ようこそ葛城康平に補佐がいる教室へ   作:地支 辰巳

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対抗策 思い出は短く、現実は長く

 

 バレンタインの1日前、俺にある人物からメッセージが届いた。会って一度話したいと。その人物が言うには俺が1人でしか会うことは出来ず、真澄を呼ぶことも名指しで駄目と言われた。まぁ、そこまで言うんだったら仕方ないので、真澄が部屋にいない時間にその人物を俺を部屋へと呼んだ。

 

「恋人でも無いのに上がり込んじゃってごめんね下関くん」

 

「いや、それだけの用があるなら、仕方ないよ櫛田さん」

 

 俺の部屋に来た人物、それはDクラスの中で綾小路の秘密を共有した櫛田桔梗。彼女は平日で暗くなってきたにも関わらず、制服で俺の部屋に来ており、今の今まで誰かと遊んでいたであろうことは想像に固くなかった。

 

「飲み物は何が良いかな?」

 

「うーん、お茶にしよっかな。甘いものばっかり食べ過ぎちゃって」

 

「了解だ」

 

 櫛田の前にお茶パックにお湯を注いだ普通のお茶を出す。そのお茶を飲んだり、息を吹きかける動作だけでも流石、モテるなという可愛さが出ていたが、俺には真澄がいる。そんな煩悩ほとんど出ることはない。

 

「それで……何のようで来たんだ? もしかして……綾小路関係か?」

 

「うん……その通りだよ。綾小路くんがこの事件に動き出したから、報告も兼ねてかな。聞きたいだろうって思って」

 

 そうか綾小路が動き出したのか。うん? だとしたら、今回の事件の初めには綾小路が関わっていなかったのか。一応櫛田を使って俺に対してブラフを張りにきた可能性もあるが、その可能性を追っていたらキリが無いな。とりあえずは櫛田の話を聞いてみてからにするか。

 

「それで綾小路はこの事件にどう動いているんだ?」

 

「私が把握してる誰かの秘密を流すらしいよ? それを流して学校側の危機感を煽るんだって」

 

 ……確かにその手があった。この問題は坂柳がやったと思っている人物がほとんどで、その後に同じようなことがあれば、坂柳を疑うのが道理。これは名案だな。それには真実も混ぜなければ効果は薄いが、それも櫛田という誰も彼もの秘密を知っている人材がいれば問題ない。俺でも思いつきさえすれば、実行出来た案だった……綾小路に負けてばかりだな俺は。

 

「……それはいつ頃広まる予定なんだ?」

 

「うーん、数日の内にじゃないかな?」

 

「……綾小路は何のためにこれをやるんだ? 綾小路がこんなことをするメリットなんてないだろ」

 

「私にも分からないだよね。そこが不気味だけど、深くは聞けないよ」

 

 俺や神崎がやるならともかく、綾小路にこれをやるメリットは無い。真澄と綾小路の接点なんて俺を介してのみだ。だったら、一之瀬か? 一之瀬とはDクラスとBクラスの仲の良さからくる友情があるが、綾小路にそこまで人を思う心があるは思えないな。一番ありそうなのは一之瀬か坂柳を利用することか。

 

「綾小路のことを考えても分からないことばかりだ。辞めよう」

 

「それより俺にも策が思いついた。協力してくれ櫛田。お前の将来の為になるはずだ」

 

 綾小路のした策を聞いて思いついた自身の策を櫛田に教えて、協力を取り付ける。もちろん、櫛田が誰かに情報を流す可能性もゼロじゃないが、それでもやるべき策だ。

 

「今日はありがとう下関くん! すごく為になったよ」

 

「ああ、俺もだ」

 

「あ、そうだ。これ、明後日のやつね。友チョコだから、勘違いしちゃ駄目だよー」

 

