ようこそ葛城康平に補佐がいる教室へ   作:地支 辰巳

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今回は青春しかしてません


第7.5巻
青春 一度しか無いただ一瞬の輝き


 

 12月24日。世間では皆がみな浮き足だし、理性というタガが外れると言われている日。この閉鎖的で特殊な空間とも言えるこの高校でもそれは変わらず、学年問わずあらゆる生徒がデートと称して男女で出かけていたり、男子同士、女子同士で遊んでいたりした。そんな中、俺も例外に漏れず、Aクラスの男子ほとんどと遊びに来ていた。

 

「おい、下関。お前神室とは良いのかよー!」

 

「うん。神室とは25日に遊ぶ約束をしたから、今日は男子同士で遊ぼうかなって」

 

「彼女さんが可哀想だよほんと」

 

 本当に他の奴に言われている通りで神室に申し訳なくなる。クリスマスという行事にこの人生で縁が何も無く、クリスマスプレゼントという存在すら忘れていた俺は彼氏失格だ。しかも、25日に誘ったのは昨日。うーん、このダメ具合は治さなきゃな。

 

「涼禅も気を遣ったということだろう。すまないな」

 

「いや、そんなことないよ。俺はただその場その場で行動してるだけだから」

 

 康平の慰めの言葉が逆に心にくる。俺はそこまで大層なことは考えられない。他のことに頭がいっぱいなだけだ。もう少しその辺もちゃんとしないと、康平や神室の優しさだけに甘える訳にはいかないな。

 

「よし、今日は楽しむか」

 

「そうだね。めいいっぱい楽しもうか」

 

 Aクラス。派閥争いばかりで仲良くするのに変な壁があるクラス。そんなクラスの中にも派閥に関わらず友達は出来るし、ある程度は仲良く出来る。今日ぐらいはいつもと違って、その関係性で派閥も関係なく楽しもうと康平と橋本でクリスマスの遊びを計画してくれた。その結果、集まったのはAクラスの男子ほぼ全員。来れなかったのは彼女がいるような人だけ。そして、彼女がいて来ているのも俺だけだ。

 

「じゃあ、ボウリングでも行くか」

 

 大人数でボウリング。俺にはそんな経験が無いせいで珍しいことだと思っていたけれど、都会などではそんなことも無いらしくて、ボーリング場では男子同士、女子同士の集団ばかりで、窮屈ささえ感じるほどの空間だった。

 

「さっすが康平!! またストライクだ!」

 

「偶々だ。だが、ボウリングは腕が疲れるな。もう、動かせないぐらいだぞ」

 

 康平が活躍していたボウリングは3ゲームで終え、その後はカラオケに行くことになった。カラオケでは一つの部屋に全員入るのは非効率ということで2部屋に分かれたけど、俺が葛城派以外の人と親交がそこまで多く無かった為か、こっちの部屋にはそこまで知り合いは居なかった。

 

「おいおい、どうしたんだ。そんな顔をして」

 

「なんでもないさ。ただ、あまりカラオケというものに馴染みが無くて」

 

 そこまで親しくない人の前で歌声を披露する。カラオケを人生で一度か二度しかやったことが無い俺にはあまりにもハードルが高かった。こんなことだったら幼い頃にカラオケを経験しておくんだった。実用的な習い事しか幼い頃はしてこなかったからな。

 

「緊張せず歌えよ。多少下手でも、下関は顔が良いんだ。誰も文句は言わないさ」

 

 橋本の慰めとも激励とも違うような言葉をもらいつつ、俺はマイクを握る。よし、せめて平均点を出さないとな。

 

「今日は楽しかったよ。偶にはこんな風なのも悪く無いね」

 

「そうだな。派閥の垣根を超えて遊び合う。今しか出来ないかもしれないからな」

 

「まっ、俺は下関の歌声が聞けただけで満足だったけどな」

 

