本当にお待たせして申し訳無いです! ようやく今回から再開です!
理不尽 負けない戦いをする為に
坂柳が謹慎から解放された3月1日から次の日の3月2日。学年末試験も終わり、学年末特別試験まで英気を養うかという状況になっていた。しかし、その空気を壊すかのようにいつも以上に顔が強張った真嶋先生が入ってきた。誰もがその変化に気づいていたが、そのあまりの意外さから誰も何も言うことが出来ていなかった。
「突然で申し訳ないが本日から特別試験を始める」
真嶋先生のその言葉に俺や康平だけでなく、坂柳も驚いたようで、誰もが一瞬声を出すことが出来ていなかった。そこから一番に動いたのはやはり坂柳で、冷静に努めながら声を出し、真嶋先生に疑問を投げつける。
「私たちに残されたのは学年末特別試験だけだったと記憶していますが、何故今日から他の特別試験が始まるのかお答えいただきたいです」
「お前たちの学年は非常に優秀だ。誰1人として退学者を出さずにここまでやってきた。これまでに無かったことだ。しかし、そんな例外というのを許さないのが学校側の判断だ。端的に言うならば、今回で退学者を出してもらうということだ。理不尽なことだということはよく分かっている。だが、すまない」
真嶋先生も本意では無いようで、言葉の節々から申し訳なさというのをひしひしと感じた。先生ですら理不尽さを感じるこんな試験を考えてたのは誰だ? しかも、真嶋先生の言い方からして、退学者が絶対に出ることは確定じゃないのか? 嫌な予感がする。すごく嫌な予感が。
「……では、これから特別試験の説明をする。クラス内投票という試験でクラス内で投票をする試験だ。投票は今週の土曜日にすることになっている。投票では1人につき賞賛票を3票と批判票を3票とクラス外への賞賛票を一票を持っている。それぞれ同じ人物に投票することは出来ない。そして、賞賛票と批判票は打ち消し合うものであることを忘れないで欲しい」
120票近くを他クラスからもらう可能性もあるのか。ということは今回の試験、他クラスからの票が重要ということか。どれだけ自クラスから嫌われようと他クラスから票をもらえば良いだけだからな。
「そして、賞賛票を一番獲得した人物にはプロテクトポイントが与えられる。プロテクトポイントは持っている人物の退学を一度だけ取り消すことの出来るものだ。次に与えられる機会は未定なので、貴重なものだ。そして……批判票を一番獲得した人物は退学してもらう」
教室はさっきも静かだったが、今はそれ以上に静か。いや、静寂な空間となっていた。当然だ。喉から手が出るほど欲しいものと絶対に回避しなければならないものが同時に来たからな。この試験で大事なのは勝ちを狙いにいくんじゃなくて、負けないことだ。負けなければ何とでもなるからな。
「退学を回避する方法は2000万ポイントを支払う以外には存在しない。棄権も存在せず、体調不良でも投票してもらう。もし、同票になった場合にも決選投票をもう一度して、それでも決まらなければこちらで用意した方法で決めることになる」
葛城派というか俺や康平、真澄は俺のせいで龍園への支払いでポイントが枯渇している。2000万ポイントは万が一でも払えないな。これは避けようのない勝負。この試験では綾小路と戦えない以上、この勝負を無事に乗り切る以外に綾小路と戦う世界線は俺の前に現れない。
「説明は以上だ。納得しろとは言わないが、全力で挑んで欲しい」
「葛城くん。この試験で勝負をしましょう。どちらがこのクラスのリーダーに相応しいか。このまま2人のリーダーが存在したまま2年に進んでも、他クラスから付け入る隙を与えるだけです。ここらで決めませんか?」
真嶋先生からの説明が終わった瞬間、坂柳が仕掛ける。坂柳の言葉は全体的に正論だ。これほど自クラスのリーダーを決めるに相応しい試験は無い。だが、負けてしまった方のリーダーは去るという重い罰があるが。
「本気で言っているのか? 俺かお前のどちらかが去ることになるんだぞ?」
「私は負けませんよ。どうですか、お受けしますか?」
康平は迷っている。しかし、ここで逃げるということは坂柳には勝てないというようなもの。そして、康平は葛城派の面々を全員見渡すと、決意をしたのか坂柳の視線に自身の視線を返す。
「分かった。受けよう。俺もこのままいけないと思っていたからな」
真嶋先生の悔しそうな顔の中、坂柳と康平の間でこのクラスのリーダーを決める勝負の場が整った。どちらかのリーダーで去ってしまうようなそんな危険で後戻りの出来ない試験が。
★ ★ ★
その日の放課後、直ぐに葛城派全員を集めた会議が今日は使っていない弓道場で開かれた。ここならバレることは無く、思う存分会議が出来る。まぁ、部長に見つかったら終わりだけど。集まった葛城派は21人。ついこの間までは20人だったけれど、最近になって真澄が入ったことで21人という坂柳派を1人上回る数になっていた。
「これから今回の試験に向けた会議を始める。批判票の一票は全て坂柳に入れようと思っているが、どうだろうか?」
「葛城さんが言うなら間違いないっすよ! こっちの方が人数が多いんですから、それで大丈夫ですよ!」
「康平の言うことが一番真っ当だと思うから、今回の会議では他の批判票の行方と賛成票の行方を考えようか」
さて、ここまでは考えていた通り。さて、ここからが重要だ。この先を上手いことやることで勝てる確率は上がるからな。こっちは人数は勝っているけれど、坂柳たちには溜め込んだ財力がある。2000万は無いと思うけれど、他クラスから票を買うことは出来る。ここを警戒しなきゃいけないが、それは俺の方でなんとかするか。
