ご注文はうさぎですか?―ラビットハウスの看板姉弟― 作:テクト
問題の水着回。どうなることやら…。
評価バーに色が付きました、そこそこに楽しんでいただけているようでありがたい限りです。
「600円になります。1000円お預かりしたので、400円のお返しになります」
「「「ありがとうございました」」」
ラビットハウスではいつもの4人が働いていた。
リゼが会計を行い、チノ、雪兎と帰っていく客を見送る。
「イェ~イ!頼も~!」
「テンションが高いっ!」
ココアが飲み終わったカップを片付けようとしていると、先ほどの客と入れ替わりでやってきたのは、千夜とカフェインモードになったシャロだった。
「…おい、シャロのこの感じ。…まさか」
リゼが顔を引きつらせながら尋ねる。
「貧乏がバレた恥ずかしさに耐えられないって言うから、ヤケコーヒー巡りを勧めたの」
「もっと違うものを勧めろ!」
「ここで三件目♪…でも見て、あの晴れやかな顔」
「カフェインで可笑しくなってる顔だな…」
シャロはココアと話し込んで盛り上がっている。
「シャロさん…!コーヒー好きになってくれて嬉しいです!」
「ちょっと違うと思う…」
「…酔うだけで、別に以前から苦手だったってわけじゃないでしょ…」
シャロがコーヒーを好きになったと思って嬉しい顔をしているチノだが、リゼと柱の陰に隠れている雪兎が突っ込みを入れる。
「「あーるーぷーすー♪いちまんじゃーく――」」
ココアは酔いつぶれたシャロとアルプス一万尺を始めている。
「…酔いつぶれるほど悩んでいたんだな」
「みんな気にしないってシャロちゃん自身、分かってるんだけどね」
「ああ。私も、シャロのお嬢様らしさを見習いたいくらいだ」
(その方が、あの学校では周りと馴染みそうだし)
リゼは自分がお嬢様らしかったらどんな感じだろうとイメージする――
射撃場で、クレー射撃をしているリゼ。
普段の雰囲気とは違い、髪を下ろしてパーマがかかっており、衣服もお淑やかなイメージの服を着て、お嬢様という雰囲気を出している。
『ご覧になっていまして?お父様。射撃は淑女の嗜みです』
『お疲れ様です、お嬢様。ご休憩にコーヒーをどうぞ』
『あら、ありがとう』
コーヒーを口にするリゼだが、まるで酔っていくかのように顔が赤色に染まる。
再びクレー射撃を再開するリゼだが、凄まじい勢いでクレーを全て撃ち抜いていく。
銃が先ほどのライフル銃から、大口径スナイパーライフルになっていた。
『はははは!当たった当たったぁ!全弾ぶち抜いてやったよぉ!はははは!』
リゼは高笑いをしながらさらに銃弾を撃ち込む――
「…はっ!戦場の悪魔が誕生した!?」
「そのフレーズ素敵ね!」
「…何をイメージしたんですか?」
リゼから飛び出した言葉は、お嬢様らしさとはかけ離れたものだった。
―――――――――――――――――
6人が休日の日。
全員そろって、町にある温水プールへと来ていた。
「わぁ~!お城みたいだね!」
「古い建物を改装した名残だな」
「私、水着で温泉って初めて」
「泳ぐのとお風呂が出来て一石二鳥ね」
「あ、浮き輪持ってくればよかった…」
「あっ!これなら持ってきたんだけど」
そういうとココアがバッグから取り出したのは足ヒレだった。
「足ヒレ!?」
「…いりません」
「…はぁ」
みんなが入場していく中、雪兎は人知れずため息を漏らしていた。
「雪兎はおじいちゃんをよろしく」
チノは雪兎にティッピーを渡すと、それぞれの更衣室に入っていく。
「はぁ~…」
「何をそんなに辛気臭いため息をしとるんじゃ。せっかくの羽休めだというのに」
着替えながら大きなため息をつく雪兎にティッピーは尋ねる。
「…爺ちゃん、分かってて言ってるでしょ」
「ほっほっほ。お前も隅に置けんのぉ」
「沈めるぞじじい」
普段の言葉遣いからは考えられない言葉が雪兎から飛び出す。
(冷静に考えて、男女比おかしいでしょ…)
温水プールに行こうとココアが言い出した時は雪兎は頑なに断ったのだが、結局、ココアに根負けして行くことになってしまった。
