ようこそ葛城康平に補佐がいる教室へ   作:地支 辰巳

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 今回でこの章は終わりです


懺悔 帯びたる現実

 

 一之瀬が学校を休み初めてから数日が経過していた。その間に一之瀬を慕う誰もがその部屋の前に行き、追い返されていた。俺もその内の1人で、一之瀬の部屋の前まで行ったが、優しい言葉をかけられて帰って欲しいと言われていた。

 

「どうだ? いい情報だろ?」

 

「ああ。これは本当に使える情報だな。だけど、こんな情報を持ってきて橋本は大丈夫なのか?」

 

「良いわけないさ。今回のことに関しては姫さんは勝てると踏んでいる。だけど、俺はそう考えていない。お前が何かしら動くと思ってるからな。そうだろ?」

 

 最近は割と人を招いている俺の部屋。その部屋に来ていた橋本は坂柳が一之瀬が登校次第、潰すと宣言としているという情報を俺にくれた。学年末の試験が迫っている中、何処かしらで決着をつけると思っていたが、もうすぐとは思わなかったな。一之瀬もテストを受けない訳にはいかなから、ここらで決着が妥当ではあるが。

 

「情報はありがたい。だけど、橋本の質問には答えるわけにはいかない。橋本から坂柳に情報が流れる可能性もあるからな」

 

「そらそうだ。俺だってそこまで期待はしてないさ。下関に有利な環境を整えてやってるだけだ」

 

 それだけを言い残すと、橋本は足早に部屋を後にした。長居していると、坂柳が嗅ぎつけてくると思っているからだろうな。だが、俺にしてみれば、それはもう遅いとは思う。坂柳のことだ。あえて、橋本を泳がしているんだろう。どこまでの情報を俺に流すのかを把握するため、もしくはバレても問題ない情報しか流していないかだな。

 

「もう出てもいいでしょ?」

 

「うん。橋本はもう帰ったから」

 

「急に押しかけてきたら、隠れる時間も無いって」

 

 橋本がアポ無しで押しかけてきたお陰で一緒にいた真澄は隠れなきゃならならなくて、ずっとお風呂に隠れてもらっていた。ほんと、真澄には色んな苦労をかけるな。橋本もこの部屋の中をチラチラと見ていたから、気づいてそうな節はあったけれど。

 

「それで、坂柳に何かするの?」

 

「やっぱり聞こえてたよな。まぁ、あんまり坂柳だけに好き勝手させるわけにはいかないから」

 

「別に止めないけど、無理だけはしないで」

 

「分かってる。坂柳に油断なんてしない」

 

 坂柳と綾小路は次元が違う人間だ。俺なんかが逆立ちしても勝てないとは思う。でも、やるしかない。そうするしか俺の明日は晴れなくて、この先もこの学校でやっていくには必要なことなんだ。

 

 

★ ★ ★

 

 

 学年末試験の前日。神崎からの情報によれば、今日は一之瀬が登校してきたらしく、今日に坂柳が仕掛けるであろうことは簡単に察しがついた。そのせいかは分からないが、坂柳は朝から憎たらしい笑みを隠せていなかった。でも、時間が無いからか、朝のHRでは仕掛けるようなことはせずに坂柳は待機していた。その後の4限までの授業は仕掛けるはずもないのに、坂柳を警戒してしてまって授業に集中出来てなかった。明日はテストなのにな。

 

「では……そろそろ参りましょうか」

 

 昼休み。鬼頭や他の生徒を連れることなく、橋本だけを連れて教室から出て行く坂柳。こうして見ると、坂柳の周りには信頼できる人が誰もいないな。脅す関係の真澄もその1人だったが、縁が切れて、橋本は立ち回りが信頼出来ない。敵ながら、少し寂しそうだな。

 

「康平。俺も見てくるよ」

 

「ああ、俺も行こう。坂柳が何かしでかすとしたら、止めなくてはな」

 

 既にBクラスには坂柳に詰め寄っている柴田と敵意の目を向けているBクラスの生徒たちがいた。一之瀬は坂柳から遠ざけられるように周りの生徒たちによって囲まれていて、本当にカチコミに来たんだなって実感出来た。

 

