ようこそ葛城康平に補佐がいる教室へ   作:地支 辰巳

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 今回の章は短いです




誓約 最後の最後まで絶対に曲げたくない

 

『涼禅か?! もう大丈夫なのか?』

 

『……大丈夫ではないよ。でも、これが今の俺に出来ることだって気づいたんだ』

 

 坂柳の言葉で立ち直ったなんて口が裂けても康平になんて言えない。というよりは俺は今、立ち直っているのか? 自分がどういう状態なのか全く分かっていない。だけど……綾小路を倒したいという思いだけは捨てられていない。

 

『無理はしないでくれ涼禅。今回の試験は俺に任せて』

 

『それは出来ないよ康平。これは俺の最後の有終の美ってやつだ。ここから逃げたら本当に俺は駄目なやつになってしまう」

 

『……分かった。涼禅の好きにしてくれ。だが、何か用があればなんでも言ってくれ』

 

 俺が退学する覚悟だと暗に伝えても康平は動揺することをしなかった。いや、それよりも俺に好きにしろと言ってくれている。こんなにも良い友だちが俺には居たんだよな。綾小路や坂柳を見過ぎて見えなくなっていたな。もっと早く気づいて、もっと頼ればよかったな。でも、もう遅い。

 

『ありがとう康平。いつも康平の言葉には救われてばかりだな。とりあえず、俺は今の所、学校にも行かないから坂柳に電話する予定だと伝えておいてくれ』

 

『了解だ。だが、再三言うが聞いてくれ涼禅。どうか、無理だけはするな。お前は退学すべき人間じゃない』

 

『ありがとう。康平こそ退学するべき人間じゃない。俺と違ってどんなことをしてでも生き残ってくれ』

 

 何か言いたげな康平との通話を無理矢理切ると、俺一人しかいないこの部屋は静かになった。誰もいない、何の温もりも無いこの部屋。不思議だな。この学校に入った頃はこの状態が普通だったはずなのに、いつの間にか誰かの温もりが無いこの部屋が寂しくなってしまっていた。

 

「……カップラーメンでも食べるか」

 

 ようやく気づいた溜まっているカップラーメンの山を見ても尚、料理する気にもならず、カップラーメンをすする。健康的な生活でもないことは分かっているし、こんな生活を続けるべきではないことも分かっている。でも、まだこうする方が正しい。俺への罰とこうすることが後々有利に働くからな。さて、少しだけ眠るか。

 

 

★ ★ ★

 

 

 放課後。俺は久しぶりに緊張していた。人と会わなかった期間は少しだけというのにこんなにも話すのに緊張するなんて。というか、通話じゃなくてもAクラスの人と話せたんじゃないのか? だけど、学校に迎えば他クラスの生徒に会うのは明白だからな。この通話で指示を飛ばすのが多分ベストのはずだ。

 

『都合により、通話を行っているけれど、下関涼禅だ。今回の試験は都合により、俺が指揮を取るけれど、逆らったりはしないで欲しい。俺はまだ真澄を退学させたこのクラスを許せていないから』

 

 俺からしてみれば、真澄に批判票を入れたり、賛成票を入れなかった奴らは全員同罪だ。それさえなければ、真澄は退学することは無かったんだから。分かっている。分かっているさ。それが逆恨みで全ては俺の力不足だってことぐらい。だけど、つい出てしまった。やっぱり俺は未熟で弱い。

 

『その話は置いておいて、試験の話をしよう。内容は坂柳と康平から聞いた。競技は俺の方で全て考えておいたものを康平に渡しておいたから、ここで読み上げて欲しい』

 

「ああ……ブラフ競技は日本史テスト、英語テスト、そろばん、数学テスト、雑学テストの5つ。本命種目は花札、インディアンポーカー、ブラックジャック、古文テスト、ダーツの5つだ」

 

「葛城、それ本命とブラフを逆に読んでるんじゃないのか? これが本命だと思えないぞ」

 

『康平が読んでくれた種目は何一つ間違っていない。俺が本命に選んだのはこの5種だ」

 

「本当に勝つ気があるのか? こんな5種目で。姫さんも葛城もこれで勝てると本当に思っているのか?」

 

 橋本の指摘はもっともだ。この5種目はどちらかと言えば、Dクラスが選ぶような、そんな運任せのものばかりだ。でも、そうじゃない。Dクラスには綾小路がいるんだ。綾小路が司令塔をするならば、綾小路が干渉出来ないようなそんな勝負を仕掛けるべきなんだ。これこそが俺が出来る精一杯だ。

 

「良いと思いますよ。下関くんなりに色々と考えた結果でしょうから。私的にはどう転ぼうが面白い結末が待っていると思っていますので」

 

「俺も今回ばかりは坂柳の意見に一部賛成だ。涼禅は涼禅なりに退学を背負った上でこの種目を出したいんだ。俺たちが何かを言う権利は無いだろうな」

 

「二人がそこまで言うなら賛成せさる負えないよな。下関の策で戦うことでいいんじゃないか?」

 

『ありがとう。俺は俺でDクラスに勝てる算段はつけているつもりだ。改めて、今回の試験、俺に任せて欲しい」

 

 決して舐めプなんてしない。正々堂々と綾小路と張り合った上であいつに勝つ。それこそが俺が真澄に出来る土産話だ。綾小路の人生に下関涼禅という名前を彫ってやる。見ていてくれ真澄。

 

 

★ ★ ★

 

 

「なんだよこれ! わかりやす過ぎるじゃん!!」

 