しかも、チノ、ココアと自分の三人だと思っていたのだが、まさかリゼ、千夜、シャロも加わるとは思っていなかった。
行くと言ってしまった以上、断るに断れず、残りの三人からも同行を快く許可してもらったため、諦めてついて行くことにした。
(水着…、なんだよね…)
チノはともかく、他4人の事を意識してしまう。
普段ならそれほど意識することもないが、水着となると…。
思考がぐるぐると回り始めてまとまらなくなってきたため、両手で頬を叩いて気付けをすると、着替えてケータイで素早くチノにメールを打って一足先にティッピーを連れてプールへと向かう。
「待たんのか?」
「先入る!」
(青春じゃのぉ)
意識しまくってる孫の様子に微笑ましく思うティッピーだった。
―――――――――――――――――
一足先にプールに着いた雪兎は、桶に入れたティッピーと共に奥の方の目立たない場所にある温水プールに入っていた。
「なんでこんな隅っこで入っとるんじゃ」
「聞かなくても分かるでしょ」
(やれやれ、無駄な努力じゃな)
温水プールは気持ちいいが今はそれどころではない。
とにかく女子たちとの合流を遅らせて心を落ち着かせる。
(落ち着け、普段と変わらないんだ。変わらない。変わらない…)
自分に言い聞かせるが、やはり意識しそうになってしまう雪兎。
(あぁー!もう!意識するなって思うほど意識してしまうー!)
自分の煩悩に翻弄されて雪兎は頭を抱える。
「雪兎くんは先に行ってるんだって?」
「はい。メールが来てました」
「まぁ男子の方が準備は早いだろうしな」
「でも、全然見当たらないんだけど…」
「どこ行ったのかしら?」
一人でうんうんと唸っていると聞きなれた声が聞こえてきて、肩がビクッと跳ねる。
これ以上は、時間を稼げそうにない。
(うぅ…!もうなるようになれぇ!)
じたばたしても何も変わらないと判断した雪兎は、腹をくくる。
温水プールを堪能するように体の力を抜いて息を吐き出すと、先ほどまで意識を向けられなかった心地よさが体を包み込む。
とにかく頭を空っぽにして、天井を見上げる。
(あ~…、気持ちいい…)
思考を放棄し、温水プールの心地よさに身を任せる。
「あ、いたよ!」
「なんであんな端っこに?」
「呼んできますね」
チノはそう言うと雪兎の方へと向かう。
「雪兎ー、みんな来たよ?」
「ん~?」
チノが声を掛けると、雪兎は緩み切った顔で返事をする。
(…すごいだらけてる)
チノは自身の弟の様子に呆れる。
「ほら、みんな待ってるから、行こう」
「僕はここでだらけておくよ~」
(腹くくったんじゃないのかの…)
みんなの方に行くように促すが、雪兎は動こうとしない。
結局、覚悟を決めた様子を見せた割に、まだ抵抗している雪兎に呆れるティッピー。
(…なにかおかしい)
頑なに動こうとしない様子の弟を訝しむチノ。
「おーい、何やってんだ?早く来いよ」
「リゼさっ…!」
「ん?どうした」
中々戻ってこないチノの事が気になって、リゼもやってくる。
雪兎も声をした方向に顔を向けて、リゼが視界に入る。
普段とは違い、ビキニの水着姿で肌の露出が多く、スタイルのいい体をより強調している。
雪兎は自分の顔がすごい勢いで赤くなっているのを感じる。
「チノちゃん!雪兎くん!早く泳ごうよ!」
「ずいぶん時間かかってるけど何かあったの?」
さらにはココア、シャロ、千夜も続けてやってくる。
もちろん3人とも魅力的な水着姿である。
「姉ちゃんと姉弟の話があるので失礼します!」
「えっ!?雪兎っ!?」
雪兎はこれ以上この場にいられないと瞬時に判断し、チノの手とティッピーの入った桶を掴むと奥の柱の陰へと走っていった。
「…どうしたんだ、あいつ」
「もしかして調子が悪いのかな?」
「照れてるだけじゃない?」
「チノちゃんならわかるけど、雪兎くんが照れるなんて珍しいわね」
いつもの感じで接している4人は原因がわかっていなかった。
一方、柱の陰にやってきた香風姉弟。
「っで、何があったの」
「…実は」
