ようこそ葛城康平に補佐がいる教室へ   作:地支 辰巳

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 いよいよ今回でクラス内投票は終わります


虚無 昨日までと同じ日々にはもうならない

 

 いよいよ試験当日の日。俺は柄にもなく緊張していた。それは何故か分からないことは無い。自分のことだ。何故か分かっている。絶対にこのクラスから誰かは退学するからだ。これまでの試験はどれだけ危険なものはあれど、絶対に退学するということはありえなかった。でも、今回は違う。誰かが退学する。

 

「何でそんな顔してんの」

 

「なんだろう。何故か漠然とした不安がするんだ」

 

「……そんな顔してても結果は変わらない。涼禅は充分やった」

 

 達観している考え、そして現実主義な真澄。そんな真澄が頼もしく思えたし、俺はそんな彼女だから惹かれたんだと実感する。そう、俺には持ってないものを持っている彼女だから。

 

「真澄……これからも俺のことを頼むな」

 

「何それ。言われなくても涼禅の復讐はサポートするから」

 

 頼もしい言葉に頼もしい言葉で返してくれる真澄。何故だか心の不安が取れなかった俺にはその言葉が自分の明日を示してくれるみたいで、真澄の背中に手を回して、口を合わせた。

 

「……ん……」

 

「なんで……こんな場所で」

 

「ご、ごめん。つい」

 

 寮から学校へと向かう通学路。そんな道でキスをして見られないはずもなく、周りから好奇の目に晒される。自分らしくないのは分かってるし、やれることは全部やった。もうなるようにしかならないんだ。覚悟を決めよう。

 

「進もう真澄」

 

「私はもう進んでるって」

 

 キスを恥じるような真似もせずに歩いていく、真澄を追うように少し早足にして追いつく。俺と真澄の日々はずっとこうなんだろうな。頼もしく前を進むどちらかをどちらかが真っ直ぐ追って追いつく。そんな日常が。

 

 

★ ★ ★

 

 

 教室は静かだった。そこそこの人数は揃っているはずなのに話し声はほとんどしなかった。何がそうさせるのか。それは朝にも俺も感じていた漠然とした不安だろう。これがありのままの姿だと思う。これがこの学校の普通なんだ。

 

「康平。調子はどう?」

 

「落ち着いている。なるようにしかならないからな」

 

「流石だね。俺なんて少し怖かった」

 

「それが普通だ。俺の方が変なんだろうな」

 

 心身ともに落ち着いている康平。こんな状況になっても冷静にいられるのはまさにリーダーの器だな。もし康平が退学になるとしても康平はこんな風に落ち着けるんだろうな。俺なんて多分、後悔で叫んでしまうかもしれない。

 

「心配するな涼禅。退学するとしても俺か坂柳だ。もし、俺が退学したら好きにして欲しい。坂柳に取り入れるのも遅く無い」

 

「康平。俺のことを舐めないでくれ。俺はそんなことはしない。自分がつく人間は自分で決める」

 

「ふっ、すまない。だが、念のため言っておかなければと思っただけだ」

 

 康平の言いたいことは分かる。もし康平がいなくなったとしたら、俺たちのいく道は坂柳に降るか、それとも反抗し続けるかだ。でも、俺は坂柳に降るつもりはない。綾小路以外に負けたと認めるつもりはないからな。

 

「しけた面してんなよ下関! 葛城さんが勝つに決まってんだろ!」

 

「どうしても不安が拭えなくてさ。やることはやったから大丈夫だと思うんだけど」

 

 俺のことを自分なりに励まそうとしているのは康平と俺の次くらいには親しい戸塚だった。ふと、考えると戸塚とは一年近い付き合いになるのか。あんまり意識してなかったけれど、戸塚は良いやつだよな。Aクラスにはあまり居ないタイプで、ある意味付き合いやすかった。

 

「戸塚も今日まで康平を支えてくれてありがとな」

 

「何だよ突然、気持ち悪りぃな。こっちの方が人数は多いんだ。心配すんなって」

 

 戸塚は別に秀でた能力があるわけでもなければ、特段劣った能力があるではない。そんな戸塚がAクラスに配属されたのはこの明るい性格と純粋無垢な精神だからだろうな。こんな試験じゃなければそんなこと気づかなかったな。

 そんなことを思っている間にいつの間にか席は全て埋まり、後数分でチャイムが鳴るという時間までなっていた。先生もまだ来ておらず、静かな時間が過ぎるはずだった。

 

「さて、クラス内投票の準備お疲れ様でした皆様。そういえば、葛城派の皆さんは3月2日の放課後は弓道場で会議をしたらしいですね。3月3日は下関くんと神室さんがCクラスに訪問で合っていますか?」

 

 しかし、全員に向けて急に話し始めた坂柳はこちらの情報をどんどんと吐いていく。気持ちが悪い。何で……こいつが知ってるんだ? 葛城派が会議をした場所や俺らが交渉をした場所を……何で。何であいつは。

 

「ええ、貴方たちが行動したことは大体分かっていますよ。貴方たちの身近にいた私のお友達のある親切な方が教えて下さいましたから」

 

 その瞬間、俺は嫌な汗がぶわっと出るとともに坂柳の狙いに気づいてしまった。こいつはこいつは、違うこいつは康平を狙っているんじゃない。坂柳の本当の狙いは。

 

「どうしました? 下関くん。そんなに大袈裟に立ち上がって。もしかして……誰かを庇おうとしているんですか?」

 

「坂柳!! お前!!」

 

 坂柳に殴りかかろうとする俺の耳に聞こえるのはチャイムのなる音とドアがガラガラと開ける音。そんなものに気を取られず、俺の拳は坂柳に向かっていく。しかし、それは鬼頭に掴まれ、真嶋先生の大声が響く。

