ようこそ葛城康平に補佐がいる教室へ   作:地支 辰巳

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 Cranさん誤字報告ありがとうございます!


周到 少しの油断も命取りに

 

 3月3日。さっそくと言ったところで櫛田へ接触を図ろうとしたんだけど、そこへ坂柳からメールが来た。やっぱり今回の試験では綾小路と対決するのは望ましくない為、延期するといった内容だった。綾小路にも同じことを伝えたらしい。これでようやく本腰を入れてこの試験に望む事が出来るな。もちろん、これまでもしていたがこれからは油断も何もしない。

 

「わざわざすまないな。飲みたいものは何かあるか?」

 

「うーん、紅茶の気分かなー」

 

 部屋へと招いた櫛田はもう慣れ親しんだようにくつろぐ。櫛田みたいな誰にでも優しく振る舞っている人をくつろげさせたのは良い成果じゃないのか? いや、まぁ真澄への申し訳なさも多少あるけどな。

 

「それで用なんだけど、言わなくても大体分かるだろ?」

 

「うん。クラス内投票の話だよね。私のところにも色々と情報は入ってきてるから」

 

「まずは櫛田のところに入ってきている情報から聞かせてくれるか?」

 

 櫛田の情報ははっきり言って、想像の何倍も価値のある情報だった。Dクラスの山内とか言うやつが綾小路を退学させようと色々動いているということだった。山内とかいう奴が誰かなんてほとんど知らないけれど、綾小路を退学させようとするなんて、身の程知らずにもほどあるな。てか、そいつ、前にも坂柳を転ばせてなかったか? 警戒すべき人物が分からないのは危険だな。

 

「それでね、山内くんに最近、坂柳さんが会いに来てるんだ。だから、綾小路くんを退学させようとするのも坂柳さんの入れ知恵かなって思うよ」

 

 それは本当に面白い情報だな。だけど、坂柳がそれをしている理由は全く思いつかないな。遊びか? いや、坂柳は俺たちの勝負に真剣に挑んでいるはずだ。遊びなんてあるはずがない。分からないな。坂柳がどんなことをしたいのか。

 

「本当にありがとう。重要すぎる情報を。それで、本命の相談だけど、Dクラスからの賞賛票を何票かこっちに融通して欲しい」

 

「うーん、いいよ。でも、さっきの情報も合わせてただでは難しいかな」

 

「そういうと思って、俺も情報を渡す準備がある」

 

 坂柳とのメッセージのやりとりと共に綾小路との学年末特別試験の話をする。綾小路の退学を望んでいる櫛田にはこの情報は貴重なはずだ。あの綾小路を退学することが出来る絶好のチャンスだからな。

 

「ふーん、そんなことになってるんだ。でも、私にそれを話すってことはその時にも私の協力を求めてるってことだよね?」

 

「残念だけど、そのつもりだ。試験形態によってはそんなことを頼む可能性は低いけれど、可能性はある」

 

「だったら、それだけじゃ今回のと釣り合ってないな。私としても情報を売るのって心苦しいんだから」

 

 あまり心苦しい感じには見えなかったが、まぁそれは人それぞれか。しかし、これは苦しいぞ。櫛田にあげれる情報なんてこれ以上は無いし、ポイントもCクラスへの料金とその他の出費であまり潤沢とは言えない。何か他に渡せるものがあるのか?

 

「私はプロテクトポイントが欲しいんだ。綾小路くんに万が一でも退学させられたら、困るから。だから、賞賛票が欲しいな」

 

 ……賞賛票か。出来ないとは言わないが厳しいな。Cクラスにも賞賛票を渡すという約束をしてしまっている。返事をもらっていないにせよ、それを今から反故にするのは戦略的にも仁義的にも間違っている。しかし、具体的な票数の約束したわけじゃないし、櫛田からの協力も欲しいのは事実だ。

 

「……10票だ。10票なら工面出来ないことは無い。それ以上なら俺は賞賛票に関しての取引は無かったことにする」

 

「……良いよ。じゃあ、取引成立って良いよね? それで私は誰に賞賛票を渡せばいいの?」

 

「葛城康平に頼む。俺は10票渡すんだ。それなりの票数を期待している」

 

「分かった。じゃあ、今日はありがとう下関くん」

 

 櫛田の用は済んだとばかりに手を振りながら部屋から出て行った。少しでも票数を得る為とは言え、櫛田のペースに乗せられてしまったな。もう少しやりようはあったんじゃないかとは思う。まぁ、録音はしてるし、櫛田の本性の一部を知っている。反故にされたら、それなりの対応はさせてもらう。

 

「はぁー坂柳も多く動いてるなら、本当にしっかりと対応していかないとな……真澄に癒して欲しいな」

 

 ここからまだ俺はこの部屋で対応をしなければならない。その場に真澄を呼ばないことは相手がこちらに疑いを向けないように必要なことだけど、本当は真澄にいて欲しかった。少しでも良いから話したい。

 

「ほんと……自分勝手だな」

 

 

★ ★ ★

 

 

「待ちに待ったよ。狭い部屋だけど、ゆっくりしていって」

 

「みんな部屋の大きさは同じなんだけどね」

 

「すまない、おじゃまする」

 

 新たに部屋に招いたのはBクラスの一之瀬と神崎。ここまできたら、全クラスと交渉しておくに越したことは無いと思って、この部屋に招いた。Bクラスの雰囲気的に賞賛票は必要ないだろうが、交渉の余地はあるはず。

 