雪兎は事情を話すと、チノは呆れ顔になる。
「…雪兎」
「僕だって男なんだよ!?みんな意識してないけどさぁ!」
「男からみれば、羨ましくもあり、恥ずかしい状況でもあるんじゃよ」
雪兎は、顔を真っ赤にして手で覆ってチノに悲痛な声で訴える。
一応、ティッピーもフォローを入れるが女の子であるチノはあまり状況が理解できていない。
「そんなに恥ずかしいなら、今日来るの断ればよかったのに…」
「一度了承したのに、今更行けませんなんて言えないでしょ!?」
「そういうところは律儀なんだから…」
雪兎の律儀なところは信頼できるのだが、今回は完全に仇になっていることに頭を押さえるチノ。
悩める弟のためにいろいろチノは考えてみるが。
「普段通りに接するしかないんじゃないかな」
「それが出来たら苦労しない!」
「…はぁ。じゃぁ、皆さんの水着姿に慣れるまで私が側についてあげるから、いやらしい目で見そうになったらつねってあげる」
「ありがたいけど、いやらしいって言わないで!」
チノが助け舟を出してくれることになり、二人でみんなの元へと戻る。
「お、戻ってきたぞ」
「すいません。お待たせしました」
「雪兎くん、大丈夫?顔が赤いわよ」
「体調悪いなら、無理しちゃダメよ?」
「だ、大丈夫です!はい!」
千夜とシャロの心配に雪兎は慌てて大丈夫だと返答する。
「ねぇ、雪兎くん!私たちの水着、どうかな?」
「えっ」
ココアがそういうと雪兎は4人を見渡す。
それぞれが、魅力的な体を惜しげなく晒している。
雪兎は視線がぐるぐると彷徨って定まらなくなり、思考が停止しそうになるが、感づいたチノが4人から見えない背中をつねる。
「いっ!?」
「…い?」
「い、いえ、すごく似合ってると思いますっ!」
「そっか!えへへ♪ありがとう♪」
一気に現実に引き戻されると、無難に似合ってると感想を言うとココアは上機嫌になる。
「……」
「り、リゼさん?な、なんでしょうか…?」
雪兎の方をじーっと見ていたリゼが近づいてくる。
すると、雪兎の腕を取ると、上腕を触り始める。
「…雪兎、お前。チノみたいに小さくて細いと思ってたけど、意外と筋肉あるんだな」
「え!?…あ、まぁ、力仕事とか運動してますからね」
「ほんとだわ。腹筋もあるわ。手相の時にも思ったけど、男の子の体ってごつごつしてるのね」
「千夜さん!?」
今度は千夜がお腹のあたりも触り始める。
「じゃぁ私も!雪兎くんモフモフする~♪」
さらには、ココアがリゼとは反対側から雪兎に抱き着く。
「ココア姉ちゃん!?」
リゼが腕を触り、千夜がお腹を触り、ココアが抱き着く。
雪兎は水着姿の女の子に囲まれて、かつてないほどに顔が熱くなるのを感じて、思考が全く定まらなくなる。
「三人ともそれくらいにしてあげて!」
「雪兎ー!」
シャロがストップをかけて、三人が気づくと雪兎は茹蛸のように顔を真っ赤にして目を回しており、その場に崩れ落ちそうになるのをチノが支える。
目を回した雪兎が復活するまでしばらくかかるのだった。
―――――――――――――――――
雪兎が目を覚ましたので、それぞれ温水プールを堪能していた。
ちなみにさっきの騒動で雪兎は耐性が付いたのか、普通にみんなと喋れるようになっていた。
ココア、シャロ、雪兎は円形の小さなプールに入っていた。
「はぁ~、気持ちいい~♪」
「ですねぇ~…」
「小さいころ、銭湯で泳いで怒られたことを思い出すなぁ~…」
「ココア姉ちゃんならやってそうですね…」
「ここは銭湯じゃないけどね」
ココアが怒られる様子が鮮明にイメージが沸く雪兎。
「シャロちゃんは、今でもよく銭湯に行くの?」
「…たまにね。…たまに。こんな大きなところじゃないけど…」
「あんまり触れてあげない方がいいかと…」
苦学生であるシャロは銭湯に行くことはあるようだが、げんなりとした表情をしており雪兎はあまり触れてあげるべきじゃないと感じる。
一方、その様子を見ているのは、千夜、チノ、リゼの三人だ。
(うちのお風呂を借りてる話でもしてるのかしら?)
