今の今まで。
「してない、してない。キスもそれ以上もしてない。別に良いだろ?」
「良くねぇって。Dクラスには平田と軽井沢のカップルがいるんだぞ? それに負けたままでいいのかよ!」
「いや、良いよ。平田のカップルとは付き合っている期間も違うんだ。それぞれにペースがあるだろ?」
「……まっ、頑張れよ」
何かよく分からないがイラッとした。まぁ、今までこういうことは考えていなかったが、これからは少しは考えるか。軽く神室と相談してからにするが。
★ ★ ★
最初の種目である100m走の時間になった。推薦競技でも無かったから、そこそこ練習は出来たから、下の方にはならないだろう。俺の運動神経は中の上といったところ。一緒に走る面子には速いと聞いているような人間はいない。……いけなくは無いか。
全速力で走ったが8人中3位という結果だった。練習量が多かった分、ショックもそこそこ大きい。神室と康平の走りだけ見た後は少し疲れたので、座り込む。こんな体力で大丈夫か? 綾小路は5位だったようだが、あまり信用はしていない。綾小路の完全無欠の実力的には一位を取らなければおかしいからな。
二種目目はハードルだ。自信があるというほどでは無いが、ぼちぼちの順位は取れるとは思っている。俺は最後の組だったが、その最後の組ではDクラスで今回、一番張り切っているらしい須藤と一緒だった。集中しているのか、スタート地点に着いた時から、威圧感というか気合いがヤバかったし、そんな奴の隣だったが、走っている時も荒々しさが凄かった。順位は4位だったが、まぁ、事前に予想した通り、ぼちぼちだった。
三種目目は棒倒し。やっと楽しそうな競技となったんだが、Dクラスと合同なチームということで須藤に仕切られており、一本目はAクラスは棒を守る役目でDクラスは棒を倒す攻めの役割を担っていた。
「そう、落ち込むな涼禅。二本目もあるだろ?」
「まぁ、そうなんだけど。棒倒しは戦略と戦術の部分が大きいだろうと思ってる。だから、全体を指揮して自分の能力を試す意味でもやりたかっただけどね」
しかも、口には出さないが、康平が防御の陣形を指示してる影響で坂柳派の人間は露骨にやる気を出していない。こんな状態じゃ勝ちの目はどんどんと無くなっている気がしてならない。相手は仮にも方向性が違うにせよ、団結力はこっちの2チームよりも高いのにな。
ついにホイッスルが鳴った。鳴った瞬間から飛び込んで行く須藤率いるDクラスを眺めながら、俺たちAクラスは攻め込んでくるハーフという体格を活かすだろう山田率いるCクラスを相手取る。康平直々に陣形を作ったこともあり、安心していた部分があったんだが、思った以上にCクラスがヤバかった。体格差が大きい奴ばかりで、陣形なんてなす術なく破壊され、容易く棒が倒された。これは二本目のDクラスもヤバいんじゃないか?
危惧していた通り、Aクラスが棒でBクラスを中心とした防御チームを倒せそうな所で、攻めていたCクラスによってDクラスの防御が崩され、棒が倒され、ホイッスルが鳴った。うん、これは相手が悪かったな。聞こえた限り、龍園はバレずに殴っていたようだし、仕方ないな。今回も龍園は卑怯も気にせずに行くのか。
男子の四種目目に始まる前に女子の玉入れを眺める。自然と目線が神室の方に向いてしまうのはやましい気持ちがあってのことなのか、何を思ってのことなのか、自分にはよく分からない。だけど、向けてしまうんだ。
「神室さんのことが気になりますか? お二人は恋人ですもんね」
クスッとした笑みを見せながら、坂柳が杖をつきながら一人で座っている俺の方に来ていた。他の女子は玉入れ中で、男子は作戦会議中で俺たち二人の周りには誰も存在していなかった。
「神室が頑張っているからな。彼氏なら、当然だろ?」
康平や坂柳の前では密かに会っていることを隠す為に恋人ということを強調して話す。だが、坂柳の瞳からはその誤魔化しさえも意味も無いように思えて、背筋に何か嫌なものがあるように感じてしまう。
「フフフ、そうですね。下関くんは作戦会議に行かなくていいんですか? 彼女も大事ですけど、そちらも大事だと思いますよ」
