ご注文はうさぎですか?―ラビットハウスの看板姉弟― 作:テクト
9割方オリジナルという展開に…。
リゼの出番が大幅カットになってしまったので、リゼ好きの方が居ましたらすいません…。
UA5000超え、お気に入り50超えしてました。いつもありがとうございます。
ある日のラビットハウス。
客が入っていない中、チノとココアはカウンターで作業をしていた。
「う~ん」
「どうしたの?チノちゃん」
「あ、いえ。もうすぐ父の日のなので、何を贈ろうかと思いまして」
「そっかぁ!父の日かぁ!」
キッチンの作業を終えた雪兎が戻ってくる。
ちょうどその時、ラビットハウスの扉が勢いよく開く。
「明日から私は、ほかの店でもバイトすることにした!」
勢いよくリゼが入ってくると、別の場所でバイトをすると言い出した。
「「え?」」
「シフトを少し変えてもらったから、よろしく」
「そうですか。頑張ってください」
「ああ」
雪兎は普通に返事をするが、チノとココアは固まっている。
「リゼちゃんが軍人から企業スパイにっ…!」
「…スパイなんて頼んでませんよ!?」
「軍人じゃないし…、スパイでもない…!」
「じゃ、じゃぁどうして!?私たちにはもう飽きたの!?」
「変な言い方するな。実は…」
リゼは事の経緯を語りだす――
『パトリオットサーブ!』
リゼ宅の裏庭。
リゼがバドミントンのサーブ特訓をしていた時だった。
『パトリオットサーブ!パトリオットォ!サァーブ!」
渾身の力で打ち出したサーブだったが、ラケットがリゼの手からすっぽ抜けると、木に当たり跳ね返った拍子に窓ガラスを粉砕して室内へと飛び込んでいった。
『あ…』
パリーンと窓ガラスが砕けると音と共に別の何かが壊れる音がした――
「親父のコレクションのワインを一本割ってしまったんだ」
「あらら。それはまた高価なものを…」
「だから!父の日に親父が飲みたがっていたビンテージワインを贈って、罪滅ぼしがしたい!」
「女子高生がまたそんな高価なお酒を…」
「プレゼントなら、未成年でもワインが買えるし!バイトを掛け持ちしようかと!」
ビンテージワインを買おうと思えば、一か所だけのバイトではとてもじゃないが買えないだろう。
「なるほど~。それで、どこでバイトするの?」
「まずは、甘兎庵。そして、フルール・ド・ラパンだ。千夜とシャロには既に話を通している」
「なるほど。知り合いのいるところにしたんですね」
「ああ。その方がスムーズに話が進むからな」
こうしてリゼはラビットハウス、甘兎庵、フルール・ド・ラパンで掛け持ちバイトをすることになった。
―――――――――――――――――
次の日の中学校。
授業が終わり、放課後となる。
「じゃあなーチノ!」
「チノちゃんまた明日!」
「はい」
マヤとメグは用事があるため、先に帰っていった。
チノが廊下を出ると、ちょうど雪兎たちも出てきたところだった。
「おう、チノ。一人か?」
「マヤさんとメグさんは用事があるので先に帰りました」
「そっか。じゃ、4人で帰ろっか」
「はい」
「うん」
今日は4人で帰ることとなった。
学校を出て帰路に着いたところでリクが切り出す。
「なぁ、雪兎、チノ。二人に頼みたいことがあるんだがいいか?」
「はい?」
「どうしたの改まって?」
「もうすぐ父の日だろ?」
「そうだね」
「でさ、最近、親父がコーヒーにハマっててさ。父の日に旨いコーヒーを入れてやってびっくりさせようと思って…。だから、俺にコーヒーの淹れ方を教えてほしい!」
リクの発言に三人は目を丸くさせている。
「だいぶ斜め上の発想だね」
「素直に何かを贈るでなく、手間がかかる上でのサプライズとは、リクくんらしい捻くれっぷりだね」
「あぁー!お前らうるさいうるさーい!」
「…いえ、とても素敵だと思います」
「「ええ!?」
雪兎とカケルの冷めたリアクションとは別に、チノは目を輝かせている。
「大切な人を思って最高の一杯を入れる…。いいと思います!」