シャロの様子に千夜はそんなことを思いながら、温水プールに手を入れる。
「…ぬるいわ。こんなのお風呂じゃないっ!」
「千夜さんは江戸っ子ですね」
文句を言いつつもこちらも三人でプールに浸かる。
「「「はぁ~…」」」
気持ちよさそうに同時に三人で息を吐き出す。
「おい、毛玉。このくらいの温度ならお前も入れるんじゃないのか?」
リゼがチノの頭の上のティッピーに気づき、入れるんじゃないのかと聞く。
「雪兎くんが持ってた桶が、ティッピーのサイズにピッタリだったわ」
「……」
チノは顔を伏せて湯船に深く沈み込む。
ティッピーも濡れるのが嫌なのか顔が引き攣っている。
「あ、嫌がるなよ。温泉嫌いなのか?」
「濡れたら普通にうさぎになるの?」
両サイドから挟み込むように、チノの顔に迫りくる二人の立派な胸にチノの顔が赤くなっていく。
その様子を見ていたシャロは顔が引き攣っており、雪兎は顔を背けて、ココアは気持ちよさで目を瞑っていて気づいていない。
「ここの温泉は、高血圧や間接痛に効果があるらしいよ~」
「…成長促進に効果はありませんか」
「姉ちゃん…」
いつの間にかココアの横に来ていたチノは打ちのめされた表情をしていた。
―――――――――――――――――
しばらく温水プールに入っていた6人だが、ある程度たって別行動を取り始める。
チノと雪兎はプールの一角にある突き出たテーブルにチェス盤に駒を並べていた。
「今日はあまり人がいませんね」
「人がまばらだね」
「この温泉の強者どもと相まえることを楽しみにしとったんじゃがの!」
雪兎の隣りで、桶に入っているティッピーは気合十分な様子を見せる。
「では、私と指しますか」
「勝負じゃ、チノ!雪兎はわしの代わりに駒を指すんじゃ」
「はいはい」
「雪兎は弱いので相手になりませんからね」
「僕は、こういうのはさっぱりだからね」
チノとティッピー代役の雪兎がチェスを指し始める。
一方、大プールの方に移動した高校生4人組はその様子を遠目で見ていた。
「姉弟で指してる」
「どっちが強いんだろうな?」
「こっちはこっちで泳ぎましょうか」
「あ、私、泳ぐのはちょっと…」
「私、深いプールで泳いだことないんだけど…」
千夜が泳ぎが苦手と言い出すが、それに続いてリゼも泳いだことがないと言い出す。
「「「意外!」」」
「じゃぁ!私が教えてあげるよ!」
気合十分のココアがプールで泳いで見せる。
「見て見てー、これがクロールだよー」
「…泳ぎ方を覚えなおした方がいいわね」
しかし、仰向けの姿勢で手を体の真横で掻いており、背泳ぎとも言い難い泳ぎ方をしていた。
「じゃぁこれから、リゼちゃんが泳げるように特訓を始めます!」
「待って。泳ぐなら念のため、軽くストレッチした方がいいと思うの」
「うん。準備運動は大切だな」
リゼは足を180度開脚するとそのまま上半身を床に付ける。
「「柔らか!」」
「シャロちゃん!」
「んえ?」
その様子を見ていたココアは負けじとシャロに声を掛ける。
「肉体美の表現なら負けてられないねー!」
「…何してる」
何故か二人は組体操のサボテンをやっていた。
「いい勝負じゃった」
「はい」
「二人とも、お疲れ様」
一方、孫爺の対局に決着がついた香風一家。
こちらに千夜が向かってくる。
「チノちゃーん、雪兎くーん。どちらか、私とお手合わせしましょ?チェスってやったことないんだけど、将棋とよく似てるんでしょう?」
「いいですよ。私が受けて立ちます」
「じゃぁ、僕はココア姉ちゃんたちと合流しますね」
雪兎はプールを出ると、ココアたちの方へ向かっていった。
チノと千夜はチェスの駒を並べなおす。
「せっかくだから、何か賭けてみない?私が勝ったら、ティッピーがびしょ濡れになったらどうなるのかを見せてもらうのはどう?」
(なぬ!?)
