ご注文はうさぎですか?―ラビットハウスの看板姉弟― 作:テクト
「千夜が落ち込んでる?」
ラビットハウスのホールで今日の学校での千夜の様子をココアが喋りだす。
「そうなの…」
「それは心配ですね…」
「…私が怒ってる時には、気が付かなかったのに。千夜さんの様子がおかしいときは気づくんですね」
チノはココアの横で不満気に声を漏らす。
(はっ!チノちゃん…!ジェラシー!?)
『お姉ちゃんの鈍感。ぶー』
ココアはむくれているチノの様子をイメージする。
「チノちゃんの事はちゃんと見てるよ!」
「え?」
ココアはどこからか、思春期と題名に書かれたノートを取り出す。
「一緒にお風呂に入ってくれないときは、そういう歳なんだなぁって気を使ったり。反抗期の対処を考えたりしてるもん♪」
「考えてるというか…」
「おまえは、思春期の娘に対する父親か」
思わずティッピーも突っ込み入れてしまうので、チノはお盆で口元を隠す。
「もちろん。雪兎くんのこともちゃんと見てるよ!」
「え?あ、そ、そうですか…」
「うん!年頃の男の子との接し方を日々模索してるよ!」
「あ、はい。頑張ってください」
雪兎は、ココアの接し方はそもそも姉であるチノとそう変わらないと感じている。
もふもふしてくるし、部屋で遊ぶとかはたまにはある。
さすがに、一緒にお風呂に入るとか、寝るとかはない。
「…実は私も悩みが」
チノも悩みがあることを打ち明ける。
「辛いことがあったら!我慢せずに、私の胸に飛び込んでおいで」
ココアは両手を開いて、チノを迎え入れるように構える。
「相談に乗るから何でも言えよ!精神のブレは、戦場では命取りになるからな!」
一方、リゼは頼もしい顔で頼るように促す。
「成長が止まったような気がします」
「僕らはまだ成長期だから、まだまだ大丈夫だよ」
「二人とも精進あるのみじゃ」
っが、チノは雪兎と共にカウンターでティッピーと話していた。
「「スルー!?」」
―――――――――――――――――
「心配だから、千夜ちゃんの様子を見に行ってくるよ」
閉店の時間となり、作業を終えて着替えをしている中、ココアが千夜のところに行くと言い出す。
「外はもう暗いですよ?」
「…何かあったら心配だな」
リゼは自分のロッカーを漁ると、何かを取り出す。
「これ貸してやる。撃つときは、脇を閉めて、両手で構えろよ」
リゼの手にはハンドガンが握られていた。
「私が捕まるから!」
ココアは顔を青くして拒否するが、結局、持たされてしまった。
「あと、雪兎について行ってもらいましょう。男の子ですから護身役程度には役に立つと思います」
「うん。そうだね!頼んでみるよ!」
着替えを済ませて廊下に出ると、ちょうど着替え終わって2階に向かう雪兎がいた。
「あ、雪兎くん!ちょっとお願いがあるの!」
「え?何ですか?」
ココアは事情を説明し、雪兎を連れて甘兎庵へと向かった。
―――――――――――――――――
日も落ち、だいぶ暗くなってきた街路をココアと雪兎が進む。
「もうすぐ甘兎庵だよ。千夜ちゃん大丈夫かな…」
「心配ですね。急ぎましょうか」
「うん!」
少しペースを上げて、甘兎庵へと向かう。
甘兎庵の前に着くと店先には、落ち込んだ様子で座り込んでいるシャロがいた。
「あれ?シャロちゃん!?」
「ココア!?それに雪兎くんも!」
「千夜さんちの前で何してるんですか?」
「…朝、起こしに来た千夜と、ちょっと揉めちゃって…」
「あ…、だから落ち込んでたんだ…」
「追いかけてきたのを振り切って、学校に行ったんだけど…。」
