責任者となった俺は小グループのみんなと共に部屋へと向かう。部屋の中は小綺麗な旅館という印象だったけれど、必要以外のものは無く、スマホも盗られている今の状況ではこの部屋で暇を潰すのは苦労しそうだな。
「それじゃあ、ベッドの位置でも決めていこうか」
「俺は別に何処でも良い。他の人から決めていってくれ」
相変わらず人間関係に冷めている節のある明人とそもそも興味が無さそうな龍園を除いた面子でジャンケンをする。言い出しっぺの俺が一番に勝ったので、少し申し訳なさが目立つけど、遠慮なく二段ベッドの上を取らせてもらう。その後はまぁぼちぼちの早さで決まっていき、俺の下の段は龍園になった。こいつは本当にこの間までと全然違うな。
ほとんど一年振りとも言える学校の敷地外での食事。女子も交え、500人ぐらいはいるらしい食堂。女子と会える可能性があるのはここしかなく、他に交流する場所はあまりないらしい。だからといって、神室を探しに行くほどの度胸のない俺はご飯を食べながら、神室の姿を目で探したりしていた。
「そんなに都合よくいるわけないか」
「そんなこと無いと思うけど?」
後ろから聞こえる声に俺は反射的に振り向く。そこにはバスの中で分かれたばかりだが、懐かしいというか、顔が見たかった神室がそこには居た。でも、こんな感じに会えるとは思っていなかったから、気の良い言葉は出なかった。
「あ、会えて嬉しいよ神室。新しく組んだグループはどうだった?」
「女子は面倒だから、時間はかかった。内容はぼちぼちってとこ」
「大変そうだな。俺は龍園を受け入れた以外はそこまで問題は無かったよ」
「そっちも人のことを言えないじゃん」
この時間はご飯を食べる時間。だからこそ、俺と神室がいられる時間はほとんど無い。そんなことを分かっているから、俺と神室は残り時間を把握しながら、残りの時間をただただ楽しく過ごしていた。
★ ★ ★
6時に起床時間だとは知っていた。だけど、こんなにも明るい音楽が鳴らされながら起こされるのはちょっと不愉快だ。自分自身、6時に起きることは辛くは無いんだけど、この音楽は変えてほしいもんだな。
朝の支度を終え、呼び出された部屋まで向かう。その部屋には2年、3年の先輩方も居て、全員で40人ぐらいが一つの部屋に押し込められていた。そこに新たに来た見知らぬ先生から説明を受け、俺たちはまたも部屋を移動していく。
「窮屈な生活になるんだろうな」
まるでお寺にあるような風情あふれた坐禅堂と呼ばらる部屋。その部屋で生徒たちはありがたい説明を受けながら座禅をしていた。中には座禅を組めず、苦労をしている人たちもいたけれど、俺は問題無い。俺の人生が変わったあの時からこんな風に集中することは多いからな。
その後はそうじの時間という社会人になったらやらないであろうものをやらされて、朝食の時間となった。
「まさか、こんな面倒くさいになるなんてな」
「そうだな。無人島とほとんど変わらないな」
またも説明されたのは次回から朝食を自分たちで作らなきゃいけないということだった。やり方は説明されて、自分たちで頑張れってことだけど、一人でもサボったりすれば、朝食が無い可能性もありうる。この試験で求められているのはどんな人物とでも交流出来るそういう能力なのか?
「おい、下関。一年から順番に明日から回していくってことでいいか?」
「分かりました。それで頑張らさせてもらいます」
南雲先輩からの提案に素早く俺が了承の旨を返事する。今の学校内で一番の権力を持っている人からの提案なんて断れる訳が無い。それにこういうものは後輩からやるもんだと、部活活動から学んでいるからな、そこまで苦痛でも無い。
「これじゃあ、起きるのは朝練の時と変わりないかもな」
「下関も一緒だし、よりそう感じるな」
今日は学校に用意された質素でありながら、一定の美味しさのある朝食を食べつつ、龍園の方を見る。大丈夫だよな? 特に言っていないが、理解しているよな龍園のことだし。龍園という地雷のようで地雷ではない人間。引き取ったけれど、どう関わっていくかは本当に難しいな。
★ ★ ★
大グループでの授業やグラウンドでの走り込みを終えて、1日の終わりは座禅で締めくくりがされた。流石に、朝やっていた座禅よりも疲れていた為か、全然集中出来なかった。無人島の時にも思っていたけれど、本当にこの学校は容赦が無いよな。来年も再来年もこんな特別試験があるとは思うと、楽しみがある反面、生き抜けるかという懸念も無くはない。
夕食を食べた後、部屋に帰ろうとする通路で人だかりが出来ていた。興味本位と少しでも何かしらの情報を得ようと近づくと、Dクラスの山内? だっけそいつが坂柳を倒してしまって、引っ張り起こしているところだった。こいつが生き残るのは無理だな。坂柳は根深い人間だからな、こんなことをしようものなら、退学させられるぞ。
「楽しみではあるな」
そんな不謹慎なことを言いつつも様子を見守ると、何も大きなことが起こらなかったことから、周りの人間は去って行く。そんな中ですっと人混みから出た綾小路が坂柳に近づいて行く。はっきり言えば、綾小路とは関わりたく無かったので、二人に目をつけられる前に俺も人混みと共に遠ざかって行く。
