ご注文はうさぎですか?―ラビットハウスの看板姉弟― 作:テクト
ある日のラビットハウス。
チノは客の側でコーヒーカップを手に取りながら会話をしている。
「チノちゃん何してるのかな?」
「コーヒー占いだよ。チノの占いはよく当たるんだ」
「ほっほー!お天気占いがよく当たる私と張り合うとは、中々やるねぇ!」
「何で勝負になってるんだ…」
「占いでも全然違うと思います」
コーヒー占いとお天気占いで張り合うとは一体っと雪兎はココアの発言に呆れている。
チノが客の占いを終えて戻ってきたところで、ココアが尋ねる。
「さっきのコーヒー占いってどうやるの?」
「やり方自体は簡単ですよ。まず、コーヒーを飲み干します。次に、カップを逆さにしてソーサーに被せます。そうやってカップの底にできたコーヒーの模様で運勢を占うんです。これがコーヒー占いこと、カフェドマンシーです」
「爺ちゃんのカフェドマンシーがすごい評判でして、怖いぐらい当たるってお客さんの間でも噂になってました」
「私はカプチーノしか当たりません。雪兎は当たるには当たるんですが、ろくでもないことばかり当たってました。なので永年禁止令が出ています」
「ろくでもないって、具体的にどんなことなんだ?」
「…思い人からの気が渦巻いていると見たら、その夜恋人と大ゲンカになったとか、火の気が見えるといったら、その人の家がすでに燃えてたりとか」
「思った以上にシャレにならない!」
「…なので僕はもう全然やってないですね」
「はい。看板息子のコーヒー占いは破滅をもたらすとか言われてました…」
「やめて姉ちゃん。そのネタ掘り起こすの…」
雪兎は遠い目をしているし、チノも擁護のしようがないと諦め顔だ。
「雪兎くんのはともかく…、チノちゃんは十分すごいよ!う~ん!私もやってみたい!」
4人と一匹分のコーヒーを入れると全員で飲み干し、さっきの手順を行う。
ココアはそれぞれのカップを手に取り運勢を見始めた。
「チノちゃんは…、空からうさぎが降ってくる模様が浮かんできたよ!」
「そうは見えませんが…、ほんとだったら素敵ですね」
「リゼちゃんは…、コインがたくさん見える!金運がアップするのかな?」
「おお~、欲しかったものが買えるかなぁ」
「雪兎くんは…、お米の模様かな?美味しいものが食べられそうだよ!」
「へぇー。近くに美味しいお店でも出来たのかな。今度、探してみよう」
「ティッピーは…、セクシーな格好でみんなの視線を釘付けだよ!」
ティッピーはチノの頭の上でゆらゆらと動くとやる気に満ちた表情を見せる。
「あれ?どうしたの?」
「ティッピーも占いたいようです」
「えっ」
雪兎は思わず声を出してしまったが、ココアとリゼにはバレてないから大丈夫みたいな顔でティッピーがこちらを見る。
「おおっ!どっちが当たるか勝負だね!」
「大丈夫かな…」
祖父のコーヒー占いは本当によく当たる。
それは良くも悪くもだ。
不吉な予感がしなくもない雪兎は少し心配になっている。
ティッピーがコーヒーカップを見て占いを始める。
「ココアの明日の運勢は…、雨模様!というより、水玉模様。外出しないのが吉じゃ」
「だって」
「いや、お前の運勢だから」
なぜかココアは結果をリゼに言う。
チノはお盆で口を隠して、腹話術に見せかけている。
(だからなんでバレないの…)
明らかに声が出てる方向とチノの位置が違うはずなのだがバレていない。
続けて、ティッピーはリゼのカップを見始める。
「ではリゼの運勢も。…おお!リゼは将来、器量のある良き嫁となるじゃろう」
