今回は6巻からの続きで7巻にも食い込みます。
「何でここに連れてこられたか分かるかな綾小路くん」
「さぁ、分からないな」
俺の疑問にも間髪入れずに返す綾小路。相変わらず表情の読めない人間ではあるな。何処までこっちのことを分かっているかは分からないが、やるしかないだろうな。
「綾小路くん、いや、綾小路。俺はお前を許さない」
「俺はあんたに何かをした覚えは無い。もし、仮にしていたとしたら今謝る」
とっとと話を終わらせようとしている? いや、俺のことを知ろうとしているのか? 綾小路は多分、坂柳から名前を聞いたぐらいしか俺の情報を知らないはず。……ここで俺の情報を拾おうとしているのか。
「その必要は無い。俺はいくら言われようと許すつもりは無いし、これは逆恨みだ」
「だったら、俺には関係無い。そいつに恨みを晴らしてくれ」
「そいつの名前は綾小路篤臣。お前の父親だ。なぁ、ホワイトルームの最高傑作」
綾小路の目つきが少し変わったような気がした。いや、俺への警戒度を少し上げたっていう方が正しいか。さて、ここからどう出てくるか。ここで殴り合っても勝てはしないからやめて欲しいけど。
「坂柳から聞いたのか? それとも……」
「いや、正真正銘知っている。坂柳と俺は別陣営だし、協力関係では無い」
綾小路はチラッと綾小路の後ろに待機している神室を見る。俺と坂柳が無関係なら、神室は何だという理論は分かる。それについてまで綾小路に語る必要は無い。こいつは敵だからな。
「ホワイトルームの脱落者なら、俺を恨むのは筋違いだ」
「何がホワイトルームだ。そんなものの為に命を投げ出す必要なんて無かった。とっとと閉鎖すれば良い。綾小路、お前がここを退学する程度の実力しか無かったら、あの施設も閉鎖だ。それに何だその表情は。自分は関係ありませんみたいな表情をして、俺がどんな思いでこの人生を生きてきたのか分かってるのか?」
「……下関。趣旨ズレてる」
ついつい綾小路にこれまでの不満をぶち撒けてしまった。こんなことをするつもりは無かったんだけどな。いざ綾小路のことを見てしまうと、抑えが止まらなかった。神室が止めてくれて良かった。止めてくれなかったら、胸ぐらを掴むところだった。
「ごめん神室。それでだ綾小路、俺が言いたいのは俺と直接勝負をして欲しい」
「言っている意味が分からないな。俺に勝負を受ける理由が無い」
だろうな。綾小路はそんなリスクがあるようなことをする人間じゃない。いつだって、自分じゃないと思わせるように裏で行動する。だが、一度断れたぐらいで諦めるわけにはいかない。
「じゃあ、言葉を変えよう。俺と勝負をしろ。断るなら、こっちにも考えがある」
綾小路にとって俺は未知だ。まだまだ俺に対する情報は足りず、はっきりした実力も分からない。その上、俺は綾小路の過去を知っている。受けざるおえない。
「……分かったら受ける。いつ、何で勝負するつもりだ?」
「勝負形式は特別試験だ。どの特別試験になるかはこちらからその試験になったら連絡する」
綾小路は頷いたと思うと、とっとと去って行く。本当に分かっているのかは疑問だけど、これで約束は取り付けた。もし、綾小路破った時用に色々としておかないとな。
「下関。これで良かったの?」
「うん。これで綾小路は迂闊に俺を退学に出来ない。そんなことをすれば、何が起こるか分からないからな。俺が綾小路に勝てるかは微妙だけど」
やるべきことが終わり、満足したので神室とともに家に帰る。これからは綾小路に勝てそうで邪魔が入らなそうな試験がくるのを待つだけだ。さて、楽しみだな。
★ ★ ★
あれから数週間が経って、12月もいいぐらいに過ぎてた頃。結局、まだ何の発表も無く、俺は怠惰な日々を過ごしていた。康平としゃべり、真剣に弓道に取り組み、神室とほとんど毎日を過ごす。こんなにも良い日常を過ごしていいんだろうか。いや、良いんだ、俺の人生はこれからどうなるか分からないだから。
「明日、買い物行かない?」
「買い物? 良いな。冬服も足りないし、偶には外で神室と遊びたいもんな」
「うん、そう……だね」
照れているのか神室は露骨に目を逸らす。神室から言ってきたんだけどな。まぁでも、最近になってこういう表情をよく見れるようになったのはちょっとした嬉しいところだ。
「待ち合わせは何処にするの?」
「教室からそのままで良いんじゃない?」
「そうしよっか」
神室と約束し、いつものように部屋に戻る。ここ最近はいつもいつも神室の部屋にお邪魔してばかりだから、偶には俺の部屋に招きたいな。
★ ★ ★
神室との実質的なデート。それが楽しみで夜はあまり寝れなかった。付き合っているのにあまりデートをしてこずに、放課後は一緒に帰ることばかりしかしてこなかったけれど、今回はそれに加えて本格的なデートだ。そのおかげで授業中も悶々しっぱなしだった。
「対策会議で行くの遅れたね」
「仕方ない。でも、まだ時間はあるから」
放課後にあった葛城派と坂柳派によるこれからに対する対策会議。Aクラスが唯一一つになるといっても過言ではない機会だけど、今回は早く終われとしか思ってなくてほとんど話は聞いてなかった。見てたところ、神室も同じことを思ってたみたいだけど。康平には申し訳ないけど。
「早歩き早くない?」
「ごめん。ちょっと焦っちゃった」