「あの二人に目をつけられて生き残れる気がしないな」
山内が去っていくのを獰猛な鳥のような目で見ていた坂柳。そんな山内の行く末に同情をしつつも、自分がその対象になった時にどうするかを考える。やっぱり、坂柳と綾小路は一気に屠るべきか? いや、それは至難の業だな。あの二人を一気に倒すのは無理だ。だったら、どちらか一方からだよな。そして、倒すには綾小路よりも坂柳の方が先の方が良い。俺の心的には。
★ ★ ★
その日の夜、俺は呼び出されて2年の先輩たちが寝泊まりをしている部屋に来ていた。もちろん、好き好んでここに来る訳も無く、南雲先輩に呼び出されたからだった。南雲先輩の右腕になるとは言ったとは言え、南雲先輩は堀北先輩の件もあり、今回の試験では関わりを多く持ちたく無いんだけどな。そんなことを言いながら、南雲先輩と大グループを選んだのは俺だけど。
「すみません、南雲先輩いますか?」
「いるぞ。入って来い」
この感じは生徒会室を思い出すな。部屋の構造は俺たちの部屋と変わりないのにその感じをこの部屋から感じさせる。南雲先輩のそういうことを思い起こさせる迫力というか、そういった部分は真似してみたいな。
「それで何の様ですか南雲先輩」
「今回のお前の戦略を聞きたいと思ってな」
この場には南雲先輩以外は居ない。さて、どういう意図で聞いてるんだ? 綾小路に対する戦略なのか、全体的なことに対する戦略なのか。そうだな、とりあえずは全体のことを言うか。南雲先輩が何処まで綾小路に興味を持っているかも未知数だからな。もし、綾小路を退学させるまでも思っているのなら、俺は馬鹿正直に戦略を話せない。一年生の内に決着を着ける為にそろそろ色々考えていきたい。
「今回の試験は情報収集とかに徹しようと思ってます。2年、3年の情報やこれからの試験に役立てるために」
「無難な戦略だな。だが、2年、3年の情報は探るな。俺が提供してやる」
「それはありがたいですけど、何故ですか? 南雲先輩の手間がかかるだけだと思うんですけど」
南雲先輩の眼光は相変わらず強かった。何なんだよ一体。南雲先輩は何がやりたいんだ? 南雲先輩は無言のまま立ち上がり、俺の目の前まで来る。その距離は畏怖を感じるには充分だった。
「下関。お前が綾小路に何かしらの思いがあることを大体予想がつく。だかな、俺も綾小路には可能性を感じているんだ。堀北先輩が入れ込むほどの何かをな」
南雲先輩から並々ならぬ感情を感じる。俺とは違う。だけど、大きな感情を。何でこんな感情を南雲先輩が綾小路に抱いているんだ。まさか、挑むつもりなのか?
「南雲先輩。俺からいずれ綾小路に関する全ての情報をお渡しします。でも、それは俺が勝って綾小路が退学した時か綾小路に負けて俺が退学した時です。その時になるまでは綾小路に手を出させないで下さい」
「……お前がその勝負を挑む保証はあるのか? いつまでもお前が勝負をしなければ、この取引は始まりすらしない」
「おっしゃる通りです。でも、それは俺の目を見て判断して下さい。俺が綾小路に勝負を挑まないと思いますか?」
多分、ここで南雲先輩を説得出来なければ、お互いにお互いを気にしながら、綾小路に挑むことになる。それだけは駄目だ。そんな状態で綾小路には絶対に勝てない。でも、俺が南雲先輩を説得出来る材料はこれ以上思いつかない。
「いいぜ。お前が綾小路に勝ったら右腕にしてやる。お前が綾小路に負ければ情報が手に入ることだしな」
「それで構いません。用はそれだけで良いですか?」
「ああ、それだけだ。それと、2年、3年の情報は心配するな。また渡してやる。お前は1年の情報を得ることに専念しろ」
「そうさせてもらいます」
南雲先輩のことはこれで片付いたと思ってもいいのかな。これから、坂柳を蹴落とすとしても協力者が多い方が良いから、南雲先輩から協力を得られるようになれたのは大きいかも。まだまだ南雲先輩のことは分からないけれど。
★ ★ ★
林間学校が始まってから早数日。今日も早朝から起きた俺たちは朝ごはんの準備をする。初日から懸念していた龍園も文句も言わず、他のみんなと同じように行動している。龍園ならもっと、なんかこう、違うイメージがあったんだけどな。
「龍園。気分はどうだ?」
龍園は特に何か言うことは無く、問題無いように手を振るだけだった。本当にやりにくいな。こんな雰囲気の龍園から綾小路を倒すヒントが本当に得られるか心配だな。それだったら、危険なことを承知で綾小路と同グループにした方が良かったか?
「涼禅。無理して喋ることはないぞ。普通にしてれば良いんだ」
「そうだな。龍園だけ特別扱いする訳にはいかないな」
そうだ。龍園だけがグループのメンバーじゃない。BクラスやCクラス、Dクラスのメンバーだって同じ寝泊まりするメンバーとしているんだ。もっとその辺を意識しないとな。俺が責任者だから。
原作でも色々動きはありますが、この二次創作は二次創作の道を進みます。
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