 櫛田からチョコが投げ渡される。2日前ともあって今年初めてのチョコだが、シンプルに嬉しいな。今年は何個もらえるんだろう。いや、俺は真澄からもらえればいいや。それだけで嬉しい。

 

 

★ ★ ★

 

 

 そして、バレンタイン当日。今日は珍しく真澄から先に登校しておいてとメッセージが来たので、1人で登校していた。だが、バレンタインのチョコをいっぱい持っている平田などを見ると、真澄から期待しない訳にはいかないな。そんなこともあって、今日は学生全員が浮き足だっているように感じたけれど、俺がチョコレートをもらうことは無かった。上級生と付き合っているのにも関わらず司城はもらってるのに不公平だな。やっぱイケメンは違うな。

 

「涼禅。帰ろう」

 

「ああ、帰ろっか」

 

 放課後。葛城派の男子たちの中でチョコの話をしながら談笑してると、真澄から下校デートのお誘いを受けた。それに対してのやっかみを受けながらもチョコ談笑から離れて真澄と共に学校から寮への道を歩いて行く。

 

「かぁー! 下関のやつ羨ましいぜ全くよ!」

 

「だが、神室のやつも強いな。こんなにも噂が広まっているのに平然としているなんて」

 

「そうすっね! 一之瀬のやつとは違いますね!!」

 

「まぁ……そうだな」

 

 

★ ★ ★

 

 

 真澄との帰り道、俺はそわそわを隠すことが出来ない上にチラチラと真澄の方を見てしまっていた。俺らしく無いのは分かっているけれど、これが正常な男子高校生本来の姿と言えるので許して欲しい。

 

「わかりやす過ぎ。それくらい隠せば?」

 

「無理言うなよ。バレンタインだから、期待してた」

 

「はぁ、はい。手作りなんて初めてだから、期待しないで」

 

 カバンから取り出した小さな箱をもらう。これまでの人生でも何個かバレンタインにお菓子をもらったことはあったけれど、こんなにも自然に嬉しいなって思ったことは無かった。可愛い箱に包まれたそれを開けるのさえ、俺は緊張してしまったけれど、真澄に少し急かされながら、箱を開けた。

 

「おお! 凄く美味しそうだな」

 

「なら、良かったけど」

 

「でも、思い出としてずっと残しておきたいな」

 

「馬鹿なこと言ってないで、早く食べて」

 

 真澄に見られながら、その黒一色で染められた美しいまでとも言えるチョコを名残りおしさを感じつつも一口で喉の中に溶けていく。見た目はどちらと言えば大人っぽい味なんだろうと予想していたけれど、思ったよりも甘さが効いていて食べやすいもので、高校生の俺でも美味しかったなと余韻が残るような良いチョコだった。

 

「ありがとう。すっごく美味しかった」

 

「これで今日の用終わったから。何かある?」

 

 チョコの話をこれ以上続けたくないのか、話を変えてくる真澄。そういうば……昨日真澄から坂柳とは縁を切ったって連絡があったな。それについて聞くか。話が大きく変わってしまうけど。

 

「そういえば……昨日の連絡はそのままの意味?」

 

「そのまま。坂柳と絶縁しただけだから」

 

 真澄はこれ以上話したくは無いのか、他の会話をするように表情で俺に促してくる。なんで、いきなり坂柳と絶縁したのか。多分、あれ関連のことだろうとは思うけども、いや、真澄の判断だ。俺がずかずかと聞いていい内容じゃない。

 

「今日は泊まっていきなよ。チョコのお返しに夜ご飯作るからさ」

 

「元々そのつもりだから」

 

 冗談ぽく言って少しだけ笑って見せる真澄の姿は誰にも見せたくないほどに美しかった。真澄が坂柳と縁を切ったことで、真澄が自主的に話すのは俺ぐらいになった。その事実に俺自身の気持ちの悪い独占欲が満たされたのは自覚したくなかった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 バレンタインの翌日。学校に真澄と登校していた俺の元に神崎からメッセージが届いた。内容は簡素なもので、放課後に時間を取ってほしいというものだった。神崎が何かしらのコンタクトを取ってくるということは何か動きがあったのだと考えたが、その答えは教室で康平から聞くことになった。