「私が!?まさかー」
ティッピーに褒められて満更でもないリゼだったがティッピーの占いの結果は続く。
「昨日は夕食後、ティラミス1つじゃ足りず、キッチンに侵入した」
図星だったのかリゼの表情が固まる。
「実は甘えたがり。褒めると調子の乗りおる。適当に流すのが無難――ぎゃーーー!!」」
矢継ぎ早に繰り出される恥ずかしい内容に、リゼは耐えきれなくなり、ティッピーにチョップを叩き込む。
「この毛玉め!ただの性格診断じゃないかーー!!」
「…当たってるんだ」
リゼの反応にココアは思わず声に出してしまうのであった。
―――――――――――――――――
次の日の学校の昼休憩。
雪兎たちはいつも通りに机を囲っていた。
「そういえば、チノが今朝言ってた、えーと、ねくろまんさー?ってなんだ?」
「え?」
「ネクロマンサーは、死者や霊を使う呪術者のことだよ。チノさんが言ってたのはカフェドマンシーだよ」
「そうそう、それそれ」
リクのゲームからと思われる明後日の方向の認識に、しっかり突っ込みを入れるカケル。
「簡単に言ったら、コーヒー占いの事。飲み干したカップの底の模様で運勢を占うんだ」
「はぁー、占いねぇ。女子が好きな奴だろ」
「雪兎くんはカフェドマンシーができるの?」
「出来るよ。…けど、これが大体ろくなことにならなくてねぇ…」
雪兎は大きくため息をつくとそのまま机に突っ伏す。
カケルとリクは雪兎の様子に首を傾げる。
「たかだか占いだろ?占ってもらったやつが信じる信じない次第じゃないのか?」
「そうだといいんだけどさぁ…。僕の場合、信じる信じないってレベルじゃないんだよねぇ」
「どういうこと?」
「例えばさ、あなたに火の気配がします。火の元に気をつけましょう。って言われたらどうする?」
「「は?」」
雪兎の質問に、声を合わせてしまうリクとカケル。
二人は顔を見合わせてるとすぐに向き直る。
「そりゃお前、出かける前に多少気を付けるくらいじゃないか?ガスの元栓閉めたとか」
「ストーブの切り忘れとか」
「普通そうだよね。当日以降に起こることだと思うよね」
雪兎の返答に二人は一瞬固まり、合点がいったのか顔が青ざめる。
「…まさかと思うが」
「…すでに燃えてるとか?」
「…ピンポーン」
雪兎のひたすらに気の抜けた正解音を模した声が響く。
「…お前、まさか昨日」
「…大丈夫、家族全員から永年禁止令出てるからここ数年やってない。話題になっただけ」
「…うん。やるべきじゃないね」
親友の意外な特技に戦慄するリクとカケルだった。
―――――――――――――――――
放課後。
「じゃあなー。カフェドマンシーやるなよー」
「雪兎くんまた明日ー。占いはやらないべきだよー」
「わかってるから掘り返すなっ!また明日!」
リク、カケルと別れて帰路に着く雪兎。
クラスのホームルームが長引いたため、チノ達は先に帰っている。
二人の背を見送り、歩き出そうとしたとき、視界の端から黒い物体が猛スピードでこちらに向かってきていた。
「うわっ!?ってあんこ!?どうしたの?こんなところで」
雪兎は飛びついてきた黒い物体、あんこをキャッチする。
「「待ってー!」」
あんこの走ってきた方向から見慣れた二人の女性が走ってくる。
「ココア姉ちゃん?千夜さん?」
「はぁっ、はぁっ、やっと追いついた~。あんこが急に走り出して、何事かと思ったら、雪兎くんの事見つけたんだね。男の友情健在だね!はぁっ」
「ココア姉ちゃん大丈夫ですか?」
「私は平気だよっ!はぁっ。お姉ちゃんだからね!はぁっ、はぁっ」