「あ、いや、大切な人って…、ただの父親だし…」
力説するチノに対して妙に照れているリクは顔が赤くなっている。
「わかりました。この不肖、香風智乃。半人前の身ではありますが、リクさんを立派なバリスタに育てて見せます!」
「た、頼む!チノ!」
「姉ちゃん!なんかだいぶ話が飛躍してる!」
「リクくんバリスタになるの確定なんだ…」
二人の突っ込みは全く耳に届いておらず、チノはリクの手を取る。
「では早速修行です!ラビットハウスに行きましょう!手は抜きませんので、しっかり付いてきてください!」
「お、押忍!」
チノとリクは駆け足でラビットハウスへと向かっていった。
「…どうしてこうなった?」
「コーヒーに対してはほんと真摯だね、チノさん」
「前からリクにもうちに来てほしいって言ってたからなぁ…。リクがコーヒーに興味を持ってくれたことが嬉しいのかも…。カケルはどうする?」
「ボクはもう父の日に贈るものは用意してるから、二人の修行に付き合おうかな」
結局、残された二人も修行に付き合うことにした。
―――――――――――――――――
先に行ってしまったチノとリクに追いついた雪兎とカケルは、ラビットハウスに着いた。
「「ただいま」」
「「お邪魔します」」
「おかえり。おや、君たちは」
ラビットハウスではタカヒロとティッピーが接客をしていた。
「カケルと、こっちが僕のクラスメイトのリク」
「おじさん。こんにちは」
「は、初めまして!」
「僕らは着替えてくるから、カウンター席で待ってて」
そう言ううと、雪兎とチノは奥の扉へと入っていった。
残された二人がカウンター席に腰を掛けると、タカヒロが二人分の水を出す。
「こちらメニューになります」
タカヒロは続けてメニューを取り出すと二人に渡す。
「え。コーヒーの種類ってこんなにあんの?」
「君はコーヒーは初めてかい?」
「あ、はい。こういうところで飲むのは初めてです」
「ほぅ。喫茶店デビューとはな。うちが初めてとは幸せ者じゃな」
「そうか。では、最高の一杯で持て成さなければいけないな」
はっはっはっと優しく笑うタカヒロ。
だが、リクはカケルのこっそり耳打ちする。
「なぁ…、今、おじさん以外の声が聞こえた気がしたんだが…?」
「…気のせいじゃない?」
ちょうどその時、ラビットハウスの制服に着替えたチノと雪兎が戻ってくる。
「お待たせしました」
「待たせてごめんね」
二人がカウンター席の前に立つと、タカヒロの頭の上にいたティッピーがチノの頭に飛び乗る。
「彼は喫茶店デビューだそうじゃないか。最高の一杯で持て成してあげなさい。じゃ、二人とも後はよろしく」
「はい!」
「もちろんそのつもりだよ!」
意気込み十分な子どもたちをみて笑うと、タカヒロは奥の扉へと入っていった。
「…さて、バリスタ講座を始める前に、まず、お二人にはコーヒーを飲んでもらいましょう」
「まずは、飲んで味を知ってもらって、それから実践といこう。…そして、リクが来てくれたんだから、久々にあれをやろうか」
「いいね。久々に腕がなるよ…!」
まずはコーヒーを飲むという話になったはずだが、チノと雪兎がバチバチと火花を散らしている。
「どうしたんだこいつら?」
「チノさんと雪兎くんは、コーヒーをいかに美味しく入れるか互いに切磋琢磨してきたんだよ」
「つまりライバル同士ってことか?」
「勝敗は簡単。どっちがリクに美味しいって言わせるか。お題は初心者向けで」
「じゃぁ、比較的飲みやすい『コロンビア』でいこう」
「のった!」
二人の間でレギュレーションが決まると、テキパキと機材や道具、コーヒー豆を用意する。
二人の動きが止まると、再び謎の老人の声がする。
「…用意!はじめ!」
開始の合図とともに二人が動き始める。
コーヒー豆をミルに入れ、レバーを回してコーヒー豆を挽く。
次に理科の実験で使うようなガラス器具をセッティングしていく。
フラスコの中にお湯を入れると少し放置し、カップにお湯を移す。