シャロは今朝の様子を思い出す――
『シャロちゃーーん!!』
手に持った何かを振りながら、後ろから追ってくる幼馴染に目もくれず、ひたすら学校への道を走るシャロ。
『あっ!』
っが、追いかけてきた千夜が転んでしまう――
「罪悪感が…」
無理やりに振り切ってしまったことに対して、罪悪感を感じているシャロ。
「なるほど。それで仲直りをしたくてここに」
「でも!千夜も悪いのよ!成長するようにって、毎朝しつこく牛乳を押し付けてくるの。…胸が無いからってぇ!」
シャロは涙目になりながら渾身の叫び声をあげる。
「身長の心配だと思うよ!?」
「…あの、男の前でそういう話題はちょっと…」
雪兎はシャロの叫びに、顔を赤くしている。
「…千夜ちゃん、すごく落ち込んでたよ。あんなにしょぼんとしてたの初めて」
「そ、そんなに?」
「幼馴染っていいなぁ」
「気兼ねなく話せる人がいることは良いことだと思います」
ココアはシャロに近づき、手を取る。
「行こう!一緒に会えば、恥ずかしくないでしょ?」
「お、お店に入りにくいのは、そういう理由じゃなくて…」
そういうと甘兎庵の窓から中を覗き込む。
シャロの視線の先にはあんこがいた。
「あいつが怖いの!私の顔を見るなり噛みつくから!」
「雪兎くんと一緒なら大丈夫じゃない?二人とも仲良しだし」
「どうでしょう?フルールに連れて行ったときは、シャロさんに飛びついていましたし」
「うぅ…、なんか別案ない?」
「それなら!私が守るよ」
「「え?」」
ココアはどこからか、紙袋を取り出し覗き穴を空けるとシャロに被せて、右手にハンドガンを持つ。
「これでばっちり!さぁ行くよ!」
「え!?いや、待ってください!それどう見ても強盗にしか――」
雪兎が言い終わる前に、ココアはシャロの手を取り甘兎庵に入っていった。
「いらっしゃいませー…え?ひ、ひゃあぁぁーー!?ご、強盗!?」
「違うんです千夜さん!落ち着いてください!」
「私だよ!私!」
雪兎もすぐに甘兎庵に飛び込んで、弁明する。
あんこがいつもの通りに雪兎に飛びつくが、しっかり腕でキャッチする。
「あ、雪兎くんにココアちゃん…。どうしたのぉ…。はぁ…」
いきなり強盗がやってきたと勘違いし、気を張っていた千夜だが、雪兎とココアと分かった途端、安心したのか体から力が抜ける。
「だ、大丈夫!?お昼も食べてなかったし」
「…食欲がないのぉ~…」
「大丈夫ですか!?」
千夜がふらふらとおぼつかない様子を見て、雪兎が支えるように横に移動する。
「もうオーダーストップしてるわよね!」
「え?」
「キッチン、借りるわよ!」
紙袋覆面を左右に引き裂き、シャロが顔を出した瞬間、雪兎が制止する前に腕からあんこが飛び出す。
「あっ」
「のおぉぉーーーー!!」
「キッチンはそっちじゃないよぉ!」
シャロはあんこに追われて、カウンターの奥に消えていった。
一騒動あったが、とりあえず落ち着いた甘兎庵。
千夜に食事を摂らせようと、ココアとシャロはキッチンで調理を行い、雪兎はあんこと一緒に千夜の側についている。
「ごめんね、雪兎くん。私のために付き合ってくれて」
「いえ、気にしないでください。この間、姉ちゃんがお世話になったお礼ですよ。えっと、シャロさんも気にしてましたし、仲直りしましょ?」
「え?…あ、違うの。シャロちゃんが原因じゃないの」
「え?」
「実は――」
一方、キッチンの方からはココアとシャロの会話が聞こえてくる。
「こんなもんね」
