ご注文はうさぎですか?―ラビットハウスの看板姉弟― 作:テクト
「いやぁぁーーーー!」
甘兎庵に突然、悲鳴が響き渡る。
扉が勢いよく開くと同時に飛び出すの一人と一匹。
「来ないでぇぇーーーー!」
シャロが逃げるように全速力で走り、そのあとを追いかけるあんこ。
いつの間にかシャロは、路地裏の行き止まりに追い詰められていた。
「それ以上近づいたら!舌噛むから!」
じりじりとにじり寄ってくるあんこに対して目を強く瞑って、舌を噛もうと口に力を入れる。
「待て!」
そこに現れたのはリゼだった。
リゼがあんこを回収すると、シャロの顔が安堵の表情に変わる。
うさぎ恐怖症の私をよく助けてくれるリゼ先輩は、憧れの存在。
もし、私が先輩のような性格だったら…、貧乏でも堂々としてられたのかな。
『特売だ!道を開けろ!』
特売会場で銃を一発撃ち、ほかの客が道を開けるように左右に分かれる。
そして、特売商品へ一直線の道を堂々と歩くシャロ。
「はっ!ごめんなさいっ!私ったらいけない想像をー!」
「い、いけない想像!?」
シャロはついつい理想の想像を思い描いてしまい、誰かに言うでもなく慌てて謝るが、横でそれを聞いていたリゼはシャロが何を思ったのかと声を上げるのだった。
―――――――――――――――――
ある日のラビットハウス。
いつもの4人で働いているが、雰囲気が少し重い。
「……」
「……はぁ」
チノは黙々とカウンターで作業をしていて、横ではやりにくそうな顔で溜息をついている雪兎。
「ん?」
そんな様子に気づいたリゼが、二人と一緒に暮らしているココアに尋ねる。
「なぁ、ココア。チノの機嫌悪くないか?それに雪兎も元気がないような」
「え?そうかな?」
ココアは今日のチノとの関わりを思い出す。
『チノちゃーん♪』
『やめてくださいココアさん』
もふもふ~っとココアはチノに抱き着こうとするが、チノは両手でココアを突っぱねる。
『ココアさん邪魔です』
ラテアートを作っていた時は、出来上がったラテアートを見ていたココアをチノは押しのけるように通っていく。
「チノちゃんはいつも私にツンツンだよ?」
「いつもそんなあしらわれ方してんの!?」
ココアのぞんざいな扱われ方に驚くリゼ。
「でも、雪兎くんは普段と変わらないと思うんだけど…」
「疲れてる…、というよりは困惑しているって感じだな」
チノがカウンターを離れた隙に、リゼが雪兎に尋ねる。
「なぁ、雪兎。チノのやつ、機嫌悪くないか?」
「…分かります?」
「何かあったのか?」
「それが、原因が分からないんです」
「え?」
雪兎なら知ってると思ってリゼは、雪兎の意外な回答に驚く。
「今までだと、ああなるのって僕と喧嘩したときだったんですよ。なので姉弟揃って不機嫌な時はあったんですが。今回、姉ちゃんだけあんな様子で僕自身も戸惑っていまして…」
「本人に聞けないのか?」
「とても聞ける雰囲気じゃなくて…」
思った以上にチノの様子に、困惑している雪兎。
原因はココアにあると判断したリゼは、雪兎と共にチノを廊下に呼んで原因を聞いた。
「何かあったのか?」
「ココア姉ちゃん絡みだと思うんだけど」
「…昨日、ココアさんと私の部屋で遊んでいるとき…」
チノは昨日の出来事を話し出す。
――昨晩、チノの部屋でココアと遊んでいるときだった。
『ちょっと、お手洗いに』
『行ってらっしゃい。…ん?』
ココアがテーブルの上に置いてある作りかけのパズルに気づく。
しばらくしてチノが戻ってくるとそこには――
「戻ってきたら…、毎日少しずつやるのが楽しみだったパズルが、ほぼ完成状態に」
「ええ!?」
「しかも1ピース足りなかったんです」
「うん、分かる。それは僕も凹む」
原因がココアにあると分かった二人は、ココアに報告する。
「ええ!?チノちゃん喜ぶと思ったのに…!」
「人が作ってるものを断りなく手を出すのはダメですよ?」
「失くしたのはココアだとは思ってないだろうけど、楽しみが取られてショックだろうな」
「私…、私…、お姉ちゃん失格だーーーー!」
