期末テストの発表された日からAクラスのほぼ全員が今まで一緒にいたような人間関係からペアの人と一緒にいることが多くなっていた。かくいう俺も残念ながら、康平と一緒にいる時間よりも坂柳と一緒にいる時間が多くなっている。そのせいで今もカフェで坂柳と勉強していた。しかし、坂柳は微笑むばかりであまり勉強をしていないようで、俺のことをずっと見ていた。なんというか、坂柳に見られていると、ストレスを感じてしまって全く集中出来ない。
「坂柳。勉強しなくてもいいのか?」
「ええ。家で必要な量はしているので」
「だったら、何で勉強会なんて企画したんだ」
俺の疑問にも坂柳は笑みを浮かべるばかりで、答える気は無いらしい。俺の行動を制限するのが狙いか、気まぐれかは分からないが、これでは俺のテストも危うくなるかもしれない。本当に何で坂柳とペアを組むことになったんだか。
「そういえば、このカフェには多くの人が来ていますね。下関くんのお知り合いも何人かいるのでは?」
坂柳の疑問は要領を得ないものだったが、世間話という点で言えば妥当という話題だった。しかし、坂柳は綾小路に味方する可能性が大いにある。俺の交友関係は出来る限り黙っておいた方が良いだろうな。実際に今日は部活がある日だったので部活関係者はいないが、知り合いレベルなら見た顔はいる。
「居ても居なくても坂柳には関係無い。それに俺は坂柳を警戒している。簡単にプライベートのことを話せない」
「……それは私が綾小路くんと知り合いだからですか? ふふ、ならば、心配はありませんよ。もう種はまきましたから。私が必要以上に干渉するつもりはありません」
……坂柳の言っている種は綾小路に俺のことを教えたことを言っているのか? 何故教えたのかも坂柳が何を考えているのか分からない中、坂柳の言うことはいまいち信用が出来ない。ただ学校に入学した今の綾小路の実力を俺を使って知りたいだけかもしれないが。
「俺から綾小路のことについて坂柳に話す事は無い。これは俺の問題だからな」
「そうですか。その割には神室さんを巻き込んでいるように見えますが?」
坂柳は相変わらず勘が良いというか、痛いところをついてくるな。これについては……俺は何も言えないな。神室の立場もあるし、俺から巻き込んでしまったんだ。下手なことを言わない方が良いな。
「神室とはただの恋人だ。それ以上でもそれ以下でも無い」
「そうですか……まぁ、お二人は恋人なので、プライベートなことにはあまり触れないことにしますよ」
そう言った坂柳の顔は嫌な笑顔だった。本当に何処まで知っているか分からなく、何を考えているか分からない坂柳は本当に接しにくいし、ストレスが溜まる。ほとんどずっと一緒にいる神室に改めて敬意を払いたいよ。
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「だから、本当に神室のことを尊敬するよ」
「今更? でも苦労を分かってくれたみたいで良かった。あれもあれで楽しい時もあるんだけどね」
勉強でのストレスや綾小路に対するストレスを癒やすように神室の手料理を食べながら、神室の部屋でゆっくりと会話して過ごす。こんな風なストレスの解消法はなんか……青春している感じで良いな。このままゆっくりしたいけど、やることばかりだ。俺の安泰の青春は程遠いな。
「それで……今回は何の話がメインなの?」
「坂柳のことだ。坂柳に対しては何もかもがバレている気がしてならない。いや、バレてなかったとしても俺の反応でバレた可能性だってある。……神室の立場が悪くなるかもしれない。……ごめん」
俺のせいだ。今更だけど、俺が神室を巻き込んだから、こんなことになったんだ。今さら頭を下げたってダメだって分かってるけど、やらなきゃ気が済まない。
「そう思うのは坂柳だから、仕方ない。私だって薄々感じてるところがあった。実際に坂柳は全部知ってるかもしれない。でも、下関のやってる事に坂柳は多分関係無い。下関は坂柳を無視して下関のやりたいことをやり終えればいい」
ただただ優しい神室の言葉が俺の中に沁みる。こんなに優しい子の魅力がみんな分かっていないのかな。いや、俺だけが分かっている方が良いのか。
「……坂柳の片腕っていう立場も下関に手を貸すって決めたときから、何時でも捨てられる覚悟は出来てた。だから、坂柳自身から切られるまではやり切るから、気にしなくていい」
「ありがとう。これからも、色々とお願いすることになるけど、頼む」
「分かってる」
「それで、申し訳ないけど……また頼みたいことがあるんだ」
こんな形にはなってしまったけれど、前から話すことを決めていた頼み事のことを話す。謝った後にこんな事を言うなんてむしがいいことは分かってる。でも、これは神室にしか頼めないことだ。いつかは恩返しをしないとな。
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期末テスト一週間前の今日も坂柳と学校での勉強会を終え、寮に戻ったんだが、そこには多くの人だかりが出来ていた。何の人だかりか、全く見当も付かないなぁ。俺に関わることじゃなければいいけど。
「何かあったのか?」
「ああ。全員のポストの中にこんな紙切れが入っていたんだ」
『1年Bクラス一之瀬帆波が不正にポイントを集めている可能性がある。龍園翔』
この内容は非常に驚くものだった。まずは一之瀬にそんな疑いがあったということだ。これを見るまでそんな噂も可能性も全く持って把握してなかった。後はこれに龍園の名前が書いてある事だ。龍園はこんなことをする奴ではあるし、やりかねない。でも、そんなことをわざわざ自分の名前を書いてやるか? 他の人の名前が書いてあって、それを龍園がやった方がまだ信じられる。一之瀬だって、そうだ。一之瀬はポイントを多く持っている可能性はあるが、それを学校側が今の今まで不正だと言っていないのだから、不正の疑いは低い。それくらの信用は学校側にしているつもりだ。まぁ、言いたいことはこの紙は信用出来ないってことだ。
「おい、龍園が帰って来るぞっ!」
そんな風に全員が龍園と一之瀬に別々の疑惑をかけている中、龍園が帰って来たようだった。龍園はBクラスの人からの詰め寄りにも飄々とかわしており、やっているのかやっていないのか分からなかった。本当に食えないやつだ。
「どうなんだ一之瀬?」
また渦中の人物が寮に戻って来た。一之瀬は堂々とした態度を崩そうともせずに不正は無いと主張する。どうやら、学校側に詳細を話して学校側を通して無罪を証明するらしい。だが、結局のところ、今回の騒動はすぐに収まるだろうな。学校側から一之瀬は無罪だと証明されたら、終わり。今回のことを仕向けた人間は何が目的なんだ?