「お味噌汁作ってるシャロちゃんって、意外と様になってるね!お母さんが恋しくなっちゃった…」
「や、やめてよ!」
「ところでお母さん」
「え?」
「さっきからワカメの増殖が止まらないの」
「入れすぎ!」
何の会話をしているんだと、聞き耳を立てて心の中で突っ込みを入れる雪兎。
「玉ねぎで涙が止まらないよー!」
「娘なら邪魔しないでよー!」
今度は玉ねぎが目に染みて、二人の泣き叫ぶ声がキッチン中に響き渡ってくる。
すると、千夜が立ち上がってキッチンの方に行こうとするので、雪兎も千夜を支えながら向かう。
「二人とも…、私のために夕食を作ってくれてるの?」
「し、食欲無いっていうから、食べやすくて体にいいものを」
「嬉しい…!でも、シャロちゃんはお母さんというより、生活に困っても愛があれば大丈夫っな、新妻役でお願いするわ」
「ちゃっかり会話聞いてんじゃないわよ」
「席の方にも普通に聞こえてました…」
「…その」
「ん?」
「…朝は逃げてごめんなさい」
シャロはバツが悪そうに顔を伏せながら謝る。
「シャロちゃん…」
「ね!千夜ちゃんも元気出して!」
「あー、…それがですね…」
「ごめんなさい!その…、ね。チノちゃんのお父さんが作った栗金団が、私の作った和菓子より美味しかったなんて、恥ずかしくて言えなくて…」
「そうだったんだぁ~」
「……」
「父さん…」
理由を聞いたシャロは自分が原因じゃなかったことに、引き攣った顔でプルプルと震えている。
そして、原因が父にあったことに頭を抱える雪兎。
「あ、そういえば今朝渡したかったものだけど」
「え?牛乳じゃなかったの?」
「これがうちの木に引っ掛かってたの」
「んなぁ!?」
「えっ!?」
千夜が取り出したものに気づくと、雪兎は顔赤くして後ろを向き、シャロはわたわたと慌てだすとひったくるように、千夜から奪い取る。
千夜が袖の中から取り出したのは、シャロのパンツだった。
「追いかけても逃げるように学校行っちゃうんだもん」
「ここここれ振り回して走ってたんじゃないでしょうね!?あああと雪兎くんの前で出すなこの和菓子バカーー!」
「白かぁ」
「ココア姉ちゃん色言うのやめてください!」
(また女難…!)
甘兎庵にシャロと雪兎の悲鳴が響き渡るのだった。
―――――――――――――――――
次の日の中学校の昼休み。
チノはマヤ、メグと昼食を取っていた。
「チノちゃんのデザートは牛乳寒天?」
「デザート感覚でカルシウムが摂れて、背も伸びるかもしれないと」
「へぇー」
「…あわよくば、胸も大きく」
「合理的!」
「効果あるのかな?」
一方、雪兎たちのクラス。
こちらは、ユカリ隊の三人で昼食を取っている。
「牛乳寒天?」
「うん。父さんが作ったんだ」
「美味そうだな。一口くれよ」
「ボクも」
一口分を切り分けると二人に渡す。
「美味いなこれ。牛乳って大量の飲むのは大変だけど、これならいくらでも食えそうだな」
「少しでも背が伸びればいいかなって」
「うん。すごく美味しいよ。でも、雪兎くんもリクくんも、カルシウム取ればいいってものじゃないからね」
そして高校では、ベンチでココアと千夜が牛乳寒天を食べていた。
「この牛乳寒天…、うちの寒天デザートより美味しい…」
「はっ!」
千夜の言葉に衝撃を受けるココアだった。
千夜のお悩み編でした。
雪兎くんとココアの二人だけという珍しい編成に。
そして、思いっきりガールズトーク気味の回ですので、雪兎くんの女難が遺憾なく発揮されることに…w
だいたいが千夜シャロ絡みですね…w