二人の報告を受けたココアは自分の仕出かしたことにショックで涙目になると、叫びながらラビットハウスを飛び出していった。
「いや、先に謝っとけよ…」
「ですよね…。あと仕事中なのに…」
―――――――――――――――――
日が傾き、空が赤く染まりだした頃。
「ココアが帰ってこない」
「姉ちゃん。ココア姉ちゃんも悪気が無かったんだから、許してあげたら?」
「だけど…、あんな態度を取っちゃって、普通に話すのが恥ずかしくて…」
(気づいてなかったけどな)
当の本人であるココアは、自分に原因だとは気づいてなかったが、チノの方もそれなりに罪悪感はあるようだ。
「そういえば、お前ら二人が喧嘩したときはどうやって仲直りしてるんだ?」
「ほとぼりが冷めたころにお互いに謝るか、父さんに促されて謝るって感じですかね。姉弟同士、遠慮なく口喧嘩しますから、原因も分かってますからね」
「ココアとはまた別パターンということか」
その時、ラビットハウスの扉が勢いよく開くと、ココアが駆け込んでくる。
「チノちゃん!新しいパズル買ってきたから許してー!」
「8000ピース!?」
「多い!」
ココアが買ってきたパズルは、両手で抱えるほどの大きさの箱に入ったパズルだった。
―――――――――――――――――
その夜。
「協力して欲しいって…」
「これなの?」
千夜とシャロが、ココアのヘルプに現状を見ての開口一番がこれである。
ココア、チノ、雪兎、リゼの前にはバラバラにある程度出来上がったパズルと、まだ手を付けていないパズルピースの山だった。
「手伝って~…」
「始めたものの、終わらないんです…」
ココアは涙目で二人に訴えかけて、チノはすでに疲れた様子だ。
「一回崩しちゃえば?」
「もったいないよぉ~、…それに」
「ん?」
ココアの視線が移動すると、釣られるようにシャロもそちらに視線を向ける、そこには。
「今のリゼちゃんと雪兎くんを止めることなんてできない…」
「楽しい…!」
「……」
リゼはキラキラとしたオーラを振りまきながら、それはそれは楽しそうにパズルを作っている。
一方、雪兎は千夜とシャロが来たことにも気づいてないのか、真剣そのものといった表情で黙々とパズルを作っている。
「た、確かに…!」
「雪兎はこういう作業が大好きなので…」
「し、仕方ないわね。手伝ってあげるわよ」
「ほんとぉ!?」
千夜とシャロも加わって、パズル作りが再開される。
「ジグソーパズルなんて久しぶり」
「端から作ってくのが楽なんだよね」
千夜は二つのピースを手に取り、組み合わせようとするが上手く合わない。
「チノちゃんと作ったところとがったーい!」
「合いそうですね。あ、雪兎、こっちも合いそう」
「ん?…お、いけそうだね」
シャロ、チノ、雪兎の三人はそれぞれ作っていたパズルを組み合わせる。
「こっちも、リゼちゃんと作ってたところと合体だよー」
一方、ココアの方も、リゼのパズルと組み合わせる。
その様子を見ていた千夜は、焦ってパズルを作ろうとするがやはり合わない。
「…シャロちゃん」
「ん?」
「1ピースも合わせられない役立たずが…、ここにいてもいいのかしら…」
(急にネガティブになった…。めんどくさい…)
どす黒いオーラを出しながら落ち込んでいる千夜を見て、シャロは関わらないようにする。
シャロがピースをはめようと手を伸ばすと、同じくピースをはめようとしたリゼの手に当たる。
「あ…。…はっ!せせせ先輩からお先にどうぞ!」
「いや、シャロの方が合ってるっぽいし」
「そそそそんなことないです!」
「だってほら、形が」
「いいえ!先輩が先に!」
「いや、シャロが」
何故かお互いに譲り合いの姿勢を崩さないリゼとシャロだが、間から千夜がパズルのピースをはめ込む。
「あ!はまった!」
「「あ…」」
「あら?」
「どうしたのよ?」
「ううん。なんでもないわ」
「んん?」
何かに気づく千夜だが、気づかなかったことにした。
―――――――――――――――――
一方そのころ、ラビットハウスのバータイムでは、ティッピーがお店の壁に飾られたうさぎの絵を見ていた。
「う~ん。かっこいいのぉ。息子よ、いつ見てもわしにそっくりだと思わんか?」