「いや、思いっきり息が上がってますよ。それに頭ちょっと濡れてますよ?」
息が上がっているが強がるココアに思わず笑みがこぼれる雪兎。
しかし、よく見るココアは汗とは別に頭と服が少し濡れていた。
「あ、これは…、ちょっとね」
「タオルありますから使ってください」
雪兎はタオルを取り出しココアに手渡す。
「ありがとう!さすが私の弟だね!」
「また姉ちゃんに突っ込まれますよ」
雪兎は私の弟です。もはやいつものやり取りとなっているチノの突っ込みが聞こえてる来るような気がした。
「…はぁっ、…はぁっ、も、もう走れない~…」
ココアに少し遅れて、千夜が追い付いてきたが息は絶え絶えになっている。
「千夜さん大丈夫ですか?」
「…はぁっ、…はぁっ、…ちょ、ちょっとだけ休ませてぇ~…」
千夜が座り込んでしまいそうだったので、3人は近くのベンチに移動する。
雪兎は自動販売機で水を買うと蓋を開けて、千夜に手渡す。
「お水です。ゆっくり飲んでください」
「…あ、ありがと~」
千夜はゆっくり水を飲み始める。
「そうだ!雪兎くんもこれからフルールに行かない?」
「フルールですか?」
「うん!千夜ちゃんと一緒に行こうって話してたんだ!」
「ココアちゃんにご馳走しようと思ってね。雪兎くんもご馳走するわ」
「え、いいんですか?」
「もちろんよ。あんこと仲良くしてくれてるからそのお礼よ。あんこも雪兎くんといると機嫌がいいみたいなの」
「では、お言葉に甘えて。お願いします」
「それじゃみんなでレッツゴーだよ!」
―――――――――――――――――
「な、なんてもの連れてきてるのよー!?やめてー!こっちこないでー!」
フルールに着いた一行が、バイト中のシャロから浴びせられた第一声は悲鳴だった。
「がーん!私、そんな不幸オーラ出てたんだ…」
ココアはシャロの反応にショックを受けているが、視線は頭の上のあんこであった。
「シャロちゃん、小さい頃にあんこによく齧られて以来、ちょっと恐怖症で」
「もしかして、シャロさんのうさぎ嫌いって…」
「なんだ、あんこの方か」
シャロの反応がココアの不幸オーラでなかったことに胸をなでおろすが、ココアの頭の上からあんこがシャロの顔に飛びつく。
「きゃー!?」
あんこに飛びつかれたシャロは混乱してグルグルと回転している。
「ちょっとってレベルじゃないよ!?」
「相当ですよねこれ!?」
シャロが落ち着いたところで三人は席に案内される。
「お待ちどう様」
注文の品をシャロが持ってくる。
三つのハーブティーと二つロールケーキだ。
シャロの頭にはあんこが乗っており、シャロのうさ耳を齧っている。
「わぁ~い♪」
「千夜さん、ご馳走になります」
「ええ、召し上がれ♪」
ココアは笑顔でロールケーキを食べ始める。
「こいつが来るなんて…、今日はついてない」
シャロが後ろで漏らした言葉に、ココアの顔が青ざめる。
「ついて…ない…」
「せっかくココアちゃんが忘れかけてたのに!ついてないなんて言っちゃダメッ!」
「んあっ!?」
千夜が声を荒げてシャロを叱るが、シャロは身に覚えがないため変な声が出ている。
(よくわからないけど、めんどくさい…)
千夜とココアの様子に疑問を思った雪兎は千夜に耳打ちをする。
「何かあったんですか?」
「それがね…」
千夜が今日の出来事の一部始終を話す。
「それは、…また」
雪兎は話を聞いて、あまりの悲惨さに同情の念を抱く。
が、ココアの身に起こったことについてはどこかで聞いたような内容だった。
(…まさか、ね?)
