ご注文はうさぎですか?―ラビットハウスの看板姉弟―   作:テクト

12 / 34
第4羽後編です。
最後の方がオリジナルかつシリアス気味なのでちょっとご注意。


ラッキーアイテムは野菜と罪と罰―3

休日のある日。

雪兎、チノ、ココア、千夜、シャロの5人は町の図書館に来ていた。

町の雰囲気に漏れず、図書館も西洋風の建物となっている。

 

「わぁ~!この図書館大きいねぇ!」

 

「どこに連れていかれるのかと思ったら…」

 

「ここに来るのも結構久しぶりだなぁ」

 

「あそこら辺でいいかしら」

 

「うんうん♪眺めもいいし!」

 

窓際のテーブルを5人で囲む。

 

(そういば、また女の人ばかり…、いや、気を付ければ大丈夫大丈夫…)

 

雪兎は先日の手相占いの件を思い出すが、大丈夫だと心に言い聞かせる。

 

「勉強しに来たんじゃないんですか」

 

「チノちゃんと雪兎くんはどうして図書館に?」

 

「小さいころに読んだ本をもう一度読みたくて」

 

「僕はその付き添いです」

 

「ふーん」

 

「でも、タイトルが思い出せないんです」

 

チノは手を頭に当てて、思い出そうとしているがどうしても思い出せないようだ。

 

「内容は覚えてるの?」

 

「えっと…。正義のヒーローになりたかったうさぎが、悪いうさぎを懲らしめるんですが、関係ないうさぎまで巻き込んで大変なことになるんです」

 

「…あ~、なんか昔に読んだ記憶があるような…?」

 

雪兎も読んだ記憶があるがあまり印象に残っていないようだ。

目を輝かせているチノの本の説明がどんどんヒートアップしていく。

 

「さらに主人公を追ううさぎまで現れて!途中で戦ったりするんですけど――」

 

(((そんなに憶えてるのに、また読みたいんだ…)))

 

熱弁するチノに3人の感想が一致する。

 

「そういえば、チノちゃんと雪兎くんもテスト近いって言ってたよね?」

 

「それなら、シャロちゃんに教えてもらったら?」

 

「「シャロさんにですか?」」

 

「ええ!特待生で、学費が免除されるくらい優秀なの」

 

「えぇー!すごぉい!」

 

千夜の紹介にシャロの顔が少し赤くなっている。

 

「美人で頭までいいなんてっ…!」

 

「非の打ちどころがないですっ…!」

 

「眩しい!」

 

「…」

 

ココアとチノは、手で顔を覆っているが、雪兎は微妙な表情をしている。

 

「そ、そんな」

 

「おまけにおじょうさまだなんてかんぺきすぎるわ。まぶしー」

 

「……」

 

明らかに棒読みで二人のように顔を覆っている千夜だが、指の間から目が見えている。

そんな千夜の様子にシャロの顔が引き攣っている。

それぞれが勉強道具を用意しているところで雪兎がシャロに尋ねる。

 

「そういえば、シャロさんに聞きたいことがあるんですが」

 

「何?」

 

「この間、スーパーの特売の時にシャロさんと同じ学校の制服を着てて、くせ毛の同じくらいの背丈の人が、ものすごい身のこなしで商品を獲得していくところを見たんですけど、もしかしてシャ――むぐっ!」

 

「すとーっぷ!!」

 

雪兎の質問を物凄い勢いでシャロが遮る。

 

「ききききっと、わわわ私に似てただけでべべべ別人よ!ね!ね!?ね!?」

 

「え、あ、はい」

 

物凄い剣幕で否定してくるシャロにこれ以上踏み込まない方がいいと悟る雪兎。

 

「どうしたの二人とも?」

 

「ななな何でもないのよ!あははは」

 

ココアが疑問に思うがそれを必死にバイトで鍛えた愛想笑いで誤魔化すシャロだった。

 