「まずは体調が快復されたとのことで、良かったです。本当はもっと早く声をかけたかったのですが、試験勉強に忙しかったもので。それにしても良かったです、明日の学年末試験には間に合いましたね」

 

「うん。ありがとう」

 

 一之瀬と神崎を挟みながらも坂柳の語りが入っていく。坂柳の語りは少し前に不正にポイントを貯めていたことを走りとして、一之瀬が相応しくないという着地をする。それで詰めていく坂柳だが、一之瀬は囲われていく中から一歩前へ出ていく。

 

「私は今までの1年間……ずっとずっと隠し続けてきたことがあるんだ」

 

「一之瀬……必要でないことを話さなくていい」

 

 神妙な雰囲気になって、黙っていくBクラスの面々。俺も何かしらの工作はしたが、ここで一之瀬がどういう行動を取るかは全く分からない。告白するんだろうか。

 

「みんなに黙ってたことを……今から告白します」

 

「私の隠してきた犯罪、それは……万引きをしたこと」

 

 一之瀬はそこから続けるように経緯を説明していく。真澄と同じ犯罪だということは分かっていたが、はっきり言って同情の余地があって、そこまで責められるようなものではないとは思えた。妹の為に万引きをするなんて、一之瀬は本当にこの学校に入学する前から変わらない善性の持ち主だったのか。

 

「ごめんねみんな。こんな情けないリーダーで……」

 

 一之瀬が全てを語り終える。その罪を聞いたBクラスの面々は一之瀬の罪を肯定し、一之瀬の善性を肯定した。それはまさしく、一之瀬がBクラスで培ってきた信頼の形そのものだろう。

 しかし、その空気をぶち壊すように杖が地面をならす音が響く。

 

「やめて下さい。笑わせないでもらえますかBクラスのみなさん。実に下らない茶番劇ですね。不必要な過去の詳細まで語って、同情を引いているつもりですか? どんな境遇であれ万引きは万引き。同情余地などありません。あなたは私利私欲のために盗みを働いたんです」

 

 畳み掛けるように坂柳からの攻撃が繰り出される。それを負けていない弁舌で乗り越えようとする一之瀬だったが、一之瀬には罪という不利な条件がある。リーダーを降りるように迫られ、ここまでかと思ったが、一之瀬は何も無かったかのように笑顔になる。

 

「これで私の懺悔は終わり! 私は確かに万引きをした。坂柳さんの言う通り、同情の余地は無いと思う。罪は罪だからね。だけど、実際に私は刑罰に問われたわけじゃない。つまり、償うべき罪っていうのは本来存在しないものなの」

 

 晴れやかな一之瀬の懺悔。それに対して一瞬、坂柳も表をつかれたようだったが、直ぐに持ち直し、またも一之瀬を追い詰めるような言葉をかけていく。

 

「そうですか。では徹底的にやら──」

 

「はーい、みんなそこまで」

 

 坂柳がまだ交戦していく発言をしようとした瞬間、待ちに待った生徒会長南雲先輩とBクラス担任の星乃宮先生とDクラス担任の茶柱先生が教室に入ってくる。思ったよりも遅い登場だったな。出来れば一之瀬が懺悔する前に来て欲しかったもんだけど。いや……一之瀬の精神が思ったよりも強かったから、案外これで良かったのかもしれないな。

 

「随分と大物が集まりましたね。これは一年生同士の問題ですが?」

 

「確かに1年の小競り合いだ。しかし、本日をもって安易な噂の吹聴行為は禁止とする」

 

「……どういうことでしょう? 一之瀬さんの噂に関する箝口令とは、納得がいきませんね。どこが発端にせよ、一之瀬さん自身が迷惑していると報告がありましたか? 要望書程度でこのようなことをしたわけじゃありませんよね?」

 

 坂柳の言葉に神崎がバツの悪そうな顔をする。神崎は坂柳周辺を除いた全員に当たり、生徒会に対する要望書として署名をもらっていた。それは坂柳も掴んでいたようだが、大した脅威じゃないとして、放置していたみたいだな。

 

「詳細は伏せるが、お前たち1年の間で誹謗中傷の応酬合戦が行われていると明確に確認された。それだけじゃなく、つい先ほど、2年に対しても誹謗中傷の噂が流されたことが確認出来た。これ以上の事態は学校の風紀を乱す。よって、無意味に吹聴して回る者は今後、処罰の対象となる可能性があることを通告しておく」

