ようこそ葛城康平に補佐がいる教室へ   作:地支 辰巳

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 なんだかんだ言って7巻もこれで終わりです。


哀愁 ただその時だけを備えて

 

 雪が降り始め、冬休みが近づいてくる季節。数多の生徒達が一喜一憂してくる季節だが、俺は何かきな臭い空気感を一年生全体に感じていた。変な空気感というか、嫌な陰謀が渦巻いているようなそんな気がする。前にも同じことがあったが、その時よりももっと分かりやすい感じではありそうだけど。

 

「──という訳なんだ。何か知らないか?」

 

「うーん、彼女さんが過ごしてる部屋に招待しといてその話なんだ」

 

 神室に聞いたり、康平に聞いたりしたりしても答えが無かったので、俺はさっそく知り合ったばかりの櫛田を自分の部屋に招いていた。櫛田が何度も言っているが、やっぱり彼女がいるのに部屋に女子を招くのは不味いのか。まぁ、ただの取引相手だし良いだろ。

 

「で、どうなんだ? この嫌な空気感の正体は知ってるのか?」

 

「多分知ってるかなー」

 

 櫛田の笑顔は嘘をついてるような笑顔では無かったが、こっちにおねだりをするような顔ではあった。何かしらの見返りをくれってことか。したたかで小悪魔的な女性だよほんと。

 

「分かった。何が欲しいんだ?」

 

「綾小路くんに関する情報があったら欲しいかな。もちろん、信用に足る情報ね」

 

「あーうーん、知っているには知ってるよ。でも、聞いたら絶対に後悔するよ。綾小路に挑むのも恐ろくなるほどに」

 

「あはは、大袈裟じゃない? 綾小路くんは得体の知れない人だけど、そんな事を私が綾小路くんに思うことなんて無いよ」

 

 櫛田は綾小路のことを未だに侮っているようだけど、多分、俺の話すことを信じるならば、そんな事を思えなくなるはずだ。櫛田は学校に入ってからの綾小路しか知らないからな。

 

「櫛田。綾小路がこの学校に入るまでのこと知ってるか?」

 

「知らないよ。綾小路がこの学校に入るまでことは。自分のことはあまり語りたがらないし、語っても冗談みたいに言うばっかり。下関くんは知ってるの?」

 

「ああ、知ってる。綾小路の生まれも育ちもな。俺も冗談みたいなことを言うが、これを信じるも信じないかは櫛田次第だ。俺は真実しか言わない」

 

「面白いこと言うね下関くん。良いよ、話してよ」

 

 これから綾小路と戦っている中でも櫛田が綾小路の過去を知ってると武器にはなるだろう。まぁ、それが原因で綾小路から狙われても俺は文句は受け付けないがな。

 そして、俺は語る。綾小路の生まれた場所。ホワイトルームのこと、綾小路のその能力の起源についてまで話す。聞いている時の櫛田の顔は信じられないというか、冗談みたいでしょみたいな顔だったが、コミュニケーション能力の優れている櫛田はそれでも俺に話を続けさせるほどには聞き上手だった。

 

「──これで俺の知ってる綾小路は全部だ。何か言いたいことはあるか?」

 

「はっきり言えば信じられないかな。でも、本当……何だよね?」

 

「全部本当だ。それにこの事をあまり触れ回ったり、匂わせたりしない方が良い。櫛田の身が危険だ」

 

 櫛田も事態の重さというものを理解し直したのか、少しこちらを睨むような仕草をしたが、直ぐに嬉しそうな顔へと変わった。綾小路の秘密のようなものを聞いて何を嬉しくなったのか知らないが、櫛田も櫛田も変わった人間ってことだろうな。

 

「あ、そうだ。そう言えば取引だったよね。下関くんが感じてる変な雰囲気は多分龍園くんがDクラスの首謀者Xを探してることだと思うよ? 目星もつけてるみたいだし、私にも軽く聞いてきたから」

 

「そういうことだったのか」

 

 これまでのDクラスはDクラスとは思えないほどの飛躍的な躍進を遂げている。龍園のように何か裏があると疑わない方が無理がある。十中八九それは綾小路だとは思うが、それを察してる人はDクラスの中でも少ないってことだろうから。

 

「どういう結末になると思う?」

 

「どんな結末になっても良いかな。綾小路くんも龍園くんが勝っても私に損なんてないからね」

 

 今の櫛田の笑みはいつも見るものよりも何倍悪女のように見えた。でも、これで良い。周りの奴らに媚びへつらって生き残ろうとする奴よりも自分の目的だけを達成する為にどんな目的でも使おうとする。そんな人間の方が何倍も信用する気が起こる。

 

 

★ ★ ★

 

 

 数日ほどが経って、その日急に龍園がリーダーの座を降りたという情報が入ってきた。はっきり言って信じられないことだったが、Cクラスを覗いたり、Cクラスの人間に聞いてみると事実の可能性も高そうだった。流れは龍園が石崎達などに下剋上されたということらしく、現在は本を読みながら教室の端っこにいるらしい。

 

「それで、どうして俺が呼ばれたんですか?」

 

「一年の情報は出来るだけ仕入れたくてな。龍園は見どころがあるやつだと思ってた。何があった?」

 

 その日の内に何故か俺は南雲先輩に呼び出されていた。あれだけ派手に動いていたんだ。南雲先輩も関心はあるんだろう。俺も事前に何も知らなかったのなら、龍園の罠という可能性も疑う。だが、龍園はDクラスの策士X、綾小路を探していた。何かあったというのが妥当だろう。