「分かりました。私が勝ったら、ココアさんに私をお姉さんと呼んでもらうことにしましょう」
「何で巻き込まれてるのっ!?」
その会話を聞いていたココアが叫び声をあげる。
「ではっ!」
千夜の掛け声とともに対局が始まる。
「あちらから流れてきました」
「いらっしゃい雪兎くん!一緒にリゼちゃんの泳ぎの特訓だよ!」
「え?」
「私、深いプールで泳いだことが無くてな」
「意外です!」
(同じリアクションしてる)
雪兎は軽く体を解すと、プールに入りココアたちの輪に混じる。
「じゃぁ、まずは息止め勝負!」
((なんでそうなるんだろう…))
「泳ぎの特訓じゃなかったんですか?」
「雪兎くん、深く考えちゃダメよ…」
「あ、はい」
この場はココアが仕切っているので考えるだけ無駄だと、シャロは雪兎に諭す。
「せーのっ!」
ココアの掛け声とともに大きく息を吸い込み、4人は同時にプールに潜る。
リゼが水中で目を開けると、シャロは強く目を瞑って息を止めており、雪兎は胡坐をかくような格好で息を止めている。
雪兎がちらりとココアの方を見た時に、驚いたようなリアクションを取る。
それを見たリゼがココアの方を見ると、全身の力を抜いて、まるで水死体のようにうつ伏せで浮かぶココアの姿があった。
「ごぱぁ!?」
リゼが驚き、息を吐き出すと同時に水面に顔を出す。
リゼのリアクションに驚いた雪兎も思わず水面に戻っていた。
「げほっ!げほっ!」
水中で思いっきり吹き出してしまったリゼは水が気管に入ったのか、激しくせき込んでいる。
「リゼさん!?」
「先輩!?大丈夫ですか?」
先に水面に戻っていたシャロがリゼの様子に心配する。
「私の勝ちー♪」
最後まで潜っていたココアが得意げな顔で勝利宣言をする。
「紛らわしい潜り方をするな!」
「ココア姉ちゃん、びっくりするから水死体ごっこはやめようね…」
「えへへ、ごめんね~。じゃぁ、2回戦」
「まだやるの!?」
ココアは気にすることなく2回戦を開始する。
4人同時に再び潜ると、ココアが3人に向かって手を振る。
(なんだ?)
3人がココアに気づくと、両手を頭に添えて耳のようなジェスチャーをする。
(うさぎのジェスチャー?)
次に右手で銃の形を作ると、撃つような動作をする。
(右?)
(いや、銃ですかね)
さらに、顎に手を当てて、ドヤ顔をすると、続けて前髪をかき上げるジェスチャーをする。
(全然わからない…)
(ナルシストか?)
一通りのジェスチャーを終えるとココアが浮上し、3人がそれに続く。
「なーんだ?」
「「「…」」」
全員が水面の上がってきたのを確認すると、ココアは先ほどのジェスチャーが何かという問題を出すが、3人とも答えがわかっていない。
「答えは全部リゼちゃんでした♪」
「私はそんなんじゃない!」
「うさぎがラビットハウスで、銃は分かりますけど、…ナルシスト?」
「深く考えちゃダメよ…」
雪兎は考え込むが、シャロが考えるだけ無駄だと制す。
「追い詰めました」
「まだまだよ」
「はっ!」
息止め対決をしている間にも、チノと千夜の対局は進んでおり、終盤に差し掛かっているようだ。
「千夜ちゃんが負けたら、私のお姉ちゃんとしての威厳がー!」
賭けに巻き込まれたココアは勢いよくプールから上がると、叫び声をあげながら二人の方へと走っていった。
「行っちゃった…」
(…はっ!雪兎くんはいるけれども、先輩と二人きり!?)