次に沸騰したお湯をフラスコの中に入れる。
「なんでお湯さっき入れたのに、一回カップに移したんだ?」
「フラスコを温めるためだよ。この後に火にかけるから冷えたままだと割れちゃう可能性があるんだ」
雪兎は説明をしながらも作業を続ける。
チノの方はアルコールランプに火をつけて、フラスコ内のお湯を温め始める。
「お、アルコールランプ。理科の実験で使ったな」
「はい。うちではコーヒーを入れるのに欠かせないものです」
フラスコ内のお湯が沸騰を始めると先ほど挽いたコーヒー豆をもう一つの底が細長く伸びた穴が付いたフラスコに、フィルターを取り付けたフラスコに入れる。
二つのフラスコを組み合わせて上下に合体させる。
すると、下の熱せられたフラスコの蒸気が上へと昇ってくる。
「おおー、上にコーヒーが!」
「ふふふ。よーく見てて、ここからが面白いんだ」
リクのいいリアクションに雪兎も機嫌がよくなる。
カケルはそんな様子を横から眺めている。
昇ってきた蒸気の中にコーヒー豆を沈めるように竹べらを動かす。
全体が浸かったところでかき混ぜ、アルコールランプを外し、火を消す。
再び、コーヒーをかき混ぜると竹べらを止めて少し待つ。
すると、上のフラスコに留まっていたコーヒーが一気に下へと移動する。
「おおー!すげー!」
「あとは、上のフラスコを外して、カップに注げば完成です」
上のコーヒー豆だけになったフラスコを外し、下の出来上がったコーヒーをカップに入れる。
チノと雪兎は出来上がった4杯分のコーヒーをリクとカケルの見えないところでシャッフルし、それぞれに出す。
「「お待たせしました。コロンビアです」」
「ほぉ~。喫茶店のコーヒーってこんな感じに作るんだな…」
「サイフォン式は中々家庭じゃできないね」
「さ、冷めないうちに飲んでよ」
「「いただきます」」
リクとカケルは一杯目のコーヒーに口を付ける。
「…苦い。けど、缶コーヒーと全然違う」
「ミルクと砂糖もありますので、飲みやすいように調整するのがいいです」
「ブラックで飲むのが礼儀じゃないのか?」
「そんなの気にしてないよ。自分が美味しいって思える飲み方で飲めばいいんだよ」
雪兎の回答に、うんうんと頷くチノ。
リクの言ってることはよく勘違いされることだ。
美味しく飲めればそれでいいのだ。
「飲み比べだから、もう一つの方も飲んでみてよ」
「そうだったな」
リクはもう一つのカップに口を付ける。
「こっちも苦い…。けど味が違う」
「入れる人でコーヒーの味は変わります。豆は同じでも焙煎の度合い、挽き方、温める時間でも変わるんです。豆も毎回同じというわけでもなく、買った時期によっても微妙に変化が現れます。サイフォン式は同じ味を出しやすいですが、それでも若干の変化はありますね」
「ほぉー…」
「じゃ、ボクは角砂糖を1つ」
「あ、俺も、ミルクと角砂糖を」
リクが感心していると、カケルが横で角砂糖で味の調整を始めたのでそれに続く。
「お、飲みやすい。美味い…」
リクの美味しいという感想に、チノと雪兎が笑顔になる。
「うん、美味しい。コロンビアもたまにはいいね」
カケルも美味しいという感想を漏らす。
リクも手を止めることなく、二杯分のコーヒーを飲み干す。
「さて、リクさん。どっちのコーヒーが美味しかったか、判定をお願いします」
「う~ん。こっちだな」
リクは左手のカップを持つと、チノは小さくガッツポーズをし、雪兎は項垂れる。
「リクさんはいい舌を持っています。これならバリスタ修行も大丈夫です」
「くっ。リクの舌でも姉ちゃんが上かっ…!」
「そうだね。ボクもチノさんの方のコロンビアが好きかなぁ」
チノは勝ち誇ったような表情をし、雪兎はとても悔しそうな表情をしている。
プロのバリスタになるつもりはないが、小さいころから競っていた姉に負けるのはそれはそれで悔しい雪兎。
「「ごちそうさまでした」」
カケルとリクは飲み終えたカップをチノと雪兎に手渡す。
