ようこそ葛城康平に補佐がいる教室へ   作:地支 辰巳

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 いよいよ11巻に入ります。最後までよろしくお願いします


第11巻
邁進 彼と彼女が居なくても試験は進む


 

 退学者を出す為の試験としか思えないクラス投票から数日しか経っていないにも関わらず、Aクラス担任の真嶋によって新たな試験についての説明が行われた。しかし、Aクラスにはつい数日前まであった神室の席はなくなっており、下関の席にも人は座っていなかった。そんなこともあり、このクラスの空気は最悪と言ってよいものだった。

 

「……以上が今回の特別試験選抜種目試験だ。何か質問はあるか?」

 

 一年生最後に行われる試験は選抜種目試験。この試験は各々のクラスが対決するクラスを選び、そのクラスと対決する種目を本命5種、ブラフ5種、計10種を選ぶ事ことから始まる。

 その後、お互いの本命5種を合わせた10種の中からランダムで選ばれた7種で戦うことになる。種目の内容は引き分けにならないものでは何でも選ぶこことが出来、じゃんけんでも、学力テストでも、柔道でも何でも選ぶことが可能である。

 そして、この試験にあたり、各クラスで司令塔を決まることになっている。この司令塔は競技事に競技に出場する人を選んだり、競技によって違う条件で介入することが出来る役割ではあるが、もしこの対決に負けてしまうとそのクラスの司令塔は退学してしまう。勝ったクラスにはこのペナルティは与えらえず、100クラスポイントを得る。

 各競技でも勝つごとに30ポイントというクラスポイントが移動していくので、最高で310ポイントのクラスポイントを得ることも可能な試験になっている。

 

「なかなか面白い試験ですね。対決クラスはどのように決めるのですか?」

 

「今日の放課後に多目的室に各クラスの司令塔が集まって、簡単なことで順番を決めた上で、指名する方式になるだろう」

 

「では、それまでに司令塔を決めておく必要があると?」

 

「ああ。それまでに決まらない場合はこちらで相応しいと思われる人材に決めることになっている」

 

「では、もし、今回司令塔として行った人が当日に司令塔を出来ない場合にはどうなりますか?」

 

「……代わりの人物を司令塔にすることになるだろうな。だが、前までの人物は競技に参加出来ないと思っていた方が良い」

 

「ありがとうございます。それで十分です」

 

 他クラスにとってはこんな規定を使う人がいるとは思わないもの。しかし、このクラスにとっては違った。数日前に坂柳が宣言した下関に次の試験の指示を任せるという言葉を実現する為のものだと。

 

「……試験の説明は以上だ。懸命な判断と誇れる結果を待っている」

 

 様々なことを察しながらも、それを公平性の立場から口にしない真嶋はAクラス内で議論が進んでいくように出ていく。そして、その真嶋の行動を待ってましたとばかりに坂柳は薄ら笑いをし、Aクラスに言い聞かせるように言葉を出す。

 

「さて、事前に言った通り、今回の試験の司令塔は下関くんにやってもらいます。今日のところは私が行かせてもらいますが、本番までにしなければならないことが山積みですので、早めに下関くんを回復させにいってもらえますと助かります」

 

「まて坂柳! 司令塔は負ければ退学というペナルティが課される。今の状態の涼禅にさせるのはあまりに危険だ。プロテクトポイントを持つ俺が変わろう」

 

「それは無理ですね。すでに下関くんが今回の試験の指揮を取るということで動いているのです。それとも、葛城くんは下関くんが負けると思っているのですか? 負けなければいいんですよ」

 

「……しかし、今の涼禅のメンタルには無理だ! それに元はと言えば、お前が涼禅のメンタルを壊すことをしたからだろ!」

 

 下関を司令塔にするという方向を変えることない坂柳に対して、葛城はそもそも下関をあのような状態にした坂柳に今まで見せたことのない怒りもともに叱責する。しかし、それを受けても坂柳は冷ややかな笑みを浮かべた顔を変えることなかった。

 

「いえ、あれは貴方たちが負けたからああなったんです。私を責めるのはお門違いというものですよ」

 

 決して自分の非を認めることなく、あの結果を当然の結果として語る坂柳に葛城は唇を噛むほどの悔しさをみせ、他の生徒たちはその自分たちの中にある考え方とは根本的には違う坂柳に恐怖とともに歪さというものを感じ取っていた。

 

「では、みなさん期待していますよ。こうなるのも必然だったんです」

 

 一人教室から去っていく坂柳の後ろに着いていけるような人材はAクラスにはもうおらず、坂柳は一人でその道を進んで行くのだった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 その日の放課後、坂柳が仮の司令塔として多目的室にいるであろう時間、葛城は下関の部屋の前におり、聞こえてるか分からないにも関わらず、伝えるべきであろうことを伝えていた。

 