 

「涼禅。噂になっていることを聞いたか?」

 

「いや、何があったんだ?」

 

「一之瀬が立て続けに学校を休んでいることと、学校の掲示板に根も歯もない噂が流布されているらしい」

 

 掲示板にはきれいにAクラスだけを避けて、Bクラス、Cクラス、Dクラスの生徒の噂が書き込まれていた。どれも信憑性があるようで無いようなばかりだが、信じる人も少しはいるだろうと言えるぐらいの物ではあった。これが例の綾小路の策か。わざとAクラスを抜きにするなんて、綾小路が考えそうなことだ。

 

「これは……Bクラスからの批判が来そうだな」

 

「ああ、これが坂柳の仕業なら、そろそろ遊びでは済まないぞ」

 

 康平なりに坂柳の仕業だろうと検討がついていたのか、眉間に皺をよせ、これから起こりうるトラブルに対する対処を考えていた。神崎は一之瀬の欠席とこの噂に関して俺に時間を作ってくれと言っただろうけど、何て答えるのが正解だろうか……。

 

「神崎。遅れてごめんな」

 

「いや、構わない。単刀直入に聞くがあの噂について何か知っているか?」

 

「一通りは。神崎が聞きたいのはこれが坂柳がやったかどうか聞きたいんだろ?」

 

「その通りだ。一之瀬のみならず、多くの生徒にこのような根も歯もない噂を広めるのはいくら坂柳だからといってやり過ぎだ」

 

「俺もこんなことをする人間が信じられない。だけど、坂柳はこの噂に関して何も言わなかった。いつもと変わらずに余裕の笑みを浮かべていただけだった」

 

 俺は綾小路のことは黙っておくことにした。櫛田はある程度は綾小路の裏の怖さを知っていると思い、様々なことを話したが、神崎は違う。表面上は無害な綾小路に疑いを向けたところで俺への疑念が浮かぶ方がありえるだろう。それに、綾小路に何かしらの形で俺が動いていると伝わる方が厄介だ。このまま綾小路の思惑通りに動いていると思わせた方が危険がきていると警戒しなくてすむ。

 

「……下関。不躾なお願いであることは分かっているが……神室に頼んで、学校側に被害を訴えてくれないか?」

 

「無理だ。神崎、そんな話をするなら、俺はもうこれ以上話すつもりは無い。真澄だって今回の件に何も感じてない訳じゃない。それに、真澄が被害を出すのなら、一之瀬もするのが筋だろ?」

 

「それも……そうだな。すまない。ついつい安易な解決策に走ってしまった。忘れてくれ」

 

 神崎の気持ちが分からないことは無い。俺だって一之瀬に被害を訴え欲しいとは思っているが、一之瀬はこれに対してかは断言出来ないが学校を休んでいる。そんなことを言うことは出来ない。しかし、表立って何もしない訳にもいかないな。

 

「神崎。俺は坂柳の罪を認めさせる為なら、いくらでも手を貸す。いや、俺だけじゃない。康平だって力を貸してくれるはずだ」

 

「……そうだな。ここまで坂柳が全クラスに喧嘩を売るのなら、全クラスで坂柳を倒してやろう。坂柳とは言え、全クラスからの反抗には勝てないだろうからな」

 

 神崎はある程度構想がまとまったのか、俺にお礼を言うと、足早に立ち去っていく。このまま神崎が動き、綾小路が動き、俺が動く。いくら坂柳とは言え、これは耐えられないだろう。多少はAクラスそのものに対してのマイナスはあるだろうが、ここで坂柳を倒しておくことで、あるであろう一年最後の試験で綾小路を倒す舞台が整うな。




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