「それじゃココアちゃん。今日はよろしくね」

 

「うん!」

 

「え?千夜が教えてあげるんじゃないの?」

 

ココアに勉強ができるイメージがないと思っていたシャロが尋ねる。

 

「違う違う。私がココアちゃんに教えてもらうの」

 

「嘘でしょ!?」

 

割と失礼な叫びをあげるシャロ。

 

「私、数学と物理が得意なんだ」

 

「ああ見えて、理数系は強いみたいです」

 

「それなら、ココアがチノちゃんと雪兎くんに教えてあげればいいんじゃない?」

 

「う~ん。…私、総合順位で言えば、平均くらいだし…」

 

「そんなに足を引っ張ってる科目があるの?」

 

「…これ」

 

そう言ってココアが見せたのは文系全般の答案用紙だった。

点数は文句なしの赤点である。

 

「文系が絶望的!」

 

「…本は一杯読むんだけどね」

 

「ココアさんは教え方があれなので頼りになりません」

 

「独特というか…、なんというか…」

 

「あれ!?独特!?」

 

下二人の辛辣な評価にココアが涙目になる。

 

「そうなの?分かりやすいのに」

 

「千夜さんはきっと波長が合うんです」

 

「仲良しだもんね~♪」

 

「ね~♪」

 

ココアと千夜は笑顔でお互いの手を合わせている。

 

「ほっといて勉強しましょ、チノちゃん、雪兎くん」

 

「「はい」」

 

シャロとチノと雪兎、ココアと千夜の組み合わせで勉強会が始まる。

 

「この問題は、さっきの答えをここに当てはめて」

 

「わぁー、シャロさんの教え方、すごく分かりやすいです!」

 

「嬉しい!チノちゃんみたいな妹が居たら、毎日だって教えるのに」

 

「はう!」

 

チノとシャロのやり取りにショックを受けるココア。

 

「シャロさん、ここの問題なんですけど、見てもらえますか?」

 

「どれどれ?…これは、ここの計算を先にやって、こっちに当てはめるの」

 

「おおー!なるほど!確かに分かりやすいです!」

 

「ふふ♪ありがとう♪雪兎くんみたいな素直な弟も居たらよかったのに」

 

「ぐは!」

 

さらに雪兎とシャロのやり取りでココアはダメージを受ける。

 

「私も、シャロさんみたいな姉が欲しかったです」

 

「あ、その言い方は…」

 

「私要らない子だぁーーー!うわぁーーーーーーん!!」

 

雪兎の予想通り、チノの発言にココアは泣きながら机に突っ伏す。

 

「図書館では静かに…!」

 

「チノちゃんは将来、私たちの学校とシャロちゃんの学校、どっちに行きたい?」

 

「チノちゃんにはセーラー服の方が似合うよ!」

 

「ブレザーの方が絶対可愛いわよ」

 

「私は袴姿がいいと思うの」

 

「いつの時代よ…」

 

チノの進路先の話になったが、なぜか制服が似合うかの話しになっている。

 

「袴はともかく、そろそろ決めないといけませんよね。悩みます」

 

「雪兎くんは進路考えてるの?」

 

「僕ですか?」

 

「男の子だと、私たちの学校か、近くの男子校になるわね」

 

「うちの学校はブレザーだったよね?」

 

「男子校は学ランじゃなかったかしら」

 

「…雪兎に学ランは似合わなさそう」

 

「なんで!?」

 

「だって、雪兎は背が低いし…」

 

チノが想像しだすと同時に周りの3人もイメージする。

背が低く、顔立ちも幼い感じの雪兎が学ランを着る姿がどうやっても服に着られてるようにしか見えない。

 

「…雪兎くんってどっちかというと可愛らしい顔つきだし」

 

「髪の毛伸ばしたら、チノちゃんと見分け着かなくなりそうよね」

 

「ギャップ萌えってやつだね!」

 

「高校入る頃には今よりも背が伸びますから!」

 

