「特別試験の進行を担当する坂上です。早速ですが1年度最終特別試験を始めたいと思います。各クラス、5種目を選択し決定ボタンを押すように」
綾小路と俺は既に種目は決めており、淡々と操作をして種目を決定していく。Dクラスの戦術は全くもって分からないが、種目の検討はついている。多分、運動種目が中心にくるはずだ。俺は事前に決めていた通り『古文テスト』『インディアンポーカー』『ブラックジャック』『花札』『ダーツ』の5つを選択する。俺からしてみれば、綾小路がどんな手を打ってくるか分からない以上、どんな種目を選択しようと不安は拭えない。だったら、綾小路が苦手だと思われる運の要素が強い種目を選択した結果のこの5つだ。決して簡単には対策は出来ないだろう。
対するDクラスは『バスケットボール』『タイピング技能』『水泳』『テニス』『卓球』の5つ。予想通りの種目だ。Aクラスが学力面に対して有利を取れる以上はこういった選択肢を取るしかないだろうな。しかし、綾小路の表情はやっぱり読みにくい。この結果をどう捉えているのか分からないな。
「……どうしてこんな種目ばかり選んだんだ?」
「お前を警戒してのことだ綾小路。変に定石の通りのテストばかりやっても対策を取られたら意味がない。あえてのこの選択だ」
「確かに。一見遊びのように思えるこれらの種目も考えやらなければ勝てない。Dクラスが簡単に勝てる種目でもないな」
敵意を剥き出しにし、綾小路を何の奢りもなく警戒する俺の姿はこの場にいる坂上先生や星乃宮先生からすれば、異質に映ることだろう。だが、そんなもの俺に取っては関係ない。
「では、今からこの10つの中から7種目がランダムに表示されていきます」
俺と綾小路との空気感に教師陣の方が耐えられなかったのか。すんなりと進んでいく特別試験。そして、モニターに表示されるのは選ばれた一つの種目。
『バスケットボール』
必要人数5人 制限時間20分
ルール 通常のバスケットボールに準ずる
司令塔 任意のタイミングでメンバーを1人まで入れ替えて良い
早々に出てきたのは綾小路によって選ばれたバスケットボール。Dクラスが選んだこともあって、Dクラスに有利な種目だが、易々負ける訳にはいかない。もちろん、相手にはバスケ部の須藤などがいるが、こちらにも運動神経がある鬼頭がいる。そう簡単には負けないだろ。
「教師陣は須藤が鍵だと言っているが、実際のところはどうなんだ?」
「そうだな。Dクラスでは須藤が一番バスケが上手いからな」
そんな中で綾小路が採用してきた5人の中には須藤がいなかった。須藤は体育祭の活躍を見る限り、他のスポーツも人一倍こなせるだろう。そこに使うつもりなんだろうな。だが、水泳部だと聞いている。水泳で出せば良かったのに何か意図があるのか?
「こちらには鬼頭もいる。そう簡単に破れないさ」
俺が考えていたよりもAクラスとDクラスの実力は拮抗しており、10分間の前半戦を終わったところでは11対10の一点差となっていたが、ここで綾小路が司令塔の権利を使って須藤を投入してきた。本当なら須藤を使わずに乗り切りたかっただろうが、惜しみなく使ってきたか。
「これは……負けか」
「ああ。Dクラスの勝ちだ」
鬼頭が須藤のマークに積極的に着いたことで、そもそもとして運動能力の劣っていたAクラスが点数を入れることが難しくなり、段々と追い抜かれていってしまっていた。結果は負けてしまったが須藤を出せただけでも僥倖とすべきか。
『タイピング技能』
必要人数1人 時間30分
ルール タイピング技能 単語 短文 長文での早さと正確性を競う
司令塔 試験中に気づいたミスを一ヶ所だけ伝えても構わない
またも来たのはDクラスが選択した種目。二連続Dクラスの種目が選ばれただけだが、それでも俺に綾小路に勝つなと運命が言っているのかとも思ってしまう。いや、これは試練だ。そんな事で折れてる場合じゃない。
「俺は外村という生徒は知らないが、よほどの自信があるみたいだな。お前の推薦か?」
「いや、本人の希望だ。俺はDクラス生徒全員の得意不得意の把握なんて出来ないからな」
嘘か本当か分からない綾小路の言葉を聞き流し、適切に人材を配置する。ミスを一箇所だけ伝えたものの、基礎的な能力に差があったのか、あと一歩のところで及ばなかった。このままDクラスの種目しか選ばれないようなら、勝ちの目はもうないな。