「と、とりあえず!ビート板を使って練習しましょう!」
「そうですね。取ってきましょう」
「待て!ビート板じゃなくて手を引っぱるやつ!あれがやってみたい!」
((リゼ先輩(さん)、意外と子どもだ…))
ウキウキなテンションで言うリゼに、感想が重なる雪兎とシャロだった。
シャロは泳ぐリゼの手を引きながら水中を歩き、雪兎はプールサイドに腰かけて二人を見ている。
「先輩って、スポーツ万能かと思ってました」
「泳ぐ機会がなかったからな。授業も無かったし。…年下に教わるって、なんだか恥ずかしいな」
(手を引っ張られてるこの状況は恥ずかしくないんだ…)
「シャロが溺れても、助けてやれるくらいに上手くなってやるぞ!」
「そ、そんな迷惑掛けませ――あっ!?」
シャロが会話の途中で奇声を上げると、そのまま水中へと沈んでいった。
「あ!?もう想定訓練か!?」
(き、緊張で足が攣った…!)
「リゼさんどいてください!」
「え?うわっ!?」
雪兎の叫び声が響く共にプールに飛び込むと、シャロの方へとすごい勢いで泳いで行くと、深く潜る。
(あれ?雪兎くん?)
足が攣って動けなくなっていたシャロは、迫真な形相で泳いでくる雪兎を見るが、雪兎は素早くシャロの後ろに回り込むと腰に手を回して両手で抱き着くようにがっちりとシャロの体を固定する。
(え!?え!?)
シャロが混乱していると雪兎はプールの底を蹴って、一気にシャロの顔を水面に上げる。
「ぷはっ!って雪兎くん何を!?」
「暴れないでください!」
何か言いたげなシャロを雪兎は無視して、体を固定したままプールサイドに向かって両足で水を掻く。
二人がプールサイドに到着してプールを上がると、リゼもそれに続く。
「はぁっ!はぁっ!…シャロ、さん!はぁっ!大丈夫ですか!?」
「え?あ、うん。あ、ありがとう…」
「すごいぞ雪兎!まるで歴戦の海兵隊のような鮮やかな救出劇だったぞ!」
「はぁっ!…水の事故は命に関わりますから!…はぁっ!気を付けて、くださいっ!」
「う、うん。ごめんね」
「いえ、…はぁっ。僕はちょっと休みますね…」
「ああ。お前の働き、勲章者だったぞ!今はゆっくり休め」
雪兎はふらふらとプールサイドにある椅子に向かうと腰を掛ける。
「私もあれくらいできるようにならないとな!よーし!シャロ、続きをやるぞ!」
「は、はい!」
雪兎の奮闘に触発されたのか、リゼに一層気合が入る。
特訓を再開し、再びリゼの手を引くシャロ。
(…ちょっと、かっこよかったかも)
先ほどの騒動を思い出し、シャロはそんなことを思っていた。
一方、千夜とチノのチェス対決は続いていた。
「千夜ちゃん頑張って!そこでチェストだよ!」
「…チェックメイトって言いたいの?」
千夜の側にいるココアが頓珍漢なことを言い出すが、千夜は構わず駒を動かす。
「ここで負けたら、ワシがあられもない姿に!」
「ティッピーうるさいです」
「…はい」
チノ側もティッピーが喚くが、チノが黙らせて駒を動かす。
「一兵卒が女王に逆らおうなど、貴族に生まれ変わってからにしろー!」
「ココアちゃん、駒になりきるのやめてもらえる?」
「チノ!今だ!そこだ!」
「千夜ちゃん!上!後ろ!」
((…集中できない))
周りで好き勝手に言う二人(?)に集中力を削がれるチノと千夜だった。
―――――――――――――――――
日も傾き、空が朱色に染まりだした頃、リゼは一人でも泳げるようになっていた。
