ご注文はうさぎですか?―ラビットハウスの看板姉弟― 作:テクト
ある日の公園。
シャロはフルール・ド・ラパンの制服を着てチラシ配りをしていた。
「フルール・ド・ラパンでーす!ハーブのお店でーす!」
手に持っていた最後の一枚を通りかかった女性に渡す。
「ありがとうございまーす♪…さて、残りのチラシはああぁぁーー!?」
ベンチのおいておいた残りのチラシの上に鎮座しているのは不良野良うさぎだった。
「そそそそそそこどきなさいよ!どどどどどきなさいったらぁ!」
同じころ、雪兎とリゼはラビットハウスの制服姿で紙の束を持って公園に来ていた。
「ん?」
「どうしました?リゼさん」
「あれ…」
リゼの指さした方には、うさぎに向かって叫びながら土下座をしているシャロの姿があった。
「どいてください!お願いします!お願いします!」
((うさぎに土下座してる…))
さすがに見ていられなくなったので、リゼが助け舟を出す。
「ほら」
「あっ、り、リゼ先輩!それに雪兎くんも!」
リゼがうさぎを抱えて地面に下ろすとどこかへと走り去っていった。
「あ、ありがとうございました…。その服で外にいるなんて、珍しいですね」
「ココアが企画した、夏のパン祭りのチラシ配り担当に任命された」
「僕もチラシ配り担当になりましたので、リゼさんと一緒に配りに来ました」
リゼがチラシを見せると、店名にティッピーのような生き物がうぇるかむかもーんというよくわからない言葉を喋っており、パン食べ放題の文字、地図が描かれている。
「食べ放題…。はっ!…あ、でも、土曜日は一日中バイトなので…」
「そっか。残念だな」
「メロンパン…。お腹いっぱい食べたかったなぁ…」
「ココア姉ちゃんに余分に作ってもらえないか聞いてみましょうか」
「いいの!?」
ココアにシャロの分を作ってもらえないか交渉することになった。
「さて、やるか。こうやって配れば受け取ってくれるのか?」
「はい」
「あのポーズは、父の日あたりにやってた」
「フルール・ド・ラパンをよろしくお願いしまーす!」
「無意識にうちの宣伝になってます!」
「うちはラビットハウスですよ!?」
フルール・ド・ラパンで習得した仕草で配ったせいか、宣伝する店を間違えているリゼ。
雪兎は二人とは少し離れた位置に移動して、チラシ配りを始める。
一方、ラビットハウスでは残っていたチノがチラシを見て声を上げる。
「どうかした?」
「ココアさん…!ラビットハウスのスペルが間違ってます!」
「え!?」
「ハウスじゃなくて、ホース…、馬です」
ハウスは本来Houseなのだが、チラシにはHorseと書かれている。
「や、やっちゃった!?…か、看板にも馬付けたら解決!?」
「しませんよ…。それに、うぇるかむかもーんってどうしてカッコつけて変な言葉使おうとするんですか…!」
「わしの似顔絵が気持ち悪い」
チノは青い顔でチラシを握りながらぷるぷると震えており、さらにはティッピーの酷評が追い打ちをかける。
「私のうっかりが町中に知れ渡る!チラシ回収してくるー!」
ココアは恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらラビットハウスを出ていった。
「確認しない私がバカでした…!」
呆れた声を出すチノだが、すぐにココアの後を追うのだった。
―――――――――――――――――
「お願いしまーす!」
公園では三人が順調にチラシ配りを進めている。
「あのー…」
「はい?」
シャロがチラシ配りをしていると、青山ブルーマウンテンに声を掛けられる。
「このお店は、いかがわしいお店なのでしょうか?」
「普通の健全な喫茶店です!」
「なるほど…。耳を付けた少女たちを拝みながらお茶をする…」
(拝む!?)