周りからの散々な評価に落胆する雪兎。

 

「でも、将来のことを決めるのは難しいわよね」

 

「将来かぁ。…私はパン屋さんか、弁護士さんになりたいな」

 

ココアは将来の自分の姿をイメージする。

 

『私、ココア。街の国際弁護士』

 

「なんかおかしい!」

 

「街の国際とは…」

 

ココアのイメージに突っ込みを入れるシャロ。

 

「あ、ちょっと間違えちゃった。やりなおし」

 

ココアは再びイメージする。

 

『私、ココア。街の国際弁護士よ』

 

先ほどのイメージと違い妙に大人びたスーツ姿のココア。

 

「頭身の問題じゃなくて!」

 

「立派な夢ね!ココアちゃん!」

 

「えへへ~♪」

 

シャロの突っ込みも気に留めず千夜と手を合わせるココア。

 

「千夜ちゃんの夢は?」

 

「私は、自分の力で甘兎をもっと繁盛させるのが夢!」

 

「私も、家の仕事を継いで、立派なバリスタになりたいです」

 

「バリスタもかっこいいねぇ!」

 

「チノちゃんならなれるわよ」

 

(私はとりあえず…、今の貧乏生活から脱却したい…)

 

「決めた!私、街の国際バリスタ弁護士になるよ!」

 

「街の国際から離れてください」

 

もはやココアの夢は混ざりすぎてよくわからないことになっている。

 

「雪兎くんの夢は?」

 

「僕、ですか…?」

 

「雪兎くんも、チノちゃんと一緒に家を継いで、ラビットハウスを大きくすることかな?」

 

「あ、そ、そうですね!はい!」

 

「…?」

 

雪兎の歯切れの悪い回答に、チノは顔をしかめるのだった。

 

―――――――――――――――――

 

時刻は夕暮れ時となり、勉強会はお開きとなった。

チノは当初の目的であった、昔に読んだ本をココアと雪兎と共に探しに行き、机には千夜とシャロが残っていた。

 

「どこかなぁ。チノちゃんの本」

 

「これだけ本が多いと、探すのは大変そうです」

 

「大きな図書館ですからね。蔵書量もすごいし」

 

途方もない数の本を内容の記憶だけを頼りに探すのは困難だろう。

3人は図書館の中をとにかく探していた。

 

「正義…、悪…、はっ!」

 

顎に手を当て考えていたココアが突然声を上げる。

 

「本のタイトルわかったかもー!」

 

「「本当ですか!?」」

 

「今まで気づかなかったけど、私とチノちゃん、本の趣味が会うのかもしれないね!」

 

そういうとココアはチノに手を差し出す。

チノがその手を取ると同時にココアが駆け出す。

 

「図書館で走ったら危ないですよ!」

 

雪兎は駆け出した二人の後を追った。

一方、机に残っていたシャロは机に突っ伏し、千夜はシャロを見ていた。

 

「私が千夜たちと同じ学校だったら…、どうなってたんだろう」

 

「…今の学校。後悔してるの?」

 

「…せめて、せめてリゼ先輩と同じ学年だったら…」

 

(ほんとにしてた…)

 

幼馴染の反応に苦笑いを浮かべる千夜。

 

「…正直、窮屈よね。学費免除が理由でエリート学校に入れても。私なら、周りがお嬢様だらけで気を使って疲れちゃう。…でも待って、…もし、シャロちゃんが私たちと一緒の学校だったら…」

 

「…だったら?」

 

「人数合わせ的に、私とココアちゃんが違うのクラスになってたかも!?そんなの困るわ!」

 

「ぐさぁっ!」

 

千夜の言葉の刺がシャロに思いっきり突き刺さる。

 

「…なーんて、冗談♪」

 

「い、いい加減からかうのはやめてよ!」

 

「シャロちゃんだって、ほんとは分かってるんでしょ?」

 

「…」

 