 

「坂柳。Bクラスのみならず、1年全体や2年にまでそうやって攻撃を広げるのは俺がやり過ぎだと判断した。坂柳、お前はやり過ぎたんだ。そして、匿名性ということを利用してここから先、模倣犯が出てくる可能性も否定出来ない。そんなことになれば、学校の風紀が乱れる。だったら、ここで少しは厳しいところみせないとな」

 

「……意図は理解出来ました。ですが、証拠もない私を処罰するのは如何なものでしょうか?」

 

「それは俺も分かっている。だからこそ、学年末試験が終わり次第、3月まで休んでもらえると助かる」

 

「それは強制ですか?」

 

「いいや。強制じゃない。だが、一度熱りを冷ます意味でもおすすめするぜ?」

 

「そうですか……わかりました。では、ここらで引き上げましょう」

 

 坂柳は引き上げていくが、坂柳への処分は納得いっていない。たった数日だぞ? 何か3月から新たに特別試験でもあるのか? いや、それは今は考えなくて良いだろう。とりあえず、南雲先輩のことで俺の策略が成功したことを喜ばなくちゃな。ポケットに入れていた携帯が振動し、メールがきたことを知らせる。坂柳から放課後の誘いだ。受けない理由は無いな。

 

 

★ ★ ★

 

 

「お見事です。綾小路くん。それに、下関くん」

 

「聞いてないぞ、坂柳。綾小路がいるなんて」

 

「今回の立役者であるお二人はお呼びするべきだと判断したまでですよ」

 

 坂柳に呼び出された寮への帰り道近くの公園に居たのは坂柳だけじゃなく、綾小路もいた。綾小路も俺が来ることを知らなかったのか、その感情の見えない表情筋を少し動かす。

 

「下関がいるなら、俺は必要ないだろ? 俺は帰ってもいいか?」

 

「そういうわけにはいきません。今回の事で、綾小路くんは掲示板という大胆な手段を使って無実な人間を巻き込みつつ学校側に警告をした。下関くんは2年の一部の先輩に誹謗中傷の噂があると警告し、南雲会長へ危機感を煽らせた。ええ、2人の性格を随分と表していますね」

 

「それは坂柳の憶測に過ぎないだろ? 俺は何もしていない」

 

 坂柳の言うことはほとんどが当たっている。俺は南雲先輩に近しい人間の悪い噂を櫛田から入手すると、それを本人に共有して南雲先輩に相談することを待った。幸い、南雲先輩と近しい人とは親しいおかげで何の疑いも持たれず、その数人も南雲先輩に相談してくれて、作戦は上手くいった。

 

「まぁ、答え合わせは追々していきましょうか。それよりも単刀直入に言います。下関くん、学年末試験で退学をかけて綾小路くんと勝負していただきませんか?」

 

「坂柳……お前の言っている意味が分からない。それは俺にメリットが無い」

 

「いいえ、ありますよ。綾小路くんは自分の過去の一端を知っている下関くんを合法的に退学させられる。下関くんも憎悪の為に綾小路を合法的に退学させられる。どうですか? 合理的だと思いませんか」

 

 坂柳の言っていることは理にかなっているし、俺が綾小路へ叩きつけた挑戦状との良い具合に兼ね合いも出来る。退学という点も俺が勝てば問題は無い。どんな学年末特別試験になるか分からないが、命がけでやらなければならないことには変わりない。受けない理由は無いな。

 

「俺は賛成だ。綾小路を潰せる良い機会だからな。その代わり、坂柳は何も手を出さないでくれ」

 

「ええ、分かっていますよ。お二人の真剣勝負に水は差しませんから。綾小路くんもよろしいですか?」

 

「ああ、分かった。その勝負受ける。だけど、公平性を重視して上で勝負して欲しい」

 

「分かりました」

 

 また学年末特別試験の説明の後に契約書を書くことに合意し、全員が別々の道を使って寮へ帰って行く。やっとだな綾小路。ついに俺の目的に現実さが増してきた。

 

「さぁ、下関くんはどんな風に綾小路くんに敗れますかね。その次はいよいよ私と勝負ですよ綾小路くん」

 

 




 9巻も終わり、一年生も終わりが見えてきました
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