 結局、俺の歌声は良い声だけど、リズム感が無いという評価をもらった。そのことをお開きする時まで言うのは本当に橋本は性格が悪い。でも、康平の言う通り、派閥の人数がお互い丁度いいくらいの今の時期にしか出来ないことだ。企画をしてくれてことだけは感謝したい。その部分だけは。

 

 

★ ★ ★

 

 

 25日。今日はいよいよ神室とのデートだ。そのせいか分からないけれど、朝から緊張でいつも以上に朝の準備に時間がかかってしまった。服を選ぶのもいつもの何倍も時間がかかるし、俺は何を意識してるんだ。いつも通りいけば良いんだ。いつも通りいけば。いつもデートはしてるじゃないか。

 

「よし、行くか」

 

 神妙な顔になっている自分を鏡で眺め、俺は家を出る。待ち合わせの時間まではあと30分あって、ここからそこまでも10分もかからない。間に合う。

 無事につく事が出来た待ち合わせ場所には他にも様々なカップルが待ち合わせをしているのか、多種多様な服装をした男女がまだらに居た。でも、俺は彼女以外の人間にはほとんど意識がいかなかった。いつものクール感溢れる服装では無く、ふわっとした服装に身を包み、抱擁感を全身から溢れさせている彼女、神室にしか。

 

「おはよう、ま、待った?」

 

「待ってない。早く行こう」

 

 真正面で目と目を合わせながら、神室とあいさつしたんだけど、お互い周りの環境とか柄にも無く緊張しているのか、会話が全然出てこなかった。そのまま目的地に向かって歩き出したんだけど、その道中でも何を話せばいいか分からなかった。何かネットで見てくるべきだったな。

 

「ねぇ……今日の格好、どう? 割と迷ったんだけど」

 

「うん、凄く似合っている。心が穏やかになる感じがして」

 

「……ありがとう」

 

 こういうのって男が先に言うものなのに、何で思いつかなかったんだ。こんなにも言うチャンスがあったのに。それに、コメントも感覚で言ってしまって、伝わるかよく分からない言葉になってしまったし。序盤から失敗ばかりだな。

 

 

★ ★ ★

 

 

 そんな感じで2人ともがど緊張している中でも時間は進んで行き、モールへと着く。今回の目的はあんまり考えていなかったけれど、夜ご飯の場所と初めにやりたいことだけは考えてある。まだ神室には行ってないけど。

 

「……ここって」

 

「前に来たことあっただろ?」

 

 俺と神室が知り合って少ししか経っていない時に来たダーツをする場所。何故こんな場所かなんて、はっきり言えば、他の場所がいっぱい過ぎて場所が無かっただけだ。

 

「……ごめん、映画館とかいっぱいで。他の場所も多くて、ここしか無いなって」

 

「……別に良い。違う意味でロマンチックだし」

 

 神室は残念そうな顔をしなかった。ただ、ただ少し笑っただけだった。こんな日にダーツをする人なんてほとんど居ないのか、店員さんと俺たちだけだった。

 

「やっぱり下関は弱い。いつもの凄さはどこ行ったの?」

 

「神室がダーツに似合い過ぎてるだけだよ。その顔も立ち姿も、実力も。ダーツプレイヤーを目指すのはどう?」

 

「そこまでの実力じゃない。クリケットとかはほとんどやらないし」

 

 結局、ダーツは俺が負け越して終わった。クリスマスとは思えないほど、静かで2人だけで落ち着けて、なんだかんだ言って、他の場所じゃ味わえない嗜好の時間だった。

 

「次はどこ行くの?」

 

「少し早いけれど、夜ご飯を予約してる。クリスマスだし、当日じゃ無理かと思って」

 

「ありがとう。負担ばっかりかけて」

 

 場所をモールへと移して、目的の場所までゆっくりと行く。今度はさっきと違って緊張も無くなって、会話も充分に弾んでいた。周りのカップル達と比べればまだまだ少ないけれど。

 