「学校以外だって、こうして会えるんだもの、私たち、大人になってもずっと一緒♪」

 

「っ!」

 

シャロは泣きそうな表情をするが顔を伏せて隠す。

 

「…シャロちゃん?」

 

「ほんとに、そうなのかな…」

 

「え?」

 

「…だって、あいつみたいに、突然いなくなっちゃうことだって」

 

「…」

 

「…ココアを見てると、思い出しちゃうの。性格は似てないけど、あいつがもし居たらあんな感じなのかなって…」

 

「シャロちゃん…」

 

シャロは思い出す。

もう一人の幼馴染の事を。

男の子のように活発で、二人をぐいぐい引っ張って振り回してきた少女を。

三人同い年で、まるで姉妹のように育ってきた。

そして、小学生の頃にやってきた突然の別れ。

 

「…あの子は、ご両親のお仕事の都合だもの。仕方ないわ」

 

「で、でも、最近は帰ってこないじゃない!もう3年も!」

 

「あの子が今、必死に頑張ってるのはシャロちゃんも知ってるでしょ?ここに帰ってくるだけでも大変なのに、小学生の頃は毎年会いに来てくれてたじゃない」

 

中学に上がってから彼女は帰ってこなくなった。

届いた手紙には、帰れなくてごめんと書いてあった。

自分の夢のために、彼女が必死で勉強していることはシャロも知っている。

 

「大丈夫。きっとまた会えるわ」

 

「何を根拠に…」

 

「幼馴染の勘…かしら♪」

 

「何よそれ」

 

一方、ココア、チノ、雪兎は三人は、ココアが分かったというチノの本を取りに向かっていた。

 

「確か…、ここに…」

 

ココアは脚立を登り、本を探す。

 

「あっ、あったよ!」

 

「やりましたね!」

 

「おおー」

 

「えへへ~♪ちょっとは頼れるお姉さんになれたかな?」

 

「だってさ、どう?姉ちゃん」

 

「ココアさん…」

 

チノはココアから本を受けとる。

 

「見つかってよかったねぇ♪」

 

上機嫌なココアとは裏腹に本を手に固まるチノ。

 

「…ココアさん」

 

「姉ちゃん?」

 

チノが全く喜んでいない様子をみて訝しむ雪兎。

 

「これじゃない!」

 

「罪と罰…ってどこからこれが出てきたんですか!?」

 

その後、司書さんに聞いて目的の本は無事に見つかった。

 

―――――――――――――――――

 

図書館を後にした5人は帰路に着く。

ココア、シャロ、千夜の3人は楽しく談笑しており、その後ろに雪兎とチノが続く。

 

「…雪兎」

 

「何?」

 

「夢の、話なんだけど…」

 

「…」

 

チノの言葉に、沈黙する雪兎。

チノは雪兎が、自分と同じで家を継ぐと思っていた。

だが、雪兎は自分ではそう言わなかった。

そのことが、チノの中では引っ掛かっていた。

 

「…雪兎は、どうしたいのかなって思って…、その…、さっきは誤魔化したよね…?」

 

「…正直に言うとわからない」

 

「え?」

 

雪兎は空を見上げ、どこか遠い目で彼方を見る。

 

「僕も漠然と思ってた。家を継いでここでずっと暮らしていく。そうなるんだろうなって。…でも、このままでいいのかなって思うんだ」

 

「どういうこと?」

 

「姉ちゃんにはバリスタになるっていう夢がある。だから家を継ぐ。日々の接客からバリスタとして研鑽を積んで、爺ちゃんや父さんといった師といえる人たちがいる。夢に向かって進む道をきちんと歩んでいる。…なら僕は?僕はどこに向かっている?」

 

「雪兎…」

 

「バリスタになりたいわけでもない。ただただ、今の環境を惰性のまま過ごしているだけじゃないかって…。だから、進路を考えるときに思うんだ。このままでいいのかって…。何の目的も持たずに、ただこの街に居座り続けるだけでいいのかな」