雪兎は負けた罰ゲームということで、カップを洗い始める。
「さて、お二人には早速バリスタ修行を始めてもらいましょうか」
「なぁ、チノ。俺らは店員側に立つことになるけど、この格好でいいのか?」
カケルとリクが着ているのは学校の制服で、ラビットハウスの制服ではないのはまずいのではという意見だ。
「そのままだとちょっとまずいかな?」
「それならいいものがあるよ」
「うわ!?父さんいたの!?」
突然、奥の扉からタカヒロが顔を出すと、二人を手招きする。
カケルとリクはタカヒロに付いていき、しばらくすると戻ってくるが。
「その服…!」
「母さんが作ってたやつ!まだあったんだ」
二人は雪兎と同じラビットハウスの制服を着ていた。上着とネクタイの色が違っており、カケルは緑、リクは赤を着ている。
「どうだ?似合うだろ」
「どうかな?」
「ええ。とても似合ってます」
「うん。すごくいいよ」
二人はとてもよく似合っていて、チノと雪兎の感想も一致する。
「この服を着てたら、うまくコーヒーを淹れれそうな気がしてきた!」
「さすがにプラシーボ効果ですね」
「現金だねぇ、リクくんは」
「まぁ、やる気になったのはいいことだね」
ふんと鼻を鳴らすリクにみんなが笑う。
その時、ラビットハウスの扉が開く。
「たっだいまー♪」
高校が終わったココアが帰ってきた。
「おかえりなさい」
「おかえり、ココア姉ちゃん」
「「お邪魔してます」」
「あれ?その子たち。新しいバイトの子?」
ココアは初対面のカケルとリクがラビットハウスの制服を着ていることに目を丸くする。
「いえ、この二人は雪兎のクラスメイトです」
「制服を着ているのはちょっと理由がありまして」
「あの人は?」
「この春からうちで下宿しているココアさんです」
「初めまして、カケルです」
「リクです」
「ココアだよ!よろしくね!カケルくん!リクくん!」
二人が自己紹介するとココアは満面の笑みで二人の手を取り、自己紹介する。
「二人はどうしてラビットハウスに?」
「うちでバリスタ修業をすることになりまして、私と雪兎でコーヒーの淹れ方を教えているんです。」
「修行!いいねぇ!男の子らしくてかっこいいね!」
「いや、どこがかっこいいんだ…?」
「あはは…」
ココアのテンションにカケルとリクは置いてけぼり気味である。
「ふっふっふ。このお姉ちゃんが、二人を立派なバリスタに鍛えてあげるよぉ!」
「ココア姉ちゃんそもそもコーヒーの味の違いが判らないですよね?」
ココアはどや顔で胸を叩くが、雪兎が突っ込みを入れる。
混沌としたラビットハウスのホールだったがとりあえず落ち着きを見せる。
ココアはキッチンに向かい、4人はカウンターでバリスタ講義を始める。
「サイフォン式は、一般家庭だとそうないから、ペーパードリップ式でやろうか」
雪兎とチノは、先ほどとは別の道具を取り出す。
「あ、これ親父が使ってるやつと似てる」
「うちにもあるよ」
二人の家にもあるので、練習にはもってこいだろう。
「コーヒー豆はどうします?」
「さっき二人が使ったやつでやってみたい」
「ボクらがどれだけ二人と差があるかよくわかるだろうし」
コーヒー豆はコロンビアを選び、準備が整う。
「では、早速実践と行きましょう。まずは使う機材を温めます」
チノは、ドリッパーとサーバーにお湯を入れ、機材を温める。
「次に、ミルで豆を挽くよ」
ミルの中にコーヒー豆を入れてカケルとリクがレバーを回す。
「どれくらい挽けばいいんだ?」
「ある程度お好みですが、ペーパードリップなら中細挽きくらいがいいと言われてます」
「グラニュー糖くらいって例えられてるね」
「…グラニュー糖ってどれくらいの粗さなんだ…?」
「僕が見ておくからとりあえずやってみよう」
リクは料理をしないせいか、グラニュー糖の粒のイメージが出てこない。
しばらく回し続けて、雪兎がリクにストップをかける。
「うん。いい感じだね」
「結構大変だなこれ」