 

「下関! 座るんだ!」

 

「……俺は坂柳を許せない。座れません」

 

「下関、もう一度言うぞ。座るんだ。冷静になるんだ」

 

 クソ。一度冷静になろう。坂柳がああ言ったって何もこっちの人間が真澄に入れる可能性は低い。そんな上手いこといくはずない。そうだ。そうだよな。そうあってくれよ。

 

「では、これよりクラス内投票を始める。名前を呼ばれた生徒から順に、投票室に移動してもらう」

 

 

★ ★ ★

 

 

 チャイムがなる。それと共に真嶋先生が教室に入ってくるも、俺は貧乏ゆすりを止めることが出来ていなかった。上手くいく、上手くいくはずだ。康平への票も問題なくて、真澄にだって、みんなが手順通りにやってくれれば問題はないはずだ。そうだ。何の問題もない。

 

「これより、追加特別試験の結果を発表する。まずは賞賛票を一番多く集めた者……1位は葛城、お前だ。71票の獲得になる」

 

「ありがとう……ございます」

 

 よし、ここまでは予定通りだ。後は坂柳が批判票の一位を獲得して、それで終わりだ。何の心配もすることも無かった。……いや、71票って何だよ。想定より……少ないな。こんな投票数なんだ。

 

「続いて……もっともクラスからの批判票を集めた者を発表する。わかっていると思うが、ここで名前を呼ばれた者は退学という形になる。この後荷物をまとめ、私と一緒に職員室へと来てもらうことになるだろう」

 

「最下位は、批判票17票を獲得した神室真澄だ」

 

 ちがう、ちがう、そんなわけない。真澄が批判票17票? そんなわけがない。こんなこと、あるわけない。嫌だ、俺から俺から真澄を真澄を……取らないでくれ。坂柳だ。坂柳だ。あいつさえ居なければ、こんな、こんな理不尽な結果にならなかった。死ねばいい。殺してやりたい。

 

「坂柳! お前! なんで……こんなことを」

 

「何がですか? 私は対決はしようと言ってましたが、葛城くんを退学させるとは一言も言っていませんから。それに神室さんは私を裏切ってますので」

 

「どけ! 鬼頭!! 坂柳を……殴らないと。俺は!!」

 

「やめとけ下関」

 

 いやだ。俺にはまだ真澄が必要なのにどうして。どうして、みんな俺から大切なものをうばっていくんだよ。

 

「先生。俺が変わります。俺が、俺が……退学します。だから、真澄だけはやめてください。お願い……します」

 

「……下関。お前の言いたいことは痛いほど分かる。だが、無理なんだ。神室の退学はもう……決まってしまったことだ」

 

「いやだ、いやだ。俺から真澄を……奪わないで」

 

 真澄の手が俺の頬に触れる。あったかい、これまでに感じた何よりもあったかいその手。この手をずっと感じてたい。

 

「涼禅、大丈夫。先にいってるだけだから。綾小路との決着を着けて。その話、楽しみにしてるから」

 

 やめてくれ、やめてくれ、真澄。そんな悔いのない顔をしないでくれ。俺の……俺のせいなのに。俺の力不足でこんなことになったのに。やめてくれよ。俺のことを……置いてかないで。

 

「ああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

★ ★ ★

 

 

「坂柳。お前は満足か? 涼禅のことをあんな風にして」

 

「私がしたのは神室さんを退学させただけですよ? 誰かが退学するのは決まっていたことです。誰かはこうなる運命でした。それが今回は神室さんだっただけです」

 

 神室が真嶋先生と一緒に職員室に歩いていき、下関が戸塚や的場などに保健室に連れていかれた後のAクラス。葛城は元々強面の顔をより強面にすると、坂柳をギリッと睨んでいた。

 

「何故、俺を狙わなかった。何故だ! 俺を狙っていればこんなことには」

 

「それが私の狙いですから。先ほども言いましたが、葛城くんよりも私を裏切った神室さんに罰を与えただけです。ですが……勝負は私の勝ちです」

 

「なに……」

 

 あんなにも卑怯な手を使っておきながら、勝利の声を上げる坂柳に葛城は言い返そうとしたが、出来なかった。坂柳が使った手段が卑怯な手段としても葛城派とカウントしていた人間が1人退学し、1人はボロボロの状態で保健室に運ばれた。どんなに整った論理さえ、このような状況を見れば、勝者と敗者は一眼見れば分かることだった。

 

「さて、反対する人も多くいると思いますが、私が今日からAクラスの指揮を取らせていただきます。……ですが、1年最後の特別試験は下関くんに指揮を譲りたいと思います。せめてものお詫びとして」

 

 あんなことがあったにも冷静に言葉を綴る坂柳に誰もが恐怖していき、神室のように粛清されることを恐れ、心が折られていく。そんな中で葛城派の長たる葛城は自身の派閥のいく末よりも保健室に運ばれてしまった下関のことを気にしていた。それは出会った当初のように燻り、周りのことも未来のことも何もかもがどうでもよかった時の下関になってしまうことを恐れていたからだ。その葛城の漠然とした不安は全てと言えなくても、当たることになる。




 結構前からこの展開を候補には入れていたのですが、多くの時間を使ってこのような展開にするかは悩みました。
 そして、この展開にするからこそ、いつもと違いこのような投稿方法になったという経緯になります。
 最後まで涼禅の活躍を見届けてくださったらと思います

 補足・櫛田はDクラスのごたごたから葛城に票は入れなかった
   ・坂柳が情報を知っていたのは山村が涼禅をつけていたから
   ・神室の票は坂柳のあれで葛城派が賞賛票も批判票も入れなかったから
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