 

チノから見た雪兎の背中は、今にも消えてしまいそうなくらいに儚く見えた。

夢に向かって突き進んでいるチノに比べ、夢が分からず、ただ日々を過ごしてしまっている雪兎。

こんなにも弟が悩んでいることを姉は知らなかった。

いつも一緒にいたのに、笑い合って、喧嘩もして、些細な事で張り合って、この13年間、誰よりも側にいたのに。

雪兎はそのままココアたちの後を付いていく。

チノは何かを声をかけなくてはと思うが、その言葉が出てくることはなかった。

 

―――――――――――――――――

 

その夜。

チノは部屋で落ち込んでいた。

姉なのに、悩む弟に何も声もかけてあげることができなかった。

どうやって声をかければよかったのか、後悔の念だけがチノの中に募っていく。

 

「何かあったんじゃな?」

 

「…おじいちゃん」

 

チノの部屋にいつの間にかティッピーが来ていた。

入室に気づかないほどに考えに耽ていたということだ。

 

「喧嘩をした、というわけではなさそうじゃな」

 

「…分かるんですか?」

 

「お前たちをずっと見てきたからの。それくらいは分かる。息子も気づいておるわい」

 

帰宅してからは雪兎はいつもの調子だった。

いや、いつもの調子に見せかけていたのだ。

しかし、父と祖父には見抜かれていた。

 

「…話してはくれんか?」

 

「…実は」

 

チノは今日の帰りの夢の話しをする。

 

「…なるほどのぉ。いっちょ前にそんなことを悩んでおったか」

 

「…はい。私、どう声をかけてあげればいいのか分からなくて…。弟が悩んでいるのに力になれなくて…、それで…」

 

「まぁ、チノからいうのは逆効果じゃろうな」

 

「え?」

 

「すでに夢を持っておる者から、慰めの言葉を貰っても、今のあやつには皮肉にしか聞こえんじゃろう」

 

ティッピーの言葉にチノは押し黙ってしまう。

声をかけても傷つけるのが分かっていたから、出てこなかったのだろうか。

 

「ここはわしに任せて、チノはもう寝なさい。明日に障るぞい」

 

「え、でも…」

 

「わしの言葉は信用ならんかの?」

 

「おじいちゃん…、お願いします!」

 

「ほっほっほ」

 

チノの返答に、ティッピーは気前よく笑うと部屋から出ていった。

雪兎の部屋はすでに照明が切られており真っ暗だ。

ベッドの中で横になっている雪兎は自己嫌悪に陥っていた。

 

(あー…、なんであんなこと口走ったんだろう…)

 

今日の帰りの時にチノとした会話を思い出してしまう。

将来の話は、ここ最近ずっと考えていたことだった。

自分はどうしたいのだろうか。

ただ目標もなく、家を継ぐことだけをなんとなく考えていた。

だが、チノのように夢があるわけではなかった。

日常の延長線に喫茶店があっただけ。

ただ、それだけのことだった。

 

(僕は…どうしたいのかな…)

 

自問自答を繰り返すが答えは出てこない。

 

「よっこいせ」

 

「ぐえっ!?」

 

突然腹部に激痛が走る。

完全に意識外からの痛みについ変な声が出てしまう。

 

「な!?え!?じ、爺ちゃん!?なんだよ!?」

 

「ほっほっほ」

 

慌てて照明を点けると、腹の上に乗っていたのはティッピーだった。

なぜかティッピーは上機嫌に笑っている。

 

「随分と、悩んでおるようじゃな」

 

「…」

 

ティッピーの言葉に図星を突かれ、雪兎は黙り込んでしまう。

 

「…夢が見つからないことがそんなに不安かの?」

 

「…姉ちゃんは夢に向かって進んでいる。僕はただ、惰性で生きている。だから…」

 

「惰性でいいんじゃないかの」

 

「え?」

 