焦って早く歩いてしまった。彼女にそんな事を言わせてしまうなんて彼氏失格だ。神室と歩幅を合わせるようにして、正門近くを通り過ぎようとする。その直前……黒服の。
「下関! 下関! 大丈夫!?」
★ ★ ★
目が覚める。辺りが白く、刺激的な色が無い。ここは保健室なのかな。頭が痛い。
「下関。大丈夫? いきなり倒れて」
「一応大丈夫。まだ頭は痛いけど」
一体何が……いや、ああ、分かった。そうか、そうなんだな。あいつが居たんだ。頭が痛いながらも俺の記憶にはしっかりと残ってる。あいつがここに。
「神室。俺が倒れた時。変な黒服の奴がいただろ?」
「うん。下関が倒れたのに見向きもせずに正門から出て行ったけど」
「そいつが綾小路篤臣。綾小路清隆の父親だ。昔、見た事あるから、よく覚えてる」
何であいつがここに居たかなんて分からない。だけど、遂に俺はこの目で自身の仇を目にしたんだ。手に包丁があったら、気絶さえしなければ俺は、俺は。
「あいつが? 下関の仇?」
「ああ。今すぐにでも殺してやりたかった。父さん達の無念を晴らしたかった。でも……俺は……俺は結局、綾小路と初めて会った時と同じで恐怖で倒れた。俺はまだ怖い」
綾小路に慣れてしまったから、もういけると思っていた。もう、過去のトラウマには恐れることはないと。でも、それ自体が間違いだった。過去はどこまでも俺のことを追ってくる。例え、一つ克服してもまた別の形で襲ってくる。それに多分、あの綾小路篤臣に対するトラウマは綾小路清隆に対するものよりも大きいと思う。
「殺したら駄目なんじゃない? そんな勝ち方はモヤっとするし。あの人を勝ってこそでしょ」
そうだ。俺は神室のこんなところに惹かれたんだ。他人のことをどうでも良いって思ってるのに真理をつくような道を示してくれる彼女が。神室の俺のことを知られた時もそうだった。説得する訳でも止める訳でも無い。ただ俺のことを肯定してくれた。そんな神室が隣に居てくれて良かった。
「そうだよな。殺したら意味がない。あいつの計画を、あいつの立場を追い出してこそだ。俺は改めて誓いたい」
神室の顔を見てしっかりと頷く。神室も俺の顔を見て頷く。また新しい気持ちになれたかもな。でも、それにはここを無事に卒業する必要があるし、綾小路を倒す必要もある。本当にいけるか不安だけど、やるしかないよな。
★ ★ ★
綾小路との対面から数日後、俺はある人間に呼び出されていた。しかも一人でだ。はっきり言って、あまり親しくない人から一人で呼び出されるのは警戒しない方がおかしい。だからこそ、俺は一人で来たが、事前に神室には一日帰って来なければ先生に報告してと話していた。学校内だから、そこまでする必要は無いと思うが、念のためだ。
「それで何の用かな櫛田さん」
「うーん、綾小路くんとの関係が聞きたいんだよね」
櫛田桔梗。干支試験時、何故かCクラスに情報を渡した人間。この時点で匂う要素ばかりなんだが、呼び出し方がメールでこの間の綾小路との密会に関してということで行かざる負えなかった。さて、どこまで櫛田が知っているんだか。
「綾小路くんか。僕はあんまり交流無いんだよね」
「ねぇそんな化かし合い辞めようよ。ちゃんと証拠もあるんだよ?」
櫛田がスマホから出したのは神室が綾小路を連れて特別棟に入るところだった。そんな証拠は俺が綾小路と関係があるという確かな証拠では無かったが……櫛田は俺の次に神室を当たるだろうな。だったら、ここで交渉した方が早いか。
「分かった、分かった。交渉といこうか櫛田。そのために来たんだろ?」
「ありがとう。じゃあ、私のお願い聞いてくれる? 綾小路清隆の退学」
意外だな。まさかここまで櫛田が望んでいるとはな。しかし、これは渡りに船というやつだ。綾小路からの罠の可能性もあるが、ここでDクラスの情報を得られる糸口が掴めたのは大きいな。情報は掴めるだけ掴んでおくか。
「その前に色々と聞かせてくれ。何故龍園では無いんだ? これまでは龍園と組んでいただろ?」
「龍園くんとは干支試験ころから今と同じような取引を持ち掛けたよ? でも、結局は今の今まで失敗ばっかり。だから、切っただけ」
櫛田の本当の性格というのはいまいちはっきりしないが、本性が悪どいということだけは分かる。何故こんなにも性格がこんなになったのか気になるところだが。
「俺が綾小路の友達という線は考えなかったのか? 綾小路がAクラスのスパイという可能性もある」
「友達だったらこんな場所でこそこそ会わないでしょ? 綾小路くんがスパイなのは無い。断言してもいいよ。それに、下関くん、綾小路のこと嫌いでしょ? 私が堀北のことを嫌いな以上に」
中々に頭が回るな。流石にここまで回るなんて思っていなかったが、俺の内面まで見抜いているなんてな。さて、櫛田の本心というのも大体聞けたし、これくらいにしておくか。どうせ、長い取引になりそうだしな。
「取引成立といこうか。綾小路を退学させる為に一緒に頑張ろうか。ただ、協力期間はとりあえずは一年が終わるまでだ」
「それで良いよ。私も早くしたいから」
風は俺の方へ向いている。綾小路を攻略する為の鍵はいくらあっても良い。例え、どんな手段を使っても綾小路に勝てさえすれば良いのだから。
いよいよ一年生が終わるまでもう少しというところまでやってきました。