「下関じゃないか。やっぱり今日は彼女と過ごすのか」

 

「……南雲先輩。すみません、これだけは譲れなかったので」

 

「いや、良いさ。女を優先するのは漢として当然だからな」

 

 モールで出会ったのは南雲先輩率いる生徒会の人たち。主に二年の人ばかりだけど、中には一之瀬も居た。実は前日、俺も誘われていたのだが、神室との用事を優先して断っていた。ちょっと気まずいな。こんなことなら、何処に行くのか聞いとくべきだった。

 

「下関くん。楽しんでね! 私たちはあっちだから」

 

「ああ、ありがとう。一之瀬も楽しんでこいよ」

 

 一之瀬が上手く南雲先輩達を目的地へと意識を誘導して、俺たちから遠ざけてくれた。そのまま自然と別れられたので、本当に一之瀬には感謝しかないな。気が回る良い子だ。

 

「一之瀬のこと、気になる?」

 

「気になるけど、神室ほどじゃない」

 

「あっ……そう」

 

 偶にくる神室からのからかいも気取ったセリフで返す。そして、神室が少し照れる。そのいつもの流れをしつつも予約をしていた店へと着く。店はイタリアン。今日ぐらいはオシャレにいかないとな。

 

「おいしい。下関はセンスがある」

 

「本当においしいな。こんな店までこの学校の中で食べれるなんてな」

 

「うん、疲れる社会なんかに出なくても良い。案外、ここで過ごしても良いかも」

 

 どちらと言えば、明るげに言葉を放っているのに神室の表情はちょっとだけ寂しげで儚かった。俺には今の神室がどんな心でその面持ちをしているかは全部は分からない。でも、一生かけて分かっていけたい。

 

「俺は自身の目的を達成出来るなら……神室がいるなら何処でも良い」

 

「あり……がとう。絶対に達成しよう」

 

「ああ」

 

 

★ ★ ★

 

 

 夕暮れ時になり、辺りの人やカップルも帰り始めている中、俺と神室も寮への帰り道を歩いていた。偶に吹いてくる風が冷たいけれど、下がり始めている夕日が当たって暖かくもあった。

 

「少しだけ座らない?」

 

「うん、あそこのベンチにしよっか」

 

 黄昏という表現が一番という夕日の光を浴びながら、俺と神室は何をするでもなく、ベンチで隣り合う。神室が何を考えているかなんて分からないけれど、それで構わない。そんなことを今気にするのは野暮だから。

 

「……して欲しいこと……あるんだけど」

 

「なにをすれば良い?」

 

 その答えを聞くために神室の方を向き直る。夕日に照らされ、いつも以上に美しく俺の瞳に映った彼女は目をつぶっていた。ただ何かを待つように。その答えを求めるような無粋なことは俺には出来ない。ただ自分も目を閉じて、神室の唇に触れる。

 

「ん……ぁ……っ」

 

 触れるだけ。ただ触れるだけだったのにこれまで感じたことの無い幸福感と温かみが胸の辺りから広がっていく。久しぶりに感じた人の温かみ。目を開けた神室も温かみに満ちた顔をしていた。

 

「もう一度」

 

「うん。もう一度」

 

 もう一度、神室と唇を合わせる。それは人生で二度目とは思えないほど懐かしく、甘味な味わいだった。さっきよりも長く合わせようとしたけれど、寮への帰り道に綾小路と軽井沢が歩いている光景が目に映る。だけど、そんなものは今は関係無い。今の俺にとっての世界は神室だけだから。

 

「キスって好きかもしれない」

 

「俺も好きかもしれない。ずっとしていたい」

 

 その後、寮へ戻る時にはもうとっくに日は暮れて真っ暗だった。神室と何処で分かれたかも分からないほどに心はホワホワしていた。これが人を愛するってことなのかな。これほどまで人を離したくないって思ったことはない……俺は神室を離したくない。




自分はこういう描写を初めて書いたので、下手だったらすみません
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