「ふむふむ…。こういった趣向もあるんですね。近日伺いますので、なにとぞ良しなに」
何故か話をしながら青山はしゃがみ込み、視線はシャロの太ももに移動していた。
「ちょ!?太ももに向かって話さないでください!」
(目を合わせて話せないせいで、誤解されてしまったみたい…)
「ぜひ、来てください!」
シャロに勘違いされてしまったことにしょんぼりしながら歩き、無意識にリゼのチラシを受け取る。
(これは…、ラビットハウスのチラシ?マスター…、久しぶりにお会い――ラビットホース?違うお店だったみたい)
手に取ったチラシを見てラビットハウスのマスターを思い出す青山だったが、件のスペルを間違えたチラシだったため、結局勘違いをしたまま公園を去るのだった。
「チラシ配りストップー!!」
「ん?」
声のした方をリゼとシャロが見ると、ココアが泣きながら走ってきており、その後ろをチノが付いてきていた。
「あ、シャロさん」
「スペル間違えちゃったー!」
「えっ!?…見落としてた!」
「雪兎はどこですか?」
「あいつはあっちの方で配ってるはずだ」
「私が止めてきます」
リゼが指さした方向にチノは走っていった。
「ラビットハウスをお願いしまーす。さて、もうちょっとで終わりだな」
一方、雪兎は笑顔でチラシ配りを進めており、残りも少しというところまで来ていた。
「お、雪兎じゃん」
「やぁ、雪兎くん」
「リクにカケル。休日に二人一緒とは珍しいね」
雪兎に声を掛けたのはリクとカケルだった。
「ああ、そこで会ってな」
「雪兎くん、それは?」
「今度の土曜日にうちでやるパン祭りのチラシだよ。二人もどうかな?」
二人にパン祭りのチラシを渡す。
「どれどれ。わははは!なんだこの毛玉!気持ちわりー!」
「あはは…」
ココアが描いたティッピーを見て爆笑するリクに苦笑いで返す雪兎。
正直この絵はどうかと思ったが、ココアが全面的に描くことになったので口を挟まないでいた。
「あれ?雪兎くんちってラビットハウスだよね。これホースだよ?」
「え!?」
「ほら、ここ」
カケルがラビットハウスの文字のところを指さす。
「見落としてた!」
「これ作ったのって」
「ココア姉ちゃんだよ…」
「ほんとあの人、おっちょこちょいだな」
「返す言葉もありません…」
ココアの痛恨のミスに思いっきり溜息をつく雪兎。
二人は諦めた顔をしている。
「パン食べ放題はいいな。俺も午後くらいに行くわ」
「じゃ、ボクも同じ頃に行くよ」
「お待ちしております」
「じゃぁなー」
二人は手を振って去っていった。
「雪兎ー!チラシ配りストップー!」
雪兎を見つけたチノが叫びながらこちらに駆け寄ってくる。
「ココアさんの作ったチラシが…!」
「うん、知ってる…。さっき会ったリクとカケルに教えてもらった」
「確認しない私がバカだった…!」
「僕も確認してなかったからお互い様だよ…」
姉弟そろってため息をつくと、残ったチラシを持って3人のところに戻る。
「あ!雪兎くん、チラシなんだけど!」
「リクとカケルに言われて気づきました…」
「弟たちにも私のうっかりがー!?」
リクとカケルにうっかりを知られたことにショックを受けるココア。
「しょうがない、残りは書き直して――」
リゼがそう言おうとしたとき、突風が吹き、大量のうっかりチラシが風に乗り宙を舞う。
「うええぇぇーー!?」
公園中にばらまかれてしまったチラシを手分けして回収することになった。
木の枝に引っ掛かったチラシを回収するために、馬になるココアとその上にチノが乗る。
「う、動かないで、ください…!」
「ほ、本当に馬になるなんて…」
ココアの上でチノが背伸びをしてチラシを取ろうとするが、枝を揺すった拍子に虫が落下する。
「あっ、大きい虫が落ちました」
「おっと。…あっ」
「うわぁ!?なんて事をー!」
運悪く虫は、木の下でチラシを拾っていた雪兎が咄嗟に避けてしまい、リゼの頭の上に落ちる。
「意外な一面ですね」
シャロは動じることなくリゼの頭の虫を払い除ける。
「…おお。お、お前もたくましいな…」
「家の隙間からよく入ってくるんでな――何でもないです…」
思わず家の事を言いそうになり、慌てて誤魔化すシャロだが、足元に不良野良うさぎがやってきておりシャロの靴を舐めている。
「なああぁぁーー!」
「でも、うさぎはダメなんだな…」
「ほら、あっちいってな」
雪兎はうさぎを抱えてシャロから引き剥がして、離れた場所に下ろす。
「この小っちゃい子なら大丈夫でしょ?」
そう言ってココアが持ってきたのは、両手の手の平程度の大きさのうさぎ。
「…か、噛まないなら」
戸惑いながらもシャロは、ココアからうさぎを受け取る。
(どうしたら…)
「…きゅ、きゅ~?」