カウンターでコップを拭いていたタカヒロは、ちらりとその絵を見る。
「…そろそろ、それも飽きてきたな」
「なんじゃと!なんじゃと!飽きてきただと!?」
タカヒロの言葉にばいんばいんと跳ねてティッピーが抗議する。
―――――――――――――――――
チノの部屋ではパズル作りが進んでいた。
しかし、だいぶ時間が経ち、ココア、チノ、千夜の手が止まっている。
「…みんな集中力が無くなってきてる」
そんな中、シャロ、雪兎、リゼは作業を進めていた。
「……」
「雪兎くんも、疲れたら休憩してね?」
「…あ、はい。僕は大丈夫ですよ」
シャロはいまだに黙々と集中している雪兎に心配して声をかけるが、本人はまだまだやれるようだ。
「おーい、ハートマークが出来たぞぉ♪」
リゼもテンションがおかしくなっており、キラキラしたオーラにピンク色が混じり始めている。
「リゼ先輩!疲れてるなら休憩してください!」
そんな憧れの先輩の様子に、見るに堪えられなくなったのかリゼにも休憩を促すシャロ。
ベッドにもたれかかり、ぐったりしていたチノがふと、ココアの方を見る。
(ココアさん…。さっきから、ピース見つめたまま動かない…)
「…そ、その、責任取ろうとしないでください…。私、もう怒ってな――寝てる!?」
「…はっ!?」
チノの声に、ココアが目を覚ます。
「も、もう一息、頑張らなくっちゃ!もう少しで完成だもん!」
「はっ!そうです!」
チノとココアの声にみんながやる気を取り戻す。
「ラストスパートね!」
「ええ!」
そんな中、リゼがあることに気づく。
「…これ、下に何も敷いてないけど、どうするんだ?」
その言葉に全員が固まる。
「…はっ!全然気づかなかった!」
黙々と作業していた雪兎も思わず声を上げる。
「…何も考えてなかったのか」
「…わたし、さっき気づいたのに、この空気になるのが怖くて言えなかった!もっと早い言ってれば…!私のせいで!」
「余計空気が重くなるから自分を責めるのはやめて!」
またネガティブになる千夜にシャロが声荒げながら慰める。
その時、シャロから腹の虫が鳴る。
「…お腹空いたねぇ」
「じゃあ、僕が何か…」
「雪兎はお留守番」
雪兎が夜食を作りに行こうとするが、即座にチノが止める。
「えぇー。なんで?」
「…この間、夜食と言って持ってきたのは何?」
「え?ラーメン」
「…もやしてんこ盛り、メンマ、チャーシュー、ネギまで乗ってるラーメンを夜食とは言わないでしょ」
「あのラーメン美味しかったなぁ♪」
「美味しそうだけど、カロリー!」
雪兎が作ろうとしてきたものを聞いて、悲鳴を上げるシャロ。
「じゃぁ、私がホットケーキ作ってくるよ!」
「手伝います」
ココアがキッチンへ向かうと、チノもそれに付いていく。
「…あの二人、自然に仲直りしたみたいだな」
「そうですね。いつもと変わらない感じになってます」
「え!?喧嘩してたんですか?」
「だって、いつも以上にチノの口数少なかっただろ?」
シャロと千夜は顔を見合わせる。
「…いつもあんな感じじゃないんですか?」
「チノちゃん照れ屋だから」
シャロと千夜は、チノの様子に気づいてなかったようだ。
「…僕らは姉ちゃんと付き合いが長いですからね」
「そういうことにしておくか…」
一方、キッチンではココアがホットケーキを焼いていた。
「私ね。最近、ホットケーキを宙に浮かせて返せるようになったんだよ!見ててね、行っくよー!えい!」
ココアが勢いよくフライパンを上に振るとホットケーキは豪快に宙を舞う。
そして、熱々のホットケーキはチノの顔にべしゃっという音と共に着地した。
チノの部屋で作業をしていた4人だが、部屋の外から泣き声と、どたどたと走る音が聞こえてくる。
「えーっと、ん?」
それに気づいたリゼが扉の方を見ると同時にココアが勢いよく入ってくる。
「チノちゃんが口きいてくれないよぉ!」
「自分でどうにかしろよ」
とりあえずココアにキッチンに戻るように促す。
キッチンでは代わりに、チノがホットケーキを焼いている。
(熱かったっ…!)