「批判票は橋本とか鬼頭とかに入れておけば? 坂柳の側近だし」
真澄からその意見が出ることは色んな意味で驚きだけど、その意見には俺も賛成だ。もし、坂柳を退学に出来なくても、坂柳派の中枢なら坂柳もダメージが大きいだろうしな。他のみんなも概ね賛成なのか、頷く人が多い。
「いや、それはやめるべきだ。これは俺と坂柳での勝負だ。坂柳以外のやつを狙うことは誠実さに反する。そんなことで勝ってもAクラスのリーダーとして相応しくないと俺は思う」
まさに誰もが憧れる誠実さ。それは素晴らしいものであり、俺もそんな康平のことを尊敬している。だけど、それは短所にもなりうることだと思う。坂柳がどんな手を取ってくるか分からない場合では。
「俺は康平の意見を肯定したい。でも、坂柳は油断ならない相手だ。どんな手を打ってくるかは分からない。だから、その二人には他の坂柳派よりは優先的に票を入れるだけで良いと思う。もちろん、こっちで票を調整すべきだけど」
これで批判票の行方は大体決まったとして、次は賞賛票か。賞賛票は康平に全部の票は集まるとして後の2票の行方だけど、俺とか真澄にするか? 他のみんなを説得出来るほどじゃないが、もしものための保険は打っておくべきだ。
「賞賛票は申し訳ないけれど、一票は康平。他の二票は俺か真澄に入れて欲しい」
「葛城さんはともかく、何でお前らだけなんだ? 二人は狙われる理由がないだろ?」
「いや、戸塚。俺は涼禅の意見に賛成だ。涼禅と神室はこの間の誹謗中傷の噂の件で坂柳から恨みを買っている可能性がある。念には念を打っておくべきだろう」
俺の彼女とは言え、急に現れた新参者の真澄に対して票を与えることを露骨に嫌がる戸塚。他のみんなも概ね同じ意見だと言いたい顔をしていたが、それを康平が収めてくれた。本当に康平は心強い。
「康平ありがとう。みんなの言いたいことは分かる。でも、これは念には念の策のためだから。絶対にこの中のみんなから退学者を出させたりはしないから、信じて欲しい」
最終的にはみんなを納得出来て、内容を大体詰められたことで今回は解散となった。具体的な内部の票に関してはこれで良いとして、問題は外部の票か。
★ ★ ★
「大体の用は分かりますが、どういったご用意ですか?」
「分かってるなら、さっそく話し合わないか? 金田」
次の日の放課後、少し出遅れたかもしれないがCクラスとの会合を開くことが成功した。Cクラスの面子は金田、石崎、伊吹と椎名の4人だった。こっちのメンバーは俺と真澄だけだ。康平には派閥のみんなの団結力を上げていって欲しいからな。Cクラスを選んだ理由は龍園が居なくなったことで、丸め込めることが比較的簡単だろうと踏んだからだ。その予想通りかCクラスは数で対抗してきた。
「さて、俺が欲しいのはこのクラスからの賞賛票だ。もちろん、全部とは言わない。半分でも良い。その代わり、こっちも提供するのは賞賛票だ」
「興味深いですね。話を聞かせてもらいましょうか下関氏」
「知っているかは知らないが、俺たちAクラスは内部抗争の最終段階にきていて、少しでも勝てる為の努力をしたいんだ。だから、葛城派に対して賞賛票を欲しい」
「言いたいことは分かったけど、俺らは賞賛票なんて必要ねぇからな。プライベートポイントの方がいいぜ」
石崎の言いたいことはもっともだ。このまま何もなければCクラスとDクラスの中で追放されるのは能力が著しく低いか、嫌われている人間だ。その場合はCクラスは力で支配していた龍園が追放されるだろうな。だけど、それだけはCクラスにとって良い選択とは言えない。
「このクラスの批判票一位は龍園だろ? この間まであんなにも支配していたんだ。そうなるのも当然だ。だが、それだけは辞めろ。龍園が居たからお前らはここまでこれたんだ。石崎や金田。お前らには龍園の代わりは務まらない。どんな手を使っても龍園の退学だけは止めろ。Aクラスに上がる可能性が欲しいならな」
敵だとしても俺の言うことは至極真っ当だと思っている。龍園にやる気があるにせよ、無いにせよ、退学してしまっては本当に可能性が無くなる。Cクラスがこの先生き残るなら、龍園だけは手放してはいけない。
「本当は分かってるだろ? 龍園だけは手放すな。この先、勝つ事が出来なくなるぞ」
俺の言いたいことは既に分かっていたのか、顔を伏せていく金田以外の3人。龍園が綾小路にやられたのだとしたら、俺に協力してくれる可能性も高いからな。そのためにも龍園には居てもらわないとな。
「答えはちょっと待てよ?! 後で連絡するからよ!」
「ちょっと石崎!」
「おれに任せとけって」
石崎から後で絶対に連絡すると、念押しされながら俺と真澄は教室を後にする。感触としては全部ではないにせよ、票は得られただろうとは思う。
「他のところとも交渉をするの?」
「うん。坂柳が票を得られたとしてもCクラスかDクラスぐらいだろう。Bクラスはあの事件のせいで交渉すら無理だろうしな。そのCクラスとDクラスの票を取れれば俺らの勝ちだ。Dクラスとは櫛田と交渉するよ。櫛田は人気者だからな」
Dクラス本体と交渉すると、絶対に誰か経由で綾小路に伝わってしまう。坂柳に余計な情報を避ける為にそれだけは避けなくちゃならないことだな。
テンポの為に試験説明を少し端折っています。申し訳ないです。
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