「さて……何がしたいんだか」
俺の知らないところで起きているよく分からないこと。これまでも色んなことが起きてきたが、大体は把握してきた。だが、最近は把握し切れないこともよく起こってきた。そういった見えないとこにもこれからは目をつけていくべきだろうな。
次の日には一之瀬の無罪が学校側から出された。その影響による一之瀬の支持率もこの疑惑が知られた前とあまり変わりないようだった。本当に何の為に今回のことが起こったんだか。
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あの一之瀬の問題から数日、ついに期末テストまでもうすぐというところまできた。他クラス、自クラスともにテスト用紙は提出したらしい。坂柳もそれを察したのか、最後のテスト対策というように全員に向かって自身のクラスが作ったテストを課した。誰もそれをやることを聞いていなかったらしく、全員が驚きに駆られながらもテストを受けた。俺もそれをやったが、中々に難しく、何というか……引っかけが多かった。
「皆様お疲れ様でした。このクラスのテストは他クラスのテストよりも勝っていると言えるでしょう。このテストをよく出来なかった人たちはこの数日間、しっかりと勉強して下さいね。ああ、それとテスト情報が漏れた場合の対処は厳格にさせていただきますので」
問題用紙、解答用紙が全て揃っていることを確認すると、丸つけをする事なく坂柳は全員に釘を刺す。相変わらずしたたかな人間だな。本当に情報を流そうとしようとしたら、冗談で済まずに坂柳によって退学させられるだろうな。
「康平。この坂柳が課したテスト、どうだった?」
「内容の出来に対しては坂柳らしいと言えるな。そして、この坂柳のテストを自身のクラスにさせるという戦略は敵ながらも素晴らしいものだ。出来たという自負のある者は自信がつき、出来なかったという自覚があるものは危機感にかられ、勉学に励む。やはり、坂柳は侮れんな」
「そんな事言って、康平が指揮をとった場合でも同じようにしてたでしょ? でも、そこまで心配しなくてもAクラスの学力は低くない」
「念には念を入れるも大事なことだ」
坂柳によるテストが終わった後も最近あまり直接話せていなかった康平と久々に話した。今回の試験が終わって、次の試験になったら康平の指揮になる。その時になればもう少しは喋る機会も増えて、康平の右腕らしいことも出来るだろうな。それに……今回であの事も少しは進展するはずだから。
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そして、遂に期末テストの日となった。期末テストの内容は如何にもBクラスと言ったもので堅実で難しいものとなっていた。坂柳のテストで疑心暗鬼が増していたが、こんな感じの問題傾向だったら、そこまで心配することも無いだろうな。
「そこまで」
「これで全教科のテストが終わった。結果はまた後日に伝える。それまで、テストで疲れた身体を癒してくれ」
真嶋先生の号令によって、テストの終了が宣言される。この宣言によって、Aクラスの人達全員の緊張が解けた。俺もそのうちの一人だが、なんだかんだ言って疲れたこの試験が終わると思うと、本当に、本当に嬉しい。坂柳と過ごす事がこんなにもストレスだったと知れたことは大きかったが。さて、テストも終わったことだし、他の用事も終わらせないとな。
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翌る日。俺は別棟にいた。ここは防犯カメラも無く、ろくな空調システムもないから、近寄る人間は何かやましいことがある人ぐらいしか居ない。そんなところにいる俺もやましい人間な訳だが。
「おはよう。来てくれて嬉しいよ綾小路くん」
そこに来たのは神室に連れられてきた綾小路清隆。俺の復讐相手、その人だった。
いよいよ次回、綾小路清隆と相対することになります。