その様子をテーブルから落ち込んだ様子で見ているココア。
(完璧に嫌われた…)
「そろそろ焼けるので、先に運んで――」
ココアに運んでもらうようにチノが指示を出そうとココアの方を見ると、ココアはケチャップで死してつぐないますの文字を書いて、ケチャップまみれで突っ伏している。
再び、チノの部屋で4人作業をしていると、どたどたと走る音が聞こえてくる。
「これか?…ん?」
また気づいたリゼが扉の方を見ると同時に今度はチノが飛び込んでくる。
「大変です!ココアさんがケチャップで死んでます!」
「え?」
「食べ物を無駄使いしない!」
さすがにこれは雪兎も声を荒げる。
チノもキッチンへと戻るように促す。
「ごめんね。チノちゃん…」
「私も、そっけない態度を取ってしまいました…」
キッチンへ戻ったチノは、ココアの顔に付いたケチャップを布巾で綺麗に拭きとる。
「でもね!初めて姉妹っぽい喧嘩できて、ちょっと嬉しかった!…かも」
「え…?」
「うさぎも気を惹きたくて、死んだふりをするんだよ」
「…ココアさんは、うさぎというより笑顔が、ウーパールーパー?」
「ウーパールーパーかー。…複雑!」
チノの評価に地味に傷つくココア。
「ごちそうさまでした」
「美味しかったなー」
「はい!」
無事、焼きあがったホットケーキを食べ終わった6人は休憩しながら雑談をしていた。
ココアは手に持った知恵の輪をいじっている。
「この知恵の輪。難しいね」
「おじいちゃんが作ってくれたんです」
「爺ちゃん、器用だよね。ってかまだ持ってたんだそれ」
「まだ解けてないから」
「チノってパズルゲームが好きなんだな」
「難しくて何度挑戦しても解けなかったんですが、いつか自分の力で解いて、おじいちゃんをあっと言わせて見せます!」
チノは祖父をびっくりさせるため、小さくガッツポーズをして意気込みを語る。
「しかし、最初のやってたパズルのピースは、どこに行ったんだろうな」
「そういうのって、忘れたころに見つかりますね」
「せっかく組んでたプラモデルの小っちゃいパーツがどっか行って、ある時、突然見つかったりもしますね」
「それは無くさないようにしっかり管理しろ…」
「シャロちゃんは、学校にランドセルを忘れたまま帰ってきたことがあったわ」
「んな!?」
「明日学校に行けなーいって」
「り、リゼ先輩の前で、昔の話はやめてよっ!」
「おっと」
突然の千夜の暴露話に、慌てて取り繕うシャロ。
勢いでティッピーの乗っていたベッドを叩くと、ティッピーがバウンドすると同時に何かが零れ落ちる。
「「ん?」」
それに気づいたチノが拾い上げると、それは昨日作っていたパズルの最後のピースだった。
「チノちゃん、これって」
「無くなったピース…」
「ティッピーの毛の中に入り込んでたんだ」
「よかったぁ!これで完成だね!」
ピースが見つかり、チノ本人よりもテンションが上がるココア。
手に持っている知恵の輪を動かす動きも、それに合わせて早くなっている。
「はい!」
チノの返事と共に、何かが外れる金属音が響く。
「あ…」
ココアの手には、外れた知恵の輪があった。
「「「……」」」
「まぁ♪」
雪兎、リゼ、シャロは顔が引き攣っており、千夜は笑顔で見ている。
そして、思いっきり頬を膨らませて怒っているチノ。
「あ…、あはは…」
「むぅーー!ココアさん!」
「…はいっ。お姉ちゃんって――」
「呼びません!」
チノのご機嫌は朝まで直らなかった。
ココアとチノの姉妹喧嘩編でした。
今回もラビットハウス中心だったので手早く書くことが出来ました。
チノちゃんの喧嘩しそうな相手って、原作ではいなさそうで、この小説では雪兎くんだけでしょうね。
ということでココアと喧嘩し、身に覚えなく怒っているチノちゃんに困惑する雪兎くんという図を書けて楽しかったです。
上の子から下の子だと遠慮なく言えそうですが、下の子が上の子に言いたいことを言えないってのはありそうですよね。
まぁ、チノちゃんと雪兎くんは双子なので互いに言いたいこと遠慮なく言い合ってそうですがねw