「今回ばかりは池くんの言う通りね。Aクラスにしては堅実過ぎるて手で打ってきたわね」

 

「こんな手をやるなんてな」

 

 DクラスとAクラスのブラフ、本命を含めた合計20種目が発表される。Dクラスの本命種目はタイピング技能、バスケットボール、テニス、卓球、水泳の5つで、ブラフは英語、弓道、サッカー、ピアノ、じゃんけんの5つ。Dクラスのように意図的に分かりにくくするのが定石であり、Aクラスのようにテスト5つと運要素が強い種目5つにするクラスなんて他に無かった。

 

「これ、俺らで勝てるのかよ! こんなもんほとんど負けじゃんか」

 

「いえ……こちらが出したものを全て制すれば、後は五分五分に持ち込めるわ」

 

「本当にそうか? やっぱり明人もいる弓道も本命にした方がいいんじゃないか?」

 

 綾小路がペーパーシャッフルからの縁で仲が良くなっている三宅が活躍する場を用意するのもありじゃないなかったかとここにいるDクラスの面々に問うが、それを三宅本人が否定するように入ってくる。

 

「いや、やめた方がいい。Aクラスには涼禅がいる。涼禅と俺の実力は五分五分だ。勝てるかどうかは断言できない」

 

「それはそうよね……でも、たぶん、今の下関くんは」

 

「そろそろ会議を始めよう。綾小路くん。仕切ってくれるかな?」

 

 恋人が退学することになったと学校中に広まった下関の身を案じるかのような表情をする三宅と堀北を気遣いつつ、Dクラスから退学者を出さなかったことで、その力を増して盤石なものにした平田は綾小路に対して謝罪をするように頭を下げる。

 

「本当にごめん。坂柳さんからの交換条件とはいえ、綾小路くんをこの試験のリーダーにすることになるなんて。本当にごめん」

 

「いや、いいんだ。あの試験で退学者を回避出来たのなら、この試験で司令塔をするぐらい問題ないさ」

 

「でも、負けてしまったら、綾小路くんが」

 

「大丈夫だ平田。心配するな」

 

 司令塔として負けてしまっては退学してしまう。それを心配されても問題ないというように平田を励ます綾小路。これを平田を気遣って言っているというのが常人の心持ちだろう。しかし、綾小路は違う。彼は本気で勝てるのだとと思っているからこその心からの言葉だった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 10種目が公表されてから一週間後、多目的室を目的とした綾小路の姿は特別棟にあったが、この場には他にいるはずの司令塔は一之瀬しかいなかった。

 

「おはよ、綾小路くん!」

 

「まだ一之瀬だけなのか?」

 

「うん、私だけだよ。でも、四人揃わないと多目的室は開かないみたい」

 

 事前に坂柳から今回の試験の司令塔は下関が参加することを聞いていた綾小路は下関がまだ現れないことを特に疑問に思わない中、何故Cクラスがまだ来ていないのか考察していたが、そこに新たに足音が響く。

 

「……龍園くん? どうして……ここに……」

 

「どうした。何を動揺している」

 

 ここに集まるべき司令塔たちの誰もが予想していなかった展開。一度落ちたはずの龍園が現れるという展開。それに一番動揺したのは一之瀬であったが、その件の一之瀬と龍園はまたも現れる人物に表情が大きく変わる。

 

「ククク、俺の登場は前座か? 下関」

 

「そんなことないさ。まさか、龍園が来るなんて俺も思っていなかったからな」

 

「下関……くん? もう大丈夫なの? ずっと登校してなかったみたいだけど」

 

「ああ。俺は自分の中で色々と振り切った。もう、弱さは見せない」

 

 龍園と一之瀬の会話もそこそこに、じっくりと綾小路を見据える下関だが、その綾小路の瞳は暗く暗く、底の知れない深淵のようだった。そんな二人の様子にただならぬ何かを察していたものの、龍園と一之瀬も互いに言いたいことを言っていく。

 

「下関。後悔するぞ」

 

「後悔なんてもうし過ぎて数えてないさ」

 

「俺は下関みたいな優秀な人をここで消えて欲しくないだけだ」

 

「嘘だな。お前は俺にもう付き纏われたくないだけだ」

 

 互いにお互いの本心を読み取ったような発言を繰り返していく綾小路と下関。決して友人とは言えず、ライバルとも言えない。ただの追われる方と追う方の関係性。しかし、そんな関係性だからこそ、見えてくるものがある。遠すぎなく、近すぎないこの関係だからこそ。

 

「坂柳の力がなくてもいいのか?」

 

「綾小路。あんまり煽らないでくれ。俺はお前に煽られて冷静でいられるほど大人じゃないだ」

 

「この場を何度も想像してきた。真澄が退学する前も後も何度も何度も想像してきた。そして、お前を退学させるまでの想像を。ここが俺の人生の一つの目標だ。俺が夢見てきた舞台だ。覚悟しろよ綾小路」

 

「心を折れるなよ」

 

「はーい、じゃあ! 選抜種目試験始まるよー!!」

 

 星乃宮による明るい声とともに扉が開き、勝負が始まる。前回の試験で獲得出来たはずのプロテクトポイントを持っているのは一之瀬のみ。否応なく、一人の退学者が出てしまうこの試験。

 決して油断は出来ず、司令塔の権限もそこまで多くない中、綾小路と下関の最初で最後の直接対決の幕が開けるのだった。




 色々と時間を飛ばしてますが、クラスごとに本命の練習を他クラスにバレないようにはしています

 後、実質的に裏切られたことから涼禅は康平以外のAクラスと櫛田に対する信用を無くしています。
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