「クラス投票の話か?」

 

「ああ。2人にも色々と交渉しておきたいと思ったから。2人はこの試験で何か望んでいるものはある?」

 

「私たちはこの試験で退学者を出したく無い。だから、望んでるものはprかな」

 

 Bクラスは本気でやろうとしているのか? あの2000万のポイントの救済を。無茶だと思うけれど、Aクラスも全員のポイントをすれば達成は出来ることではある。Bクラスだって現実的に考えた結果なのか。

 

「ちなみにだけど、何ポイントぐらい足りないんだ?」

 

「あと400万ポイントぐらいかな」

 

 一之瀬が何かを訴えかけてくるような目をしてくる。でも、俺には龍園にやってるせいでそんなポイントは無い。葛城派で掛け合ったとしたら用意出来るかぐらいだ。

 

「他に当てはあるのか?」

 

「それを探っているところだ。下関。お前は信用出来る人間だ。手を貸してくれると助かる」

 

「……分かった。その金額用意する。だけど、少しだけ待ってくれ。俺も他の人にかけあうから」

 

 俺の言葉を聞いた瞬間の2人の嬉しそうな顔は他クラスとは言え、俺の心まで暖かくするもので、幸せな風をこの身に感じた気がした。これで隙もなくなった。ポイントを多く使ってしまうけれど、これも勝つ為だ。仕方ない。坂柳に勝てさえすれば、どうとでもなる。

 

「それで、下関くんは何を望むの?」

 

「俺が欲しいのは賞賛票だ。出来ればBクラス全ての賞賛票が」

 

 遠慮なんてしない。こっちだって、他の葛城派の人たちに頭を下げてポイントを貰うんだ。これくらいのわがままは許されるはずだ。いや、この二つは何よりも釣り合っていると思う。

 

「一之瀬。どう思う?」

 

「私は賛成だよ。私たちとしては退学者が出ないのが一番だから」

 

「じゃあ、契約成立だな。成立としてサインをしてくれ」

 

 櫛田と違って、今回はクラスの代表2人が相手だ。何の憂いも無く、サインしあえる。一之瀬と神崎も特に疑うことも無く、今し方用意した用紙に自分の名前を書いていく。よし、これで40票は確保出来た。櫛田の用意してくれると思う票も合わせると50票は堅いな。残りはCクラスだけだが、坂柳の取引先はもうほとんどない。これは勝てる。

 

「ありがとう2人とも。ここに400万ポイント用意したから、今から送る」

 

「ああ、確認した。こちらもここにサインしたが、票数を約束しよう」

 

 一之瀬からポイントを提示された時から、メッセージを使って集めた400万を一之瀬に送る。こんなにも大金を一気に動かしたのは始めたじゃないか? 現金と違って、何かお金を送ったという感覚が薄いな。

 

「賞賛票は誰にすればいいかな? 葛城くん?」

 

「康平で良いよ。これは坂柳と康平の一騎打ちだからね」

 

 一之瀬と神崎を見送ってようやく落ち着く。こんなにも緊張感のある会話を何度もしたのは久しぶりかもしれない。でも、それに見合ったぐらいのものは確実に得られた。こうも頑張った成果が目の前にあると、安心出来る。真澄にも報告しないとな。

 

★ ★ ★

 

 

 3月4日。いよいよ明後日にクラス投票が迫る中、今日の俺は無性に落ち着いていた。これは昨日、交渉が上手くいったからか、それとも半ば勝利を確信してるからかは分からないけれど、本当に落ち着けていた。

 

「今のところはこんな感じだよ。康平」

 

「涼禅には苦労ばかりかけるな。お前に迷惑をかけて申し訳ない」

 

「いや、いいよ。康平には感謝することしかないからさ」

 

 弓道場付近で部活を一時的に抜けて、康平と2人っきりで昨日の成果も兼ねて報告する。こんな風に康平と話すのなんて、久しぶりじゃないか? 最近は真澄といることが多かったり、康平もクラスメイトと絆を深めてることが多いからな。

 

「俺がか? 涼禅に感謝されることなんて、してないと思うが」

 

「いや、してるよ。俺は康平と仲良くなった時にさ」

 

 康平はあんまりピンと来てないようだけど、俺はよく覚えている。あの時の俺は本当に腐っていたからな。今の俺がいれるはあの時の康平がいたからに他ならない。

 

「俺は康平の学校に転校してた時に腐っていただろ? 何のやる気もなくて、生きる意味すら見出せなかった。そんな時に康平が今のクラスを見ろって言ってくれたんだ。それが俺には救いになった。そんなことを言ってくれる人なんて……その頃居なかったから」

 

「あの時は涼禅のことを知らないままに言っていたな」

 

「良いよ。そのくらいの方がさ。おかげで俺は前を見れた」

 

 康平は意図してなかったかもしれないけど、俺はあの時のことがあったからこそ、綾小路に復讐をしようと誓えた。自分の人生をその為に使おうって思えた。自分はその為に生かされたんだって。だから、康平が困っているなら、俺は何処までも助けたい。

 

「あまりこういう事を言っていると最後の別れみたいだな」

 

「そんなことにはならない。康平は退学しないし、負けるのは坂柳だ」

 

 さてと、勝つ為の布石はまだ打っておかないとな。まずは石崎たちからの返事と次は橋本からの情報収集か。坂柳がやっているのは山内を手駒にすることのみ。油断もせずに動き切ってやるさ。




 今回の行動よって原作よりは綾小路は動いていません
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