「綱引きの作戦会議だろ? 綱引きなんて、多少の工夫は出来ても結局は力がほとんど。直接、康平から作戦を聞かなくても大丈夫だ」
「傲慢ですね。まるで、自分がほとんどの人よりも優れていると思っているようですよ?」
それはお前もだろという言葉が出かかったが、坂柳は後が怖そうなのですんでの所で引っ込めた。実際、Aクラスとして作戦会議には出たかったんだが、Dクラスも一緒に作戦会議をしている。体育祭では普通に過ごす為、出来るだけ綾小路の近くに居たく無いのが、本音だった。
「そんなことは無い。俺は自分よりも上の人間がいるとは分かっているつもりだ。それでも、そんな気が俺からするって言うなら、無意識に思ってしまっているんだろうな」
「ええ、貴方は決して天才には敵いませんよ。なので、せいぜい足掻いて下さい。私がしっかりとお膳立てはしておきますから」
会った時よりも邪悪な笑みを浮かべながら、坂柳は去って行く。坂柳は俺の過去を知っていると、神室は言っていた。坂柳の最後の意味深な言葉といい、何か俺と綾小路に対して何かするつもりなのかもしれない。天才、綾小路に敵わないなんて分かってる。でも、俺はやらなきゃ、俺じゃなくなる。
★ ★ ★
何のトラブルも無く、作戦会議を終了したみんなと共に綱引きに挑む。体格はあまりずっしりしていない俺が役に立っている感覚はあまり無かったが、一戦目は勝つことは出来た。しかし、二戦目は打って変わって、重さが一気に変わって、ギリギリで押し負けてしまった。龍園がニヤニヤしてることからも分かるが、BCクラス男子の精神的頂点は龍園みたいだな。この体育祭はCクラスの手のひらか?
三戦目はこれまで以上に拮抗していたが、突然、Cクラス全員が手を離したことで、ADクラス全員が倒れると同時に勝利することになった。後味が悪い勝利だが、勝利は勝利だ。これも勝ちの一つには入れて大丈夫だろ。
次の障害物競走は同じ組に早い奴が居なかったこともあって、一位を取ることが出来た。今のところ、白組とは同点といったところだから、ここで一位を取ったのは中々良いんじゃないか。神室も周りを伺いながらも手を振ってくれて、康平も満足そうだし、何か嬉しいな。これが純粋に体育祭を楽しめてるってことなのかな。
そんな満足している俺は女子の障害物競走を見る。そこではDクラスの堀北鈴音がCクラスの女子ともつれこんで転んでしまっていた。Cクラスの女子は競技続行不可能らしいが、堀北は何とかゴールはしていた。何の根拠も確証も無いが、相手がCクラスということで、変な勘繰りはしてしまうのは俺だけじゃないだろ。
全員参加の二人三脚では橋本になっている俺は橋本と適度に会話をしながら、準備として足をハチマキのようなもので固定する。
「良いとこ見せて、一緒にモテようぜ下関。おっと、既にお相手がいたか」
「うるさいぞ橋本。いちいちおちょくるなよ。ここで勝ってお互いのリーダーにアピールすることだけ考えよう。その方がお前の為だろ? テニス部に好かれてる女子もいるんだから」
「何で知ってるんだか。でも、あいつには興味ないぜ? 公私ともに魅力的な女性が一番だからな」
やっぱり橋本とは反りが合わないな。言うのも恥ずかしいが、俺はそんな肩書きなんかで人と付き合いたくは無いからな。だが、橋本のような生き方の方が成功しやすいことも分かってるんだけどな。
「そんな顔すんなって、神室も公私ともに魅力的だと思うぜ? 頑張っていこうぜ」
「そうだな。今はそんなことよりもこれを頑張ることが大事だ」
テニス部の子を哀れに思いながら、俺と橋本は息を合わせて走り出す。Aクラスでそこそこ早い二人が組んでいるからか、他の組に差をつけるが、ハードルの時と同じくドタドタという音を立てながら須藤がペアの男子をほとんど抱え込み、走り去って行った。反則だろあれ。
「こればっかは仕方ないだろ。まっ、二位で満足しとこうぜ」
「そうだな。こればっかりは仕方ない。須藤はチームだしな」
二人三脚も終わり、やっとこさ休憩になった。ここから、まだ騎馬戦とかもあるのか。気合い入れ直さないとな。楽しむことも忘れずに。
あと2.3話で第5巻終わります。