『古文テスト』 必要人数8人 時間50分
ルール 1年度における学習範囲内の問題集を解き合計点で競う
司令塔 1問だけ代わりに答えることが出来る
次の種目はようやくAクラスの選択の種目。もちろん、綾小路たちも対策をしているとは思うが、必要な人数は8人。そこまでの人数の古文が出来る人をDクラスは用意出来ない。そして、一見遊びに見える他の種目も頭が回らなくちゃ勝てない。
「他に学力的な種目が無い以上、お前が出来るのは勉強が得意な生徒をここに全て投入することだけだ。だけど、それでこの先乗り切れるか」
「無駄な揺さぶりだな」
綾小路が選んだのは堀北や平田などのオールラウンダーを除いた勉強が出来る面子ばかり。運も範囲さえ良ければ、点数でAクラスを越すことが出来るだろう。だが、Aクラスは古文の勉強だけをしてきた。他の科目と両立してきた奴らに負けることはない。
「堀北や平田、櫛田なんかも入れれば勝てた勝負だっただろうな」
「あいつらにはあいつらの役割がある。ここじゃない」
綾小路が淡々としているせいで勝ったにも関わらず、嬉しさが半減してしまっている。……やっぱり、綾小路という人間を知ることは不可能なのか? そう思ってしまうほど、あいつはこんな場面でも不気味だった。
『インディアンポーカー』 必要人数3人 時間20分
ルール 一般的なルールに基づき3回勝った者が属するクラスの勝ち
司令塔 一度だけ他の生徒の数字を一人に教えることが出来る
ようやく選ばれた綾小路にも対策しずらいであろう娯楽のスポーツ。綾小路は長い間ホワイトルームの中に居た。ならばこそ、その娯楽のルールも分からず、理解する方に時間をかけなければならないので勝機は他の種目よりは高い。
「迷ってるみたいだな綾小路」
「まぁな。だから、ここは櫛田に任せようと思う」
言葉通り櫛田をメンバーに入れてきた綾小路。櫛田は洞察力が高いだろうから、強敵になるだろう。だが、こっちのメンバーはこの種目だけをずっとやってきてコツも分かっている。負けはしないさ。そして、俺の願いと予想通り、事前に合図などを決めていたこちらのクラスが圧倒的な勝ちを拾った。そもそもそんな事をしてはいけないとルールには無いからな。綾小路に勝つためならこれくらいはしなきゃ。
「こっちの圧勝だったな。ここからでもお前は俺に勝てるのか?」
「ああ。今回でそっちのやり口は大体分かった。立てれる対策はするさ」
まただ。こいつはいつも余裕な態度を崩さない。多分、自分にもっとも身近な人が退学してもこいつはこの態度なのだろう。何なんだよ。……真澄の退学で心がボロボロになった俺は何なんだよ。
『ブラックジャック』 必要人数1人 時間合計30分
ルール 3度の勝負で競い合う
司令塔 一度だけ司令塔の意思でカードをもらえる
4戦を経て現在は2勝2敗。そして、選ばれたのはこちらの競技であるブラックジャック。これも先ほどの種目と同じようにこちらも事前に訓練している。そう簡単にはやられない。この競技でこちらから出るのは橋本だ。本人から志願したのが大きいが、橋本ならまぁ得意分野だろ。
「綾小路。何故高円寺を選んだんだ?」
「……勘だ。だが、高円寺ならこういうのが得意だと思うからな」
高円寺。あいつは俺のことをよく知っていた。そして、俺が何をするのかを楽しみにしていた。それは不愉快なことに他ならないが、あいつはあいつなりに迷わない芯を持っていた。それだけは見習いところだ。
「……よく話しているな」
「そうだな。俺たちも見習った方が良いな」
雑談を挟みながらも橋本と高円寺はブラックジャックを進めていく。その様子は本気の試験をやっているようではなく、本当に遊んでいるような様子だった。しかし、それにしても橋本は勝っているみたいだ。いや、いつものように高円寺が手加減しているのか? そのままいつの間にか勝負は終わっており、橋本が勝負を収めていた。勝った気持ちは薄いが、まぁいいか。
「後、2戦だ。俺が何を思ってるか分かるか綾小路」
「分からない。だが、お前が何を望んでいるかは大体分かる」
俺が思っていることを本当に分かっているように綾小路は俺の目をゆっくりと見つめる。こいつなら、本当に分かっているんだろうな。だが、それでも構わない。勝てるのならば、それでも。