昨日の出来事を思い出す。ココアの身に降りかかっていることが占いとほぼ同じことを。
「そうだ。雪兎くん、私、手相を見られるの。見てあげようか?」
「手相ですか?あ、では、お願いします」
雪兎が手を差し出すと千夜は雪兎の手のひらを見始める。
「やっぱり男の子の手って、少しごつごつしてるのね」
「そ、そうですか?」
「ココアちゃんとはだいぶ触った感じが違うわ」
ちょっと気恥しくなってきたのか雪兎の顔が赤くなる。
「ふふっ♪えーと、雪兎くんの相は…、異性からモテる相があるわね…」
「えっ」
「それに、…女難の相も見られるわ。これは大変ね♪」
「女難!?」
「雪兎くんしっかりしてるし、真面目だから違うんじゃないの…?」
「そういう子ほど、女の子に振り回されるものよ~?」
「え、そ、そうなんですか…?」
「わ、私に言われても…、ま、まぁ、困ったことがあったらいつでも相談に乗ってあげるから」
「シャロさん…!ありがとうございま――はっ!?」
「…どうしたの?」
女難と言われ雪兎はある事を思い出す。
シャロがラビットハウスに来た日の事を。
そして姉がいるとはいえ女の子5人と一緒に寝泊りしたことを。
(まさか、あれが女難!?)
冷静になって考えてみる、男一人に女の子5人という状況はあまりに普通ではないのでは?
そもそもココア姉ちゃんが来てから、どんどん周りに年上の異性が増えてきて…。
異性にモテる…女難…!
グルグルと頭の中で思考が回り始めて収拾がつかなくなってくる。
「大丈夫?顔真っ赤になってるけど」
「だ、だだだだ大丈夫です!な、ななななんでもないですからっ!!」
「んん?」
「あらあら♪」
落ち込みながらもロールケーキを食べていたココアがこちらに気づく。
「どうしたの雪兎くん?顔真っ赤だよ」
「なんでもないんですってばっ!」
「へぇ?」
いつもと様子が違う雪兎の返事に、素っ頓狂な声を出すココアだった。
―――――――――――――――――
食事を終えた三人は会計を行っていた。
「はい。お釣り」
シャロがお釣りを千夜に渡そうとしたところで、千夜がシャロの手を取る。
「ふぇ!?な、何よ!?」
「シャロちゃんの手相も見てあげる。えーっとぉ、片思い中で、しかも全く相手に通じない相があるわ。障害だらけの相ねぇ…、あと、金運がひど――」
「これ以上言うなぁーーー!!」
シャロの表情がころころと変わっていくが、金運のところで耐えられなくなったのか、全力でお釣りを千夜に投げつけるが…。
「っくしゅん!」
「あっ…」
千夜が完璧なタイミングでくしゃみをしてお釣りを躱すと、後ろにいたココアの額に直撃した。
―――――――――――――――――
千夜と別れ雪兎とココアはラビットハウスに帰ってきた。
チノとリゼはすでに制服に着替えている。
「チノちゃん、リゼちゃん!私の占い当たってた?」
「え?」
リゼはチノと顔を見合わせる。
「…いや、別に何もなかったけど?」
リゼの回答にココアは肩を落とす。
「そっかぁ~。私、空からあんこが上から降ってきたり、スカート捲れちゃったり、シャロちゃんにお金ぶつけられたりして大変だったよ…。でも、雪兎くんと一緒にフルールのロールケーキを千夜ちゃんにご馳走してもらったんだ!だけど、占い勝負はティッピーの勝ちだねぇ…ってどうしたの?二人とも」
リゼとチノ、ティッピーはココアの話を聞いて顔をしかめている。
「…今後、占いはやめた方がいいぞ…。自分のために」
「なんで!?」
「…っで、雪兎はどうして顔を伏せてるの」
「…何でもない」
いつもと様子の違う弟に首を傾げるチノだった。
コーヒー占い編でした。
雪兎くんのカフェドマンシーは厄災級の破壊力となりました。
そして女難の相はある種の定番ですねw
本編で高校の場面はできるだけ中学組に置き換えてオリジナルにしてますが、何度も同じような感じになるとマンネリ化しないか不安です。