「……葛城。どうだ、下関の様子は?」

 

「神崎か。いや、反応は無いが、聞こえてはいるだろう。手紙も扉に貼っておいたから、気づいてくれるといいんだがな」

 

「ずっとこの調子なのか?」

 

「ああ。あの試験からずっとこの調子だ」

 

「……そうか」

 

 クラス内投票では4クラス内、2クラスしか退学者が出ないという異例の結果になっていた。その二人もAクラスは神室真澄、Cクラスの真鍋志保であり、この結果を予測出来た人間は存在しないだろう。そんな現状もあり、この試験で明確に精神に傷を負ったのは下関だけだった。

 

「俺たちのクラスはあいつに助けられた。出来る限りのサポートをしたいんだがな」

 

「俺もそのつもりだ。涼禅のおかげで今の俺があるようなものだからな」

 

 神崎と葛城の決意は固いものだったが、その決意すらも通さないというように涼禅の部屋の扉が開くことは無かった。決して二人が悪い訳ではない。2人の想像の届かないほどの傷を下関が負っていたに過ぎないからだ。

 

 

★ ★ ★

 

 

「下関くん私です。坂柳です。報告したいことがあって来ました。開けて下さい」

 

 あんな仕打ちをしたにも関わらず、何も臆することをしない坂柳は強気にも下関の部屋の前に立ち、インターホンを通じて下関に呼びかける。誰が見ても挑発とも言えるような行為だったそれだったが、今の下関には一番効果があったようで、勢いよくドアが開けられる。

 

「開口一番それですか。その姿を他の人に見せれますか?」

 

「黙れ。お前に命令される筋合いも諭される筋合いもない。俺はお前に一発加える為にわざわざ出てきたんだ」

 

 護衛も居ない坂柳の姿を捉えた瞬間、坂柳に対して拳を振るう下関だったが、その拳は坂柳の顔すれすれを通る。本人すらも殴る気で拳を払ったにも関わらず、その坂柳を殴りきれない自分に下関は戸惑う。

 

「殴れよ! 殴れって! 何で、何で、無防備で立ってる坂柳を殴れないんだよ。こいつは真澄を退学させた奴だ。殴られて当然の人間なんだ」

 

「私は貴方のことをよく分かっています。綾小路くんに怨みを抱き続けたものの、恐れているものを直視することが出来なく、非道になれない貴方のことを。今回もそうです。貴方は私のことを恐れ、行動を監視することすらせず、ましてや脅してでも取るべき票を取らなかった。貴方はこの一年何も変わっていないのです」

 

 自分ですら理解仕切っていない自分のことを恨みがある相手に淡々と言われる。それは下関の精神を嫌なほど混乱させ、吐きたいほどの頭痛と嫌悪感に襲う。自分自身が嫌で嫌で仕方なくなり、心が折れそうになる。もう、下関がここに立っているのはギリギリだった。

 

「うるさい、うるさい。そんなこと分かってる! 俺はここまでやっても何も成長してない! そのせいで……真澄は退学した。俺は、俺は! 自分の情けなさで死にたい!! でも、お前も憎い。真澄を退学させたお前が。もう……自分がどうしたいか分からないんだよ」

 

 自分への罪悪感と坂柳への恨み。その二つに苛まれ、崩れ落ちる下関。グルグルとそのことばかりが頭の中で回っている下関の心はもうボロボロだった。以前、綾小路を認識した際は下関の心は一色に塗りつぶされそうになったが、あの時は心の支えとなる神室がいた。今はもう彼の隣には誰も居ない。

 

「どうすればいいか? そんなことは自分で考えて下さい。しかし、助言は差し上げましょう。綾小路くんと戦ってください。それが貴方が唯一出来る無念の晴らし方ですよ」

 

 下関は坂柳の言葉にグッと下唇を血が出るほどに噛む。下関とて分かっているのだ。今の自分にはそれが一番にすべきことだと。しかし、あの坂柳から言われたという事実が下関の判断を狂わす。何度も、何度も、心の中で自分や父親、神室ならどう考えるかという自問自答を繰り返す。そして、下関の目の覇気が変わる。

 

「……やってやる。やってやるよ。お前に誘導された結果だろうが、決められた結果になろうが、やってやるよ。悔いなく退学するためにな。一生許すことなんて出来ないがその目で見ておけ坂柳」

 

「ええ、楽しみにしてますよ。貴方がどれだけ自分を曝け出してくれるか、本当に楽しみにしてます」

 

 決して坂柳の言いなりになった訳ではなく、自分の意思で、自分が選んだ道として再び立ち上がることを決めた下関。もう下関には何も失うものも無かった。ただ神室と再び会った時に土産話をする為に最後の足掻きをするだけだった。




 初期にちょろっと書きましたが、涼禅の外見はCharlotteの乙坂有宇なので、病む過程は必須でした
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