モーニング台さん誤字報告ありがとうございます!
『てめぇと西野の関係は掴んだ。明日の放課後Cクラスまで来い』
昨日の夜に西野から送られてきたメッセージがこれだった。文面的にこの文章を打ったのは龍園で確実だろうけど、何故バレたんだろう。西野はCクラスの中ではどちらかと言えば、目立たない存在。こんな中途半端な時期に龍園にバレるとは思えないんだけど……まぁ、でも、バレたものは仕方ないか。実際に西野にはCクラスの情報を流してもらっていたんだ。それも、俺の命令で。しっかりとケジメはつけないといけない。行くしかないだろう。
「康平。迷惑をかけたらごめんな」
「……何のことは知らないが、お前がそこまで言うということはその可能性があるんだな。問題無い。涼禅には世話になってばかりだかりだ。迷惑ぐらい気にするな」
温かい康平の言葉をもらい、俺はCクラスへと向かう。こんなにも緊張するなんて久しぶりかもしれない。だが、相手は龍園だ。これくらいの緊張感を持っていた方が覚悟が決まるってもんだ。
「龍園。言われた通り、来たぞ」
「ハッ、こんなにも、のこのこ来やがるとは。てめぇは坂柳なんかよりも随分甘ちゃんだな。あいつなら見捨てたぞ」
龍園の言う通り、坂柳。それに綾小路だったら、来なかっただろうとは思う。でも、俺は一度縁を結んだ人は見捨てられない。あいつらみたいに人のことを簡単には裏切りたくは無いから。
「甘ちゃんだからこそ、坂柳に勝る点だってある。それに、俺は西野を見捨てることなんて出来ない」
Cクラスの中には既に人払いが済んでいるのか、龍園と西野の他、伊吹や石崎、山田の他は居なかった。しかし、明らかに残っている面子が武闘派ばかりだ。ここで喧嘩でも始めようってことか? 龍園一人ぐらいなら何とかなるかもしれないが、ここまで人数の差があると俺でも無理だな。
「なら、西野が退学しないように条件を呑めるな?」
「それは条件によるな。しっかりとした手続きを踏んだ上でな」
やっぱりそう来るよな。西野を使ってCクラスの情報を探っていたツケが来たか。だが、どういう条件がくるのか。康平か坂柳の退学か? ありえるが、俺にその条件を突きつけてくるとは思えない。俺か神室の退学か? いや、龍園が俺や神室にそこまでの危機感を抱いているとは思えない。……無難にポイントか?
「こっちの被害も計り知れねぇからなー。400万ポイントだ。後は、Aクラスの情報を俺に渡せ」
「私の為にそこまでしなくていいから。こっちのミスでバレたんだから」
中々に吹っかけてきたな。でも……400万か。一括じゃなければいけなくてはないか? だが、情報の方が面倒だな。康平が指示を出している時に俺が龍園に情報を流して、坂柳派に龍園から情報が流れたら、全く笑えないことになる。素直に呑みたくは無いな。
「西野。大丈夫だ。お前の身は何とか保証してみせるよ」
「なら、この条件を受けるってことでいいんだな?」
「いや、それは受けられないな。そうだな……試験ごとに10万ポイントで情報を売るならいいぞ」
あえてふっかけるレベルの条件を出す。はっきり言えば10万ポイントでもあまり売りたくはないが、何とか条件を変えてもらえるように誘導する努力はする。
「てめぇの考えてることなんて分かってんだよ。葛城に不利になる情報を渡したくねぇんだろ?」
やはり、龍園を侮る訳にはいかないな。俺の浅はかな考えなんて簡単に見通されるみたいだ。いや、それでも、出来る限りの努力をしよう。西野にあんなことをさせた俺の責任でもあるんだから。
「ああ、そうだ。俺は康平に不利になるような条件を呑む気は無い」
「だが、西野の退学は止めたいと。なら、情報以上の何かを貰わないとな」
勘だが……龍園は本気で西野を退学させようとはしていないとは思う。根拠は無いが、ただ龍園はそんな人物では無いと思う。妹とも多少似ていることだし、多分、それが根拠になっているんだと思う。でも、それでも、俺は西野への義理から何かしらを払わなきゃいけない。
「……分かったよ。なら、1000万ポイントでどうだ? もちろん、直ぐには払うことは出来ないが、そうだな……卒業までの借金でどうだ?」
「信用出来ねぇなぁ。てめぇが飛ぶのだってあるじゃねぇのか?」
「心配するな。契約書も作るし、月々それくらいの金額は払うつもりだ。もちろん、利子は無しだ」
俺と龍園は目を離すこと無く見つめ合う。それはロマンチックとかそういうのでは無く、ただただ腹を探っている。それ以上でもそれ以下でも無かった。だが、これで分かることだってある。龍園は折れる。
「ククク、乗ってやろうじゃねぇか。てめぇはこれ以上折れるつもりがねぇらしいからな」
「そうしてくれると助かる」
お互いが了承したことにより、話は終わり、トントン拍子で互いの担任が見守る中で契約書にサインすることになってしまった。本来ならもう少し軽い条件にしたかったんだが、龍園相手にはそこまですることは高望みだからな。これで納得するしかないだろ。
「……下関」
「西野か。龍園は教室に置いてきたのか?」
「うん。それで言いたいことが」
「もう何も言うな。俺と西野は何の関係も無かった。西野のことを勝手に使った俺のことなんて忘れてくれ。それがお互いの為だ。……一言だけ言うなら、俺なんかの為に働いてくれてありがとう」