その様子をシャロはプールサイドで見ていた。
雪兎は先ほどのことで疲れたのか、今は眠っている。
「先輩さすがです!」
「シャロの特訓のおかげだよ」
「リゼ先輩は呑み込みが早いですから。私はほとんど何もしてないです」
「泳ぐのがこんなに楽しいとは思わなかった…。ありがとな、シャロ!」
リゼの感謝にシャロも笑顔になる。
「じゃぁ、次は」
「ふぇっ!?」
リゼはシャロの手を取る。
「あれを使って深いところに行こうな!」
「それは私にも無理です~。せんぱ~い♪」
リゼは足ヒレを使って深いところに潜ろうとしていた。
プールサイドの一角、桶に入ったティッピーが放置されていると、小さな女の子三人に囲まれていた。
「なんだこれ~?」
「柔らか~い」
「美味しそ~」
三人はティッピーを突きまわす。
「何でお風呂にいるの~?」
「飼ってんのかな~?ここで」
「わぁ!伸びるねぇ!」
今度は耳を掴んで引っ張る。
(チノ~!雪兎~!助けてくれー!)
もみくちゃにされるティッピーは心の中で助けを呼ぶのだった。
―――――――――――――――――
日はすっかり落ち、夜になった。
ココア、千夜、チノ、雪兎は2階のテラスで夜風に当たっていた。
「わぁ~!夜景が綺麗~!気持ちいい~♪」
柵越しに町の夜景を眺めるココアが感嘆の声を上げる。
「夜風が気持ちいいわね~。こうやって耳を澄ませば、あの光一つ一つから、町の営みが聞こえてきそう」
「素敵です」
「そうだね」
千夜のロマンチックな発言に同意するチノと雪兎。
「あのお家、今夜は妹さん特製カレーだって~。いいなぁ~」
「あの家のご夫婦、今夜は修羅場ね」
「「台無しです…」」
ココアはともかく、千夜の聞こえてきた営みは物騒極まりなかった。
「買ってきたわよー」
「みんなで飲もう!」
階段の方から、リゼとシャロが飲み物をもって上がってくると、それぞれに買ってきた瓶を渡す。
「「「「「「コーヒー(フルーツ)牛乳で、乾杯!」」」」」」
「お姉ちゃん!コーヒー牛乳はこうやって飲むんだよ!」
ココアはチノに向かってお姉ちゃんと呼ぶと、腰に手を当て、コーヒー牛乳を一気に呷る。
「チノが勝ったのか…」
「雪兎くん、昼間はシャロちゃんのことありがとうね」
「え?」
「何の話よ?」
「何って、溺れかけたシャロちゃんを真っ先に助けてくれてじゃない。カッコよかったわよ~♪」
「なっ!?あんた見てたの!?」
「ああ!見事な救出劇だったな!」
「助けてもらった時のシャロちゃんのときめいた顔、素敵だったわ~」
「…あ、いえ、当然のことを、…したまで、…です」
「そ、そそそれ以上言うなー!」
雪兎は照れて、シャロは恥ずかしさで顔を真っ赤にする。
すると、千夜が雪兎の側に来て耳打ちをする。
「シャロちゃんと仲良くなれてよかったわ」
「え?今までも仲良くしてたつもりですけど…」
「雪兎くん、お泊りした日に酔ったシャロちゃんに絡まれて、苦手意識持ってたでしょ?」
「…あ~、そうですね…。ちょっとあったかもしれないです…」
「だから、何かいい切っ掛けがないかと思ってたのよ。でも、今回の件で仲良くなれたみたいだし、これからも仲良くしてあげてね」
「いえ、もちろんそのつもりですよ」
千夜と雪兎は二人で笑うのだった。
水着で温泉プール編でした。
さてさて、男女比1:5の水着回、やはり難産でした。
ずっと雪兎くんがポンコツのままだと話が一向に進まないので、前半部分で割とあっさり克服という形に落ち着きました。