困惑したシャロはうさぎの鳴きまねをする。
「えっ!?うさぎって鳴くの!?」
「そんなにはっきりとは鳴かないかと」
「だよね」
「はっ!」
シャロが昔に千夜に言われたことを思い出す――
『うさぎは、きゅ~って鳴くのよ』
『ほんと?』
千夜は確かにそう言っていた――
シャロは恥ずかしさと、悔しさで顔が赤くなる。
「帰ったら問い詰めるっ…!」
―――――――――――――――――
パン祭りの当日の夜。
ラビットハウスのパン祭りは盛況で無事に終わった。
「今日は、パン祭りに来てくれてありがとね」
「無事に成功してよかったわね~」
甘兎庵の前にラビットハウスの4人が来ていた。
「千夜ちゃんあまりいられなかったから、はい!お裾分け」
「ありがとう!」
「それとシャロさんの家、知りませんか?お裾分けする約束をしてまして」
「え?」
「シャロちゃんの分のお裾分けも持ってきたの。きっと、赤い屋根の大きなお家に住んでると思うんだけど…」
「どこかで聞いたことがあるフレーズですね…」
「あ、えっとぉ…」
シャロの幼馴染の千夜なら、シャロの家を知っているだろうと踏んでの質問だったのだが、千夜は困った顔をしている。
その時、甘兎庵の隣の物置から扉を開く音がする。
「夕食買い忘れちゃった」
出てきたのは余所行きだが、ラフな格好をしたシャロだった。
「「「「ん?」」」」
「ん?」
出てきたシャロと4人の顔が合うこと数秒。
シャロはあんぐりと口を開けて停止している。
(あ、やっぱり…)
「…もしかして私たちは」
「…大きな勘違いをしていた?」
「…い、今まで勝手に妄想の押し付けを…!お、お嬢様とか関係なく、私の憧れなので…」
チノは焦った様子で、両手を宙に動かして弁明する。
(気遣わせちゃってる!)
「ところで、シャロちゃんの家はどこ?」
「気づいてない!?」
「この物置よぉーー!」
シャロは叫びながらさっき出てきた物置を指さす。
「えぇ!?」
「…そっか、うちの学校の特待生って、シャロだったんだな」
「…その、言い出せなくて…」
「よし、フェアになるよ。私の秘密も教えよう」
「へ?」
リゼがシャロに耳打ちしながらしゃべり始める。
「雪兎くんは驚かないのね」
みんながシャロの家に驚いている中、雪兎だけは特にリアクションをしていなかったことに千夜が疑問に思って聞く。
「あ~、えっと…。買い出しと出かけた時に実は、あそこから出入りしてるシャロさんを何度か見たことありまして…」
「えっ!?雪兎くん知ってたの!?」
「シャロさんが家の事については頑なに話したがらない様子でしたから、黙ってたんですよ。僕自身、本人に確認したわけではないので、確信があったわけではないんですがね…」
「どうして甘兎庵の近くをよく通るの?」
「それは、雪兎くんがよくうちに寄ってくれるからかしら。あんこと遊んでくれて、雪原の赤宝石をよく買っていってくれるの♪」
「つまり、いつもの買い食い…」
「あはは…、バレちゃった…」
チノに新しい買い食い先がばれて、雪兎は苦笑いする。
―――――――――――――――――
ラビットハウスの4人が帰った後、シャロと千夜はシャロの家でお茶をしていた。
「…あ~もう、恥ずかしい…、こんな家見られて…」
シャロはベッドの上で、顔を赤くして枕にを突っ込んでいて、千夜はテーブルの前で一人、紅茶を飲んでいる。
「でも分かったでしょ?」
「ん~?」
「お嬢様じゃなくても、みんな幻滅したりしないわ。シャロちゃんはシャロちゃんよ」
「千夜…」
「…けど、二人だけの秘密がバレちゃって、ちょっと残念」
「何でよ…」
「さぁ、パン食べましょ?」
シャロもベッドから出てテーブルに着く。
「私のティーカップコレクション勝手に使うなぁー!…あっ、メロンパン一杯入ってる♪」
「よかったわね♪」
―――――――――――――――――
「なんじゃこりゃぁー!?わしの絵が…」
バータイムのラビットハウスにティッピーの叫び声が響く。
壁にかけてあったうさぎの絵が、6人が先日組んだパズルに置き換わっていた。
「新しいのにしていおいた」
「なんじゃと…?」
「よく見ろよ親父。この6匹、誰かに似てるだろう?」
パズルの柄は草原に6匹のうさぎが集まっている絵だった。
「何?」
ティッピーはじっとパズルを見つめる。
「…まぁ、これはこれで悪くない。よく見たら真ん中の下のはわしに似とるしなぁ、わははは」
ティッピーは上機嫌でそういうのだった。
チラシ配りとシャロの家バレ編でした。
雪兎くんがシャロの家に気づいていたという設定ですが、以前に明確な家バレ描写はしてなかったのことと、閑羽1でバレかけたというのはありましたので、薄々気づいていたという感じにしました。