 

「南雲先輩は何か掴んでいる情報はあるんですか?」

 

「ああ。実は先日、屋上のカメラが急に見えなくなったらしい。イタズラの可能性もあるが、龍園のこれだ。あいつの仕業だろ」

 

 南雲先輩から何枚もの写真が渡される。その写真はカメラが見えなくなる前後の物で確かに見えなくなる直前に誰かの髪が見えた。この色からして、伊吹か? というか、南雲先輩はこんな写真までも入手出来るのか。どうやったかは知らないけれど、この人は末恐ろしいな。

 

「確かにこの写真を見る限り、龍園の可能性は高そうですね」

 

「で、どうなんだ。何か知っているのか?」

 

 南雲先輩にどこまで言うか迷っていたけれど、圧をかけるように睨みつけてくる。ここまで龍園に対して執着してたのかな。いや、何かしらの見当がついてるってことか。南雲先輩に近づく為に情報は出来るだけ出すことにするか。

 

「どうなんだ?」

 

「龍園は密かにDクラスの躍進の原因と言える策士Xを探していました。それは龍園がトップを降りてから、ピタリと止みました。それが原因かなって」

 

 南雲先輩は初めにクスッと笑ったかと思うと、そのまま笑みを堪えることが出来ないのか、上品ながらも最上級に笑っていると誰もが感じることが出来る笑いをした。

 

「そうか、やっぱりか!! それで……策士Xの正体は大体分かってるんだろ?」

 

 さぁここからが問題だ。綾小路のことを南雲先輩に言うかどうかだ。南雲先輩に言えば得られる信用という名の協力というのもあるとは思うが、それによって生じるデメリットも多少はある。例えば、俺の過去を知られるきっかけを与えてしまうかもしれない。

 

「綾小路か高円寺かなと思ってます。龍園もそう睨んでみたいで、二人に接触を図ってました。それ以降の動向は分かって無いです」

 

 綾小路。その名前を聞いた途端、南雲先輩の目が変わった。まるで、綾小路の名前が出ることを分かっていた。いや、期待してならなかったようだった。何でこんなにも南雲先輩が綾小路のことを気にするんだろうか。綾小路は表向きにはただの一般生徒なはずなのにな。

 

「南雲先輩。何を調べていらっしゃるんですか? 俺に龍園のことなんかを聞いてきて。一体、何が狙いなんですか?」

 

 今の俺は多分、自分でも驚くほど低い声を出していると思う。自分の目的が邪魔されそうになってるって本能で感じてしまっているから。だけど、まぁ南雲先輩の考えを全く読めないって訳では無い。

 

「お前、綾小路に触れられるのを嫌がってるだろ。猛烈なコンプレックスを綾小路に感じてるってとこか?」

 

「当たらずも遠からずってとこです。でも、それは南雲先輩も同じですよね。堀北先輩と体育祭で対決し、興味を持たれてる綾小路に変な興味が湧いてるってこと」

 

 俺の言葉にも動揺というものを見せること無く、笑って飛ばす南雲先輩。さて、いつまで腹の探り合いを続けようかな。あんまり続けると、色々と面倒だしな。

 

「まぁいい。綾小路のことについて分かったら連絡しろ。上手くいけば前の右腕の話、考えてやるよ」

 

 俺は指令を受けると、そのまま生徒会室を後にした。南雲先輩はやっぱり難しい人だな。でも、俺との関係値は少しずつ上がっている気もする。この間言った右腕のことも覚えておいてくれたからな。

 

 

★ ★ ★

 

 

 次の日の放課後、下校していく龍園の前に立ち塞がる。情報がもらえるかなんて、そんな都合の良いことは考えてない。ただ綾小路に負けた龍園がどんな思いを持っているのか気になっただけだ。

 

「無視するなよ。気分はどうだ?」

 

 俺のことに気づいた龍園だったけど、俺に興味が無いように何か声をかけることもなく横を過ぎ去っていく。前まではこんな風に立っていても煽り文句を一つを言ってきたんだけどな、ここまで変わってるなんて。

 

「俺に敵うな。お前にはやることがあるだろ」

 

「そんな事は無い。綾小路に負けたお前を見るのも重要な行いだ」

 

 俺から出た綾小路という名前に龍園の足は止まる。やっぱり綾小路だったか。だが、一体何をされたんだ。まさか、綾小路に直接殴られたのか。確かにそれなら、顔についた包帯なんかも説明がつく。学校内で荒々しいにもほどがあるだろ。

 

「俺は下剋上された負け犬だ。俺と戦わなくて良かったな下関。せいぜい、負けないようにな」

 

 龍園の言葉はその全てが前よりも圧倒的に弱々しかった。これは本格的に龍園という人間が終わったな。でも……あれが綾小路に負けたものの末路か。他人事なんて思えないな。俺もああなるかもしれない。いや、あれ以上にひどくなるだろうな。俺は自分で言うのもなんだが、綾小路に対する恨みや執着は龍園より圧倒的に高い。廃人にもなっちゃうかもな。

 

「龍園、俺はお前のようにはならないぞ。俺は綾小路に勝ってみせる」

 

「俺には関係無いな」

 

 龍園は真っ直ぐに寮へと帰っていく。その姿はひどくみすぼらしかったように見えた。俺は神室を迎えに行って、その後にゆっくりと歩きながら寮へと戻る。俺は龍園とは違う、綾小路に勝ってみせる。




 着々と綾小路と下関、共に準備が整っていってます
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