「確かにチノは夢を持っておる。同じ年の姉が明確な目標を持っていることに焦る気持ちもあるじゃろう。じゃが、夢なんてものはあるとき突然見つかるものじゃよ」

 

「そう、なのかな…」

 

「わしがお前たちより何年長く生きとると思っておる。年寄りを舐めるでない」

 

「いや、実質死んでるでしょ爺ちゃん」

 

「わしはまだ生きとるわ!」

 

ティッピーの突っ込みに雪兎は思わず笑ってしまう。

 

「ようやく笑いおったわい。…雪兎、焦らんでもよい。これからいろんな経験をするじゃろう。その中で、本当にやりたいことを探せばよい」

 

「爺ちゃん…」

 

「それと、お前は昔から自分の悩みを抱え込みすぎるところがある。もっとわしら大人を頼りなさい」

 

「…うん。ありがとう」

 

ティッピーが部屋を出ていく。

 

(焦らなくていい…か)

 

雪兎は胸のつっかえが取れたような気がしていた。

 

―――――――――――――――――

 

バータイムのラビットハウス。

タカヒロはティッピーから雪兎の様子を聞いていた。

 

「夢か。もう将来のことを本格的に考えるような歳になったんだな…。子どもたちの成長の早さにはいつも驚かされる」

 

「チノに感化されて焦ったというのが実情じゃがの」

 

「それでもさ。二人ともいい子に育った。いや、雪兎はいい子に育ちすぎたというべきか…」

 

「そうじゃな…。チノはよくわしに悩みを相談するが、雪兎は全くと言っていいくらいに弱音を吐かない子じゃ。他愛もない悩みであれば話すことがあるが、真剣な悩みは自分から話そうとせん。抱え込んでしまうのがあの子の悪いこところじゃな」

 

昔はお姉ちゃんお姉ちゃんと、チノの後ろをいつも付いて歩いていた雪兎。

甘えん坊で泣き虫だったはずが、いつの間にかお店の仕事や家事をこなし、頼れる存在となっていたが。

 

「サキがいなくなってしまってからか…。あの子が甘えたり、わがままを言わなくなったのは」

 

「下とはいえ、長男である自分がしっかりしなくてはいけない。という気持ちもあるんじゃろう」

 

「まだまだ子どもなのだから、親としては甘えてほしいものだがな…」

 

タカヒロはため息を漏らす。

誕生日、クリスマスといった行事でも雪兎が欲しいというものは実用的な物や、比較的子どもでも買えるくらいの安価なものばかりだ。

趣味のものは、自分の貯金から捻出しているものがほとんどで、欲しいという前に、自分で買っていることが多い。

最近では中学の入学祝で、自転車を買ってあげたくらいだろう。

これも、雪兎は貯金を捻出して買おうとしてたところをタカヒロが気づいて説得し、入学祝という形で買い与えたものだった。

この時に雪兎が買おうとしていたものより、上の値段の自転車を選んだ。

雪兎も最初は一番安いやつでいいと言っていたが、なんとか説得したのだった。

 

「ここ最近は、色々な者たちと出会っておる。雪兎も少しずつでも変わってくれればいいがのぉ」

 

「そうだな」

 

父と祖父の心配をよそに夜は更けていく。




図書館編でした。
そして、雪兎くんのお悩み編でした。

チノちゃんはバリスタになるという目標がある中、雪兎くんには目標がないことに対する焦りというものを入れてみました。
多感な時期ですからこういう悩みを持っていそうです。
そして母親を早くに失ったことから、親に甘えることを無意識に抵抗を感じてるのではないかというところもありました。
そして、こういう場面ではやはり、年の功であるティッピーの出番ですね。
雪兎くんの夢は見つかるのか、変わっていけるのかはこれから書いていけたらなと思います。

そして千夜とシャロのもう一人幼馴染の存在。
こちらもいずれ登場するかもしれません。気長にお待ちください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。