コーヒー豆を挽き終わると、ドリップとサーバーを温めていたお湯を捨てる。
「ドリッパーにフィルターを取り付けて、適量の挽いたコーヒー豆を入れます」
「適量ってどれくらいだ?」
「今回は2杯分、20グラムくらいかな。このスプーン2杯分くらいだね」
ドリッパーにフィルターを取り付けると、挽いたコーヒー豆をスプーン二杯分を入れる。
「このとき、コーヒー豆が均一になるように、軽くドリッパーを振ります」
「こんな感じかな?」
「そうですね。表面が平らになるような感じです」
ドリッパー内のコーヒー豆を整えると、サーバーに取り付ける。
「ではお湯を注いていきましょう。まずは少しだけ入れてコーヒー豆を蒸らします。この時、フィルターにできるだけ当たらないようにコーヒー豆全体にお湯が当たるように注ぎます」
「こんな感じか?」
「そうそう。フィルターに当たらないように中心から外に向かって円を描くように、コーヒー豆全体に注ぐように入れるんだ」
「注いで少ししますと、サーバーに水滴が落ち始めます。水滴が落ちれば適量が入った合図です。少し入れて待つを繰り返して調整するか、測りで測って適量分を入れる等のやり方がありますね」
二人がお湯を注いでしばらく経つと、サーバーに水滴が落ち始める。
「お!落ち始めた」
「こっちもだよ」
「ではそのまま20秒ほど放置して、豆を蒸らします」
「おお。なんかお湯を注いだ豆が膨らんでる」
「それは豆の中のガスが出ているんだ。ガスを出しておくと、コーヒーとお湯が馴染みやすくなって、コーヒーの美味しさが引き立つんだ。地味だけど重要な工程なんだよ」
20秒ほど放置し、次の工程へと移る。
「では、ここからが本番です。お湯を注いで、コーヒーを抽出します。まず最初は多めのお湯を先ほどと同じ要領で注ぎます」
「中央が盛り上がってきてるね」
「カケルさん、いったん注ぐの止めてください。すると盛り上がったところが下がり始めます。少し窪んだところで、先ほどとは少ない量のお湯を注ぎます」
「リクもいい感じ。よし、もう一回注いで」
チノと雪兎の指示に従って、カケルとリクが再びお湯を注ぐ。
「もう一度、同じように先ほどよりもさらに少量のお湯を入れます。そして、抽出が完了したら完成です」
最後のお湯を注ぎ、ドリッパーとサーバーを分離させて、温めておいたカップにコーヒーを注ぐ。
「ペーパードリップ式コロンビアの完成です」
「「おおー」」
初めて淹れたコーヒーを前に感嘆の声を上げるカケルとリク。
「それじゃ、早速試飲といこうか」
2杯分のコーヒーを半分ずつで分けて4人分のカップに入れて飲んでみる。
「…う~ん?チノと雪兎がいれたやつと比べるとだいぶ違うような…」
「だいぶ雑味が多い感じがするね」
初めて淹れたコーヒーだったが、リクとカケルは満足のいく出来ではないようだ。
「初めてでこれだけ出来たなら大したものだよ」
「はい。確かに雑味が少々ありますが、しっかり抽出はできています」
「うむ。初めてにしては上出来じゃ」
「二人がペーパードリップ式で入れたらどんな感じになるんだ?」
「では実演してみましょうか」
「よしきた」
チノと雪兎は二人が使った同じ機材を取り出して、テキパキと先ほどの工程を行っていく。
「さすが経験者だね」
「俺らとスピードが全然違う…」
お湯を沸かし、ミルで豆を挽き、ドリッパーにフィルターを付け、挽いた豆を入れてお湯を数回に分けて注ぐ。
「「できた」」
「はえーよ」
先ほどの三倍くらいは早いのではというくらいにあっという間にコーヒーを淹れ終えるチノと雪兎。
早速、二人が出来上がったコーヒーを試飲する。
「うわ。全然違う…」
「うん。雑味が全然ない」
二人の感想に腕を組みドヤ顔になるチノと雪兎。
「僕らは小さいころから淹れてるからね」
「年季が違います」
「…こんな自信満々なチノ初めて見たぞ」
「さすがバリスタ志望だね」
突然、奥の扉が開くとココアが勢いよくバスケット片手に現れる。