『水泳』というDクラスが選んだ競技ではやはり言ったところか、Dクラスが勝利をし、Aクラスは3勝3敗という結果になっていた。残すところはあと一戦。ここで負ければ俺は退学をすることになるが、不思議と憎い気持ちや悔しいと言った気持ちが思っていた以上に出ていなかった。それが何故なのかは分からなかった。
『ダーツ』 必要人数1人 時間1時間
ルール 15ラウンドのクリケットで競い合う
司令塔 任意のエリアを任意のタイミングで1度変更することが出来る
「やっとだ。ここで決着をつけよう綾小路。俺が出す人間は決まっている。お前も出す奴は決まってるだろ?」
「ああ。俺が出すのはお前と同じで一番信頼出来る人間だ」
俺が選択するのはもちろん康平。そして、綾小路が出すのはもちろん堀北。お互いに信頼出来る人を最後に出してきた。これこそ、俺の望んできた景色。綾小路に対して真澄との思い出があるダーツで仕留める。これが俺が真澄に出来る最大の手土産だ。
ゆっくりと始まっていくダーツ。ルールをクリケットにしたのは少しでも戦略性を持たせ、綾小路に勝利した時に喜びを大きくする為だが、序盤は康平に任せても良いだろう。そのままこちらの空間でもダーツが行われている空間でも最低限の会話だけで進んでいく。康平と堀北のダーツの実力はどちらとも大きく差がある訳では無く、狙ったところにはほとんど当たっているぐらいだった。
「……そこだ康平。それで良い」
5ラウンド経て、互いにオープンしたエリアは2つずつ。初心者に毛が生えた程度してはこれくらいが充分か? 点数は康平が僅かに勝っているが、僅かだ。全然逆転される恐れもある。そして、まだブルのエリアも残っている。まだ勝負は分からないか。
「ここで!? 何でだ……いや」
「……」
綾小路はブル以外のエリアを全て閉じる。何故だ、何でこんな使い方をするんだ? 堀北はまだ一度しかブルのエリアに当てておらず、他エリアにはもう少しでオープンやクローズに出来るエリアもある。何故、ここでこれほど賭ける必要が。
その綾小路の意図が読めたのか、読めていないのか、堀北は持ち時間ギリギリまで悩み、そして投げる。当たった。ブルの中心。ダブルブルだ。……何でここまでのことが出来る? 堀北を信じたのか? あの綾小路が? ここで当てられるのだと? 何でホワイトルームで過ごして来たこいつが人を信じられるんだ。
「ありえないだろ」
これで堀北と康平の間には大きな差が開いた。だが、焦るな。焦る必要はない。康平だって着実な場所を狙い、堅実な結果を残している。ここで俺が司令塔の権利を……権利を……使えば。使えるのか? 俺に。綾小路ほどの手を打てるのか? 無理だろ。
「20をオープンに……後はブルもオープンに。他はクローズで」
結局のところ、俺は保険を打ってしまった。もうすぐオープン出来る20を狙うつもりで開けたが、綾小路に負けたくなくてブルも開けてしまった。これじゃあ、中途半端だろ。もっと、計画した段階では色々な方法を考えていた。なのに、これじゃあ、俺と綾小路の差が明らかに。
「康平。もうお前だけだったよ。この学校で信用出来るのは」
康平は見事に20をオープンすることが出来たが、先ほどブルを当て、調子づいた堀北を上回ることは出来ずにズルズルと点数が離されていく。そして、15ラウンドが終了する。結果は……敗北……俺の退学が決まった。
「ああ。負けたのか。俺は……負けたのか。……綾小路。お前の勝ちだ」
「そうだな」
やめろ、やめろ。何だその顔は何の感情も動いてないその顔は。俺にそんな顔を向けるな。やめてくれ。俺の人生が、俺のこの一年が何も無いものになるじゃないか。俺との勝負はそんなにも。
「……俺は退学だ。なのに俺はお前の感情を何も動かせず、お前の記憶にも残らない。……俺の復讐は一体なんだったんだろうな。」
「さぁな。もう俺のことは忘れて普通に生きたらどうだ」
「……努力はするさ。だが、無理だろうな。お前の父親が生きている限り」
俺は負けたんだ。綾小路に負けたのだ。この綾小路清隆への復讐の物語は終わったんだ。
淡々とした勝負になりました
あとは幕間と後日談を挟んでこの小説は終わります
もし、神室がダーツをしていたのならば、勝てたのでしょうか