後ろを振り向かずに廊下を進んで行く。ただただ散々利用したあげく、こんな風な別れになるなんて、本当に申し訳無い。ただ、これからは普通に学生生活を送って欲しいな。
★ ★ ★
数日後、この間神室から聞いた通り、AクラスはBクラスへの攻撃をすることが坂柳からクラス全員へと共有された。そして、その後の連絡で毎回のテストの半分以下の人間は次の小テストで意図的に点数を下げるように指示が出された。なんでもそれが期末テストのペアの法則らしい。いつの間に法則を割り出しかは知らないが、敵とは言え、流石坂柳だな。
「このペアを決める法則は康平は分かってたのか?」
「大体わな。しかし、いまいち詰めが出来ず、確信は持てなかったがな」
その後も康平と様々なことを詰めていく。主に今回の期末テストに対することだけど、葛城派の学力なども改めて確認した。それを見てみると、葛城派に属している生徒の学力は中位帯が多かった印象だ。
「少し問題だよな。今回は中位帯の生徒が一番危険だから」
「ああ。だが、小テストだけならば特に何もする必要は無い。期末テストが始まる前から学力を上げるようにすれば良い。今回のテスト、そこまで警戒する必要は無いな」
康平の提案は実に理にかなっていて、実行するのも出来そうだった。康平は今回あまり坂柳を警戒していないようだけど、念のため今回の試験では自分のクラスの人間を退学させようとすれば出来るとは思っておいた方が良いとは思う。
「そういえば康平……報告しなきゃいけないことがあるんだ」
「どうした?」
俺はこれまであった西野と龍園とのことを隅々まで何から何まで語った。その中には龍園との契約のこともあって、はっきり言えば、絶交されるか、怒られるぐらいのことをされる覚悟はあった。
「……そうか。それは上手く乗せられたな。だが、まだ現実的に条件になってくれて良かった。情報を売ることにならなかったことが幸いだな」
「それに……Aクラスが勝つ為に色々やってくれたんだ。お前のことを責める訳にはいかない。俺も少しそういったものも出来るようにならなくてはな」
本当に康平は優しい。許してくれるばかりか……反省もするなんて。その優しさが嬉しいと同時にそんなことをさせてしまっているのが申し訳ない。ああ、俺は狡い人間だな。
「その1000万はみんなで何とかしよう。少しづつ払っていけば何とかなるはずだ」
「本当にありがとう。迷惑ばかりかけて、ごめん」
後輩に対して頭が上げないまま、その日の会合は終わった。これからも色々試験があるっていうのに、面倒ごとを抱えてしまったな。何とか康平が主導権の時は勝てるようにしないと。
★ ★ ★
件の小テストの時間にBクラスにアタックすることが真嶋先生から発表された。これで、正式にクラスが決まったことになったな。そして、次の日、小テストの返却日となった。しかし、誰と組むことになるかが問題だな。Aクラスの学力ならば、誰に当たっても問題は無いが、もしもの可能性はある。出来れば知っている人間に当たるのが嬉しいが……。
「では、期末テストのペアについて発表する。このペアについては変更することが出来ない。そのことを分かっておいてくれ」
そして、黒板に画用紙のようなものが貼られた。そこにはAクラスの人間の名前がずらーと書かれており、誰が誰とペアだと言うことが分かりやすかったもので、その中の俺の名前は坂柳とペアだと言うことを示しているものだった。
「は?」
「下関くん。よろしくお願いしますね?」
これが坂柳の陰謀なのか、神様のイタズラなのかは分からないが、どちらにせよ、俺の苦労と疲労が高くなるのは間違いなさそうだった。
「テスト勉強をするのももちろんだが、共にテスト問題の提出も忘れないように。では、健闘を祈る」
後は生徒達に任せるというように真嶋先生は後ろに下がっていった。それに伴うように坂柳が神室と山村に連れられ、前に出てくる。その表情はここまで全てが上手くいっていると確信しているような顔で、気味が悪かった。
「では、これからの方針を軽く伝えます。ペアになった同士でお互い、テスト勉強をして下さい。こちらとしてはお二人の方針に一切干渉しませんし、指示を出すこともしません。しかし、もし赤点となっても自己責任ですので。テスト問題については私が責任を持って考えさせてもらいます。以上です」
坂柳の方針は放任主義と言えるようなものだったが、Aクラスということに胡座を欠き気味だった今の自分たちには学力を上げる良い方針だと思う。これは……坂柳からの落とせるものなら、自分を犠牲に落としてみせろという挑発なのか? そんな感じがしないことも無い。
「下関くん。今回のテスト勉強は貴方が勉強しろと言ったところしかしません。私はテスト問題を作るので忙しいので」
「え……ああ、分かった」
各々がペア同士で固まったところで坂柳から言われた一言。つい、反射的に返事をしてしまったが、ヤバかったんじゃないのか? 坂柳が退学すれば俺もまとめて退学。それにプラスしてわざとやったと疑われ、康平も終わるかもしれない。はぁー綾小路にも会わなきゃいけないのに、今回の試験は疲れそうだ。
西野との関係を変えるのはこのタイミングしか無いと思ってました。