「みんな!お姉ちゃんから、頑張る妹と弟たちにパンの差し入れだよー!」
「…俺らいつから弟になったんだ?」
「さぁ?」
「いつものことなので」
「気にしないでください」
「妹と弟たちが辛辣!」
ココアはショックを受けるがすぐに立ち直る。
「焼き立てパンだから食べてみて♪」
「これ、自家製ですか?」
「そうだよ!私の実家はパン屋さんなの!」
「では一度休憩にしますか」
「そうだね」
休憩しようということになり、淹れたコーヒーとバスケットを運び、二つの机を囲む。
「さぁ遠慮せずに食べて食べて!」
「じゃ、遠慮なく」
「いただきます」
カケルとリクがパンを手に取り、口に運ぶ。
「お。美味い」
「さすが焼き立て、すごく美味しいです」
「二人の口に合ってよかったよ。ほら、チノちゃんと雪兎くんも食べてよ♪」
二人の素直な感想にココアは機嫌をよくすると、チノと雪兎にも食べるように促す。
「それにしてもコーヒーたくさん作ったねぇ」
「バリスタ講座ですからね」
「コーヒーがたくさんになるのは仕方ないです」
「では、私も一口…」
ココアは近くにあったコーヒーカップを手に取り、コーヒーを飲む。
「この上品な味!ブルーマウンテンだね!」
「「「「コロンビアです」」」」
ココアの感想に全員の声が揃うのだった。
―――――――――――――――――
お店の手伝いをしつつ、カケル、リクはチノと雪兎の講義を受けている。
そうこうしているうちに二人が帰る時間となった。
「雪兎、チノ、今日はありがとな。ココア姉もパン美味かったよ」
「雪兎くん、チノさん。また明日。ココアさん、パンありがとうございました」
「お二人ともお疲れさまでした。お家でもぜひ練習してみてください」
「二人ともすぐに上手くなるよ」
「私のことはお姉ちゃんだと思って頼りにしていいからね!」
相変わらずなココアの様子に思わず笑ってしまうカケルとリク。
二人はココアにしつこくお姉ちゃん呼びを頼まれたが、リクが折れてココア姉という呼び方に落ち着き、カケルは鋼の意志でココアさん呼びを貫き通した。
二人を帰っていくのを三人で見送ると、ラビットハウスへと戻る。
「うんうん。雪兎くんのような素直な弟もいいけど、カケルくんのような聡明な弟や、リクくんのような元気な弟もいいねぇ♪」
「もう弟認定は確定なんですね…」
「ココアさんですからね…」
ココアが満足気にうなずいている様子を見てため息をつく香風姉弟。
「そういえば、私たちは、三人はお父さんに何を贈ろうか?」
「実用的な物がいいんですが…」
「あ、僕はもう用意してますので、大丈夫です」
「「いつの間に!?」」
雪兎はすでにタカヒロへの贈り物を買っていた。
現在は、しっかり包装して部屋にしまってある。
「見せて見せて!」
「ココア姉ちゃんが見てどうするんですか…」
見せてと催促するココアだが、贈り物の包装紙を破るわけにはいかないので断る。
「えぇ~…。じゃぁ、私たちは二人で贈ろうか」
「そうですね」
「っで、何にするんですか?」
「実用的な物…、それなら、手作りネクタイとかどうかな?水玉とか」
「水玉はちょっと…、うさぎ柄ぐらいじゃなきゃ、父は喜びませんよ」
「うさぎ柄で喜ぶ姿が目に浮かぶ…」
「うさぎ柄いいねぇ!今度、生地買ってきて三人で作ろ!」
「可愛い生地が見つかるといいですね」
「え?僕もですか?」
「うん!やっぱり三人で贈ろうよ!雪兎くんの贈り物と合わせて!」
ラビットハウスのホールで盛り上がっている会話を扉の前で聞いたタカヒロ。
「…うさぎ柄」
顔を赤くして嬉しそうに呟くのだった。
父の日編、前編でした。
コーヒーの淹れ方はネットで検索してなんとか描写してみましたが、作者自身がコーヒーにほぼ無縁だったので細かい突っ込みは勘弁していただけると幸いです…。
調べてみるとちょっとやってみたくもなりますね。
中学組メインでラビットハウス中心に改変したので、リゼ、千夜、シャロの出番がカット状態に…。ごめんよぉ…三人とも…。